新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は補聴器販売会社に勤務するサラリーマンです。先物取引の経験は全くありません。昨年、外務員の勧誘を受け、約11ヶ月間、金、米国産大豆の先物取引を行い、2000万円を委託証拠金として預託し、手仕舞い後、精算金500万円の返還を受けました。儲かるとの説明で先物取引を開始したのに、こんなに減ってしまっては騙されたのではないかと思います。相手方に対して、損害の賠償ができるかどうかを確認したいので、何を調べればよいのか教えてください。証拠となりそうな書類はどんなものでしょうか。弁護士に依頼した方がよいでしょうか。 1.先物取引会社に対する損害賠償請求ですが、先物取引会社がどのような経緯であなたに取引を勧め、どのような経緯であなたが取引を開始したか、その取引内容がどうだったか等の事実を確認することが必要です。弁護士に依頼した場合も、弁護士はあなたにそれらの事情を詳しく聞き、客観的資料の提出を促すことになります。 2.どのような経緯で取引を開始したのかについては、業者の勧誘が違法であるかどうかを確認するためです。例えば、先物取引が危険ではない、損をすることはないとあながた錯覚に陥るような方法での勧誘があったとか、「絶対に儲かります」等断定的判断の提供による執拗な勧誘があったかどうかです。これらは商品取引所法214条1号、2号に違反しますし、顧客の先物取引に対する経験等によっては説明義務違反による損害賠償請求の対象となる場合があります(同法217条、218条)。取引内容を確認するには、先物取引会社が取引の度に送ってくる売買報告書や売買計算書、毎月末に送ってくる残高照合通知書が参考になります。売買報告書・計算書とは、具体的な売買の注文をしてその注文が取引所で成立した場合に、業者から送られてくる報告書で、成立した売買の商品名、限月(決済期限)、約定年月日、時間、売付・買付の別、新規・仕切の別、枚数、約定値段、総取引金額、委託手数料の合計額等が記載された書面です。これを確認すると、両建て、ころがし、因果玉の放置、向玉等、もっぱら手数料稼ぎとしか思えないような取引が行われていないかどうかがある程度わかります。残高照会通知書は、毎月1回業者から送付される通知書で、作成日現在の建玉の状況及び委託証拠金の内訳が示されています。この通知書と同時に「回答書」という葉書が送付され「内容を確認して回答してください」等記載されており、回答書を返送するということは、即ち内容を確認した(取引に異議はない)と認めたものと業者が主張してくることがありますが、だからといって業者への損害賠償が封じられるというものではありません。また、弁護士が介入したり訴訟になった場合など、委託者別勘定元帳(イタカン)、委託証拠金現在高帳(高帳)を業者が提出してくることもあります。イタカンとは、顧客個人毎に具体的に成立した売買結果を記録した業者の元帳で、高帳は、顧客個人毎に委託証拠金の入出金、必要証拠金への振り替え、差引損益金の振り替え等を記載した元帳です。内容的には、業者から顧客へ送付される売買報告書・計算書、残高照会通知書と同じですが、顧客が全ての報告書を保存していない場合などには有益となるでしょう。その他に、客観的資料としては、約諾書(控)、委託証拠金預り証、顧客カード、取引所の月報・日報、売買枚数調査一覧表等があります。 3.損害賠償の可否を確認するには、集めた書類を分析して問題点を把握することになります。弁護士に依頼した場合も客観的資料から分析をするのですが、顧客が行うより早く的確にできるかと思います。主に使う資料は、委託者別勘定元帳があればそれを、なければ売買報告書・計算書です。これを使い、取引グラフ(線グラフ・棒グラフ)を作成します。例えば、線グラフでは、ある建玉を建てた日・時間・枚数を入れ、それがどうなったのかがわかるように売られた日・時間の枚数とを線で結び、売った取引のその脇に売買金額、手数料、損益を入れます。売りから入った場合も同様に記入します。取引数が少なければあまり意味はありませんが、売り買いを頻繁に繰り返している場合には、視覚的にその帰結がわかるので有用です。グラフを作成することにより取引内容の客観的把握をした上で、取引の日にどのような会話を業者と交わしたかを相談者に確認します。例えば、建玉の数日後に、両建て取引があった場合、それをするに際して、外務員から何を言われたのか等です。「大変です、最初の建玉の値が下がりました。今止めると証拠金の追加の可能性がありますので、もう少し様子を見るために両建てをして保険を掛けましょう。」などと言われどうしてよいのかわからずに両建てをすることになってしまった等・・・。以後、次々と新たな建玉を勧められ、新たな建玉をしてもまた同じような事態になり、そのたびに不安をあおるようなことを言われ、あげくに、売り直し、買い直し、途転、不抜けなどいわゆる特定売買をさせられ、取引損が増加していき、手数料もかさんでいくことが多いのですが、その様子がグラフから判明する場合があります。 4.こうした取引の態様、それを導いた外務員の言葉等を分析して、それが違法と言えるかどうか、すなわち民法709条、715条の責任を問えるかどうかを検討していくことになります。 ≪参考条文≫ 民法 商品取引所法
No.614、2007/5/7 13:39 https://www.shinginza.com/sakimono.htm
[民事・消費者・先物取引・大豆・損害賠償請求の資料収集方法]
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回答:
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
(不当な勧誘等の禁止)
第二百十四条 商品取引員は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 商品市場における取引等につき、顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘すること。
二 商品市場における取引等につき、顧客に対し、損失の全部若しくは一部を負担することを約し、又は利益を保証して、その委託を勧誘すること。
三 商品市場における取引等につき、数量、対価の額又は約定価格等その他の主務省令で定める事項についての顧客の指示を受けないでその委託を受けること(委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのないものとして主務省令で定めるものを除く。)。
四 商品市場における取引につき、顧客から第二条第八項第一号に掲げる取引の委託を受け、その委託に係る取引の申込みの前に自己の計算においてその委託に係る商品市場における当該委託に係る取引と同一の取引を成立させることを目的として、当該委託に係る取引における対価の額より有利な対価の額(買付けについては当該委託に係る対価の額より低い対価の額を、売付けについては当該委託に係る対価の額より高い対価の額をいう。)で同号に掲げる取引をすること。
五 商品市場における取引等につき、その委託を行わない旨の意思(その委託の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示した顧客に対し、その委託を勧誘すること。
六 商品市場における取引等につき、顧客に対し、迷惑を覚えさせるような仕方でその委託を勧誘すること。
七 商品市場における取引等につき、その勧誘に先立つて、顧客に対し、自己の商号及び商品市場における取引等の勧誘である旨を告げた上でその勧誘を受ける意思の有無を確認することをしないで勧誘すること。
八 商品市場における取引等につき、顧客に対し、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引とこれらの取引と対当する取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)の数量及び期限を同一にすることを勧めること。
九 前各号に掲げるもののほか、商品市場における取引等又はその受託に関する行為であつて、委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するものとして主務省令で定めるもの
(受託契約の締結前の書面の交付)
第二百十七条 商品取引員は、商品市場における取引等の受託を内容とする契約(以下この条から第二百十九条まで及び第三百六十九条第五号において「受託契約」という。)を締結しようとするときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、顧客に対し次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
一 当該受託契約に基づく取引(第二条第八項第四号に掲げる取引にあつては、同号の権利を行使することにより成立する同号イからハまでに掲げる取引)の額(当該受託契約に係る上場商品構成物品又は上場商品指数に係る商品指数ごとに商品取引所の定める取引単位当たりの価額に、当該受託契約に基づく取引の数量を乗じて得た額をいう。)が、当該取引について顧客が預託すべき取引証拠金、委託証拠金、取次証拠金又は清算取次証拠金(次号において「取引証拠金等」という。)の額に比して著しく大きい旨
二 商品市場における相場の変動により当該受託契約に基づく取引について当該顧客に損失が生ずることとなるおそれがあり、かつ、当該損失の額が取引証拠金等の額を上回ることとなるおそれがある旨
三 前二号に掲げるもののほか、当該受託契約に関する事項であつて、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるもの
四 前三号に掲げるもののほか、当該受託契約の概要その他の主務省令で定める事項
2 商品取引員は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該顧客の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて主務省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該書面に記載すべき事項を当該方法により提供した商品取引員は、当該書面を交付したものとみなす。
(商品取引員の説明義務及び損害賠償責任)
第二百十八条 商品取引員は、受託契約を締結しようとする場合において、顧客が商品市場における取引に関する専門的知識及び経験を有する者として主務省令で定める者以外の者であるときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該顧客に対し、前条第一項各号に掲げる事項について説明をしなければならない。
2 商品取引員は、顧客に対し前項の規定により説明をしなければならない場合において、前条第一項第一号から第三号までに掲げる事項について説明をしなかつたときは、これによつて当該顧客の当該受託契約につき生じた損害を賠償する責めに任ずる。