新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 2.検討されるべき方法としては、@利益分までこちらに支払うと約束をしたのだから、その約束どおり支払え、という方法と、A儲かるといったのに儲からなかったのは損害だ、だからその損害を支払え、という方法、が考えられると思いますが、@の主張方法の場合は、先物取引等の投資取引の場合、どんなに業者担当者が確実に儲かる、といっても、客観的現実としては、利益が発生すれば大きい分、損失が出る可能性もある不確実な取引ですので、確実に利益を支払います、という約束は、もともと不可能な約束(意思表示)として、無効(原始的不能)という解釈になるか、あるいは、事前に利益がいくらになるか、金額の具体的確定が不可能ですから、まだ法的約束と呼べる段階に達していない、つまり、法的請求の根拠にはならない、という解釈になるか、いずれかだと思います。もちろん、具体的事情によっては、異なる場合も考えられますが、業者も巧妙で、いくら確実という表現をしても、具体的にいくらの利益がいつ上がるのか、金額を確定してそれを証明できる程度の痕跡までは、残していないことが多いと思います。Aの主張方法についても難しいと思います。相手の行為から生じた損害を法的に賠償するよう請求する場合、相手の行為がなされたことで、この損害が生じるのが、社会的に見て相当だといえる関係(相当因果関係)が必要になります(民法416条)。先物取引の場合、あたかも利益が確実なように勧誘して、入金させたその入金額自体は、勧誘によって生じた損害といえますが、その利益部分については、勧誘前にはもともと存在し得なかったものですから、勧誘によって生じた損害とはいえません。入金後に、業者がうまく取引の売り買い作業をしなかった損害といえるか、という問題についても、売り買いを適切にしていたら、その損害が生じなかったという主張は困難を極めます。適切な売り買いとは何か、そうしていれば損害が生じなかったかは、明確にわからないことが多いと思います(もしわかれば、みんな得をすることになってしまいます)。 3.先物取引の裁判例を見ますと、入金額(元金)自体でさえ、入金した側にも不注意等、責められるべき点があるとして、請求額から何割も減額されてしまうケースが数多くあります。そのような点もあわせて考えますと、やはり、元金と、業者担当者が約束した利益の請求の合計額までは、返還を求めるのは難しい、というのが、実際上の結論になります。 4.しかし、だからといって、取引を継続、あるいは再開したほうがいい、ということにはなりません。これまでも利益が結局入ってこなかったことを考えれば、これ以上の入金をしないうちに撤退して、返金として、損害を最大限請求する、という方法も、十分検討に値するはずです。これまでのご入金の分を何とかしなければ、との思いから、取引を止められず、さらに入金してしまう、という心理状態に陥っていないか、第三者に相談してみた方がよろしいのではないでしょうか。実際に法的手続をとるかは、相談してみてから決めることです。お早めに、お近くの法律事務所にご相談下さい。 ≪参考条文≫ <民法>
No.593、2007/4/6 15:34 https://www.shinginza.com/sakimono.htm
[民事・先物取引・消費者・損害の範囲]
質問: ある日突然電話がかかってきて、これからは石油が必ず上がります、等と言われて、いろいろ説明を聞いているうちに、そうかもしれない、と思って、先物取引を始めました。もっと上がります、今入れないと損をします、等と言われて入金をしていくうちに、600万円も入金してしまいました。利益が入ってこないので、もうやめます、と伝えましたが、お金が返ってこないので、弁護士にも相談することを考えています。ただ、入金したお金、元本以上に、利益が出るといわれたから入金したので、その利益まで、約束したお金として、支払うようにはいえないのでしょうか。入金したお金が戻ってくればそれでいいとは思っていますが、何となく、納得できません。
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回答:
1.あれだけ確実と言ったのだから、約束した利益まで払えというお気持ちは当然だと思いますが、現実には、法的請求(民法415条、民法703条、704条、民法709条が考えられます)として、入金した元本以上の利益の請求は難しいと思います。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。