新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 2、(1) この点本件のような道路交通法違反について、上記ガイドラインによると、「交通事犯(業務上過失致死、業務上過失傷害、道路交通法違反等)自動車等による業務上過失致死(傷害)等については、医師、歯科医師に限らず不慮に犯し得る行為であり、また、医師、歯科医師としての業務と直接の関連性はなく、その品位を損する程度も低いことから、基本的には戒告等の取り扱いとする。ただし、救護義務を怠ったひき逃げ等の悪質な事案については、行政処分の対象とし、行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、人の命や身体の安全を守るべき立場にある医師、歯科医師としての倫理が欠けていると判断される場合には、重めの処分とする。」と一応の基準が示されている。 3、以上、刑事処分の後の医道審議会という行政処分の段階でも処分を受ける側は何もせずに処分が出るのを待つというような受動的立場に終始するのではなく、自分の犯した罪との関係で予想される最も軽い処分を意識した活動をすべきである。そして、そのために弁護士が必要ということであれば積極的に活用を検討すべきである。依頼を受けた弁護人は処分を受ける側の立場に立ちその事案で考えられる最も低い処分となるよう依頼者と協力することにつき労を惜しまない。本件であれば戒告処分にとどめるための活動を主体的に協力するということである。 (参照条文) 道路交通法
No.551、2006/12/29 14:41 https://www.shinginza.com/idoushin.htm
【医道審議会】
質問:私は病院で勤務している医者ですが、制限速度を100キロオーバーで運転したというスピード違反を理由とする道路交通法違反で執行猶予付の有罪判決を受けました。その後、弁明の聴取対象者の通知が私のところに来ました。「医業停止命令処分相当」と記載されていました。私としては医業停止処分となることもやむをえないと腹をくくりましたができることならばより軽い処分になることができないものでしょうか。
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回答:
1、医師が、何らかの犯罪により有罪が確定した場合、厚生労働省の医道審議会の審議にかかることになる。医道審議会では、免許停止や免許取消をすべきか審議して、厚生労働大臣に答申することになるが、医道審議会の審議内容は原則非公開であるので、どのような行為をしたときにどのような処分になるのかは、明確な基準を知ることは残念ながらできない。ただ、医道審議会の「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」というガイドライン(平成14年12月13日付)において、処分は、判決における量刑と、事件の内容を基に判断されるとされる。その上で各種犯罪類型ごとに大まかな考え方が示されている。重要な点は、特に医師に対する信頼を損なうような行為があったか、業務に関連した犯罪の場合かどうかという点にある。医師に対する信頼を損なう度合いが高い場合や業務に関連した犯罪の場合には刑事の量刑判断が必ずしも高くなくとも厳しい処分が予想される。なお、医道審議会の処分の結果については厚生労働省が処分を下した後に公表しており、犯罪と刑罰との関係でどの程度の処分となったのかが分かるようになっているので参照していただきたい。
(2) 本件は救護義務を怠ったひき逃げ等の事案ではなく悪質な事案とは必ずしもいえない。その意味では戒告か短期医業停止処分を検討することになると思われる。ただ、最近の飲酒運転や無免許運転に対する厳罰化の傾向は医道審議会の処分結果に影響しており、従来戒告処分相当と判断されたものでも短期の医業停止処分になることも否定できない。本件のような道路交通法違反では戒告か(短期)医業停止処分かは処分を受ける側にとって切実な違いとなる。
(3) このように、本件は、戒告処分と短期免許停止処分のどちらにも転びうる事案であると思われる。事件の内容は単なるスピード違反であり一般人が誰でも犯しうる行為であり業務との直接の関連性はない。ただ、他方でスピード違反の程度という点に着目するならば、人の命や身体の安全を守るべき立場にある医師、歯科医師としての倫理が欠けているという評価を受けたとしても文句は言えない。さらに最近の道路交通法違反に対する厳罰化の傾向である。したがって、処分を受ける側である医者としては、自分の受ける処分が想定される最も低い処分である訓告となるために最善の行動をとることが必要となる。
(4) 処分を受ける側の防御の観点から、長期の準備期間があり、他の同僚や上司などが嘆願書に署名することに協力的であるなど、自分に有利な証拠収集が容易であるというような場合には、医道審議会の聴取に向けて処分を受ける者自身だけで活動するということでも良いであろう。しかし、医道審議会の聴取まで期日が迫っており、自分で活動する余裕がないというような場合、弁護士に依頼して弁護人の協力を得て行動することも検討の余地があると思う。いずれにしても最善の活動をすべきである。ここで弁護士の主な活動を大まかに整理すると、聴取の期日の前の活動と期日における活動に大きく区別できる。都道府県や医道審議会に対する報告書や上申書などの作成・提出などが前者であり、審理や聴取の期日における代理人としての出席、意見書を補完する発言などが後者となる。弁護士の意見書では、刑事裁判で認定された事実関係の評価や、適用された罰条や量刑についての法解釈について、刑事裁判時とは異なった観点(行政処分の必要性、相当性、場合により許容性)で論証を行い、対象者の処分が不当に重くならないよう弁護活動を行なう。法律の専門家である弁護人作成の意見書は他の証拠と同様処分の前にその内容は必ず検討されることになる。その意見書自体によって処分が覆るということを想定することはあまり期待できないが、それ以上に弁護人の意見書により処分権者に処分を慎重にする無言の圧力をあたえるという心理的効果を与える点に最も大きな意味がある。
(最高速度)
第二十二条 車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。
(罰則 第百十八条第一項第一号、同条第二項)
第百十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第二十二条(最高速度)の規定の違反となるような行為をした者