抵当権実行による競売開始決定と執行停止の手続
民事|競売開始決定に対する執行異議の申立て|訴訟の提起や民事調停の申立て
目次
質問
私は、知人からお金を借りるにあたって、親から譲り受けた自分の持ち家に抵当権を設定しました。
返済期日がきたのですが、直前に急に入用があり、返済期日に支払うことができず、競売を申し立てられ、競売開始決定がでてしまいました。ある程度の分割にしていただければ、と思うのですが、相手は私からの返金をあてに進めていた計画が破談になってしまったとのことで、期日に遅れたことに腹をたてて、顔さえ合わせてくれません。
このまま、競売されるのを待つしかないのでしょうか。
回答
あなたは自ら債権の担保のために抵当権を設定し、期限が到来したのに返済していないのですから、抵当権者の申立てによる裁判所の競売開始決定に問題はありません。
あなたとしては、競売を中止させるには債務を一括で弁済した上で、債権者にお願いして競売の申立てを取り下げてもらうか、執行異議の申立てをする必要があります。
また、すぐに一括弁済はできないが時間があれば債権者に納得してもらえるよう弁済ができると言う事情がある場合は、債務の弁済方法を協議するための民事調停を申し立て、競売手続きの停止を求めることができます。
その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。
解説
1 執行異議の申し立て
不動産の競売には債務名義(裁判所の判決、公正証書などで強制執行ができることが明記されているものです)に基づく不動産強制執行と、本件のような抵当権の実行による不動産競売があります。不動産競売は不動産強制執行の規定を準用していますから手続の流れはほとんど同じ扱いとなります。ただ、抵当権の実行としての不動産競売に対しては、開始決定について執行異議を申し立てる事由として、担保権の不存在や消滅など実体法上の理由ついても含まれるものとされています(民事執行法182条)。
通常、負債を弁済する場合、金銭の支払と引き換えに抵当権設定登記の抹消登記をする手続きをとりますから、弁済したのに抵当権設定登記が残っているということはなく登記がない以上競売開始決定がなされるということはありません。また、開始決定後に弁済する場合は、金銭の支払と引き換えに競売申立について取下げてもらうことになりますから、債権が消滅したというような理由で執行異議の申立てがなされるということは、実際上はあまり考えられないことです。
唯、本件の場合あなたが弁済しようとしても、債権者が感情的になり弁済を受領しないことも考えられます。そのような場合は、負債全額を法務局に供託して、被担保債権の消滅を理由に執行異議を申し立てることができます。
2 訴訟の提起
なお、執行異議とは別に担保権が消滅したことを確認する裁判や、抵当権設定登記抹消登記請求の裁判を別途提起することも考えられます。執行異議は口頭弁論を行わない裁判で立証方法も書証に限定されているため、書証だけで抵当権の不存在や消滅を立証できない場合は、証人尋問等の手続をとる必要があり、そのためには訴訟いわゆる本裁判を起こす必要があります。実際上はあまりないと考えられますが、たとえば領収証などもらわずに弁済して、その際、立ち会った人物を証人尋問するしか証明できない場合などは、訴訟が必要となります。
ただ、このような訴訟を起こしても、当然に競売の手続きが停止するわけではないので、実際には、さらに訴訟の前提として、抵当権実行禁止の仮処分を裁判所にもらい、強制競売の手続きを一旦停止させ(民事執行法183条1項7号)、最終的に裁判が出た時点で、競売手続きは完全に取り消される(同183条1項1号・2項)ということになります。
3 民事調停
次に、直ちに弁済はできないが、支払の猶予を求めて、強制執行を止めるための方法について説明します。まず、債務の弁済方法を協議するための民事調停を申し立てます。そして、民事調停規則6条によれば、調停事件の継続する裁判所は、紛争の実情により事件を調停によって解決するのが相当である場合、調停の成立を不能または著しく困難にするおそれがあるときは、申し立てによって、担保を立てさせ、調停が終了するまで調停の目的となった権利に関する民事執行の手続きを停止することを命じることができる、とされているので、この手続きに則って競売手続きの停止を求めることができます。この手続きによって、少なくとも、相手との話し合いの機会をもつことができることが多いでしょう。
4 民事調停の問題点
しかし、この方法はあくまで、調停の間手続きを停止させることができるということですから、債権者と支払方法について合意できることが前提となります。調停において債権者が納得できるような提案を用意することができることが、この手続の前提です。
また、この手続をとるには保証金が必要になります。保証金は、調停が成立しない場合は債権者の損害賠償の担保となるもので、調停が成立せずに債権者に損害が生じていれば生じた損害の範囲で保証金は返還されないことになります。あくまで調停の成立を前提として競売手続を停止するわけですから、調停が成立しなかった場合に生じる損害は債務者の負担となるわけです。執行が停止されたことにより債権者に金利相当の損害が発生することは明らかですし、調停成立のめどもないのに、このような制度を悪用することを避けるために保証金が必要とされているのです。
なお、この手続きは、抵当権実行による不動産競売事件に限定されており、不動産強制執行の場合にはできないことにいなっているので注意して下さい。(民事調停規則6条1項但書)
いずれにしろ、この手続は安易に用いるべきものではありませんので、弁護士等の専門家に相談し、十分検討のうえ申し立てることが必要です。
以上