新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.577、2007/2/14 11:50 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続】
質問:痴呆症で長年入院していた父親が、2ヶ月前に亡くなりました。父親の財産としては、現金が5000万円しかないのですが、今月になって初めて、私の兄から「財産は全て長男に相続させる」という遺言書を発見したから、5000万円は全て私のものだと主張してきました。私は全くもらえないのでしょうか。母は父より先に亡くなっていますし、父の子供は私と兄の二人だけです。

回答:
1、相談者がどのくらいお父さんの財産を相続出来るかという問題は、単にお父さんの遺言書が発見されたという事実からでは明確にはなりません。兄弟間で争いを興さずに解決できるのであれば、遺言の有る無しに関わらず当事者間での話し合い(遺産分割の協議)に基づいてお父さんの財産を分配することが望ましいでしょう。しかしながら、よく事情がわからないたままに相手の言い分通りに分割してしまうと、後々問題が再発することもあります。したがって、弁護士に相談して、法律的には自分にどういう権利があるのか納得した上で、他の相続人との話し合いを進めることをお勧めいたします。

2、以下、具体的に説明いたします。まず、念のため父親の法定相続人が相談者とお兄さんの2人であることを戸籍によって確定しておきましょう。

3、次に、子供が2人で遺言が全くなければ、被相続人の財産を2分の1ずつ相続することになりますので、相談者は2500万円の預貯金を相続できるはずです。しかし、お兄さんが持っている遺言書が有効でかつ、その遺言の作成年月日より新しい遺言書がない場合には、お兄さんが持っている遺言書に基づき相続されることになります。但し、後に説明する遺留分というものが、相談者にもありますので、全く財産をもらえないわけではありません。

4、したがって、お兄さんが発見したという遺言書の真否を調査する必要があります。お持ちの遺言書が公正証書の場合には、その真正は、通常これらの作成手続き上確保されているのであまり問題にはなりませんが、自筆証書の場合には、筆跡の真偽が問題となる場合もあります。この場合には、筆跡鑑定によるほかありません。そこで、遺言者が書いたことが確かな資料(日記、はがき)等を用意したり、遺言により利益を受けるものによる偽造の可能性もあるので、それらの人物の筆跡も用意しておくとよいでしょう。更に、遺言書発見にいたる経緯も重要ですので調査しておきましょう。

5、さらに、相談者のお父さんは、長年痴呆症で入院していたということなので、遺言者の意思能力(遺言の能力)を調査しておく方がいいと思います。これは、たとえ公正証書で遺言書が作成されていた場合でも、問題とされることがあります。受診していた医療機関の記録や医師・看護婦等病院関係者の証言も有力な資料となりますので、調査しておくことをお勧めいたします。

6、このような方法で、お兄さんが発見した遺言書が有効だと判断されても、他にこの遺言より作成時期の新しい遺言書があれば、そちらの遺言書に基づいて相続されることになります。したがって、相談者としては、他にもお父さんが遺言書を作成していなかったか調査してみるべきです。たとえば、自宅の金庫や重要な書類を保管していると思われる場所を探したり、取引のある信託銀行があれば遺言信託契約により遺言書を預かっている場合もありますので照会してみましょう。また、公証役場に公正証書遺言が保管されている場合もあります。これについては、日本公証人連合会の遺言書検索システムで検索することができます。

7、結果として、作成時期の新しい遺言書を発見できなくても、子供である貴方には、遺留分というものがありますので全く父親の財産をもらえないわけではありません。具体的には、子供である貴方には、2分の1×2分の1で4分の1の遺留分があるので、仮にお兄さんが、5000万円の現金を自分のものとしてしまった場合には、お父さんの遺言による遺産分割方法の指定に対して遺留分の減殺請求をして1250万円を取り戻すことができるのです。このように、遺言書が発見されたからといって、遺言書通りに財産を分割しなくてはならないわけではないので、一度お近くの弁護士に相談してみることをお勧め致します。

≪参考条文≫

(遺留分の帰属及びその割合)
民法第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
(遺贈又は贈与の減殺請求)
民法第千三十一条  遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る