新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.618、2007/5/9 14:11

【民事・根保証】

質問:私(甲)は,友人であるAさんに頼まれ,平成17年5月1日,AさんとB信用金庫との「金銭消費貸借・手形割引等継続的取引」という契約について,B信用金庫との間でに貸金等根保証契約を締結しました。契約書には根保証で担保される取引の対象や極度額などは記載されていますが,元本確定期日については記載がありません。もっとも,B信用金庫との話し合いの中で,確定期日は契約を締結した日から2年が経過した日という約束をしていました。ところが,先日Aさんから連絡があり,「元本確定期日に関する合意は,契約書に記載がないときは無効である。その場合,元本確定期日は契約締結から3年が経過した日になる。」などと言われました。今日は平成19年4月26日ですので,私としては,あと数日で元本が確定すると思っていたのに,非常に釈然としない思いです。本当に私とB信用金庫との間でなされた元本確定期日に関する合意は無効なのでしょうか。

回答:甲さんとB信用金庫との間でなされた元本確定期日に関する口頭の合意は有効であり,平成19年4月30日が元本確定期日になります。ただし、口頭の合意の立証の責任は甲さんにありますので、どのように立証するかの検討が必要です。

解説:
1,平成17年に民法の一部が改正され,保証に関する規定も大幅に変更ないし追加がなされました。民法に規定されている法律行為は,「不要式行為」が原則であり,契約内容等について文章化をしなくても当事者間で意思の合致等があれば,契約は有効に成立することになります。しかしながら従来,保証契約においては保証人が契約内容を十分に知覚せずに多大な負担を強いられるという事案が数多く発生したため,保証人に自らの負担内容をはっきりと自覚させ,もって保証人にとって思わぬ損害が発生するということのないようにするため,上記改正により,保証契約については書面でしなければ効力を発生させないこととしました(要式行為・民法446条2項)。

2,根保証契約も保証契約の一種ですので,書面での合意がなければ効力は発生しないことになりますが,本件では契約書面そのものはあるようですので,契約自体は有効に成立しているものと思われます。もっとも,「元本確定期日」に関する記載がないとのことですので,この点につき検討します。本件のような,一定の範囲内に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって,その債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるものを「貸金等根保証」といいます(民法465条の2第1項)。

この貸金等根保証の契約を締結する場合には,元本確定期日について書面化していないと,原則として当該合意は効力を有さないことになります(民法465条の3第4項,同法446条2項)。さらに,合意に効力がない場合には,元本確定期日について定めがない場合と同様に扱われますので,結局,元本確定期日は契約締結の日から3年が経過した日(民法465条の3第2項)ということになります。このように考えると,Aさんの言っていることは正しいようにも思えます。

3,しかしながら,民法465条の3第4項の定めは,あくまで保証人保護のために規定されているものであり,同条の存在によって,保証人に不利益を与えることは,立法趣旨に反することになってしまいます。そこで,同条同項には括弧書きで,「その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を確定期日とする旨の定め・・・を除く」としており,そのような合意の場合には,書面化しなくても,合意は有効に成立することになっています。したがって,結論としては,貸金等根保証契約を締結した日から二年が経過する日,つまり平成19年4月30日が元本確定期日ということになります。

もっとも,甲さんとB信用金庫との間の合意は書面化されていないわけですから,仮にB信用金庫が「二年で元本が確定するなどという合意はなかった。」という主張をする場合には,二年で元本が確定するという合意があったことを立証しなければならないという問題は依然として残ることになります。合意した当時に立ち会っていた第三者の証言などが必要となるでしょう。

5,本件に関する解説は以上のとおりですが,上述のように保証については大きな改正があり,また,複雑で理解しづらい部分も多くありますので,分からないことなどがあれば,専門家に相談することをおすすめします。

≪参考条文≫

民 法
(保証人の責任等)
第四百四十六条  保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2  保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3  保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
第四百六十五条の二  一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2  貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3  第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
(貸金等根保証契約の元本確定期日)
第四百六十五条の三  貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。
2  貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。
3  貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。
4  第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。

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