新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.552、2006/12/29 14:46 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・契約】
質問:借地に自宅を建てて住んでいます。子供の勉強部屋が必要となったため、2階を増築したいのですが、地主は契約書上禁止されていると主張しています。どうしたらよいでしょうか。

回答:
1.地主から土地を借りている借地人は、本来、自由に土地を使用することができますし、借地上の建物は借地人の所有物ですから、これを増築したり、改築したりすることは、借地人が自由にできるのが原則です。しかし、借地上の建物の種類や構造は、地主にとっても利害が絡みます(例えば、建物の構造が堅固になれば借地権の存続期間も延びてしまう等)ので、借地契約の締結にあたって、借地人が地主の承諾なく増改築を行うことを禁ずるという増改築禁止特約がおかれることが多いようです。この特約については、法の定めよりも借地権者に不利な契約条件は無効という借地借家法9条に反するのではないかという問題はありますが、最高裁昭和41年4月21日判決は、特約自体は有効に設定できると判断しています(法にも増改築禁止特約の存在を前提とした規定が置かれています)。

2.そして、増改築禁止特約には、この特約に違反した場合には、直ちに契約を解除できる旨が規定されているのが通常ですが、そうであれば、特約違反の増改築をした借地人は、途端に契約を解除され、地主から土地の明け渡しを請求されることになってしまいます。しかし、それでは、借地人に著しく不利益なため、具体的な事件の解決に当たっては、裁判所は様々な理由で地主の解除権の行使を制限してきました。前述の最高裁判例の事例では、木造一部2階建ての居宅を、総2階とした上で、2階を賃貸用アパートにした場合にも、「増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊する虞があると認めるに足りないときは、賃貸人は、前記特約に基づき、解除権を行使することは許されないものというべきである。」として、地主の解除権行使を否定しました。このように、増改築禁止特約がある場合でも、地主の承諾のない増改築が必ず契約解除の原因になるわけではありません。しかし、ある増改築が契約解除の原因になるかどうかは、事後的に裁判所が判断しますが、借地人が増改築しようとする時点では、その増改築が契約解除の原因になるかどうかは必ずしも判明せず、借地人は地主の承諾が得られなければ増改築を躊躇することになり、借地人の自由な土地利用は実質的に制限されてしまいます。そこで、借地借家法は、増改築禁止特約がある場合に、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与えることができると定めています(借地借家法17条、代諾許可申立)。

3.裁判所が地主の承諾に代わる許可をすることができるのは、@増改築禁止特約が存在すること、A増改築禁止特約が土地の通常の利用上相当であること、B当事者間に協議が調わないこと、の条件が満たされた場合です(借地借家法17条2項)。@とBは、裁判所に許可を求める前提であり、実質的に問題となるのはAです。この点は、借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過など一切の事情を考慮して判断されます。また、裁判所は必要と認めた場合に、金銭の支払い等を条件に許可をすることもできます。増改築の相当性の判断は、許可を求めようとしている具体的な増改築の計画に基づいてなされますので、許可を申し立てるに当たっては、増改築の計画を具体的に特定する必要があります。なお、増改築の承諾料としては、更地価格の3〜5パーセントが多く、木造からコンクリートへの変更等の場合には、10パーセント程度の承諾料が命じられる場合もあります。 増改築の事例ではありませんが、土地についての賃貸借契約の目的を非堅固から堅固建物の所有を目的とするものに変更する旨の申立てをした事例について、防火地域・商業地域・附近の土地利用状況の変化に対応し、これを認め、附随処分として、期間30年、給付金:更地価格の約12%(裁判確定後3か月以内の支払を条件)の更新料を認めた東京地裁決定があります(平成5年5月14日、控訴審において取消)。

≪参考条文≫

(強行規定)
第九条  この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。
(借地条件の変更及び増改築の許可)
第十七条  建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
2  増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
3  裁判所は、前二項の裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
4  裁判所は、前三項の裁判をするには、借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければならない。
5  転借地権が設定されている場合において、必要があるときは、裁判所は、転借地権者の申立てにより、転借地権とともに借地権につき第一項から第三項までの裁判をすることができる。
6  裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項から第三項まで又は前項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。

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