新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 2.確かに、ご主人からの生活費等の送金、援助がなくても、ご自身で何とか生活してきてしまったのですから、過去の婚姻費用については、請求できないのではないか、という考え方も、従来は根強くありました。しかし、このような考えを認めてしますと、相手の生活費を払わない方が得だ、ということになってしまい、明らかに不公平な結果になりますので、現在は、未払いのままの過去の婚姻費用を請求すること自体は可能と考えられており(最高裁大法廷決定昭和40年6月30日)、離婚に際して、財産分与(民法768条)として、現存する夫婦の共有資産だけでなく、未払いの婚姻費用の清算を求めることも可能とされています(最高裁判例昭和53年11月14日)。財産分与については「一切の事情」を考慮することができるからです。 3.しかし、いくら清算すればいいのか、いつから未払い金額を計算すればいいのか、という段階になると、別居の時点からか、扶養が必要となった時点からか、婚姻費用を請求したときからか、家庭裁判所の調停や審判を申し立てるという手続で請求したときからか、考え方がかなり分かれています。実務上は、別居の時点からではなく、婚姻費用の請求時や、調停や審判の申立時、として解決しているときも多いのが実状です。いつの時点から、どのような扶養が必要かという法的判断は、実際上、なかなか難しく、少なくとも請求してからは、必要である可能性が高いが、それ以前はなかなか認定しにくい、と言うことがあるのかもしれません。また、かなりの長期間に渡った不払いの場合、一括で全額を支払えといっても、かなりの高額になってしまい、現実にはとても払えなくなってしまう場合も多いので、「一切の事情を考慮して」とされている財産分与の中で、いきなりの高額請求を認めていいのか、という問題も生じてくると思います。 4.もちろん、生活費を一切支払わなかったご主人の行動は、明らかに法律上不当ですので、離婚に際して、財産分与として清算して欲しい、との主張は当然行うべきですが、金額については、ある程度、双方協議をしていく必要も出てくると思います。判断が難しいところでもありますので、ご不明な点は、お近くの法律事務所にお問い合わせ下さい。 ≪参考条文≫ (婚姻費用の分担)
No.597、2007/4/6 16:11 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm
[家事・夫婦・過去の婚姻費用清算]
質問:夫とうまくいかなくなり、子供を連れ、家を出て別居して、5年ほどになります。生活費の援助等も一切なく、私が一人で働いて、少ない収入と、実家の援助等で、何とか子供を抱えたぎりぎりの生活を続けてきました。家を出たときは、これからのことについて、とても話し合える状態ではなかったのですが、長期間が経過して、もう夫婦としてやっていけないことは明らかですし、夫からも何も助けてもらえないのなら、正式に離婚したいと思うようになりました。ただ、夫も、別居前は、私と子供の生活を十分に見られる収入を得ていましたし、おそらく別居後もそうだったと思いますので、これまで法律上は夫婦だったのですから、多少は私と子供の生活費を負担してくれてもよかったのでは、という思いが強くあります。今後の子供の養育費についても、支払ってもらえるよう話して行くつもりですが、これまで、払ってもらえなかった分については、何とかしてきてしまった以上、あきらめるしかないでしょうか。
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回答:
1.法律上婚姻関係にあれば、夫婦には相互に扶養しあって、お互いの生活を保持する権利義務関係が生じることから、お互い、資産、収入等の事情に応じた、婚姻生活から生ずる費用を分担する義務を負います(民法760条)。別居中であっても、離婚していない以上、この扶養義務は認められます。ご主人様が、別居後も、別居前のように、妻子の生活に十分な収入を得ていたので有れば、少ない収入の妻と子供に対して、婚姻費用分担の義務があることは明らかです。
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。