新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は関西で学校職員として勤務する40歳のサラリーマンです。先物取引の経験は全くありません。昨年、外務員の勧誘を受け、約8ヶ月間、米国産大豆の先物取引を行い、1、720万円を委託証拠金として預託し、手仕舞い後、精算金290万円の返還を受けました。儲かるとの説明で先物取引を開始したのに、こんなに減ってしまっては騙されたのではないかと思っています。後日計算したところによると、売買手数料が770万円、損失が660万円でした。相手方に対して、損害の賠償をしたいので、私の事情聴取、ご指導をお願いします。 2.あなたの経歴・職歴、取引を開始した経緯については、次のとおりです。高校を卒業して自動車修理工を経て今の学校職員の仕事に従事し、家族もいますし持ち家ですが、ローンが半分以上残っています。年収600万円です。本件取引以前には商品取引の経験は皆無、商品取引に関する知識も特になしとのこと、取引開始の経緯は、昨年10月頃に先物取引会社の外務員が2度電話を掛けてきて商品取引について話を聞いてもらいたいとのことで、あなたが応じたということです。翌日、外務員が職場を訪問し、「商品取引ガイド」を示したり、株と対比した取引単位の説明を書いて見せたりしながら、「大豆の生産コストは普通1俵4、000円であるが、現在の値段はそれより低い3、200円である」こと「過去には8、500円にまでなった例がある」ことを図解するなどして、「今は非常に大豆が安く、これ以上下がらない。買い時です。絶対儲かります。」等と言って大豆の取引をしてみるよう強く勧めたということです。2日後、外務員から電話で「値段が3、000円に下がったので今が買うチャンスです。」と告げられ、あなたは取引をしてみる気になり、翌日大豆を10枚2、940円で買うことを承諾したということです。その際、東京穀物商品取引所の商品市場における売買取引の委託契約を締結、「承諾書」を交わした上で、あなたは外務員に「買ったものは間違いなく上がるでしょうね。」と確かめ、同人は間違いなく上がると断言したとのことです。それを聞きあなたは翌日、証拠金70万円を支払い、その際支店の支店長も「米国産大豆は1ヶ月位で3、500円位まで上がるから、今買っておけば儲かることは間違いない。」と断言したとのことです。 3.取引後についてですが、証拠金を預けた2週間後担当者から「相場が急落した」ことを告げられるとともに「両建てをしておけば、それ以上損は増えないし、損を取り戻していけます。今止めてしまったら損をしてしまう。先行き上がることは間違いないから、とりあえず両建てをしておけば大丈夫です。」との説明を受けて、両建てをすることを承諾、その後、6回の取引がなされていること。2ヶ月後、証拠金150万円を請求されあなたが支店を訪れた際、担当者に対し「儲かる儲かると言って何時儲かるのか。あなたは損ばかりさせて信用できない。」等苦情を述べたところ、今後は支店長が担当になるということで「これからは間違いなく損を取り戻していく。」と言ったとのことです。その後は支店長からの「下がればすぐ損を取り戻せる。上がることはない。絶対大丈夫。」「放っておけば損が増えるので、ここは売りの内45枚を仕切って様子を見る。」「値が下がってきたのですぐ両建てしないと大変なことになる。」「もうそろそろ天候相場になり、シカゴの方の天候次第ですぐ相場が上げ下げするようになる。今の時期は売りを外して買いに回すのがよい。売りを全部買いに回して損を取り戻しましょう。」という連絡・勧めに従って、21回の取引を続けたとのこと。さらに翌月360万円の証拠金請求書が送られてきたので、あなたは「こんな大金払えるはずがない。」と苦情を言ったものの結局押し切られて700万円を用意することを承諾し、その後8回の取引がさらに行われ、証拠金30万円の請求書が送付されてきたため会社に出向いて苦情を述べたところ「天候相場に入っていて先物から暴騰するから仕切らずにこのまま様子を見た方がよい。200円も上がれば損を取り戻せるし、天候相場に入っているから大丈夫だ。」と言われ買い200枚の状態を維持するよう説得されたこと。翌日、あなたは不安になり「下がると心配なので買いを少なくしてもらいたい。」と依頼したが、支店長は、損切金が多くなって損だから止めた方がよいとして、逆に両建てを勧め、あなたが「もうお金がないから枚数を減らしてください。」と頼んだにもかかわらず、支店長は「そんなのは何とかなる。皆、土地や家を注ぎ込んで生きるか死ぬかの覚悟でやっているのだ。ここは両建てにした方がよい。」とあくまで両建てを勧めたこと。翌日から毎日、支店長ないし元の担当者から証拠金を入れるよう激しい催促があり、あなたは支店長に会い、権利証を見せて「この土地は1、500万円の価値があるから、これでお金を貸してほしい。」と申し入れたところ、あなたの方で銀行から借り入れをするよう言われて断られ、さらに「入金がないと銀行関係のリストに載り、信用がなくなる」と告げられたとのこと。そこであなたは1週間後に900万円を支払う旨の念書を差し入れたものの、もはや自分1人ではどうしてよいかわからなくなり、妻に事情を打ち明け、妻とともに警察署に相談に行くなどしたあと、全取引を終了することを要求したということです。 4. (2)先ず適合性の原則ですが、貴方は、先物取引の経験もなく、このような商取引を行うべく経歴、知識も不十分と思われます。又、持ち家とはいえローンが大半を占め家族がいるサラリーマンですから1700万円の委託証拠金を預け数億円の取引を繰り返すような取引は不適切です。適合性違反と評価できるでしょう。自宅の価値が1、500万円ほどしかないのに取引額が大きすぎます。 (3)勧誘の違法性の点ですが、相手方の反論としては、勧誘の際その後の取引過程を含めて、断定的な判断を提供したことはなく、本件取引はあなたの主体的、積極的な判断・指示によるものであると主張することが考えられますが、確かに、あなたが積極的に会社に電話を掛けたり訪問したりして、相場の状況を尋ねたり売り買いの方針等について相談したりしたことは少なくないとは言えますが、だからといって取引があなたの主体的、積極的な判断・指示によるものと言えることにはなりません。あなたは本件前には商品先物取引について知識・経験のない全くの素人であり、相手方が推奨する以外の方法の利害得失を選択することはほぼ不可能で相手方の助言に従うしか対応できなかったことを考えると、あなたの決断は「利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断の提供」の結果であり、相手方の助言の不当性はあったと思われます(商品取引所法214条違反)。 (4)なお、危険性の説明が全くないとの事情があれば、あなたの先物取引に対する知識・経験を考慮の上、商品取引所法218条の問題(説明義務違反)にもなります。 (5)ところで、資料を分析したところ、本件取引中に、「売り直し」2回、「途転」10回、「両建玉」20回、「不抜け」3回含まれています。 (6)以上これらの行為は「特定売買」といわれるのですが通常全取引回数の20%を超えると客殺しの無意味な売買として違法性を帯びる要素と考える判例があり(大阪地裁平成4年(ワ)第3638号先物裁判例集21号162頁)合理的で妥当な基準と考えられます。特定売買はひとつひとつを取ってみれば確かに取引の理由を見出す事が出来ないわけではありません。「両建て」などは、証券会社の説明を聞けばなるほどと納得しうる面もあります。しかし先物取引被害が顕在化するようになってからはこのような取引を繰り返し全体取引の中で占める割合が20%を超えるようであれば全体として無意味、客に不利益な取引として違法性が生じるひとつの要素と考えられるようになってきています。貴方の場合は前述のように63%で基準値の3倍以上であり違法性の要素があるといわざるを得ません。すなわちあなたが商品先物取引の知識・経験の不十分な素人であることを前提とすれば、このことは本件取引が、全体として、委託者であるあなたの利益を考慮せず、会社の利益を図る方向で、担当者らによって誘導されたものであることを推認させ得る重要な要素になるといわなければなりません。 (7) 売買回転率も270日の全取引期間中35回で、7.5日に1回、月平均4回の取引となっています。売買回転率とは取引期間中に何回売り買いの決済が行われたかを計算し月平均の決済件数を算出したものです。判例では月4回が違法性を帯びる要素として判断したものもあり(東京地裁判決平成4年8月27日判例タイムズ812号233頁、最高裁判例平成7年7月4日判決では回転率月3.9回を違法な「転し」の要素と認めた原審判決を相当としている。回転率月3.37回でも違法要素とする大阪地裁判決平成9年2月24日がある。)、月3回が基準とする考え方が合理的と思われます。本件では月4回でありやや違法性の要素と捉える必要があります。 (8)損金1、430万円のうち手数料の額が770万円で、手数料化率は54%となっています。手数料化率は、全損害中手数料として支払った額の割合をいいます。10%を超えると全体として違法性の要素があるとの判決(大阪地判平成9年2月24日)があり、妥当な基準といわれています。貴方の場合54%であり著しい高率です。そしてこの点も、上記推認を可能ならしめる要素の1つとしてよいでしょう。以上本件取引は、いわゆる「ころがし(無意味な反復売買)」の色彩が濃いものと評価できます。 (9)明らかな無断売買、一任売買はありませんが、「これからは間違いなく損を取り戻していく。」と述べ、その後は支店長からの「下がればすぐ損を取り戻せる。上がることはない。絶対大丈夫。」と説明があり、さらに「天候相場に入っていて先物から暴騰するから仕切らずにこのまま様子を見た方がよい。200円も上がれば損を取り戻せるし、天候相場に入っているから大丈夫だ。」と説得されている。このような言動は知識がない貴方にとっては取引を事実上業者に委任したような情況を作り出すといっても過言ではなく事実上の一任取引と評価できるでしょう。 (10)又、手仕舞い、仕切り拒否の事情も伺う事が出来ます。業者は貴方に対して取引中358万円の証拠金請求書を送付し取引の継続を要求したのに対して、あなたは「こんな大金払えるはずがない。」と苦情をいい取引の終了希望を出していますが、業者は言を左右に巧妙にこれに応じないのですから仕切り拒否の違法性も考えられます。 (11)担当者の変更ですが、貴方が、「儲かる儲かると言って何時儲かるのか。あなたは損ばかりさせて信用できない。」等担当者の約束が履行されない事に苦情を述べたところ、担当者は「今後支店長が担当になる。」「これからは間違いなく損を取り戻していく。」と説明しています。その後支店長は「下がればすぐ損を取り戻せる。上がることはない。絶対大丈夫。」「値が下がってきたのですぐ両建てしないと大変なことになる。」「もうそろそろ天候相場になり、シカゴの方の天候次第ですぐ相場が上げ下げするようになる。今の時期は売りを外して買いに回すのがよい。売りを全部買いに回して損を取り戻しましょう。」等という勧めに従って、21回の取引を続け結局損害が拡大しています。これは明らかに担当者変更による顧客との約束を白紙に戻し再度取引を行う違法な行為と評価できるでしょう。 (12)全体的評価としては、商品取引員には、商品取引に十分な知識経験を有しないものが安易に取引に手を出すことがないよう、また、本人の予想しない大きな損害を被らせることがないよう努めるべき、高度の注意義務が課せられてしかるべきところ、本件では、あなたに損失を被らせる意図があったと推認されてもやむを得ない面があり、少なくとも右注意義務に違反する重大な過失があったと思われます。従って、外務員らの行為は全体として不法行為を構成すると認められ、担当者・支店長らは共同不法行為者として各自あなたに対する損害賠償責任があり、会社はその使用者として同様の責任があるといえるでしょう。 5.以上より、あなたが会社に交付した委託証拠金のうち未回復額1、430万円についてその全額を損害と主張して、裁判を起こすことが考えられます(なお、同様の裁判例あり。この裁判例によれば、未回復額全額の支払い義務を肯定しましたが、取引の開始、損害の拡大については原告にも慎重さを欠く点があったと考えられ及び過失相殺を行わないことから慰謝料は認められないとされています。弁護士費用150万円。東京地裁平成4年8月17日、判時1460-101)。 ≪参考条文≫ 民法 商品取引所法 商品取引法施行規則
No.615、2007/5/7 13:48 https://www.shinginza.com/sakimono.htm
[民事・消費者・先物取引・客殺し・特定売買・手数料化率・取引引き回転率・説明義務違反・手仕舞い拒否]
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回答:
1.先物取引会社に対する損害賠償請求ですが、持参していただいた売買報告書・計算書もしくは委託者勘定元帳を分析した上で、取引に関する事情を聴取することにしましょう。
(1)これらの事情を検討すると、あなたの場合以下の点が問題です。
@適合性の原則違反(商品取引所法215条)。これは先物取引が少ない委託金で多額の損失が生じる危険性を有するため顧客の知識、経験、経歴、経済状態から取引内容を制限するものです。
A勧誘の違法(危険性の説明の有無、断定的判断の提供による勧誘「商品取引所法214条1号2号」)さらに商品取引所法218条の問題(説明義務違反)も考えられます。
B甘言詐言等を弄してあなたを引き回し「入金しないと銀行のブラックリストに載る」等の脅迫的言辞の可能性(商品取引所法214条6号)。
Cさらに、資料の分析により、有害無益な両建て、ころがし等の無意味な反復売買の可能性が考えられます。これと関連して売買回転率、手数料化率も検討しなければなりません。
D事実上の一任取引になっている点。無断売買や、一任取引は禁じられていますが(商品取引所法214条3号 同法施行規則103条3号)その理由は業者が顧客の財産を利用し不当な利益を受ける危険が存在するからです。明確に取引を一任していなくても「プロだから任せておきなさい」「損はさせませんよ。」「大丈夫だから」等と説得して顧客に取引を勧め取引をする事は専門的知識を有しない委託者に事実上一任取引をする事になるので法の趣旨から違法とされています。
E手仕舞い拒否に当たるかどうか。手仕舞い拒否、回避は商品取引所法214条9号、同法施行規則103条7号で禁止されています。委託者の要望を無視し取引継続をして不当に委託者の利益を侵害し手数料等により業者の利益を優先する危険が存在するからです。もちろん事実上の仕切り拒否回避も許されません。「手仕舞いすると財産がほとんどなくなりますよ。証拠金がないと手仕舞いで来ませんよ。暴落して仕切りの取引ができませんね。」などはこれに該当するでしょう。これに類似して精算金の返還拒否、回避も禁じられております。同規則103条1号。
F顧客に有利な約束をして履行できなると担当者を替えて前の有利な約束を反故にしていく点。商品取引所法213条、214条2号、同法施行規則103条8号の趣旨から認められません。業者によっては担当者の変更を繰り返し良心的顧客に何度も希望を持たせながら取引を引きのばし最終的に顧客の財産を食いつぶしていく事がなされているようです。注意が必要です。
@売り玉を仕切って即日また売りを建てる「売り直し」は、同日に再度売り玉を立てるなら最初から売り玉を仕切る必要はありませんから通常手数料の負担が増えるだけの委託者にとって無益な取引になる訳です。そこで、売り直しは、原則として「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」(平成11年に廃止されていますが委託者保護に当たってはその理念を汲むべきことは当然です。以下同様)の禁止するところとなっています。同様な意味で買い玉を仕切って同日中に買い玉を建てる買い直しも不合理な取引になります。
A「途転」は、既存の建玉を仕切り、即日それと反対の建玉を行うことですが(これは限月が異なる場合も当てはまります。)、例えば買い玉を仕切り売り玉を建てるわけですから値上がりの場合はその情況(値が上がっていくのに売りを建てる事は矛盾しています)に反していますし、突然相場が反転すれば利益が出ますが、そのような予想は一般投資家には不可能でありもとの利益をなくしてしまう危険があり手数料のみの損失になりやすいわけです。これも手数料の負担を増やすだけの無意味な取引の一態様になっています。
B「両建玉」は、既存建て玉に対して反対玉を建てるものです(異限月を含むと考えるべきでしょう。)。顧客としては一見損失拡大を止められるように考えてしまいますが、対応する売り買い双方に証拠金を必要とする上、手数料も倍額必要となります。両建てしたときに、仕切った場合と同額の差損差益が実質的に確定しているので、委託手数料が余計にかかる他は両建てする時に仕切った場合と変わりません。それに、顧客は両建ての売り買いを有利に仕切ることは事実上出来ないでしょう。両建ては、違法業者が得意とするところで、損失が生じたときに「損失の増大ふせぎましょう。そうでないと大変な事になります」等とあたかも顧客利益保護を装い勧誘しますが実は業者の手数料稼ぎ、証拠金追加の一手段なのです。商品取引所法214条の9号 同法施行規則103条9号で禁止行為として明確に規定されています。
C「不抜け」は売買取引によって利益が発生したが、手数料に食われてしまって差し引きは損となっているものです。委託者にとって手数料の幅を抜けない限り利益はないのであるから、その時点で仕切ることがやむを得ない場合に限られるでしょう。これも不合理取引と判断される一態様と考えられています。
Dついでですから本件にはありませんでしたが「日計り」について説明します。新しい建て玉を同一日に仕切ることを言います。相場急変がない限り手数料のみの損失になる可能性があることから違法取引の一態様と考えられています。
E本件の全取引回数(玉を建てて落として1回)は35回であるところ、取引所指示事項に抵触し、有害無益性の特に強い、売り直し、両建玉の回数だけ合計しても22回、約63%に達しますが、これは異常に高い割合と見るべきでしょう。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(使用者等の責任)
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
(誠実かつ公正の原則)
第二百十三条 商品取引員並びにその役員及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。
(不当な勧誘等の禁止)
第二百十四条 商品取引員は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 商品市場における取引等につき、顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘すること。
二 商品市場における取引等につき、顧客に対し、損失の全部若しくは一部を負担することを約し、又は利益を保証して、その委託を勧誘すること。
三 商品市場における取引等につき、数量、対価の額又は約定価格等その他の主務省令で定める事項についての顧客の指示を受けないでその委託を受けること(委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのないものとして主務省令で定めるものを除く。)。
四 商品市場における取引につき、顧客から第二条第八項第一号に掲げる取引の委託を受け、その委託に係る取引の申込みの前に自己の計算においてその委託に係る商品市場における当該委託に係る取引と同一の取引を成立させることを目的として、当該委託に係る取引における対価の額より有利な対価の額(買付けについては当該委託に係る対価の額より低い対価の額を、売付けについては当該委託に係る対価の額より高い対価の額をいう。)で同号に掲げる取引をすること。
五 商品市場における取引等につき、その委託を行わない旨の意思(その委託の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示した顧客に対し、その委託を勧誘すること。
六 商品市場における取引等につき、顧客に対し、迷惑を覚えさせるような仕方でその委託を勧誘すること。
七 商品市場における取引等につき、その勧誘に先立つて、顧客に対し、自己の商号及び商品市場における取引等の勧誘である旨を告げた上でその勧誘を受ける意思の有無を確認することをしないで勧誘すること。
八 商品市場における取引等につき、顧客に対し、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引とこれらの取引と対当する取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)の数量及び期限を同一にすることを勧めること。
九 前各号に掲げるもののほか、商品市場における取引等又はその受託に関する行為であつて、委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するものとして主務省令で定めるもの
(適合性の原則)
第二百十五条 商品取引員は、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行つて委託者の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品取引受託業務を営まなければならない。
(受託契約準則への準拠)
第二百十六条 商品取引員は、商品市場における取引等の受託については、商品取引所の定める受託契約準則によらなければならない。
(商品取引員の説明義務及び損害賠償責任)
第二百十八条 商品取引員は、受託契約を締結しようとする場合において、顧客が商品市場における取引に関する専門的知識及び経験を有する者として主務省令で定める者以外の者であるときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該顧客に対し、前条第一項各号に掲げる事項について説明をしなければならない。
2 商品取引員は、顧客に対し前項の規定により説明をしなければならない場合において、前条第一項第一号から第三号までに掲げる事項について説明をしなかつたときは、これによつて当該顧客の当該受託契約につき生じた損害を賠償する責めに任ずる。
(受託契約の締結前の書面の交付)
第二百十七条 商品取引員は、商品市場における取引等の受託を内容とする契約(以下この条から第二百十九条まで及び第三百六十九条第五号において「受託契約」という。)を締結しようとするときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、顧客に対し次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
一 当該受託契約に基づく取引(第二条第八項第四号に掲げる取引にあつては、同号の権利を行使することにより成立する同号イからハまでに掲げる取引)の額(当該受託契約に係る上場商品構成物品又は上場商品指数に係る商品指数ごとに商品取引所の定める取引単位当たりの価額に、当該受託契約に基づく取引の数量を乗じて得た額をいう。)が、当該取引について顧客が預託すべき取引証拠金、委託証拠金、取次証拠金又は清算取次証拠金(次号において「取引証拠金等」という。)の額に比して著しく大きい旨
二 商品市場における相場の変動により当該受託契約に基づく取引について当該顧客に損失が生ずることとなるおそれがあり、かつ、当該損失の額が取引証拠金等の額を上回ることとなるおそれがある旨
三 前二号に掲げるもののほか、当該受託契約に関する事項であつて、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものとして政令で定めるもの
四 前三号に掲げるもののほか、当該受託契約の概要その他の主務省令で定める事項
2 商品取引員は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該顧客の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて主務省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該書面に記載すべき事項を当該方法により提供した商品取引員は、当該書面を交付したものとみなす。
第百三条 法第二百十四条第九号 の主務省令で定める行為は、次の各号に掲げるものとする。
一 委託者資産の返還、委託者の指示の遵守その他の委託者に対する債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること。
二 故意に、商品取引受託業務に係る取引と自己の取引を対当させて、委託者の利益を害することとなる取引をすること。
三 顧客の指示を受けないで、顧客の計算によるべきものとして取引をすること(受託契約準則に定める場合を除く。)。
四 商品市場における取引につき、新たな売付け若しくは買付け又は転売若しくは買戻しの別その他これに準ずる事項を偽って、商品取引所に報告すること。
五 商品市場における取引等の委託につき、顧客に対し、特別の利益を提供することを約して勧誘すること。
六 商品市場における取引等の委託につき、顧客に対し、取引単位を告げないで勧誘すること。
七 商品市場における取引等の委託につき、転売又は買戻しにより決済を結了する旨の意思を表示した顧客に対し、引き続き当該取引を行うことを勧めること。
八 商品市場における取引等の委託につき、虚偽の表示をし又は重要な事項について誤解を生ぜしめるべき表示をすること。
九 商品市場における取引等につき、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引等と対当する取引等(これらの取引等から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)であってこれらの取引と数量又は期限を同一にしないものの委託を、その取引等を理解していない顧客から受けること。