私立学校の退学勧告に対する対応

民事|私立学校の自主性と高校にて教育を受ける権利の対立|東京地方裁判所令和4年11月30日判決、損害賠償請求事件

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照判例

質問:

息子は共学の私立高校に通っていますが、生徒手帳に記載された校則の中に男女交際は禁止と書いてありました。この校則は昔からあるもので、勉学に支障が無ければ良いと考えていました。息子は同級生の女生徒と交際していましたが、メールしたり休日に出掛けるなど年齢なりの勉学に支障の無い交際でした。ところが先日、息子たちの交際を学校の先生が知ったようで、事実調査の聞き取りを受けました。そして昨日、私たち両親も含め学校の校長室に呼ばれ、「明日から登校しないでください。息子さんは本校の校風に合わないから退学してはどうか。このまま居ても進級できないから一刻も早くお子さんに合う転校先を見つけて来てください」と言われてしまい、退学勧告を受けてしまいました。先生方の話しぶりは強制ではないのですが、退学宣告を受けたように感じました。この処分は受け入れるしかないのでしょうか。

回答:

1、退学勧告を受け入れる必要はありません。学校側と良く話し合って教育上子子供に適切と思われる結論を出すのが良いでしょう。退学勧告を受け入れなかった場合、退学処分となる可能性がありますが、退学処分が法的に有効か否かについては裁判で争うことも可能です。

2、私立高校は、学校教育法4条1項3号により都道府県知事の認可を受けて設置された私立学校です。私立高校の教育課程は、学校教育法52条、学校教育法施行規則84条により文部科学大臣が教育課程の基準として公示する高等学校学習指導要領に従って行われますが、私立学校には独自の伝統ないし校風と教育方針を校則等において具体化し、これを実践することが認められており(教育基本法8条)、学校内部の校則や生徒指導についても合理的範囲内で裁量が認められています(最高裁昭和49年7月19日判決、最高裁平成8年7月18日判決)。学校内部の事務の取り扱いについては学校の自律的判断を尊重するということは、部分社会の法理として判例も確立しています(最高裁昭和52年3月15日判決など)。

3、従って、私立学校内部の校則やそれに基づく生活指導については、学校側の広汎な裁量が認められると考えられ、その場合司法審査は及ばないことになります。しかし、裁量を逸脱するような不合理な校則であるとか、公序良俗違反の校則又は校則自体は裁量の範囲内にあるとしてもその適用が裁量を逸脱しているような場合は退学勧告も含めて司法審査は及ぶことになります。但し、退学勧告の有効性を争うということはできませんので、勧告に基づいてやむを得ず自主退学したという場合は、退学を無効として学生としての地位の確認訴訟あるいは学校に対する損害賠償請求訴訟となります。勧告に従わなかった結果学校が退学処分をした場合は、処分の無効を訴えて法的な手続きをとることは可能です。しかし、学校という教育の場ですから、すぐに結論を出すより退学勧告について十分話し合うことが大切といえます。

4、退学勧告については、生徒側に選択の余地が無く、実質的に退学処分と変わらないということであれば退学処分の有効性に関する司法審査の対象となり、①校則の有効性と校則違反の態様、②反省の状況及び平素の行状、③従前の学校の指導及び措置、④自主退学勧告をした場合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響、⑤自主退学勧告に至る経過等、の諸般の要素を慎重に考慮することを要し、当該生徒を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って選択されるべきことになります(最高裁昭和49年7月19日判決、最高裁平成8年3月8日判決、最高裁平成8年7月18日判決など)。

5、類似の事例について近時下級審判例がありましたのでご紹介致します。この判例では、男女交際禁止の校則自体は有効としつつ、退学処分と同視できるような退学勧告が行われ、生徒がやむを得ず退学して転校した場合に、その手続き内容が不適切であったということで、生徒から学校に対する損害賠償請求を認めています。このケースにおける退学勧告は違法という判断でした。生徒側は違法な退学勧告には従う必要は無いということになります。

6、御相談の事例では、退学処分を受けているわけではありませんから、学校側との話し合いの余地はあると思われます。学校側も、最新の判例動向など、退学勧告の法的位置づけについて正確な法的検討を経ていない可能性があります。代理人弁護士を介して冷静に話し合いをすることにより勧告撤回など円満解決の可能性もあると思われますので一度経験のある弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。

7、退学問題に関する関連事例集参照。

解説:

1、教育基本法で認められた私立学校の自主性

学校内の問題を考えるについては、教育基本法の理解が基礎となります。そこで、教育基本法の目的規定を引用します。素晴らしい理念ですから、教育基本法の第一章(第1条から第4条まで)を全て引用します。

教育基本法 第一章 教育の目的及び理念

(教育の目的)

第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

(教育の目標)

第二条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。

一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。

二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。

三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。

四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。

五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

(生涯学習の理念)

第三条 国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。

(教育の機会均等)

第四条 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

2 国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。

3 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。

この様な素晴らしい理念のもとに、各学校は設置され、運営されています。私立学校については、第8条で規定されています。

学校教育法第8条(私立学校)私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。

教育基本法の理念と目標を達成するために、公立学校などの公教育が整備されますが、有志により設立された私立学校についても、「公の性質」があり、「重要な役割」が期待されるので、「自主性を尊重」しつつ振興に努めるよう、国と地方公共団体に努力義務が課せられています。この「自主性」というのは、設立時の寄付行為(学校法人を設立する時の定款)と、設立以来運営されてきた伝統と校風のことを意味します。私立学校は、各校の設立時の建学の精神に則り、独自の伝統ないし校風と教育方針を掲げ、これを合理的範囲内で校則として制定し、学校運営することが認められているのです。

このような見地から、校則の有効性について論じた最高裁の判決があるので紹介します。

※参考判例、最高裁判所平成8年7月18日判決

『私立学校は、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行うことを目的とし、生徒もそのような教育を受けることを希望して入学するものである。原審の適法に確定した事実によれば、(一) D高校は、清潔かつ質素で流行を追うことなく華美に流されない態度を保持することを教育方針とし、それを具体化するものの一つとして校則を定めている、(二) D高校が、本件校則により、運転免許の取得につき、一定の時期以降で、かつ、学校に届け出た場合にのみ教習の受講及び免許の取得を認めることとしているのは、交通事故から生徒の生命身体を守り、非行化を防止し、もって勉学に専念する時間を確保するためである、

(三) 同様に、パーマをかけることを禁止しているのも、高校生にふさわしい髪型を維持し、非行を防止するためである、というのであるから、本件校則は社会通念上不合理なものとはいえず、生徒に対してその遵守を求める本件校則は、民法一条、九〇条に違反するものではない。これと同旨の原審の判断は是認することができる。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものであり、採用することができない。』

2、部分社会の法理

このような学校内部の自治的な活動の尊重は、司法審査に関する一般的な準則である「部分社会の法理」として、判例が確立しています。学校や、会社や、親睦団体や、宗教団体でも、政治団体でも、社会には様々な団体がありますが、自律的運営ルールに従って運営されている、それらの団体内部の事項について、それが形式的に権利義務の存否(債権債務の存否、請求権の存否)という外形を有しているとしても、全ての問題について、いちいち司法権が立ち入って判断を下すことは、私的自治(自主的・自律的解決)の観点から好ましくないという考え方です。各学校の個性・校風を尊重するということです。

※最高裁判所昭和52年3月15日判決(富山大学単位不認定事件)

『裁判所は、憲法に特別の定めがある場合を除いて、一切の法律上の争訟を裁判する権限を有するのであるが(裁判所法三条一項)、ここにいう一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争を意味するものではない。すなわち、ひと口に法律上の係争といつても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上裁判所の司法審査の対象外におくのを適当とするものもあるのであつて、例えば、一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である(当裁判所昭和三四年(オ)第一〇号昭和三五年一〇月一九日大法廷判決・民集一四巻一二号二六三三頁参照)。

そして、大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であつて、その設置目的を達成するために必要な諸事項については、法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、このような特殊な部分社会である大学における法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は右司法審査の対象から除かれるべきものであることは、叙上説示の点に照らし、明らかというべきである。

そこで、次に、右の見地に立つて本件をみるのに、大学の単位制度については大学設置基準(昭和三一年文部省令第二八号)がこれを定めているが、これによれば(ただし、次に引用の条文は、いずれも昭和四五年文部省令第二一号による改正前のものである。)、大学の教育課程は各授業科目を必修、選択及び自由の各科目に分け、これを各年次に配当して編成されるが(二八条)、右各授業科目にはその履修に要する時間数に応じて単位が配付されていて(二五条、二六条)、それぞれの授業科目を履修し試験に合格すると当該授業科目につき所定数の単位が授与(認定)されることになつており(三一条)、右教育課程に従い大学に四年以上在学し所定の授業科目につき合計一二四単位以上を修得することが卒業の要件とされているのであるから(三二条)、単位の授与(認定)という行為は、学生が当該授業科目を履修し試験に合格したことを確認する教育上の措置であり、卒業の要件をなすものではあるが、当然に一般市民法秩序と直接の関係を有するものでないことは明らかである。それゆえ、単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である。』

これは、あらゆる団体において、設立時の規則に基づいて自律的に運営され、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を構成しているものとされ、団体内部の係争のうち、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題については司法審査の対象とすべきではないという考え方です。「一般市民法秩序と直接の関係を有しない」というのは、入会や退会(除名を含む)など、団体に入れないとか、強制的に排除されてしまったというような問題を除く、内部の運営の問題という意味です。例えば、団体内部の役員選任とか、褒賞とか、懲戒については、裁判所は関知しません、ということになります。とはいえ、団体内部の紛争のうち、不公平に入会できなかったとか、不当に退会させられたというような事項については、一般市民法秩序との接点を有するので、合理性を欠くものについては司法審査の対象となり得るとしているのです。

この法理を、私立学校の紛争について当てはめると、退学処分や卒業認定の有効性は司法審査の対象になり得るが、退学勧奨や退学勧告の有効性は、それが任意のものに留まる(退学しない選択肢も残されていた場合)限り、司法審査の対象にならないのが原則ということになります。

3、退学法理

学校教育法施行規則26条3項には、退学処分の4要件が定められています。

一号 性行不良で改善の見込がないと認められる者

二号 学力劣等で成業の見込がないと認められる者

三号 正当の理由がなくて出席常でない者

四号 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者

これを受けて各学校の校則にも懲戒事由が定められていることが多くなっていますが、退学処分が学生の身分を失わせる重大なものであることに鑑みて、実際の退学処分に当たっては、次のような事項について審査することが求められています(最高裁平成8年7月18日判決など)。

①校則の有効性と校則違反の態様

②反省の状況及び平素の行状

③従前の学校の指導及び措置

④退学処分をした場合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響

⑤退学処分に至る経過

これは労働事件におけるいわゆる「解雇法理」とも類似性を持つ条件です。学校秩序と学校の教育目的達成のために、やむを得ない合理的な判断だったかどうかが審査の対象になるのです。例えば整理解雇の4要件では、「人員整理の必要性」、「解雇回避努力義務の履行」、「被解雇者選定の合理性」、「手続の妥当性」というものがありますが、退学処分についても、学校運営上退学処分が必要だったか、退学処分を回避できるように指導した努力があったかどうか、また、退学処分を決めるまでの手続きの妥当性も審査されます。このような基準を仮に「退学法理」と呼ぶことができるでしょう。特に学校は教育機関ですから、手続きを進めるにあたって教育的配慮があったかどうかも審査の対象になるでしょう。

学校教育法施行規則26条 校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。

2項 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。

3項 前項の退学は、市町村立の小学校、中学校(学校教育法第七十一条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)若しくは義務教育学校又は公立の特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。

一号 性行不良で改善の見込がないと認められる者

二号 学力劣等で成業の見込がないと認められる者

三号 正当の理由がなくて出席常でない者

四号 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者

4項 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。

5項 学長は、学生に対する第二項の退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならない。

※参考判例、最高裁判所平成8年7月18日判決

『右事実によれば、(一) D高校は、本件校則を定め、学校に無断で運転免許を取得した者に対しては退学勧告をすることを定めていた、(二) 上告人の入学に際し、上告人もその父親も本件校則を承知していたが、上告人は、学校に無断で普通自動車の運転免許を取得し、そのことが学校に発覚した際も顕著な反省を示さなかった、(三) しかし、学校は、上告人が三年生であることを特に考慮して今回に限り上告人を厳重注意に付することとし、上告人に対し本来であれば退学勧告であるが今回に限り厳重注意としたことを告げ、さらに、校長が自ら上告人と父親に直々に注意し、今後違反行為があったら学校に置いておけなくなる旨を告げ、二度と違反しないように上告人に誓わせた、(四) 上告人は、それにもかかわらず、その後間もなく本件校則に違反してパーマをかけ、そのことが発覚した際にも、右事実を隠ぺいしようとしたり、学校の教諭らに対して侮辱的な言辞をろうしたりする等反省がないとみられても仕方のない態度をとった、(五) 上告人は、本件校則違反前にも種々の問題行動を繰り返していたばかりでなく、平素の修学態度、言動その他の行状についても遺憾の点が少なくなかった、というのである。これらの上告人の校則違反の態様、反省の状況、平素の行状、従前の学校の指導及び措置並びに本件自主退学勧告に至る経過等を勘案すると、本件自主退学勧告に所論の違法があるとはいえない。』

4、判例紹介

ご相談の事例に参考になる、男女交際を禁止した校則に違反し、同学年の生徒と交際し性的な関係を持ったとして退学勧告を受け、やむを得ず自主退学したという事案について、近時の下級審判例がありますので紹介致します。

※東京地方裁判所 令和4年11月30日判決、損害賠償請求事件

『本件校則は、生徒が男女交際により傷付くという事態を避けるとともに、男女交際が他の生徒に悪影響を与えることを防止することにより、生徒を学業等に専念させることを目的とするものである(認定事実(1)ウ)ところ、本件校則が上記特色を有する本件高校における在学関係設定の目的と関連したものであることは明らかである。また、心身の発達途上の段階にある高校生にとって、男女交際が生活習慣の乱れ等の要因になり得ること自体は否定できず、本件校則の内容は、本件高校の教育理念や教育方針等に鑑みれば、男女交際の禁止により生徒を学業等に専念させるためのものとして、社会通念に照らして合理的なものであるということができる。

ア 原告は、高等学校学習指導要領に照らし、本件校則の内容が不合理である旨主張する(前記第3の1(1)ア参照)。しかしながら、私立学校は、独自の教育方針に基づき教育活動を行うことができるのであり、学習指導要領が男女交際の一般的な禁止を定めていないことをもって、本件校則が学習指導要領の趣旨に抵触するなどということはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。』

『b 既に検討したとおり、本件校則は、本件高校の生徒を規律するものとして有効であり、本件校則の違反に対する指導の方法等は、本件校則の趣旨・目的を踏まえた適切な運用に委ねられているというべきであるから、本件校則の違反への対応を検討するに当たり、性交渉の有無を重視するか否かは、本件校長の専門的・教育的裁量に属するということができる。また、本件校則が本件高校の教育方針等を具体化したものであり、生徒及び保護者がこれを前提として在学関係を設定していること等に鑑みれば、本件校則の違反への対応において、本件高校内の秩序(本件校則を前提とする学習教育環境)の維持を重視するか否かについても、本件校長の専門的・教育的裁量に属するということができる。

(ウ)a 他方において、高校生が恋愛感情を持つことは至極自然なことであって、前述のとおり、男女交際は、それ自体が社会通念上許容されない行為であると理解されるわけではないから、本件校則の違反の態様として性交渉があったことのみをもって、本件交際が本件退学規定の掲げる退学処分事由に準ずる行為に当たるとはいい難い。

b また、交際相手の有無や性交渉の有無は、私生活上の事柄であり、本件校則の違反の有無・程度の確認や調査には限界があるといわざるを得ず、本件校則の運用に当たっては、この点を十分考慮する必要がある。本件慣例によれば、生徒が本件校則の違反を真摯に反省し、性交渉を伴う男女交際の事実を告白した場合、その他の事情にかかわらず、自主退学勧告を受けることとなるが、このような運用が、本件校則の趣旨・目的に沿っているとはいい難く、教育的措置としての懲戒処分等の公平の観点からも問題があるといわざるを得ない(なお、証拠〔甲23、24〕によれば、本件退学後、複数の生徒から、本件生徒乙が男女交際している旨の連絡がされたが、本件生徒乙は男女交際の事実を認めず、特段の懲戒処分等を受けなかったことが認められる。)。

c さらに、本件校則の違反への対応において、本件高校内の秩序の維持の観点を重視するとしても、 同観点を踏まえて懲戒処分等の要否・内容を検討する以上、当該違反が他の生徒の学習教育環境に与えた影響や反省の有無・程度等を適切に考慮する必要があるというべきである。本件において、本件交際が性交渉を伴うものであったという事実は、原告の告白(本件事情聴取)により初めて判明したものであるところ、当該事実が他の生徒の学習教育環境に対して支障を与えることになったとはおよそ考え難い。本件慣例は、本件校則の違反が他の生徒に与えた影響、反省の有無・程度等を全く考慮することなく、男女

交際が性交渉を伴うものであることのみを理由として、当該生徒を学外に排除することを意図したものといわざるを得ず、本件校則が本件高校の教育方針等を具体化したものであり、これを前提とする学習教育環境の維持が重要であることを踏まえても、本件慣例の形式的な適用は、教育的措置として、著しく妥当を欠くというべきである。』

この判例では、心身の発達途上の段階にある高校生にとって、男女交際が生活習慣の乱れ等の要因になり得ること自体は否定できず、本件校則の内容は、本件高校の教育理念や教育方針等に鑑みれば、男女交際の禁止により生徒を学業等に専念させるためのものとして、社会通念に照らして合理的なものであるとして、校則自体は有効と判断しましたが、その適用において性交渉を伴ったことを以て形式的に適用して事実上の退学処分を行ったことは著しく妥当を欠き、違法性を帯びていると判示しました。

つまり、学校教育法施行規則26条3項の退学処分の4要件は「実質的に」認定され判断されなければならないとしているのです。

一号 性行不良で改善の見込がないと認められる者

二号 学力劣等で成業の見込がないと認められる者

三号 正当の理由がなくて出席常でない者

四号 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者

特に1号と2号の性行不良や成業の見込みがないとされる場合については、「見込み」の有無を見極めるための教育的配慮や指導を学校側が行ったのかどうか、どのようにして「見込み」が無いという判断に至ったのか、その経緯について十分な検討が必要であることが分かります。訴訟の段階になれば、これらの事項についての詳細な記録(聴取記録や指導記録など)を証拠提出する必要が出てきます。退学処分については、生徒の1度の行動だけで学校側が何ら指導することなく退学を命ずることは難しいものと言えるでしょう。

5、まとめ

従来の判例の動向や近時の判例の動向を踏まえると、男女交際を禁止する校則自体が違法無効とされる可能性は低いものと考えられます。

他方、男女交際を禁止する校則があったとしても、実際の適用の場面において、男女交際の有無により、男女交際が発覚しただけで、形式的に事実上の退学処分を行うことは違法な処分となる可能性が高いと言えるでしょう。

退学勧告の有効性については、勿論交際の実際の態様や、息子さんの従来の学校内での学校生活の様子や反省の様子、学業成績の状況や、交際が他の生徒に与えた影響や、学校側からの指導の状況や、退学勧告に至る経緯など、様々な事情を詳細にお伺いしないと判断することはできないと思います。

御相談の事例では、未だ退学処分を受けているわけではありませんから、学校側との話し合いの余地はあると思われます。学校側としても、正式な退学処分ではないということで、最新の判例動向など、退学勧告の法的位置づけについて正確な法的検討を経ていない可能性があります。

代理人弁護士を介して冷静に話し合いをすることにより、学校側も顧問弁護士に相談するなどして、教育論だけでなく、法律論の観点で協議ができる可能性が出てきます。その結果、勧告撤回など円満解決できる可能性もあると思われますので一度経験のある弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照判例

東京地方裁判所 令和4年11月30日判決、損害賠償請求事件

判決

主文

1被告は、原告に対し、97万5426円及びこれに対する令和元年

11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3訴訟費用は、これを20分し、その3を被告の負担とし、その余を

原告の負担とする。

4この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1被告は、原告に対し、374万1678円及びこれに対する令和元年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2被告は、原告に対し、330万円及びこれに対する令和元年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1事案の要旨

被告が設置、運営するi高等学校(以下「本件高校」という。)は、男女交際を禁止する旨の校則を定めている。原告は、校則違反(男女交際)を理由として、本件高校の学校長から自主退学勧告を受け、本件高校を退学した。

本件は、原告が、①上記校則は社会通念に照らして不合理であって無効であり、また、学校長が上記自主退学勧告につき裁量権を逸脱又は濫用したから、上記自主退学勧告が違法である旨主張して、被告に対し、使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料300万円、編入・大学受験関連費用40万1678円、弁護士費用34万円の合計374万1678円及びこれに対する原告が上記自主退学勧告を受けた日である令和元年11月22日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②本件高校の教員から上記校則違反について執拗な事情聴取を受けたことにより精神的苦痛を被った旨主張して、被告に対し、使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料300万円、弁護士費用30万円の合計330万円及びこれに対する上記事情聴取が行われた日である令和元年11月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2前提事実

以下の各事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。

(1)当事者等

ア 被告は、教育基本法及び私立学校法に従い、学校を設置して中等教育の振興を図ることを目的として設立された学校法人であり、本件高校を設置、運営している。

イ 原告は、平成29年4月に本件高校に入学した女性であり、令和元年11月当時、本件高校の第3学年に在籍していた。原告は、本件高校の同学年の男子生徒(以下「本件生徒甲」という。)と交際していた(以下、原告と本件生徒甲との交際を「本件交際」という。)。

(2)本件高校における校則の定め

本件高校の校則(「学校生活についての諸事項」)には、以下の規定がある。なお、上記校則は、本件高校が在学生に配布する生徒手帳(スチューデントノート)に記載されている。 [甲2、乙3の2、弁論の全趣旨]

「【風紀】

[1~5略]

6特定の男女間の交際は、生徒の本分と照らし合わせ、禁止する。」

(以下、上記6の規定を「本件校則」という。)本件校則」という。)

「【賞罰について】

1賞罰はすべて職員会議を経て校長がこれを行う。

2生徒が学則、その他本校の定める諸規則を守らず、その本分にもとる行為のあった時は、懲戒処分を行う。懲戒は戒告、謹慎、停学及び退学とする。

[3~6略]

7校長は、下記のいずれかに該当する生徒に退学を命ずることがある。

①入学誓約に背反する行為があり、改善の見込みがないと認められる者。

②勉強する意欲に欠け、単位履修成業の見込みがないと認められる者。

③正当の理由がなく出席が常でない者。

④学校の秩序を乱し、その他生徒としての本分に反した者。

⑤その他前項に準ずる程度の特に不都合な行為があった者。」

(以下、上記7の規定を「本件退学規定」という。)

(3)本件交際の発覚等

本件生徒甲の担任であったa教諭は、令和元年11月20日午後2時頃、本件高校の第3学年に在籍していた女子生徒(以下「本件生徒乙」という。)から、本件交際について報告を受けた。a教諭及び原告の担任であったb教諭は、同日午後、原告を小会議室(以下「本件面談室」という。)に、本件生徒甲を指導室にそれぞれ呼び出し、本件交際について事情聴取を行った。

原告は、同日午後6時頃、a教諭に対し、本件生徒甲との間で性交渉を伴う交際をしていたことを認めた(以下、同日に行われたa教諭による原告の事情聴取を「本件事情聴取」という。)。a教諭から報告を受けたb教諭は、原告に対し、翌日から自宅で謹慎をするように告げて、原告を帰宅させた。

[甲23、乙8、9、弁論の全趣旨]

(4)原告に対する自主退学勧告等

ア 本件高校は、原告への対応を協議し、本件高校の学校長(以下「本件校長」という。)は、令和元年11月21日、原告に対する自主退学勧告(以下「本件自主退学勧告」という。)を決定した。[乙12、弁論の全趣旨]

イ b教諭は、令和元年11月22日、本件高校において、原告及び原告の母親(以下「原告母」という。)と面談をし、本件自主退学勧告を伝えた。[甲23、乙8、弁論の全趣旨]

ウ 原告は、令和元年11月25日、一身上の都合を理由とする退学願を被告に提出し、同月28日をもって本件高校を退学した(以下、この退学を「本件退学」という。)。なお、本件生徒甲も、自主退学勧告を受けた後、 本件高校を退学している。[乙4、5、弁論の全趣旨]

(5)本件退学後の経緯等

原告は、本件退学後、f高等学校(以下「編入先高校」という。)に編入し、g大学法学部の入学試験を受けて、令和2年4月に同大学に入学した。[甲12の1・2、甲19~23、乙6、11]

3争点

本件の争点は、①本件校則の有効性[争点1]、②本件自主退学勧告の違法性の有無[争点2]、③本件事情聴取の違法性の有無[争点3]、④原告に生じた損害の額[争点4]である。

第3 争点に関する当事者の主張

(中略)

第4 当裁判所の判断

1 認定事実

前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨(本人及び証人尋問の結果は、陳述記載書面の頁数を引用する。)によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)本件高校の教育理念等

ア 本件高校は、「和魂洋才」を建学の精神として設立され、校訓「太陽の如く生きよう」を掲げて教育活動を行っている。本件高校の受験生及びその保護者に配布される冊子(「保護者・生徒必読」)には、「本校では特に、生活指導に力を入れています。生徒が安全に安心して通える環境をつくる。そして基本的な生活習慣をしっかり身につけてこそ、学業に専念でき、目標の進路に向けて全力投球できると考えるからです。」、「人間の基本として大切なモラル、躾面の教育にも力を注ぎ、単なる教科学習だけにとどまらず、教育の4大視点として人間性、個性、国際性、可能性をとらえ、学園生活のすべてを『教育現場』と考え取り組むことにしています。」等と記載されており、特に保護者に理解してもらいたい事項として、本件校則も紹介されている。[乙3の1・2]

イ(ア)本件高校は、入学試験の出願時において、保護者面接に代わるものとして「保護者見解回答用紙」の提出を求めており、その回答が本件高校の教育方針と大きく異なる場合には、合否の判定に影響を与えることがあるとされている。[乙3の1]

(イ)保護者見解回答用紙には、「本校は、生活指導には、確固たる方針で取り組んでいます。生徒の飲酒・喫煙・無免許運転・不純異性交遊・無断外泊・無届集会・無届旅行・無届アルバイト、また、暴力行為・弱いものいじめ・盛り場はい回・無断欠席などに対しては、本校独自の教育的見解と指導方法をもって生徒の生活指導にあたっております。」等との説明文に加え、「本校は在校中1対1の特定の交友、男女関係、同棲・婚姻などは認めておりません。全てに亘って自分自身が責任を負えるようになってからでも遅くはないことと厳しい方針(自主退学など)で指導いたしておりますが……。」との質問に対する回答欄が設けられている。[乙3の3]

(ウ)原告母は、原告の本件高校への入学試験の出願時に保護者見解回答用紙を提出した際、上記の質問につき、「学校の方針に賛成。在校中は全て学校の指導方針に従います。」との回答に印を付けた。[乙3の3]

ウ 本件校則は、生徒がその心身の未成熟さから男女交際によって精神的・肉体的な痛手を受けて傷付くおそれがあるため、生徒をそのような事態から守るとともに、非行や他の生徒への悪影響を防止して生徒の健全な育成を図り、適切な自己決定ができる資質・能力を育成しつつ、高校生の本分である学業等に専念する時間を確保することを目的とするものである。[乙3の1~3、乙12、証人e〔1頁〕、弁論の全趣旨]

エ 本件高校は、在学生が、いじめや仲間外れ、心配な同級生等について匿名で学校に連絡することができる「スクールサイン」(旧サービス名:キッズサイン)というWeb上のサービス(以下「本件システム」という。)を導入している。本件高校の生徒の間では、男女交際の噂等がされることはままあったところ、本件システムを通じ、男子生徒と女子生徒が親密にしている様子の目撃情報等の連絡がされ、これを端緒として、教員が当該生徒に対して本件校則の違反の有無を確認するということも少なくなかった。[甲23、弁論の全趣旨]

(2)原告の学校生活の状況等

ア本件高校における原告の学業成績は概ね中位であり、出席状況に特段問題はなかった(第1学年:欠席・早退・遅刻なし、第2学年:欠席4日・遅刻9日・早退1日、第3学年〔1学期〕:欠席2日・遅刻1日・早退1日)。また、原告は、第1学年前期及び第3学年前期では学級副委員長を、第1学年後期及び第2学年では学級委員長を務めていた。[甲3の1~7]

イ原告は、①色シャンプーを使用したこと(第1学年の春休み)、②授業中に携帯電話を使用したこと(第2学年1学期)、③寝坊をしたこと(第2学年2学期)について、それぞれ注意を受けたことがあり、その際、本件高校に反省文を提出した。なお、原告母は、反省文にコメントを付記して、家庭での原告の指導・監督を約していた。 [甲5~7]

ウ原告及び本件生徒甲は、第1学年在籍時(平成30年3月頃)、お互いに好意を伝え合い、本件交際を開始した。原告は、本件交際の発覚に至るまで、本件交際を秘密にしており、本件生徒甲と交際している事実は、数人の親しい友人にのみ話していた。原告は、本件生徒甲との関係が目立たないようにしてはいたが、本件高校内で本件生徒甲と2人で会話しているところを、教員から気を付けるように声を掛けられることはあった。[甲23、乙8、原告本人〔22頁〕、弁論の全趣旨]

エ原告は、第2学年在籍時(平成30年12月13日)、本件システムを通じ、本件高校内で本件生徒甲と2人で会話をしている旨の連絡があったとして、当時の担任教員から交際の有無の確認を受けたが、これを否定した。上記教員は、原告に対し、「今後は男女交際を周囲から疑われることがないようにしなさい」などと注意するとともに、原告母に対し、原告に注意をした旨を連絡した。 [甲23、乙8、弁論の全趣旨]

オ原告は、指定校推薦によるg大学への進学を希望していた。b教諭は、進路希望に関する面談の際(第3学年の夏休み)、原告及び原告母に対し、「指定校推薦は校則違反等をしていない模範生であることが条件となる。原告には、男女交際の噂があるが大丈夫か。」と尋ねたところ、原告は、「大丈夫です。」と回答した。原告は、第3学年前期には、本件高校からg大学への指定校推薦を受けたへの指定校推薦を受けた。[乙8、弁論の全趣旨]

(3)本件交際の発覚に至る経緯等

ア本件生徒乙の同級生であった女子生徒(以下「本件生徒丙」という。)は、仲の良かった原告及び本件生徒乙に対し、内々に、本件生徒丙が令和元年夏頃に学外の男性と交際したことにより当該男性との間で問題が生じたという秘密(以下「別件事情」という。)を打ち明けた。その後、原告は、別件事情を本件生徒甲(同人は、本件生徒乙・丙のクラスの学級委員であった。)に話し、本件生徒甲を通じ、別件事情が他の生徒や教員にも知られてしまうこととなった。本件生徒丙は、その後、本件高校を自主的に退学した。 [甲23、乙9、証人e〔28頁〕、弁論の全趣旨]

イ本件生徒乙は、原告が別件事情を本件生徒甲に話したことを知り、原告や本件生徒甲の言動が原因となって本件生徒丙が退学することになったと確信した。本件生徒乙は、原告を追及したが、原告が別件事情を本件生徒甲に話した事実を否定したこと等から口論となった。本件生徒乙は、原告に憤慨し、令和元年11月20日午後2時頃、a教諭に対し、原告のSNS(インスタグラム)のアカウントの画像等を示しながら、原告と本件生徒甲とが交際している旨を報告した(以下、この報告を「本件報告」という。)。[甲23、乙9、証人e〔28頁〕、弁論の全趣旨]

(4)原告に対する事情聴取(令和元年11月20日)の経緯

ア a教諭は、本件報告を受け、生徒指導部長であるc教諭及び原告の担任であるb教諭に相談した。b教諭及びa教諭は、5時間目の授業の終了後(午後3時頃)、b教諭が原告を本件面談室に、a教諭が本件生徒甲を指導室にそれぞれ呼び出し、交際の有無を確認したが、原告及び本件生徒甲はいずれも交際の事実を否定した。b教諭は、その際、原告のスマートフォンを預かった。[甲23、乙8、9、原告本人〔1、12~13、20頁〕、弁論の全趣旨]

イ(ア)a教諭及びb教諭は、性別を考慮し、聴取者を交代した上で、本件交際に関する事情聴取を継続することとし、a教諭が、原告に対し、本件生徒甲との交際の有無を尋ねたが、原告は、これを否定した。a教諭は、c教諭及び学年主任であるd教諭に相談した上で、本件生徒乙を本件事情聴取に同席させることとした。

(イ)本件生徒乙は、自分のスマートフォンを用いて、原告のSNSのアカウントに投稿された写真等を原告に示すなどしながら、強い口調で、本件生徒甲との交際を認めるように原告を追及した。しかしながら、原告は、上記アカウントは自分のものではないなどと主張し、交際の事実を否定し続けた。この間、本件生徒乙が、原告のせいで別件事情が広まり、本件生徒丙が退学を余儀なくされたとして原告を責めるなどし、原告が、その場で、本件生徒丙に電話を掛けて謝罪をするということもあった。

(ウ)a教諭は、d教諭にも本件事情聴取に同席してもらい、本件生徒甲との交際の有無を繰り返し尋ねるとともに、本件生徒乙やd教諭が原告に対し、本件生徒甲と交際していないならスマートフォンの中身を見せても大丈夫なはずであるなどとして、原告のスマートフォンの中身を見せるように求めたが、原告は、交際の事実を否定し、スマートフォンの中身の開示も拒否した。本件生徒乙及びd教諭は、午後4時半頃、本件面談室を退室した。[上記イにつき、甲23、乙8、9、原告本人〔1~4、13~16頁〕、弁論の全趣旨 ]

ウ(ア)a教諭は、d教諭及び本件生徒乙が本件面談室を退室した後、職員室で預かっていた原告のスマートフォンを持参して原告に渡し、スマートフォンのロックを解除するように求めたところ、原告はこれに応じた。

a教諭は、「見ても大丈夫なの?」などと尋ね、原告の同意を得た上で、スマートフォンの中身(画像)を確認したところ、原告が本件生徒甲と親密な様子で写っている写真が発見された。これを見たa教諭が原告に「これはどう考えてもただの良い友達どまりではないよね。」と尋ねると、原告は「友達どまりではないです、付き合っています。」などと答えて、本件交際を認め、泣き始めた。

(イ)a教諭は、原告に対し、本件交際の期間や性交渉の有無等について尋ねた。原告は、当初、性交渉の事実を否定していたが、a教諭が、「本件生徒甲にも同じ質問をしても大丈夫?同じ回答が返ってくると言える?」などと、性交渉の有無を繰り返し確認すると、最終的には、泣きながら、本件生徒甲との間で性交渉があったことを認めるに至った。[上記ウにつき、甲23、乙8、9、原告本人〔4~6、16、23~24頁〕、弁論の全趣旨]

エ a教諭は、本件面談室を一旦出て、b教諭に対し、原告が本件交際を認め、本件生徒甲との性交渉も認めた旨を報告した。b教諭は、a教諭と交代して本件面談室に入り、原告に対し、簡潔に本件交際の有無及び性交渉の有無を確認した上、いずれも肯定した原告に対し、翌日以降の自宅謹慎を告げて、午後6時頃、原告を帰宅させた。[甲23、乙8、9、原告本人〔20頁〕、弁論の全趣旨]

オ a教諭は、本件事情聴取の際、原告に対し、威圧的な態度をとることはなかった。[乙9、証人e〔5~6頁〕、原告本人〔12、19頁〕、弁論の全趣旨]

(5)本件自主退学勧告の経緯等

ア a教諭は、令和元年11月21日、本件交際が発覚した経緯、本件事情聴取の経緯及び原告の説明内容等を記載した事故報告書(乙10。以下「本件報告書」という。)を作成して本件校長に提出した。[乙8、10]

イ(ア)本件校長は、令和元年11月21日、本件報告書の提出を受け、副校長等との協議を経た後、原告による本件校則の違反について、原告の指定校推薦を取り消すとともに、本件自主退学勧告を決定し、b教諭に対し、原告及び原告の保護者に通知することを指示した。[乙12]

本件高校は、本件校則の違反に対する懲戒処分等について、明確な基準は定めていない。ただし、生徒が性交渉を伴う男女交際をした事実が判明した場合には、生徒に対して自主退学を勧告することとし、仮に生徒及び保護者が同勧告に応じない場合には、1か月程度の謹慎処分とするというのが慣例であった(以下、この慣例を「本件慣例」という。)。

なお、平成30年4月から令和4年3月までの間に本件校則の違反を理由として自主退学勧告を受けた生徒は、原告及び本件生徒甲の2名のみであった。[乙8、12、証人e〔3~5、7、11、15、17~18、24~30頁〕、弁論の全趣旨]

ウ b教諭は、令和元年11月22日、本件高校において、原告及び原告母と面談をし、本件高校として、原告の指定校推薦の取消し及び本件自主退学勧告を決定した旨を説明した。原告母が、b教諭に対し、本件高校を退学しなければならないのかを尋ねたところ、b教諭は、本件自主退学勧告に応じなければ、少なくとも謹慎処分になると考えられるが、謹慎している間は受験をすることができず、原告が現役で大学に進学するためには、早急に本件高校を退学して通信制高校等に編入する必要があるという趣旨の説明をした。[甲23、24、乙8、原告本人〔6~7、16~17、20~21、24~25頁〕、弁論の全趣旨]

(6)本件退学後の経緯等

ア 原告は、本件高校を退学したくなかったが、原告及び原告の両親(以下、併せて「原告ら」という。)は、b教諭が説明した内容(前記.ウ)から、原告が現役で大学に進学するためには、本件自主退学勧告に応じざるを得ないと判断し、令和元年11月25日、退学願を被告に提出した(本件退学)。[甲23、24、乙4、原告本人〔6~7、16~17、21、24~25頁〕、弁論の全趣旨]

イ 原告の父親(以下「原告父」という。)は、本件交際を理由として本件退学に至ったことに疑問を抱き、令和元年12月3日、本件高校を訪問して説明を求めた。b教諭は、原告父に対し、本件高校では、性交渉を伴う男女交際が判明した場合には退学を勧告する方針であること、原告が現役で大学に進学するためには、本件高校を早く退学するのが最善であると判断したこと等を説明した。[甲24]

ウ 原告は、編入先高校に編入し、複数の大学を受験し、令和2年4月、志望校であったg大学法学部に入学した。

原告が進学を希望し、実際に受験したg大学の入学試験の出願期間は、令和2年2月以降(一般B方式:同月3日~12日、自己PR型AO〔4期〕:同月24日~同年3月5日)であり、原告が併せて受験したh大学の入学試験の出願期間は、同年1月以降(一般入試〔1期〕:

同月10日~22日、一般入試〔3期〕:同年3月5日~16日)であった。[甲25、26]

エ 原告は、令和2年11月20日、本件訴訟を提起した。

2 争点1(本件校則の有効性)について

(1)本件高校は、学校教育法上の高等学校として設立されており、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を校則等

により一方的に制定し、これによって在学する生徒を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。特に、私立学校は、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行うことを目的とし、生徒もそのような教育を受けることを希望して当該学校に入学するものと考えられるのであるから、その伝統ないし校風と教育方針を校則等において具体化し、これを実践することが当然認められるべきであり、生徒においても、当該学校において教育を受ける限り、かかる規律に服することを義務付けられるものということができる。もとより、私立学校が有する上記包括的権能は、無制限なものではなく、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものであるが、具体的に生徒のいかなる行動についてどの程度、方法の規制をは、無制限なものではなく、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものであるが、具体的に生徒のいかなる行動についてどの程度、方法の規制を加えることが適切であるとするかは、それが教育上の措置に関するものであるだけに、必ずしも画一的に決することはできず、各学校の伝統ないし校風と教育方針等によっておのずから異なるものであるといわざるを得ない(最高裁昭和49年7月19日第三小法廷判決・民集28巻5号790頁、最高裁平成8年7月18日第一小法廷判決・集民179号629頁参照)。

(2)これを本件についてみると、本件高校は、教育方針として、特に生活指導に力を入れていること等をうたっており、本件高校への入学希望者及びその保護者に対し、男女交際の禁止を含め、独自の教育的見解と指導方法をもって生徒の生活指導に当たる旨を説明している(認定事実(1)ア、イ(ア)(イ))。

これらの事情に鑑みれば、本件高校は、学校生活全般にわたる生活指導に注力するという特色を有しており、本件高校の生徒もそのことを受け入れて本件高校に入学しているということができる。

本件校則は、生徒が男女交際により傷付くという事態を避けるとともに、男女交際が他の生徒に悪影響を与えることを防止することにより、生徒を学業等に専念させることを目的とするものである(認定事実(1)ウ)ところ、本件校則が上記特色を有する本件高校における在学関係設定の目的と関連したものであることは明らかである。また、心身の発達途上の段階にある高校生にとって、男女交際が生活習慣の乱れ等の要因になり得ること自体は否定できず、本件校則の内容は、本件高校の教育理念や教育方針等に鑑みれば、男女交際の禁止により生徒を学業等に専念させるためのものとして、社会通念に照らして合理的なものであるということができる。

ア 原告は、高等学校学習指導要領に照らし、本件校則の内容が不合理である旨主張する(前記第3の1(1)ア参照)。しかしながら、私立学校は、独自の教育方針に基づき教育活動を行うことができるのであり、学習指導要領が男女交際の一般的な禁止を定めていないことをもって、本件校則が学習指導要領の趣旨に抵触するなどということはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。

イ 原告は、本件校則が生徒の人権を制約するものであり、その制約の度合いも極めて大きいから、本件校則が不合理である旨主張する(前記第3の1(1)イ参照)。

確かに、本件校則は、私的な事柄である男女交際につき、生徒が自らの判断で決定する自由を制約する面を有するということはできる。しかしながら、私立学校が独自の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行うことを目的とし、これを前提として生徒も当該学校に入学する以上、生徒が在学関係設定の目的に照らして合理的な制限を受けること自体はやむを得ない。既に説示したとおり、本件校則は、本件高校における在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容は、本件高校の教育方針等に鑑みれば、社会通念に照らして合理的なものであるということができる。なお、本件校則は、「特定の男女間の交際」を禁止することのみを規定しており、禁止対象となる男女交際の範囲のほか、違反の有無を確認する方法、違反に対する指導の方法等は、本件校則の趣旨・目的を踏まえた適切な運用に委ねられているというべきであるが、このことをもって、本件校則による男女交際の禁止それ自体が不合理であるということはできない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

(4)以上によれば、本件校則が公序良俗に反して無効であるなどということはできない。本件校則は、本件高校の生徒を規律するものとして有効である。

3 争点2(本件自主退学勧告の違法性の有無)について

(1)ア 原告は、本件自主退学勧告を受けて本件高校を退学しているところ、原告は、本件自主退学勧告が事実上退学処分と異ならない旨主張する(前記第3の2(1)ア参照)のに対し、被告は、本件自主退学勧告を退学処分と同視することはできない旨主張する(前記第3の2(2)ア参照)。

イ 確かに、自主退学勧告は、学校側の一方的意思表示により生徒の身分を失わせるものではなく、また、本件慣例によれば、本件校則の違反を理由とする自主退学勧告に生徒及び保護者が応じなければ、1か月程度の謹慎処分となることが見込まれた(認定事実(5)イ(イ))のであるから、本件自主退学勧告が原告らに対して退学を強制するものであったといえるか否かは問題となる。

ウ(ア)しかしながら、校則違反を理由とする自主退学勧告は、学校が校則に違反した生徒に対して在学関係の解消を求めるものであるから、外形的にみる限り、学校として、当該校則違反が退学処分事由に準じるものであり、当該生徒との在学関係を維持するのは相当ではないと評価する旨の判断を含むものであるといわざるを得ない。また、自主退学勧告を受けた生徒及び保護者としては、同勧告に応じなければ、退学処分又はこれに準ずる処分(無期謹慎等)を受けることになると理解するのが通常であると考えられる(なお、自主退学勧告は、一般的には、退学処分等が見込まれることを前提として、正式な処分等をすることによる弊害を避ける意図でされる場合が多いと解される。)。

(イ)本件高校の入学手続時の説明内容等(認定事実(あ)ア・イ)に照らせば、生徒及び保護者に対し、本件高校が男女交際を厳しく取り締まる方針であり、自主退学勧告があり得ることは明らかにされていたということができるが、本件高校は、本件校則の違反に対する懲戒処分等の基準を定めているわけではなく、本件慣例の存在や内容を生徒や保護者に対して周知していたといった事情はうかがわれない。また、証人e(26~27、30頁)は、生徒又は保護者に対し、性交渉を伴う男女交際が判明した場合には自主退学勧告になること等を説明してはいない旨証言し、原告本人(9、25頁)は、本件校則の違反はまず謹慎処分がされると認識していた旨供述しているのであって、本件高校の生徒及び保護者は、当時、本件慣例の存在及び内容(①処分歴等にかかわらず、性交渉があれば、自主退学勧告となること、②同勧告に応じなければ、1か月程度の謹慎処分となること)を具体的に認識してはいなかったものと優に推認することができる。

(ウ)本件校長は、原告に対し、本件自主退学勧告によって、本件高校を退学することを求めているのであり、特段の事情がない限り、原告らとしては、これに応じなければ、退学処分等が見込まれると理解するのは自然かつ合理的である。本件慣例によれば、原告が本件自主退学勧告に応じなければ、1か月程度の謹慎処分となることが見込まれていたということはいえるものの、上記検討のとおり、本件高校の生徒及び保護者は、本件慣例の存在及び内容を認識していなかったと認められるから、本件慣例があったことをもって、本件自主退学勧告を退学処分と同視することができないなどということはできない。

エ(ア)本件自主退学勧告及び本件退学の経緯等についてみるに、b教諭は、本件自主退学勧告を伝える際、原告及び原告母に対し、本件自主退学勧告に応じなければ、少なくとも謹慎処分になると考えられるという趣旨の説明をしており(認定事実(5)ウ)、原告らが、上記説明等によって、本件慣例の内容を認識していたのではないかが問題となる。

(イ)しかしながら、b教諭は、原告及び原告母に対する説明の際、謹慎処分の可能性に言及しつつ、現役で大学に進学するためには早急に本件高校を退学する必要があるとも説明していたのであるから(認定事実(5)ウ)、原告らとしては、現役で大学に進学するためには本件自主退学勧告に応じるしかないと認識したのもやむを得なかったということができる(なお、原告及び原告母が上記説明により本件慣例の内容を認識し得たことを認めるに足りる証拠はない。)。

(ウ)また、仮に、原告らが本件慣例の内容を認識していたとするならば、原告の志望校の入学試験の出願期間は令和2年2月以降であった(認定事実(6)ウ(イ))のであるから、原告としては、本件自主退学勧告に応じず、1か月程度の謹慎処分を受けた上で、謹慎期間後に大学の入学試験を受けるのが自然かつ合理的であったということができる。原告らが短期間で本件自主退学勧告に応じ、本件退学に至ったという事実経過は、原告らにおいて、本件自主退学勧告に応じなければ、現役で大学に進学することは不可能であると認識していことを強くうかがわせる。

(エ)さらに、b教諭は、本件退学後、原告父に対し、本件自主退学勧告という結論に至った理由等を説明している(認定事実.イ)ところ、b教諭は、その際、「無期謹慎というのが、退学勧告のいっこ手前になる感じになります。だいたい1、2か月もしくはそれ以上になることもあるのですけど、その処罰になっている間は受験することが出来ません。受験資格がありません。理由としては卒業見込みが立たないからです。」、「男女交際だけであれば、先ほどお伝えしたように、無期謹慎ということもあるのですけど、性交渉という次のステップに行ってしまうと、簡単に言うと一線を超えるという状況になると、やっぱ残しておくことはできないのでという話なので、逆に早く伝えてあげましょうというスタンス。」等と発言している(甲24)。上記発言は、原告が本件自主退学勧告に応じずに謹慎処分を受けた場合には、大学の入学試験を受けることができなくなる事態が想定されていた旨を説明するものであり、本件慣例の内容や今後の見通しの説明として適切ではないといわざるを得ない(なお、本件自主退学勧告の時点においては、原告に対する謹慎処分が具体的に検討されていたわけではなく、謹慎処分となった場合の謹慎期間が確定していたわけでもないが、原告に対する謹慎処分が、本件慣例と異なり、1か月程度を超えたものとなることが見込まれる状況にあったとはいい難い。)。

(オ)現役での大学進学を強く希望していた原告にとって、本件自主退学勧告に応じない場合に予想される処分の内容(謹慎処分であれば、どの程度の謹慎期間が見込まれるのか)は、本件自主退学勧告に応じるか否かを判断する上で、重要な要素であったことは明らかであるところ、b教諭が原告父に対して「無期謹慎」の可能性をも匂わせる発言をしていたことに鑑みても、原告が、本件退学に先立ち、本件慣例の内容(特に、本件自主退学勧告に応じなければ、1か月程度の謹慎処分となる見込みであること)を具体的に認識していたとは考え難い。原告らは、b教諭の説明(認定事実(5)ウ)を受けて、現役で大学に進学するためには本件自主退学勧告を受け入れざるを得ないと認識していたものと優に推認することができる(認定事実(6)ア参照)。

オ 以上の検討によれば、本件の事実関係の下においては、本件自主退学勧告は、実質的にみれば、現役での大学進学を希望する原告に対し、本件高校を退学することを事実上強制するものであったということができる。

(2)自主退学勧告は、学校の内部規律を維持し、教育目的を達成するために行われる教育的措置であるから、校長が生徒に対して自主退学勧告を行うか否かの判断は、校長の合理的な教育的裁量に委ねられるべきものである。そうである以上、裁判所において自主退学勧告が不法行為法上違法であるか否かを審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該勧告をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該勧告とを比較して、その適否、軽重等を論ずべきではなく、校長の裁量権の行使としての当該勧告が、全くの事実の基礎を欠くか又は社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、不法行為法上違法であると判断することになるものと解される。他方において、自主退学勧告は、学校側の一方的意思表示により生徒の身分を失わせる懲戒処分としての退学処分とはその本質を異にするものの、生徒を学外に排除することを意図したものであって、退学処分と実質的に同視できるような場合には、学勧告は、学校側の一方的意思表示により生徒の身分を失わせる懲戒処分としての退学処分とはその本質を異にするものの、生徒を学外に排除することを意図したものであって、退学処分と実質的に同視できるような場合には、生徒の身分に重大な影響を及ぼす措置であるということができるから、校則違反を理由として当該勧告をするか否かの判断においては、校則違反の態様、反省の状況及び平素の行状、従前の学校の指導及び措置、自主退学勧告をした場合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響、自主退学勧告に至る経過等の諸般の要素を慎重に考慮することを要し、当該生徒を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って選択されるべきであると解する(前掲最高裁昭和49年7月19日第三小法廷判決、最高裁平成8年3月8日第二小法廷判決・民集50巻3号469頁、前掲最高裁平成8年7月18日第一小法廷判決参照)。

(3)本件においては、原告について、本件校則の違反を理由として自主退学勧告をするか否かを判断する際の諸般の要素(

①校則違反の態様、

②反省の状況及び平素の行状、

③従前の学校の指導及び措置、

④自主退学勧告をした場合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響、

⑤自主退学勧告に至る経過)に関し、以下の事情を指摘することができる。

ア 校則違反の態様

(ア)原告は、平成30年3月頃から本件交際を開始しており(認定事実(2)ウ)、本件自主退学勧告の時点で、約1年9か月間にわたり、本件校則に違反していたということができる。もっとも、高校生の男女交際は、それ自体が直ちに刑罰法規等に抵触するわけではなく、また、一般的に、社会通念上許容されない行為であると理解されているわけでもない。男女交際は、本件高校の生徒にとって、懲戒処分等の対象となり得る校則違反ではあるが、それのみをもって、本件退学規定の掲げる退学処分事由に準ずる行為に当たるとまでいうことはできない。

(イ)原告は、本件生徒甲と交際している事実を秘密にし、数人の親しい友人にのみ話しており(認定事実(2)ウ)、本件交際が本件高校で他の生徒に広く認識され、他の生徒に動揺を与えるものであったことを認めるに足りる証拠はない。原告による本件校則の違反(本件交際)は、その態様に鑑みても、本件退学規定の掲げる退学処分事由に準ずる行為に当たるとまでいうことはできない。

イ 反省の状況及び平素の状況

(ア)a 原告は、本件事情聴取を経て、最終的には、本件交際の事実等を認めており(認定事実(4)ウ(ア)(イ))、原告による反省の態度等に特段問題があったことはうかがわれない。

b 証人e(3、21~23頁)は、本件校則の違反への対応は、違反の状況、反省の有無・程度、今後の見通し等を総合して判断するとし、原告の反省の有無・程度については、最終的には面談を通じて判断することを予定していた旨証言する。しかしながら、原告は、本件交際の事実を告白して自宅謹慎を命じられてから本件自主退学勧告を伝えられるまでの間、事実確認等を受けるなどしたことはなく(認定事実(4)エ、同(5)ウ)、証人e(28~29頁)が、性交渉を伴う男女交際が判明した場合には、生徒の反省の有無・程度等にかかわらず、自主退学勧告をすることになる旨証言していることを併せ考えても、本件校長が、原告に対する自主退学勧告の要否を検討するに当たり、原告

の反省状況等を適切に考慮したのかは疑わしいといわざるを得ない。

(イ)原告は、本件高校において、身だしなみや授業態度等について注意を受けたこと(認定事実(2)イ)はあるが、本件自主退学勧告以前において懲戒処分等を受けたことはない。また、原告の学業成績や出席状況等に問題はなく、第1学年在籍時から継続的に学級委員を務めており、第3学年前期には指定校推薦を受けたこと(認定事実(2)ア・オ)等に鑑みれば、本件高校における原告の平素の行状は、概ね良好なものであったということができる。

ウ 従前の学校の指導及び措置

(ア)原告は、本件高校内で本件生徒甲と2人で会話している際に教員から気を付けるように声を掛けられることがあったほか、第2学年在籍時に当時の担任教員から本件生徒甲との交際を疑われないように注意を受け、第3学年の面談時には、男女交際の噂を指摘された上で、本件校則に違反していないことの確認を求められている(認定事実(2)ウ~オ)。しかしながら、これらの教員の言動は、飽くまでも原告に対して注意を促すものにすぎず、教員において、原告が本件校則に違反したとして具体的な指導を行ったわけではない。そうである以上、原告について、本件校則の違反が発覚して具体的な指導を受けたにもかかわらず、これに従わずに再度違反を繰り返したなどと評価することはできない。また、本件高校は、原告につき男女交際の噂があり、何度か原告に注意したことがあったことを前提とした上で、原告について指定校推薦をしており(認定事実(2)ウ~オ)、少なくとも指定校推薦の時点で、これらの事情を特段重視すべきものと理解していなかったことは明らかである。

(イ)原告による本件校則の違反の事実が発覚したのは、今回が最初であるところ、原告による反省の態度に特段問題はなく、本件高校における原告の平素の行状も概ね良好であったこと等(前記イ(イ))に照らせば、本件校則の違反(本件交際)につき、原告に対して教育的指導を行ったならば、今後は本件校則を遵守することを期待することができる状況にあったということができる。少なくとも、原告につき、本件交際が発覚して具体的な指導を受けたにもかかわらず、これに従わず、本件校則の違反を繰り返すことが見込まれる状況にあったなどということはできない。

エ 自主退学勧告をした場合又はしない場合における本人及び他の生徒への影響

(ア)a 本件自主退学勧告は、大学入学試験を控えた時期において、現役で大学に進学するためには早急に本件高校を退学して転校する必要があるとの説明とともに伝えられたこと(認定事実(5)ウ)に鑑みれば、現役での大学進学を希望していた原告にとって、極めて大きな影響を及ぼすものであったということができる。

b 本件慣例を前提とすれば、仮に原告が本件自主退学勧告に応じなかった場合には、1か月程度の謹慎処分がされる見込みであったということができる(認定事実(5)イ(イ))ところ、原告の志望校の入学試験の出願期間が令和2年2月以降であったこと(認定事実(6)ウ(イ))に鑑みれば、現役で大学に進学する原告の希望を前提とした場合において、原告が本件自主退学勧告を受け入れて通信制高校等に編入することが必要不可欠であったとまでいうことはできない。

また、原告の平素の行状(前記イ(イ))に鑑みても、原告による本件校則の違反(本件交際)に対する懲戒処分等につき、指定校推薦の取消しに加えて、自主退学勧告以外の教育的措置を選択した場合に、これによる訓戒的効果が不十分であることが見込まれる状況にあったともいい難い。

(イ)a 仮に、他の生徒らにおいて、原告が本件校則の違反を理由として退学に至ったことを認識していたならば、本件自主退学勧告(本件退学)は、他の生徒に対して本件校則の遵守の必要性等を改めて認識させるという教育的効果があるということはできる。しかしながら、男女交際の有無等は、プライバシー性の高い事項であり、本件交際が本件高校で他の生徒に広く認識されているといった事情も認められない以上、本件自主退学勧告や本件退学の経緯等を他の生徒に説明すること自体が相当ではない(なお、証人e〔23頁〕は、一般的に、他の生徒において、退学が男女交際を理由とするものであったことを知ることはない旨証言している。)。そうである以上、本件自主退学勧告(本件退学)が、他の生徒に対する教育的効果を期待し得るものであったとはいい難い。

b 原告に対して自主退学勧告をしなかった場合における他の生徒らへの影響等についてみるに、既に検討したとおり、本件高校の生徒及び保護者は、本件慣例の内容を認識していなかったのであるから、性交渉を伴う男女交際について自主退学勧告がされなかったからといって、そのことにつき、他の生徒が不満(不公平感等)を抱くことは考え難い。また、本件交際の噂は、少なくとも断続的にあったことがうかがわれるものの(認定事実(2)ウ~オ)、原告は、本件交際の事実を秘密にしており、他の生徒において、本件交際が性交渉を伴うものであったという事実が広まっていたとも考え難い。そうである以上、原告につき、自主退学勧告ではなく、謹慎処分その他の教育的措置をすることにより、他の生徒に対し、本件校則の規範性が弛緩しているといった印象を与えることはなく、他の生徒の男女交際を助長し、学内の風紀の乱れを招くおそれがあったということもできない。

オ 自主退学勧告に至る経過

(ア)本件自主退学勧告は、本件事情聴取により本件交際の事実が判明した翌日に決定されているところ、本件報告書には、原告に対する事情聴取の経緯のみが記載され、本件交際が他の生徒に与えた影響等に関する記載部分はない(乙10)。

(イ)a b教諭が作成した令和元年11月25日付け退学審査書(乙11)には、「一線を越えていることと、級友など周りの人間もあまりにも状況を知りすぎているため退学勧告となった。」と記載されているが、既に検討したとおり、本件交際が本件高校で他の生徒に広く認識されていたといった事情を認めるに足りる証拠はない。

b 証人e(24頁)は、本件校則の違反が他の生徒に与える影響を把握することは困難である旨証言しているところ、本件校長が、原告に対する事情聴取から本件自主退学勧告を決定するまでの間に、本件交際が他の生徒に与えていた影響等を具体的に把握したことを認めるに足りる証拠はない。退学審査書の上記記載(「級友など周りの人間もあまりにも状況を知りすぎている」)が何を意味するかは明らかではないが、原告につき男女交際の噂があり、何度か原告に注意したことがあったこと、又は、本件生徒乙が本件事情聴取に同席したこと等を指摘するものにすぎないと解される。本件全証拠によっても、原告と本件生徒甲との交際が噂になることがあり、一部の限られた生徒が本件交際の事実を知っていたということを超えて、本件交際が他の生徒の学習教育環境に具体的な支障を与えていたといった事情を認めることはできない。

(ウ)上記検討のとおり、本件自主退学勧告が僅か1日で決定され、その際に考慮した具体的事情も明らかでないことに加え、本件高校における原告の平素の行状が概ね良好なものであったこと(前記イ(イ))、証人eが、性交渉を伴う男女交際が判明した場合、生徒の反省の有無・程度等にかかわらず、自主退学勧告をする旨証言していること(前記イ(ア)b)等を併せ考えれば、本件自主退学勧告は、本件慣例に依拠し、これを形式的に適用して決定されたものであると評価せざるを得ない。

(4) 上記(3)で検討した諸般の要素によれば、原告の校則違反の態様が悪質であったとまでいうことはできず、原告に対して自主退学勧告をしなければ、他の生徒の男女交際を助長し、学内の風紀の乱れを招くおそれがあったということもできないのに対し、原告の平素の学校生活の行状は本件高校の生徒として概ね良好であり、従前の学校からの指導の状況に照らせば、原告に対する教育的指導によって本件校則の遵守が見込まれる状況にあったことに加え、本件自主退学勧告による原告への影響が極めて重大なものであったことからすると、原告を学外に排除することが教育上やむを得ない状況にあった概ね良好であり、従前の学校からの指導の状況に照らせば、原告に対する教育的指導によって本件校則の遵守が見込まれる状況にあったことに加え、本件自主退学勧告による原告への影響が極めて重大なものであったことからすると、原告を学外に排除することが教育上やむを得ない状況にあったと認めることはできない。そうである以上、本件校長は、本件自主退学勧告をするに当たり、このような個別具体的な事情を適切に考慮することなく、本件慣例を過度に重視し、これを形式的に適用したものといわざるを得ない。

したがって、原告による本件校則の違反(本件交際)について、原告に対する教育的指導等を経ることなく、本件自主退学勧告を行ったことは、考慮すべき事情を考慮せず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会通念上著しく妥当を欠いていると評するほかはなく、本件校長が有する教育上の裁量の範囲を超える違法なものというべきである。

(5)ア 被告は、原告による本件校則の違反が本件高校の学習教育環境に重大な悪影響を生じさせていたとして、本件自主退学勧告は本件校長の裁量権の範囲内のものである旨主張する(前記第3の2(2)イ(ア)参照)。

しかしながら、既に検討したとおり、原告が、男女交際の噂を指摘されたり、本件生徒甲との交際の有無につき確認を受けたりしていたこと(認定事実(2)ウ~オ)を踏まえて、本件全証拠を検討しても、本件交際が他の生徒の学習教育環境に具体的な支障を与えていたといった事情を認めることはできない。この点、証拠(甲8、23、原告本人〔22~23〕)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、SNS(インスタグラム)において、原告が本件生徒甲と写った写真を投稿していたことは認められる。しかしながら、原告は、アカウント名を本件生徒甲以外に教えておらず、本件生徒乙は本件生徒甲の後ろの席であったことから、上記アカウント名を盗み見て知るに至った旨の説明をしており、少なくとも上記アカウントや上記写真が他の生徒に広く認識されていたといった事情はうかがわれない。

また、本件交際は、本件生徒乙による連絡(本件報告)によって発覚したものではあるが、これは、本件生徒乙において、原告が別件事情を本件生徒甲に話したこと等に憤慨したことを契機としており(認定事実(3)ア・イ)、本件交際を原因として生徒間の人間関係に問題が生じていたものとみることはできない

以上によれば、被告の上記主張は採用することができない。

イ(ア)被告は、本件高校が、本件校則の違反への対応につき、その専門的・教育的裁量に基づき、性交渉の有無を重視することについては合理性があるとして、本件自主退学勧告は本件校長の裁量権の範囲内のものである旨主張する(前記第3の2(2)イ(イ))。

(イ)a 本件校則は、生徒が男女交際により傷付くという事態を避けるとともに、男女交際が他の生徒に悪影響を与えることを防止することにより、生徒を学業等に専念させることを目的とするものである(認定事実(1)ウ)ところ、性交渉を伴う男女交際は、これを伴わないものに比べ、①当該生徒において、妊娠等の問題が生じたり、性的逸脱行動等に繋がったりする可能性が生じ、②他の生徒において、性交渉を伴う男女交際があった事実を知ることによって動揺するなどして、学習教育環境の悪化に繋がる可能性が相対的に高いということはできる。

b 既に検討したとおり、本件校則は、本件高校の生徒を規律するものとして有効であり、本件校則の違反に対する指導の方法等は、本件校則の趣旨・目的を踏まえた適切な運用に委ねられているというべきであるから、本件校則の違反への対応を検討するに当たり、性交渉の有無を重視するか否かは、本件校長の専門的・教育的裁量に属するということができる。また、本件校則が本件高校の教育方針等を具体化したものであり、生徒及び保護者がこれを前提として在学関係を設定していること等に鑑みれば、本件校則の違反への対応において、本件高校内の秩序(本件校則を前提とする学習教育環境)の維持を重視するか否かについても、本件校長の専門的・教育的裁量に属するということができる。

(ウ)a 他方において、高校生が恋愛感情を持つことは至極自然なことであって、前述のとおり、男女交際は、それ自体が社会通念上許容されない行為であると理解されるわけではないから、本件校則の違反の態様として性交渉があったことのみをもって、本件交際が本件退学規定の掲げる退学処分事由に準ずる行為に当たるとはいい難い。

b また、交際相手の有無や性交渉の有無は、私生活上の事柄であり、本件校則の違反の有無・程度の確認や調査には限界があるといわざるを得ず、本件校則の運用に当たっては、この点を十分考慮する必要がある。本件慣例によれば、生徒が本件校則の違反を真摯に反省し、性交渉を伴う男女交際の事実を告白した場合、その他の事情にかかわらず、自主退学勧告を受けることとなるが、このような運用が、本件校則の趣旨・目的に沿っているとはいい難く、教育的措置としての懲戒処分等の公平の観点からも問題があるといわざるを得ない(なお、証拠〔甲23、24〕によれば、本件退学後、複数の生徒から、本件生徒乙が男女交際している旨の連絡がされたが、本件生徒乙は男女交際の事実を認めず、特段の懲戒処分等を受けなかったことが認められる。)。

c さらに、本件校則の違反への対応において、本件高校内の秩序の維持の観点を重視するとしても、 同観点を踏まえて懲戒処分等の要否・内容を検討する以上、当該違反が他の生徒の学習教育環境に与えた影響や反省の有無・程度等を適切に考慮する必要があるというべきである。本件において、本件交際が性交渉を伴うものであったという事実は、原告の告白(本件事情聴取)により初めて判明したものであるところ、当該事実が他の生徒の学習教育環境に対して支障を与えることになったとはおよそ考え難い。本件慣例は、本件校則の違反が他の生徒に与えた影響、反省の有無・程度等を全く考慮することなく、男女交際が性交渉を伴うものであることのみを理由として、当該生徒を学外に排除することを意図したものといわざるを得ず、本件校則が本件高校の教育方針等を具体化したものであり、これを前提とする学習教育環境の維持が重要であることを踏まえても、本件慣例の形式的な適用は、教育的措置として、著しく妥当を欠くというべきである。

(エ)上記検討によれば、本件校則の違反への対応において、本件高校内の秩序維持の観点から、性交渉の有無を重視することを前提としても、当該違反が他の生徒に与えた影響、反省の有無・程度等を全く考慮せず、性交渉があったことのみを理由として、自主退学勧告をすることは、社会通念上著しく妥当を欠き、本件の事実関係の下では、本件自主退学勧告は、本件校長が有する教育上の裁量の範囲を超えるものといわざるを得ない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

ウ 被告は、本件自主退学勧告に至る経緯等に関し、原告が大学受験を控えていることから速やかに本件自主退学勧告を決定したとして、本件自主退学勧告は本件校長の裁量権の範囲内のものである旨主張する(前記第3の2(2)イ(ウ))。

しかしながら、原告の志望校の入学試験の出願期間が令和2年2月以降であったこと(認定事実(6)ウ(イ))に照らせば、原告は、本件自主退学勧告に応じず、謹慎処分を受けた上で、志望校を受験することも可能であったということができる。原告が、現役で大学に進学するためには本件自主退学勧告に応じざるを得ないと認識していたこと(認定事実(6)ア)に鑑みれば、b教諭が、原告及び原告母に対し、本件自主退学勧告の趣旨・目的のほか、本件自主退学勧告に応じない場合における大学進学の可否・難易等について適切な説明をしていたとはいい難い。本件自主退学勧告が原告の希望(現役での大学進学)に配慮したものであったということはできず、既に検討したとおり、本件自主退学勧告は、現役での大学進学を希望する原告に対し、本件高校を退学することを事実上強制するものであったというべきである。

以上によれば、被告の上記主張は採用することができない。

4 争点3(本件事情聴取の違法性の有無)について

(1)ア 本件事情聴取は、原告が本件校則に違反しているか否かを確認するために行われたものであるところ、b教諭及びa教諭は、本件報告により、原告及び本件生徒甲が本件校則に違反していると疑わざるを得ない状況にあった(認定事実(3)イ)のであるから、a教諭が原告に対して本件生徒甲と交際しているか否かを確認することは、原告に対する教育的措置の要否等を検討するために必要な行為であったということができる。また、本件交際における性交渉の有無は、本件校則の違反状況等を示す事情である上、原告に対する教育的措置の方法等を検討する際に考慮する事情でもあったということができるから、a教諭が原告に対して本件生徒甲との性交渉の有無を確認することについても、原告に対する教育的措置の要否等を検討するために必要な行為であったということができる。

イ 本件事情聴取の態様についてみても、a教諭は、本件事情聴取の際、原告に対して威圧的な態度をとることはなく(認定事実(4)オ)、本件事情聴取が相当長時間に及んだこと等を踏まえても、a教諭が原告に対して本件交際等の事実を認めることを強制したなどということはできない。この点に関し、a教諭が本件生徒乙を同席させたこと(認定事実(4)イ)の当否については疑問の余地はあるが、本件生徒乙に対して本件報告の根拠となったSNSの画像等を示してもらう必要があったと考えられることに加え、 本件生徒乙の同席について他の教員に相談していたこと(認定事実(4)イ(ア))等を併せ考えれば、a教諭が本件生徒乙を同席させたことが違法な措置であったとまでいうことはできない(なお、原告は、本件生徒乙が同席してa教諭が本件生徒乙を同席させたことが違法な措置であったとまでいうことはできない(なお、原告は、本件生徒乙が同席している間、本件交際等の事実を否定していた〔認定事実(4)イ(ウ)〕。)。

ウ 以上によれば、本件事情聴取が不法行為法上違法であるということはできない。

(2)原告は、本件事情聴取が、原告のプライバシーないし内心の平穏に対する違法な侵害に当たる旨主張する(前記第3の3(1)参照)。確かに、交際相手の有無や性交渉の有無は、私生活上の事柄であり、その意思に反して回答を強制することが許されるものではない。しかしながら、本件高校が本件校則により男女交際を禁止しており、その生徒は本件校則に服することを義務付けられる以上、少なくとも本件校則に違反した事実が疑われる状況において、教員が上記事実の有無等を生徒に確認すること自体が違法であるということはできない。また、上記事実の確認や調査が、不適切な方法で実施されること等によって違法との評価を受けることはあり得るとしても、本件事情聴取については、既に検討したとおり、その経緯や態様等に鑑み、これを不法行為法上違法であるということはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。

5 争点4(原告に生じた損害の額)について

(1)ア 原告は、本件退学後、編入先高校に編入している(前提事実(5))ところ、証拠(甲12、13)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、編入手続のための費用として、18万0426円を支出したことが認められる。他方において、原告は、本件退学に伴い、被告から9万5000円の授業料の返金を受けたことが認められ(弁論の全趣旨)、この返金は損益相殺の対象になるというべきである。したがって、原告が支出した編入手続のための費用(18万0426円)のうち、授業料の返金分(9万5000円)を差し引いた8万5426円が、本件自主退学勧告と相当因果関係のある損害であると認められる。

イ 原告は、本件高校からの指定校推薦による進学が予定されていたのに、本件退学により、学習塾に通学した上で、受験料を支払って複数の大学を受験することを余儀なくされたとして、これらに要した費用も本件自主退学勧告と相当因果関係を有する損害である旨主張する。しかしながら、原告が本件高校に在籍し続けたと仮定しても、原告が本件校則に違反した事実が発覚した以上、原告に対する指定校推薦の取消しは避けられない状況であったといわざるを得ない。したがって、学習塾に通うために支出した費用や大学受験のために支出した費用について、本件自主退学勧告との相当因果関係を認めることはできない。

(2)原告は、本件自主退学勧告を受け、卒業間近の時点で、それまでに友人関係等を築き、愛着のある本件高校を退学するという重大な決断を迫られたほか、短期間のうちに編入先高校に編入した上で大学受験に向けた準備をすること等を強いられており、これにより相当程度の精神的苦痛を被ったものと認められる。他方において、原告は、本件校則に違反した場合には何らかの懲戒処分等を受けることになると認識しながら、また、本校高校の教員から注意喚起等を受けていながら、あえて本件校則に違反し続けたのであり、これらの事実関係は、その慰謝料を減額する事情として考慮せざるを得ない。

原告による校則違反が約1年9か月に及んでいたこと、原告が本件校則に違反した以上、何らかの懲戒処分等を受けることは避けられなかったこと、その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝するための金額としては、80万円をもって相当であると認める。

(3)本件事案の内容、本件訴訟の経過、原告に生じた損害額等を総合考慮すると、本件訴訟の追行に要した弁護士費用のうち9万円が、本件自主退学勧告

と相当因果関係のある損害であると認められる。

(4)以上によれば、違法な本件自主退学勧告により原告に生じた損害の額は、97万5426円であると認められる。

第5結論

以上によれば、原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。