新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.547、2006/12/26 14:57 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【破産】
質問:住宅ローンの他にも多額の負債を抱え、返済ができなくなってしまいそうです。自宅を売って、住宅ローンの返済に充てても、かなりの住宅ローンが残ることになるはずですし、返済のために借り入れをして、その担保として、住宅ローン以外の抵当権も、自宅に設定してしまいました。破産するしかないと思うのですが、破産すると、自宅は売却されてしまうのでしょうか。

回答:
1.裁判所に破産手続を申し立て、破産決定が出されれば、原則として、ご自宅不動産は、破産財団を構成することになり(破産法第34条)、破産手続の中で、資産として、任意売却あるいは競売され(破産法第78条、同法184条、民事執行法第43条)ることになります。その売却代金を、債権者の配当に宛てるためです(破産法第193条)。
2.ただ、住宅ローンその他の、抵当権が付けられている債権は、別除権となり(第65条)、破産手続によらず行使できることになりますので、破産手続の際に、ご自宅を処分しても、住宅ローン等の抵当権を返済で消滅させ、さらに他の債権者に配当(返済)するほどの売却代金が得られないことが明らかな場合(「オーバーローン」といいます。)には、ご自宅が、破産手続における配当可能資産とならない、として、破産手続のなかでの売却手続を行わないというのが、実務上の扱いです。例えば、東京地方裁判所で破産を申し立てる場合には、抵当権の付いた残債務が、その不動産の売却査定価値の約1.5倍を超える場合には、破産手続による売却を行わないのが通常です。
3.しかし、破産手続の中で売却をしなくても、別除権とされた抵当権が消えるわけではなく、ローン等の抵当権付きの負債は、抵当権者が抵当権を実行するという方法で回収できる範囲だけ、回収されることになります。破産申立がなされた場合には、住宅ローン等の負債は、直ちに一括で請求できる状況になる、という契約になっているのが通常ですので(期限の利益喪失約款といいます)、住宅ローン等の抵当権者は、それぞれ個別に、不動産の強制執行として、競売を申し立てる権利が生じます。破産申立をするような資産状況ですから、他に回収の余地も乏しく、抵当権者は、少しでも回収するため、よほどのことがない限り、任意での売却の斡旋か、競売を考えるはずです。つまり、いずれにしても、破産申立をした段階で、ご自宅の処分を避けることは難しい、ということになります。信頼できかつ資金力のある親戚・知人の方の協力が得られるのであれば、その方に買って頂き、その方の所有名義としたうえで賃貸して貰うという方法もあります。
4.もし、住宅ローン以外に、ご自宅に抵当権が設定されていなければ、民事再生という手続で、ご自宅を維持しながら、返済計画を立て直して、裁判所に計画を認めてもらって、という方法も考えられるのですが、返済資金の借り入れ等で、他の抵当権が付いたままだと、この方法が使えません(民事再生法第198条)。住宅ローンの返済が苦しくなった場合には、お早めに、お近くの法律事務所にご相談下さい。

≪参考条文≫

<破産法>
(破産財団の範囲)
第三十四条  破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
(別除権)
第六十五条  別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
2  担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。
(破産管財人の権限)
第七十八条  破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
2  破産管財人が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
一  不動産に関する物権、登記すべき日本船舶又は外国船舶の任意売却
第百八十四条  第七十八条第二項第一号及び第二号に掲げる財産の換価は、これらの規定により任意売却をする場合を除き、民事執行法 その他強制執行の手続に関する法令の規定によってする。
2  破産管財人は、民事執行法 その他強制執行の手続に関する法令の規定により、別除権の目的である財産の換価をすることができる。この場合においては、別除権者は、その換価を拒むことができない。

<民事執行法 (不動産執行の方法) >
第四十三条  不動産(登記することができない土地の定着物を除く。以下この節において同じ。)に対する強制執行(以下「不動産執行」という。)は、強制競売又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。
2  金銭の支払を目的とする債権についての強制執行については、不動産の共有持分、登記された地上権及び永小作権並びにこれらの権利の共有持分は、不動産とみなす。
(配当の方法等)
第百九十三条  破産債権者は、この章の定めるところに従い、破産財団から、配当を受けることができる。

<民事再生法>
(定義)
第百九十六条 この章、第十二章及び第十三章において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 一 住宅 個人である再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の二分の一以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものをいう。ただし、当該建物が二以上ある場合には、これらの建物のうち、再生債務者が主として居住の用に供する一の建物に限る。
 二 住宅の敷地 住宅の用に供されている土地又は当該土地に設定されている地上権をいう。
 三 住宅資金貸付債権 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。
 四 住宅資金特別条項 再生債権者の有する住宅資金貸付債権の全部又は一部を、第百九十九条第一項から第四項までの規定するところにより変更する再生計画の条項をいう。
 五 住宅資金貸付契約 住宅資金貸付債権に係る資金の貸付契約をいう。
(住宅資金特別条項を定めることができる場合等)
第百九十八条 住宅資金貸付債権(民法第五百条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第五十三条第一項に規定する担保権(第百九十六条第三号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に第五十三条第一項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。

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