新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 解説: 【解雇の効力を争っている場合の問題点】 【仮給付】 【解雇の帰趨と受給金の返還】 【参照条文】 雇用保険法
No.592、2007/4/6 15:31 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm
[労働 解雇,雇用保険の仮給付]
質問:先日,突然,勤務先会社の社長から「明日から来なくていい」と言われ,解雇通告を受けました。このような一方的な解雇には納得ができません。解雇無効を裁判所で主張したいのですが,その間の生活のために雇用保険(求職者給付の基本手当等)を受給することはできませんか。
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回答:裁判所,労働委員会,労働基準監督署等に提訴,各種紛争解決手続の申立て,申告等をし,解雇の効力について係争中である場合に限り,暫定的な措置として,雇用保険の給付金を受け取ることができます。ただし,この給付は謂わば「仮給付」ですので,解雇が撤回されたり,その無効が確認されたときは,受給金を返還しなければなりません。
【受給の要件】
求職者給付の基本手当(いわゆる失業保険)を受給するには,「離職後」,住所地を管轄する公共職業安定所(職安,ハローワーク)で,離職により被保険者でなくなったこと(被保険者の資格の喪失),働く意思と能力があるのに職に就けないこと(失業)および法律が定める一定期間のうち被保険者だった期間が通算6か月以上あることの確認を受け,さらに,4週間ごとに「失業の認定」を受ける必要があります。
しかし,解雇の効力を争っている場合は,労働者が「離職(=事業主の雇用関係が終了したこと)」を認めていないと考えられ,解雇による被保険者の資格喪失の確認が難しくなります。この点,理屈の上では,公共職業安定所が独自に判断をすればよいのですが,後々,裁判所などの他の機関が出した判断と食い違うような事態が起きないとも限りません。もしそうなれば,法律関係が徒に複雑になってしまうからです。だからといって,裁判所で結論が確定するまで待ち続けたらどうでしょう。今度は,事実上,解雇されたのと同様の状況にある労働者の保護に欠けることとなってしまいます。
そこで,公共職業安定所では,受給しようとする被保険者が解雇について係争中であることを証明できる場合には,とりあえず資格喪失の確認を行って,これに基づいて基本手当等を支給するとの取扱いがなされています。具体的には,公共職業安定所で受給資格の確認を受ける際,事業主と係争中であることを証明する書類(訴状や仮処分等の申立書の写しに裁判所の受領印を押捺してもらったものが一般的でしょう。)を提出し,勝訴等により賃金の支払いを受けたときは保険給付を返還する旨の約束をすることになります。なお,法律上,「仮給付」という制度が定められているわけではなく,あくまで,雇用保険法15条2項の解釈および実務上の運用として行われているものです。
和解等によって解雇が撤回されたり,判決等によって解雇が無効とされた場合には,約束どおり,受給金を返還しなければなりません。解雇を争っていた期間も雇用関係が認められ,給料が支払われることになる関係上,当初から支給要件を満たしていなかったことになるからです。反対に,解雇の時点で事業主との雇用関係が終了していたという結論がひっくり返らなかったときは,仮給付開始時から支給がなされていたという扱いになりますので,返還の必要はありません。
(失業の認定)
第15条第1項基本手当は,受給資格を有する者(次節から第四節までを除き,以下「受給資格者」という。)が失業している日(失業していることについての認定を受けた日に限る。以下この款において同じ。)について支給する。
第2項前項の失業していることについての認定(以下この款において「失業の認定」という。)を受けようとする受給資格者は,離職後,厚生労働省令で定めるところにより,公共職業安定所に出頭し,求職の申込みをしなければならない。
(第3項以下略)