新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.534、2006/11/28 15:16
〔婚姻無効〕
質問:夫に借金があり、債権者からの追求を免れるため、協議離婚しましたが、住所はそのままにして同居していました(娘の親権者は私)。夫からは常々暴力を受けており、私が家を出ると何をされるかわからないので、逃げられず渋々同居していたという事情もあります。1年ほど経過後、夫から今まで以上に激しい暴力を受け右上腕を骨折する加療4ヶ月の傷害を負わされたため、夫とこれ以上一緒にいたら殺されると思い、四国の友人を頼ってそこで怪我の治療をしていました。その間に夫が、以前冗談で記載していた婚姻届出用紙を勝手に市役所に提出してしまったので、戸籍上は再び夫婦になってしまいました。しかし、今回の暴力の後は一緒に生活する気持ちもなくなっており、一切関わりたくありません。夫婦関係を解消するにはどうすればよいでしょうか。
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回答:
1.債権者からの追求を免れるため、協議離婚したものの、そのまま同居を続けていたところ、夫から激しい暴力を受け、家を出たがその間に婚姻届が提出されてしまい、再び夫婦になってしまったとのことです。この夫婦関係を解消するための方法としては、当初の離婚届が有効かどうかを検討した上で、現在どうするかを検討する必要があります。考え方としては2つ、(1)当初の離婚は、債権者からの追求を免れるためのものであり、真実離婚する意思はなかったのであるから、婚姻は継続していると考える方法、(2)債権者からの追求を免れるための離婚であっても離婚届を提出する意思があったのであるから離婚は成立していると考える方法(たとえ、債権者の追求を免れるため又は家産を維持するための方便として協議離婚に同意した場合でも、離婚届を提出する意思を有していた以上、離婚意思がなかったとはいえないとする裁判例:東京地判昭55.7.25判タ425-136)です。そして(1)の考え方を取れば、現在でも婚姻は継続しているのですから、夫が勝手に提出した婚姻届であっても有効とみて、夫婦関係の解消方法として、これに対する「離婚」手続きを進めていく方法、(2)の考え方を取れば、すでに離婚しているのですから、夫が勝手に出した婚姻届については、あなたが真実婚姻をする意思で記載ないし届出を依頼したものではないから無効、即ち婚姻無効の手続きを進めていくことになります。
2.どちらの方法をとるかは現在のあなたが置かれている状況や過去の実際の行動から考えていくこととなります。あなたとしては、四国在住中に夫が婚姻届を提出するかも知れないと考え、怪我が治った後に「婚姻届不受理願」を提出しに行ったとのことですが、すでに婚姻届が出された後であり、不受理願は受理されなかったとのことです。しかし、夫が婚姻届を提出したとされる日には、あなたは四国の友人宅で療養生活を送っており、あなたは夫に居場所を明かすことなく、夫からあなたに連絡を取る方法はなかった状態で、あなたは家を出る前に「こんな怪我をさせられて、もうこの家には戻るつもりはない」と夫に伝えていたということです。このような事情のもとでは、婚姻届が出されたとしても、あなたに婚姻生活を行う意思は全くなく、客観的にも夫婦としての実態も何も存在しないのですから、婚姻届は無効と考える方が実情に合っていると思われます。また、離婚届を提出後、家を出ることができなかったのは、あなた自身夫からの暴力を受け続けて無気力となり、別居のための様々な活動を行う気力が失われてしまったというドメスティックバイオレンスによる影響があるのかもしれません。あなたとしては、激しい暴力を受け、夫と一緒に何かをすることは、今度こそ殺されるのではないかとの不安を抱くに至っており、調停手続を経る等することは非常な負担だと思われます。従って、(2)の方法をとり、夫が勝手に提出した婚姻届出を無効とする判決を求めるのがよいと考えます。
3.婚姻無効確認の場合であっても、本来は調停手続きが必要となりますが、あなたのような事情の場合、つまり、離婚手続と違って諸々の事項を話し合う必要性がなく(前回の離婚届において解決済み)、婚姻届出用紙を無効にすれば全て解決する事案であり、さらに、相手方から加療4ヶ月もの怪我を負わされ、今度会えば殺されるかもしれないとの危惧が大きく、調停での同席など考えられないという事情がある場合、裁判所に申し出れば、調停手続を割愛してもらうことも可能です(家事審判法18条2項)。従って、あなたの場合、最初から判決にて「一 平成○○年○月○日××市長に対する届出によってなされた原告と被告との婚姻は無効であることを確認する」との主文を求める婚姻無効確認訴訟を提起することになります。訴訟の中では、夫側に代理人弁護士が就任するなどした場合、「婚姻無効」ではなく「離婚」の話し合いをすることもあります。前回の離婚の際に、娘さんの親権者があなたとなっており、夫がこれをどうしても変更したいとの希望があるなどした場合には、「離婚」手続きの方が柔軟に進められるという点があるためです。しかし、あなたとしては夫に弁護士がついていたとしても夫同席では怖くて話し合いはできない、娘さんの親権は譲れないとのことですので、「婚姻無効」を主張し、親権問題については、別途夫が「親権変更の申立」を行うべしとして対応する方がよいかもしれません。DVが絡む事案では、調停でも裁判や和解でも、予め伝えておけば、夫と妻が直接顔を合わせなくてもよい方法を裁判所が模索してくれる場合が多く、開廷の時間や期日まで別々にしてくれることもあります。裁判所への行き帰りに暴力を受けないよう警察署の生活安全課に話をしておくのも有効かもしれません。