新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース <<参照条文>> 民法(同居、協力及び扶助の義務)第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
No.523、2006/11/13 14:54 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm
[家事・夫婦]
質問:5年別居すれば離婚が成立すると聞いたことがありますが、本当でしょうか。
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回答:
1.平成8年に公表された「民法の一部を改正する法律案要綱」を契機にこの質問が多く言われるようになりました。同案では、「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき」離婚原因となるとしています。しかし、いまだに根強い反論があるため、法律の改正はなされていませんので、現在では、別居そのものは離婚原因に加えられていません。
2.しかし、民法752条は夫婦の同居協力義務を定めており、夫婦である以上、当然にこの義務を負うことから、やむを得ない理由がある場合(単身赴任など)を除き、別居が破綻の兆候であることはままあり、それが長期間積み重なることによって離婚原因となり得る場合があることは明らかです。
3.有責配偶者の離婚請求に関する最高裁判例(最判昭62年9月2日)は、有責配偶者からの離婚請求が信義則に照らして許されるか否かを判断するに当たり、一方で有責者の責任の態様・程度を考慮し、他方で、「相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、更には時の経過とともに、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響し合って変容し、また、これらの諸事情が持つ社会的意味ないしは社会的評価も変化することを免れないから、時の経過がこれらの諸事情に与える影響も考慮しなければならない」と判示し、「別居期間が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及び」「未成熟の子が存在しない場合には」「相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的にきわめて過酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り」有責配偶者からの離婚請求をも認容するとしています。つまり、有責配偶者からの離婚請求において、別居は、それ自体では離婚理由とはなりませんが、他の事情と相まって離婚を判断すべき1つの要因となるということです。上記裁判例では、同居12年、別居36年で離婚が認められています。同居23年、別居8年弱で離婚が認容されるに至ったものもあり(最判平成2年11月8日)、判例ではおおむね10年を1つの目安としているようにも思われます。なお、最新判例としては、前記最高裁判例の基準・枠組みを踏襲し、同居期間約6年7ヶ月、別居期間約2年4ヶ月で、未成熟子(7歳)がいるという事案で、有責配偶者からの離婚請求を棄却したものがあります(最判平成16年11月18日)。
4.また、有責配偶者からの離婚請求ではなく、価値観の相違から同居が困難となり別居を開始したなどの場合、価値観の相違それ自体は離婚原因とはなりませんが、別居期間が長期に及ぶなどして婚姻関係が「破綻」していると見られる場合には離婚が認められる場合もあります。例えば夫婦が些細なことで口論の末、他方が家を出て実家に戻ってしまい連絡を絶つ、家に残った方も「俺も悪かった」「戻ってこい」「やりなおそう」などの行動言動を行わないまま漫然と生活をする、など別居の状態が何年もしくは何ヶ月か継続した等の場合です。その場合も、些細な口論自体では離婚原因とはなりませんが、お互いのやり直しに向けた行動が取られず、むしろ別居状態を容認するかのような態度が蓄積すれば、もはや婚姻関係修復への期待は薄れ、婚姻関係が破綻に近付いていると判断されるためです。この場合の別居期間は、必ずしも何年何十年という「長期」ではなくても、10ヶ月、1年、2年でも認められることがあります。同居期間が短ければ短いほど、離婚が認められるに必要な別居期間は短くてすむという関係にはありますが、重要なのは「破綻」しているかどうか、修復可能かどうかという問題です。当然、別居期間それ自体から判断されるわけではなく、家を出て行った原因も加味した上で修復可能かどうかが判断されます。同居中のどうにも耐えられない相手方の態度(暴言だったり子供に対する態度だったり)から離婚を決意し、家を出たところ、相手方も「戻ってこい」と言うわけでもなく、やり直しに向けた努力を双方何も行わなかった事案で、同居期間7年、別居期間10ヶ月で離婚が認められた例があります(とはいえ裁判中に別居期間は2年となり、裁判でもお互いの非を責め続け、人格攻撃に終始し、修復に向けた話し合いが不可能なため、「破綻」を認定されたものと思われます)。