新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 第二 対策 あなたの息子さんにとって有利になる方法を順に考えてみます。 2.ですから先ず検察官に勾留請求しないように弁護士を通じて要請する事が必要です。検察官は正当な理由がなければ勾留請求をしません。その理由はほとんどが証拠隠滅と逃走の危険です(刑事訴訟法 60条)。ですから弁護人としては、接見し罪を認める上申書、被害に対する弁償予定表、家族の身元引き受け書、証拠隠滅をしない誓約書等を用意し検察官と面会し勾留の理由がないことを説明するわけです。本件は銀行に就職が内定している学生であり身分上逃走の危険がないとしても犯行回数が10数回ですから釈放してしまえば盗品を隠したりしますから被害品、額確定、現場確認等捜査の必要上勾留はやむをえないと思いますので1回きりの万引きと違い弁護士が要請しても10日間の勾留請求されることになるでしょう。例外的に被害店舗が1箇所で被害者と示談が出来告訴、被害届けが取り消された場合は勾留請求をしないこともありえます。検察官としては、被害者が処罰を望んでいないのにあえて勾留してまで捜査を続行する事は起訴便宜主義(当事務所ホームページ参照)の観点上好ましくないと考えるでしょう。しかし、逮捕されてから通常2日目に勾留請求するので(刑事訴訟法203条)、弁護士を依頼して被害店と和解することは時間的にも事実上難しいでしょう。というのは弁護士との打ち合わせも必要ですしチェーン店であれば店長が単独で決済する権限がないことが多く本社の裁定を求めるのが通常であり2日間ではその結論がでないとおもわれるからです。 3.勾留請求の裁判所の判断は東京では被疑者の人数の関係上翌日に行います(地方では勾留請求当日の午後が多いと思います)。これを勾留質問といいます(刑訴247条)。微々たる万引きであれば、万が一検察官が勾留請求しても、事前に担当裁判官に面接して勾留許可決定をしないように要請するといろいろな条件をつけて(犯行を認めることを条件に、捜査協力の誓約、身元引き受け保証人をつける等)勾留を見合わせてくれる場合があります。判断の基準は主に証拠隠滅の危険と逃走の危険性です。一部でも否認しているような場合はとても無理ですし、本件は犯行回数から言って捜査の必要上勾留許可決定が出るでしょう。おそらく大切な卒業試験は考慮してくれません。犯罪者のそのような事情をいちいち考慮していたら捜査は出来ませんし法秩序の維持は保てないからです。 4.次に、10日間の勾留が認められてしまったら、10日間の勾留延長しないように検察官に要請する事です。その為には被疑者が事件の全容を弁護士と協力して解明、明らかにする事が大切です。弁護士が事件の解明に協力する事は捜査機関でもないのにおかしいような気もしますが、本件の場合あくまで早期釈放を第一に考えなければいけません。具体的には弁護士が今から立件しようとする犯行(万引き行為)につき捜査を担当する刑事、捜査官と直接話し合い、早く特定する事です。本件は10数回の万引きがありますから刑法上併合罪(刑法45条)の関係にあり1件づつ立件していったら勾留日数が何ヶ月あっても足りません。なぜなら刑事手続きの厳格性、謙抑制から1件ずつの立件には供述証拠、実況検分、日時、被害品の確実な特定が個別的、詳細に必要であり大変な労力が必要だからです。管轄警察署の事件は本件だけでありませんから捜査の人数、設備、時間の関係上このような万引きの連続犯行の場合、立件は事実上数件にとどめ、あとは供述調書上の簡単な証明で終了させ、公判になっても起訴事実にも記載しないのが一般です。被害日時、被害品目が特定できないものは一括して万引き行為として概括的に調書上証明するだけなのです。被害店舗としても半年前の被害品を特定しようとしても事実上無理ですし、自宅に被害品が残っていれば別ですが本件は処分してしまったものが多いようですので立件は数件にとどまるでしょう。そこでどれを立件するかを担当刑事から明らかにしてもらうのです(結果として理論上ですが被疑事実の被害額は数万円になる訳です)。そして立件が予想される万引き行為についてのみ早急に示談、和解し告訴被害届けを取り消してもらうのです。そうすると捜査機関は立件の対象がなくなってしまいますから初犯であり釈放、不起訴処分の可能性が当然にでてくるわけです。以上の方法をとるためには、被疑者、弁護人は全事件の立件が困難なことを幸いに事案解明にあいまいな態度をとり連続犯行の捜査を遅らせてはいけません。ある意味捜査に協力するのです。憲法上認められる黙秘権(憲法 38条1項)の趣旨に反するかも知れませんが早期釈放を求めるためにはやむをえないでしょう。むしろ黙秘権は被疑者被告人の利益のためにあるのですから何が被疑者の利益かを考えるべきです。本来弁護人は、法解釈を盾に灰色を白にするような主張は許されないはずです。公益性を有する以上真実を明らかにすることも重要な仕事なのです。その考えが通じたとき捜査官も立件する対象を事前に開示してくれるはずです。起訴前弁護では捜査官特に実際に捜査を担当している警察官、刑事との信頼関係もないがしろには出来ません。いたずらに不当捜査を口にするだけが弁護人の職務ではありません。今、就職が内定し就職試験が迫っている以上被疑者の将来が重要です。尚、検察官、捜査官としては立件できない余罪10数件の償いをどうするかを当然考えていますからそれに備えて贖罪寄付を行い謝罪の意思を公に表明することも必要でしょう。又、同一店舗での犯行なら示談金をその分上乗せするのです。検察官も納得するはずです。二度と過ちを犯さないという保障としてなるべく損害額、秩序を乱した償いに見合う示談金を支払うのです。社会秩序維持のため必死に捜査してきた事件につき不起訴、釈放を要請するのですから捜査官の立場も考えなければいけません。 5.和解が遅れて、万が一10日間勾留延長されてもここで諦めてはいけません。検察官、刑事も人の子です。これまでの被疑者の態度、弁護活動を無視はできないはずです。要は罪を償うという誠意です。公判請求、刑事裁判になった場合の被疑者の重大性、苦労を考えればなんでもないはずです。なんとしても公判請求(最悪でも罰金、しかし罰金でも前科です。)をとめなければ、「銀行への就職」はありません。そこで、担当捜査官に再度両親等、家族の謝罪文、お詫びの写し等を渡し、被害店舗に対しては和解金を増額するなどして間接的に和解達成にさらに努力を続けることです。無駄だと思っても被害店店舗に対しても本社の示談決済を早急にとってもらうよう弁護人を通じ何度でも足を運んでもらいましょう。又、担当捜査官の被害者側への一言が重要な意味を持つことがあります。実は刑事課の担当捜査官も事件の凶悪化により学生の万引きよりもっと重要事件を抱えている場合が多いのです。東京では留置場もいっぱいです。捜査官が被害店舗側に示談については警察としては捜査上何ら問題ないので話し合いについて捜査上異議はありませんとアドヴァイスしてもらえれば状況も好転するかもしれません。弁護人を通じ捜査官に頼んでみたらどうでしょう。頼まなくても捜査官がそういう気持ちになるように弁護人、被疑者が努力する事が必要なのです。示談が出来て告訴、被害届けが取り消され償いが十分と判断されれば、不起訴処分として10日経過前でも直ちに釈放されるでしょう。誰でも叩けばすこしはほこりが出るはずです。犯罪者に安易に前科者のレッテルをはらず社会復帰を認めて法秩序を維持しようとする起訴便宜主義(刑訴248条)は刑事訴訟法の基本原則の1つであり検察官も今回だけの過ちで有望なる青年の将来を奪う事はないと思います。事件が解決し息子さんが無事銀行へ御就職できる事を陰ながら祈っております。 ≪参照条文≫ 憲法
No.595、2007/4/6 16:01 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
【刑事・起訴前弁護・連続万引き・被害者が大手チェーン店の場合の示談方法】
質問:東京の有名大学に通っている4年生になる息子が大型チェーン店スーパー等で万引きをして逮捕されました。お小遣いが足りなくて半年間に10数回にわたり繰り返し、盗品を中古品として売り払い換金し、他のものは消費してしまったそうです。総額20万円程度です。銀行に就職が決まっているので、2週間後に「卒業試験」もあり心配です。このような事は初めてです。どうしたらいいか教えてください。
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【回答】
【結論】弁護士と相談し早急に犯罪行為の全容を明確にし被害者側と示談、和解をして勾留を延長しないように検察官と交渉し早期釈放を求めることです。
【解説】
第一 基本的考え方
1.あなたの息子さんの行為は窃盗罪に該当しますから50万円以下の罰金又は10年以下の懲役に該当します(刑法235条)。万引き行為の初犯は重くて罰金ですが、本件の場合このまま手をこまねいていれば窃盗の回数、被害額から言って正式裁判である公判請求がされる可能性も十分あります。当事務所ホームページですでに何度も解説していますが通常は逮捕から最長13日間で釈放するか(略式手続きという方法で罰金を科して釈放する場合もありますが、この手続きは問題がありますので当ホームページ参照)身柄拘束を続けたまま公判すなわち刑事裁判をするか検察官の判断により結論がでるのですが、本件の場合逮捕から最長23日間警察署の留置場に拘束される事になると思います(刑訴208条)。というのは、被害店輔が複数ですし、窃盗回数も10数回に及び、被害額も20万円で見過ごせない額ですので立件する犯行が複数と考えられ捜査の必要上10数日では終了しないと考えられるからです。場合によっては再逮捕しさらに勾留を20日間延長する事もできその上正式裁判にでもなれば保釈の申請、許可(どんなに早くても起訴された日から1週間近くはかかります)がなければ釈放されませんから早急に対策を取る必要があります(捜査中に別の窃盗万引き行為で再逮捕されればさらに23日間勾留が継続する事になります)。卒業試験間近であり就職も決まっていることであり緊急事態です。そこでどうしたら早く釈放されるかその方法を考えて見ましょう。
1.就職、卒業試験が近づいていますから何と言っても早期の身柄解放が必要です。息子さんは勾留されているのですが、警察官による逮捕後検察官による取り調べまで最長72時間拘束後の10日間の勾留は警察官、検察官が勝手に出来ません(もちろん逮捕も現行犯等以外は裁判所が許可した逮捕状が必要です)。検察庁に送検され担当検察官が勾留請求し、その請求に対し裁判所の許可が必要なのです(刑訴 60条)。
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
刑法
(併合罪)
第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
刑事訴訟法
第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
○3 三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
第六十一条 被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
○2 前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
○3 前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
○3 司法警察員は、第三十七条の二第一項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。