新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.530、2006/11/28 14:53

〔扶養義務、姻族関係終了〕
質問:先日、私(A)の夫(B)が交通事故で亡くなりました。現在、私は32歳で子供はいません。夫の両親のうちお父様(甲)は健在ですが、私とはあまり折り合いがよくありません。甲さんは、働くことが出来るにもかかわらず働かずに、夫の稼ぎを頼って生活していました。今回、夫が亡くなったことで甲さんは、私に対して「息子の嫁なのだから、私の面倒を見て当然だ。」と言って、扶養するよう迫ってきています。私も仕事はしていますが、それほど稼ぎが多いわけでもないので、できれば扶養をしたくありません。そもそも、実の子でもない私が、甲さんを扶養する義務などあるのでしょうか。仮にそのような義務があるとして、その義務から解放されるすべはないのでしょうか。なお、夫に兄弟姉妹はなく、甲にも兄弟姉妹はいません。

回答:
原則としてAさんが甲さんを扶養する義務はありませんが、裁判所の判断により扶養義務が課せられる可能性も、理論上は否定できません。そのような可能性自体を排斥する手段として、姻族関係を終了させるという方法が考えられます。手続きは、役所に「姻族関係終了届」を提出するという比較的簡易なものです。
解説:
1 民法上、扶養義務が課されるのは直系血族及び兄弟姉妹とされているので(民法877条1項)、これに該当しないAさんは原則として甲さんを扶養する必要はありません。もっとも、AさんはBさんと結婚したことにより、甲さんとの間でも親族関係が生じています(民法725条3号)。そのため、家庭裁判所の判断によって、扶養義務が課せられる可能性も理論上、否定は出来ません(民法877条2条)。本件で見てみると、甲さんには他に見るべき親族がいないようですので、唯一の親族であるAさんに扶養義務が課される可能性もないとは言い切れません。しかし、少なくとも現時点では甲さんもまだ自分で働くことができるようですし、自分で働くこともしないで「扶養しろ」などという申立てをしたところで、裁判所がこれを認めるとは思えません。したがって、現実問題として、今すぐにAさんが甲さんを扶養しなくてはならない事態が生じるとは思えません。
2 とはいえ、いずれ甲さんが働けなくなったような場合、Aさんが扶養しなくてはならなくなる可能性は依然として残ります。そこで、その可能性を排除する方法として、「姻族関係の終了」という手続があります。姻族関係とは配偶者の一方と他方の血族との関係のことを言い、姻族関係は婚姻によって当然に生じます。この姻族関係は、離婚及び婚姻の取り消しによって当然に終了しますが(728条1項、749条)、配偶者の死亡によって婚姻が解消しても当然には終了せず、生存している配偶者が姻族関係終了の意思表示をして初めて終了することとされています(728条2項、戸籍法96条)。したがって、本件ではAさんは役所にこの届出をすることにより、甲さんとの姻族関係(及び親族関係)を終了させ、扶養義務を負う可能性をなくすことができるのです。この手続要件はそれほど難しいものではなく、戸籍等で配偶者が亡くなっていることさえ確認されれば、届出の要件は具備されることになります。姻族関係終了届が受理されれば、戸籍に姻族関係が終了した旨の記載がなされますが、この届をしただけでは戸籍上の変動はないので、復籍まで希望するのであれば、別に復氏届をする必要があります(751条1項、戸籍法95条)。一方、姻族関係終了の手続をとらずに復氏の届出をした場合、復籍はしますが姻族関係が終了するわけではありませんので、その点ご注意下さい。

<参照条文>

民 法
第七百二十五条  次に掲げる者は、親族とする。
一  六親等内の血族
二  配偶者
三  三親等内の姻族
第七百二十八条  姻族関係は、離婚によって終了する。
2  夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
第七百四十九条  第七百二十八条第一項、第七百六十六条から第七百六十九条まで、第七百九十条第一項ただし書並びに第八百十九条第二項、第三項、第五項及び第六項の規定は、婚姻の取消しについて準用する。
第七百五十一条  夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
2  第七百六十九条の規定は、前項及び第七百二十八条第二項の場合について準用する。
第八百七十七条  直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2  家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3  前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

戸籍法
第九十五条  民法第七百五十一条第一項 の規定によって婚姻前の氏に復しようとする者は、その旨を届け出なければならない。
第九十六条  民法第七百二十八条第二項 の規定によって姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

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