新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.522、2006/11/13 14:47 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm

〔民事・不法行為・未成年者の自転車による交通事故・親の責任〕
質問:歩道を歩いていたら、14歳の未成年者が運転する自転車が猛スピードで突っ込んできて接触し転んでしまいました。自転車に乗っている人のマナーが許せません。法律ではどうなっていますか。

回答:
1、あまり知られていないことですが、自転車の運転については、自動車の運転と同様に道路交通法(同法第2条第1項第8号、同項第11号)で規制されています。最近では、あなたのように乱暴な自転車の運転が原因で多くの事故が頻発しており、今後、警察署でも取り締まりを強化することが予想されます。自動車と同様に、自転車で事故を起こした場合であっても、民事と刑事で責任を問われることになります。
2、民事上の責任について(14歳の未成年者に賠償責任を請求できるか)通常自転車事故によって相手方に怪我をさせた場合、不法行為による金銭賠償の責任(民法709条)を負いますが、加害者が14歳であり不法行為の責任能力すなわち事理弁職能力があるかどうか問題です(民法712条)。結論からいえば、一般的に14歳という年齢であれば事理弁識能力があり責任能力は認められ賠償責任を負うことになります。事理弁職能力とは、ことの是非善悪を理解する程度の能力と解されていますから(大審院判決大正4年5月11日)14歳というと中学2年生であり、猛スピードで歩道に突っ込むことはいけないと理解できるので、責任能力は認められることになります。事案にもよりますが、通常13−14歳から責任能力は認められることになるでしょう。
3、次に、未成年者の他に親も請求の相手方に出来るか問題です。民法714条は未成年者でも責任能力がある者の行為については適用がなく、その場合同条による親の責任を問うことはできません。しかし、通常14歳の未成年者に賠償能力はありませんから、被害者としては資力のある親に責任を追及する必要があり、親の監護権から子供の監督義務、監督不行き届きとうい過失による親の不法行為責任(民法709条)を検討する必要があるからです。結論からいうと、親に本件自転車事故発生について監督不行き届き等具体的過失が認められるような事情があり、このことを被害者が主張立証しない限り親に責任はないことになります。理由は以下の通りです。
@民法714条は、未成年者に事理弁職能力すなわち責任能力がない場合に、挙証責任を転換し、親の側に子供の監督につき過失がないことを証明しない限り、未成年者の監督義務者すなわち親に賠償責任を認めています。責任能力を持たない未成年者でも、第三者に損害を与えることがあるので、そのような未成年者の監督者に監督を怠ったことについて第三者への責任を未成年者の代わりに事実上認めて社会生活の安定を保持しています。本件は子供に責任能力がありますから、本条は適用されず親に具体的過失がない以上責任は問うことが出来ないのが原則となります。
A社会生活では、自分に過失がない限り法的責任が問われないのが大原則(過失責任の原則)ですから、未成年者である行為者自身が自らの過失で責任を負う以上、親といえども具体的過失がない限り法的な責任をさらに問うことが出来ません。判例では自転車ではありませんが未成年者に責任能力があっても親の具体的過失を認め責任を認めたものもあります。後述の判例を参照してください。
B未成年者に賠償能力はありませんから、不都合のようにも思いますが、成人でも賠償能力がない人もいますから、それをもって親に当然に責任は追及できない訳です。被害者としては、未成年者に訴訟を起こし判決をもらい、未成年者が勤労者になるまで待って給料等に強制執行することになるでしょう。確定判決の消滅時効期間は10年に延長されます(民法174条の2)。
なお、本件のご質問からは不明ですが、親が息子に、自転車を使う急の用事を頼んだような事情がある場合で親に具体的な監督責任が生じると考えられる場合や、親の仕事を手伝うために起こした事故の場合(使用者責任(民法715条)などの事情がある場合は、親にも不法行為責任が認められる可能性があるかもしれません。
4、損害賠償請求事件の判例では、見通しの極めて悪い横断歩行において、未成年の加害者が運転の足踏式自転車が、時速20キロメートル弱程度の速度で、一時停止その他の安全確認を一切行なうことなく同歩道に乗り入れ、被害者に出会い頭に衝突した事件(東京地方裁判所第一審S63.1.29判決)があります。こちらの事案は、加害者が未成年だったため、被害者が加害者の両親に対しても固有の不法行為責任(民法714条1項)を追及したものですが、棄却されています。
5、刑事では、本件の場合14歳で刑事責任能力もあり未成年者ですから、警察で取り調べを受け、家庭裁判所に送致され審判をうけることになるでしょう。道路交通法で罰則規定があります。最近のニュースで、二人乗りをした15歳の生徒が、警察の警告を聞き入れないで乗り続けたのは悪質とし、道交法違反の疑いで家庭裁判所に書類送検されています。自転車ルールと罰則を簡単にまとめましたので、ご参照下さい。その他、被害者を死亡させてしまうなどの場合には、過失傷害罪(刑法209条)、過失致死罪(刑法210条)、業務上過失致死傷等罪(刑法211条)などで逮捕される可能性がありますので、乗り方には十分注意しましょう。尚、刑事責任については未成年者が仮に13才で刑事責任能力がなくても(刑法41条、14歳未満は刑事責任能力がありません)親は刑事責任を負いません。民事責任と違い刑事責任は身体拘束を伴うため刑法の謙抑主義から厳格に解釈されなければならず、未成年者に代わり責任を負うということはできないからです。

≪判例参照≫
(1)加害者(16歳)が、軽二輪車を走行中、見通しの悪い交差点で被害者と衝突し、死亡させた事件。加害者の両親は、加害者が校則を違反し、親に無断で車両を入手し、運転しようとしているのに、これを中止させることはなかった。交通事故の恐ろしさ・安全運転について厳しく注意を促した形跡はなく、これあらの措置をとっていれば、事故発生を回避することはできたとし、両親にも監督・教育義務違反の不法行為による損害賠償が認められた(浦和地裁、H6.3.1判決)。
(2)加害者(16歳)の少年が、自動二輪車を走行中、赤信号を無視して交差点に侵入、普通乗用車と衝突し後部座席同乗の被害者が死亡した事件。少年が試験観察中であったにもかからず、両親が阻止することなく、十分な監督をしなかったとし、民法709条による責任を負う(名古屋地裁、S63.10.28判決)。

≪条文参照≫
民法
第七百九条(不法行為による損害賠償)  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第七百十二条 (責任能力) 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
第七百十四条 (責任無能力者の監督義務者等の責任) 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

刑法
第四十一条(責任年齢)  十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
第二百九条(過失傷害) 過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
第二百十条(過失致死)  過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。
第二百十一条 (業務上過失致死傷等) 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

≪ 道路交通法、自転車ルール、刑罰参照≫
(1)信号無視、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
(2)夜間の無灯火、5万円以下の罰金
(3)一時停止違反、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
(4)二人乗り運転、2万円以下の罰金又は科料
(5)左側通行違反、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
(6)並進の禁止、2万円以下の罰金又は科料
(7)歩行者通行妨害、2万円以下の罰金又は科料
(8)通行禁止、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
(9)酒酔い運転、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
(10)ブレーキ不良自転車の運転禁止、5万円以下の罰金
(11)安全運転義務違反、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る