新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.529、2006/11/28 14:41 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続 遺産の範囲と保険金 税金と課税対象】
質問:先日父が死亡し、遺産として借金が5000万円あることが判明しました。そのため私は相続放棄をしようと考えています。また、父は私を受取人として2000万円の生命保険に加入していました。もし、相続放棄をするとこの保険金の受取りも出来なくなるのでしょうか。また、保険金には税金はかかるのでしょうか。

回答:
1、相続の放棄とは、被相続人の相続財産の承継を拒否することですので、保険金が被相続人の相続財産に含まれるかが問題となります。これは、問題となっている保険契約又は約款の内容によって結論が異なってきます。保険契約によって保険金の受取人が特定人又は相続人となっている場合には、当該保険金は相続財産には含まれません。この場合は、当該保険契約は第三者のためにする契約となり、受取人は契約上の固有の権利として保険金を受け取ることになります。相続によって保険金を受け取るのではないのです。したがって、この場合には相続放棄をしても保険金を受け取ることは可能です(最高裁第2小法廷昭和48年6月29日判決・民集第27巻第6号737頁、最高裁第3小法廷昭和40年2月2日判決・民集第19巻第1号1頁)。保険契約によって保険金の受取人が被相続人となっている場合には、当該保険金は相続財産に含まれます。この場合は、保険金の請求権は被相続人に帰属していたことになり、被相続人の死亡により保険金請求権が相続財産となり、それを相続によって承継することになります。したがって、この場合には相続放棄をすると保険金の受取りは出来なくなります。
2、相続税については、保険契約によって保険金の受取人が被相続人となっている場合には、当該保険金は相続財産に含まれることから、当然に相続税の課税対象になります。保険契約によって保険金の受取人が特定人又は相続人となっている場合には、当該保険金は相続財産には含まれませんから、本来は相続税の課税対象にはならないはずですが、課税の公平の見地から、相続税法では特別に相続税の課税対象とされています。これを「みなし相続財産」といいます。本来の相続によって取得した財産でなくても、実質的に相続によって取得したのと同じ経済的効果がある場合に、課税の公平を図るため、相続によって利益を受けたものとみなして相続税の課税財産とされています(相続税法3条1項1号)。なお、相続税には基礎控除として遺産のうちの課税対象資産から一定金額を差し引くことが認められています。相続税の基礎控除額は、5000万円+法定相続人の人数×1000万円と定められています。法定相続人が3人のときは、5000万円+3×1000万円=8000万円が基礎控除となり、遺産総額がそれ以下の場合には相続税は課税されません。
3、以上のとおり、本件保険契約の受取人は相続人である相談者に指定されていますので、本件保険金は相続財産とはならず、相続放棄をしても保険金を受け取ることはできます。しかし、相続税法により課税対象となりますので、相続税を払わなければならない可能性もあります。

≪参照条文≫

民法537条@契約に依り当事者の一方が第三者に対して或給付を為すべきことを約したるときは其第三者は債務者に対して直接に其給付を請求する権利を有す。
A前項の場合に於て第三者の権利は其第三者が債務者に対して契約の利益を享受する意思を表示したる時に発生す。
民法939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかったものとみなす。

相続税法3条1項1号 次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失った者を含まない。第15条、第16条、第19条の2第1項、第19条の3第1項、第19条の4第1項及び第63条の場合並びに「第19条第2項に規定する相続人の数」という場合を除き、以下同じ。)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。
1被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(これに類する共済に係る契約で政令で定めるものを含む。以下同じ。)の保険金(共済金を含む。以下同じ。)又は損害保険契約(これに類する共済に係る契約で政令で定めるものを含む。以下同じ。)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ。)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第5号又は第6号に掲げる権利に該当するものを除く。)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分。

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