新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.516、2006/11/7 17:15

[刑事・違法性] [民事・不法行為]
質問:小学生時代から8年間交際している彼氏に婚約を迫ったところ、そんなつもりはないと言われ、別れることになりました。確かに、今まで結婚の話が出たことはなく、お互いに実家暮らしなので同居もしていませんが、交際期間が長く、今すぐではなくとも将来的には結婚してくれると思っていたので、とてもショックです。慰謝料を請求できますか?また、将来結婚するのだからと思って、デート代を100万円ほど負担していますが、彼は「おごってもらったお金を返す義務はない」と主張しています。どうすればデート代を返してもらえますか?返してくれない場合は、結婚詐欺で告訴できますか?

結論:結婚の約束があったとは認められず、慰謝料の請求はできないと判断されるでしょう。また、デート代を返してもらえる可能性は低いでしょうし、結婚詐欺にも該当しないと考えられます。
回答:
1 慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償のことです。法的に請求が可能なのは、契約上の当事者間における債務不履行による損害賠償、あるいは不法行為(民法第709条、第710条)に基づく損害賠償に認められています。
2 あなたは彼氏と8年間交際していたということですから、それでも結婚しないというのは、彼氏が社会人としてのモラルに欠けているのかも知れません。しかし、法律上慰謝料が認められるためには、前記のとおり債務不履行や不法行為があったと認められる場合に限定されます。婚約という契約が成立し、正当な理由がないにもかかわらず約束を守らない場合に、婚約不履行であるとして、慰謝料請求ができるのです。婚約とは、将来結婚するという約束であり、契約の一種です。契約は、一方からの申込と、他方の承諾によって成立しますが、あなたの場合、あなたが婚約を申し込んだところ、彼氏が承諾しなかったのですから、婚約は不成立となり、慰謝料の請求もできないと考えるのが順当でしょう。但し、明確な結婚の約束がなくても、8年間も交際していたわけですから、その間の諸事情により、二人が将来結婚するであろうと認められるような場合は、婚約の成立が認められることもあります。例えば、あなたが他の男性との結婚の機会があったのに、彼が反対していたり、人工妊娠中絶をした後も肉体関係をもって交際を継続していたり、といった様々な事情が積み重って、婚約していたと認められる場合が考えられます。婚約が成立していれば、正当な理由なく結婚を拒否することは、約束違反となり契約違反にもと図九にも不法行為にも当たります。どちらの法律構成をとるのかは、法的な請求をする場合の技術的な問題ですので、弁護士にご相談下さい。なお、慰謝料請求等をほのめかすなど、脅迫暴行等を行いて婚約を強要すると、あなたが強要罪(刑法第223条)に当たる可能性が出てきますので、十分注意して下さい。
3 次に、デート代として払った100万円を返してもらえるかという質問ですが、デート代の支払いは、あなたが彼氏に対し、デート中に飲食した食べ物などの品物の贈与、あるいはそれらの代金相当の金員を贈与したことになります。贈与とは、当事者の一方が財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる契約のことです(民法第549条)。書面によらない贈与は、履行前の部分に限って撤回することができます(民法第550条)が、本例の場合では既にデートをして食事をしたり、プレゼントを渡したり、交通費を支払ったりしており、履行済みですから撤回は認められません。但し、一般的に、次のような特別の事情がある場合には、すべての種類の契約を取り消すことができます。まず、あなたが未成年者の場合は、未成年者がした契約は取り消すことができます(民法第5条)。また、成年被後見人の場合も同様です(民法第9条)。取り消されると、その契約は当初からなかったことになりますから、本件の場合、彼氏がもらった金品は不当利得となり、彼氏は返還する義務を負います(民法第703条)。また、騙されたり脅されたりした場合にも、詐欺・脅迫によるものとして契約を取り消すことができます(民法第96条第1項)。例えば、彼氏が、結婚するつもりがないのに結婚するかのごとく装い、「結婚式の準備に費用がかかるから」などと言って、あなたを騙し、あなたがそれを信じて金品を騙し取られた場合等が、詐欺に当たります(刑法第246条)。これがいわゆる結婚詐欺というもので、民事上は渡した金品は返還請求できますし、刑事事件として警察に被害届を出したり、告訴することもできます。しかし、本件では結婚を前提にデート代を負担したとはいえませんので、結婚詐欺にはあたらず、彼氏がデート代を返してくれなくても、告訴することはできません。

[参照条文]

民法
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

刑法
第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

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