新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.543、2006/12/12 14:52

〔民事・消費者〕
質問:2年程前に,レンタルビデオ店からビデオを借りましたが,その後,引越し等があってその際にビデオを紛失してしまい,返却するのを忘れていました。しかし,最近,債権管理組合と名乗る業者から,延滞料約22万円(延滞料1日につき300円の2年分)の支払いの執拗な催促を受けるようになりました。確かに,ビデオを借りる時,延滞料の約束はしましたが,ビデオの本体の料金(1万円程度)をはるかに超える金額ですし,高額過ぎる気がします。どうすればよいですか。

回答:
1,近時,レンタルビデオ等の延滞料につき,債権管理組合と名乗る業者が,高額な金額を執拗に請求する事例が多く見られるようになりました。このような事例については,以下の問題点が生じます。
2,まず,業者の請求行為は,弁護士法に違反する可能性があるという点です。すなわち,弁護士法は,72条において,法律に別段の規定がないにもかかわらず,弁護士でない者が,報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを業とすることを禁止しており,また,73条において,何人も,他人の権利を譲り受けて,その権利の実行をすることを業とすることを禁止しております。よって,業者の請求行為は,弁護士法72条,73条に違反する可能性があります。但し,最高裁判所による明確な司法判断は出ておりません。
3,次に,本件のような,商品代金をはるかに超える請求金額が認められるかという点です。この点,消費者契約法は,9条において,解除に伴う損害賠償金や違約金につき,事業者からの不当な高額の請求から,消費者を保護するために,事業者が請求できるのは,事業者に生じた平均的な損害額に限定されると規定しております。よって、本件のような,ビデオの本体の料金をはるかに超える請求をすることは,消費者契約法9条の趣旨や社会通念に反し,認められず,信義誠実の原則に照らして,損害額は,ビデオの本体の料金まで限定されるべきであると考えることもできます。但し,そもそも,損害額が限定されるべきか,また,限定されるとして,どの程度まで限定されるべきかについて,最高裁判所による明確な司法判断は出ておりません。ただ,下級審の判例ですが,信義誠実の原則から,約定損害金の3か月分に限定した判例(東京地裁平成7年(レ)第121号動産引渡等請求控訴事件)が存在します。
4,@以上の他に、時効の援用も考えられます。あなたは2年程前にビデオを借りており引越し等で失念していたようですが、このようなことは生活上良く起こりえる事ですし、突然請求されて驚かれた事と思います。そこでこのような債権債務関係については短期消滅時効(民法174条1項5号)が定められており返還不能となったビデオのレンタル料、延滞料、が1年の時効にかかっていないか問題になります。条文は「動産の損料」としか規定されておらず解釈が必要です。
A結論から言うと「動産の損料」に該当すると考えるのが妥当であると思います。明確な判例がないので理由を検討してみます。そもそも時効制度は一定期間の事実状態を保護しその上に築かれた権利関係をたとえ真実にあってなくても認め社会上の権利関係を保護し社会生活の安定を図ろうとするものです。さらには長期間経過による権利関係を証明する証拠の散逸による立証の困難性を公平上考慮しなければならないということと権利の上に眠るものを保護しないという趣旨に基づいています。時効期間には20年から種々規定されていますが権利の内容により期間が定められています。本条5号が1年と規定している理由は、日常性生活上煩雑に起こりえる低額な債権債務関係については当事者が失念しやすく証拠も残しておかない場合が多いし債権者も保護する必要がないので1年も経過してから真実の権利関係を主張することを認めなかったのです。「動産の損料」とは通常、貸本、貸布団、貸し衣装の利用料、賃料と解釈されていますが、レンタルビデオのレンタル料はもち論のことそれに基づく延滞金も実質的にはレンタル料と同じですから日常生活上煩雑に生じる権利関係であり貸し本等に準じて認める事が妥当だからです。それにレンタル業者も2年間放置しており法的保護に値しないでしょう。民法は明治時代に制定されたものですから現代社会ではビデオ、CDのレンタル料、延滞料はまさに貸本代金と同様に本条により保護される必要性があると思います。
B次に延滞金は日々発生しますから権利行使の時から時効が進行すると考えると(民法166条1項)本件では最後の延滞料の1年間は時効の対象にならないように思いますが、本条の制度趣旨は日常生活上煩雑に生じる権利関係を1年後には主張させないと言うものでありレンタルの延滞金発生の時から1年を経過すればすべての延滞金が時効にかかると考えるべきでしょう。そう考えないと延滞金は何時までも最後の1年間請求できることになり本条の趣旨が失われるからです。すなわち本件では1円も払う必要がありません。この主張はまだ明確な判例がありませんのでその点御了承ください。
C本件に付いての判例ですが最高裁判所判例昭和46年(オ)594号事件では営業のための土木建設用の重機械であるシャベルドーザーの数ヶ月にわたる賃料は日常生活上のものでないので本条に該当しない旨判示しています。本条の制度趣旨からいって妥当な結論と思います。
5,本件では,以上のような問題点がありますので,自分に有利になるような主張をして,業者側に譲歩を求める交渉をするのがよいでしょう。また,業者側が執拗で話を聞いてくれず自分で交渉することが困難だと判断する場合には,このような問題に詳しい弁護士に,業者との交渉を依頼するのがよいでしょう。弁護士が代理人となって、支払えない理由を法的に説明し、場合によっては悪質な業者に対し債務不存在の確認の訴訟を起こす事も可能です。最後になりましたが、万が一、ご自分で業者と話し合い和解する場合は、和解金支払い後は当事者間に一切の債権債務関係がないという「精算条項付和解合意書」を作成してください。後々の紛争再燃の防止策です。

≪参考条文≫

民法
(一年の短期消滅時効)
第百七十四条  次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
五  動産の損料に係る債権

消費者契約法
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条  弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
第七十三条  何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

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