新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 2.保険契約の内容による個別的検討 @受取人として、相続人中の『特定の者』が指定されている場合 しかしながら、契約において、受取人を具体的に『相続人』と指定しているわけですから、相続による承継ではなく、@の場合と同様に、保険契約に基づいて相続人が固有の権利として取得するものと解するべきです。つまり相続財産に含まれないことになります(最高裁昭和40年2月2日)。なお、保険金を受領する割合について、相続分に従うのか、平等に分けるかについて争いがありますが、この点について最高裁は、特段の事情がない限り、法定相続分の割合とする旨の指定も含まれると判断しています(最高裁平成6年7月18日)。 B受取人が『被相続人』自身となっている場合 3.結論 4.補足 ≪参考条文≫ 第903条
No.578、2007/2/14 11:54 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm
【民事 相続と保険金の関係 保険金と相続分の関係】
質問:1ヶ月前に夫が他界しました。夫には不動産、預貯金、有価証券等の財産は全くありませんでした。先日、夫の債権者から請求があり、3000万円近くの借金があることが判りました。相続放棄をすれば、夫の3000万円の借金を返済しなくて済むというアドバイスを受けたのですが、夫が加入していた生命保険から、受取人である私に対して、保険金1500万円が支払われることになっています。相続放棄をした場合、生命保険金を受け取ることができないのでしょうか。
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回答:
1.問題の所在
相続人であった者が、家庭裁判所に相続放棄の手続(自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内)をした場合、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第915条1項、第939条)。もし生命保険金が相続財産であるとすれば、相続を放棄した場合、これらを受領することはできません。これに対して、受取人固有の権利であれば、相続放棄をしたとしても、自分自身の権利として受領することができます。ご質問の問題の所在を整理しますと、生命保険金が相続財産に属するのか、それとも相続人である受取人の固有の権利なのかという点に集約されます。
生命保険契約は、通常、保険契約者、被保険者及び保険金受取人の三者が契約に関係することになります。以下、被相続人が被保険者のケースについて、受取人の定め方ごとに具体的に検討します。
この場合、保険契約で受取人に指定された者が、契約に基づいて取得する固有の権利と解されます。例え指定受取人が相続人であったとしても、その性質が相続財産になるということはありません。
A受取人が単に『相続人』と指定されている場合
この場合、『相続人』という表現から、保険契約の解釈として、保険金を被相続人の相続財産と考え、それを相続人が承継すると考えることもできそうです。
このような指定がなされることはほとんどないようですが、もしこのような定めが実際になされていたとすれば、保険金請求権は相続財産となり、相続人が、被相続人の受取人としての地位を承継し、相続財産である保険金請求権を承継することになります。
上記のとおり、生命保険が相続財産に含まれるかどうかというのは、保険契約の内容によって決まります。ご質問のケースは、上記@にあたりますので、家庭裁判所に相続放棄の手続をした場合でも、あなた自身の固有の権利として生命保険の保険金を受領することができます。生命保険に関しては、ほとんどの場合上記@又はAに該当すると思いますが、念のため保険契約の内容を確認してから対応してください。判断が難しい場合には、お近くの弁護士、司法書士等の専門家にご相談されることをお勧め致します。
ご質問内容とは直接関係ありませんが、複数名の相続人がおり、そのうちの一人が生命保険金の指定受取人となっている場合に、共同相続人間で相続財産(生命保険金は含まない)の分割をするとします。このとき、相続人である指定受取人が生命保険金を受領している点を考慮せずに、法定相続分に従って相続財産(生命保険金は含まない)を分割することが果たして妥当なのかという問題があります。この点、指定受取人が、相続とは無関係に、保険契約に基づいて取得した点を強調すれば、生命保険金の受領を考慮する必要はないことになりますが、生命保険金は一般的に高額なことが多いことから、相続人間の公平を重視して、特別受益として持戻しの対象とすべきという見解もあります。審判例も持戻しを認めるものと、認めないものに分かれており、結局のところ、事案ごとの慎重な判断が必要となります。遺産分割の協議に際しては、まず相続人全員でよく話し合うことです。それでも協議がまとまらない場合には、第三者を交えて話し合った方が早期に解決できる場合もあります。場合によっては、家庭裁判所に調停の申立をするのも一つの方法です。共同相続人間での話し合いによる解決が困難な場合には、お近くの弁護士、司法書士等に相談してみてください。
1項 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2項 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
第906条
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
第907条
1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
第915条
1項 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
第938条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。