新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.570、2007/2/5 9:54 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事 建物賃貸借の更新料 法定更新の場合も更新料は必要か】
質問:私はアパートの1室を平成16年4月から2年間の契約で借りました。その後、2年が経過したにもかかわらず、そのままアパートを借り続けて、3ヶ月が経過した時点で、大家さんから、更新料として家賃1か月分のお金を支払うように請求されました。これは支払わないといけないのですか?また、賃貸借契約書に更新料の定めがあるかないかで違いは生じるのですか?

回答:
1、本件のアパートの賃貸借契約は、期間が2年間ですので、平成18年3月の経過で一旦終了することになりますが、借地借家法26条により、貸主が正当な理由のある更新の拒絶をしない限り、法律上当然に賃貸借契約の更新がなされることになり、依然として賃貸借契約は継続していることになります。これを法定更新といいます。

次に、更新料については、法律の規定はありませんが、慣習上、不動産賃貸借契約の更新の際に借主から貸主に支払われる金銭のことですが、判例、通説では、賃貸借契約に明文の規定があり、金額が合理的なものである場合には、更新料の取り決めも有効であると考えられています。金額の合理性としては、一般的には借家の場合、家賃1ヶ月から3ヶ月分くらいまでと考えられています。よって、本件では家賃1ヶ月なので合理的範囲といえます。したがって、賃貸借契約書に更新料の定めがある場合には、更新料を払う必要性が出てきます。

2、ただ、法律上の問題点として、本件のように法定更新の場合にも、更新料の合意が適用されるのか(更新料を支払う必要があるのか)問題となります。賃貸借契約書上の更新料の合意は、あくまでも当事者の合意によって契約書を作成しなおす形の合意更新を前提にしており、法定更新は想定されていないので、更新料を支払う必要はないのではないか議論されています。この問題については、学説の争いがあり、裁判例も下記の通り、肯定するものも否定するものもあり錯綜しています。

3、法定更新にも更新料の合意を適用する判例は、法定更新の場合を除外すべき理由がないこと、更新料は実質的に更新後の賃料の一部前払いとしての性質があることから、法定更新の場合でも賃借人に不利益ではないこと、賃借人が更新の協議に応じない間に期間が満了して法定更新された場合に更新料の支払いを免れるとすれば、当事者の公平に反することなどを根拠としています(東京高判昭53・7・20判時904−68、東京地判昭57・10・20判時1077−80、東京地判平2・11・30判時1395−97、東京地判平5・8・25判タ865−213、東京地判平9・6・5判タ967―164、東京地判平10・3・10判タ1009―264など)。

4、一方、法定更新に更新料の合意の適用を否定する判例は、当該賃貸借契約書の更新料の合意の規定の文言、趣旨から解釈して、法定更新の場合を除外していると認定して否定するものや借地借家法の精神、趣旨、賃借人保護の見地から、更新料の負担を否定しようとするものなどがあります。すなわち、「法定更新の場合、賃借人は、何らの金銭的負担なくして更新の効果を享受することができるのが借家法の趣旨であると解すべきものであるから、たとえ、建物の賃貸借契約に更新料支払いの約定があっても、その約定は、法定更新の場合には、適用の余地がないと解する」(東京高判昭56・7・15東高民32−7−166)、「そもそも法定更新の際に更新料の支払義務を課する旨の特約は、法定更新の場合には賃貸借契約は従前と同一の条件をもって当然に継続されるべきものとする借家法の趣旨になじみにくく、このような合意が有効に成立するためには、更新料の支払に合理的な根拠がなければならないと解されるところ、本件においてそのような事情は特に認められない」(東京地判平2・7・30判時1385−75)などがあります。また、「更新料支払いの特約を締結する場合の当事者の合理的意思を推測すると、建物賃貸借の場合、合意更新がされると少なくとも更新契約の定める期間満了時まで賃貸借契約の存続が確保されるのに対し、法定更新されると爾後期間の定めのないものとなり、いつでも賃貸人の側から正当事由の存在を理由とした解約申入れをすることができ、そのため賃借人としては常時明渡しをめぐる紛争状態に巻き込まれる危険にさらされることになるのであるから、この面をとらえると、更新料の支払いは、合意更新された期間内は賃貸借契約を存続させることができるという利益の対価の趣旨を含むと解することができる。」(東地判平9・1・28判タ942―146)と判示するものもでています。

5、このように裁判例も錯綜しており、確定した判例法理が明確に定まっていない状況にあり、今後の判例の集積が待たれるところではあります。ただ、賃貸借契約書の更新料の支払いの文言が明らかに合意更新を念頭においている場合には更新料を支払う必要はないと思われます。また、法定更新を認めた借地借家法の制度趣旨、精神から考えて、借家人の負担はできる限り軽減する解釈をとるべきであると考えます。よって、現時点では、法定更新の場合における更新料の支払いは拒み、調停、裁判手続きで争い、裁判所の判断を仰ぐべきでしょう。「法定更新であったので、更新料の支払いは不要と考えております。どうしてもご請求なさる場合は、裁判所の判決を取ってください。」というような文面で手紙を出すことも考えられます。文面が難しい場合は、弁護士に通知書の作成を依頼しても良いでしょう。

≪参照条文≫

借地借家法26条  建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2  前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3  建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る