精神科入院時の自殺

民事|安全配慮義務|最高裁判所令和5年1月27日判決|精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文・判例

質問:

先日27歳の息子が自殺してしまいました。息子は大学を出て会社勤めをしましたが人間関係で悩み数年で退職してしまいました。その後、統合失調症と診断され、通院治療を行っていましたが、昼夜逆転し、妄想が増えるなど病状が重くなり3か月前に精神科病院に任意入院をしていました。私たち家族は勿論息子の自殺を心配していましたが、夜間施錠もする精神科の入院ということで安心していました。息子は外出制限が解かれた直後に無断離院をして近所のビルの階段踊り場から飛び降り自殺してしまいました。病院側に法的な責任は無いのでしょうか。

回答:

1、病院側の法的責任については、入院契約による病院の債務不履行責任、あるいは不法行為責任が問題となりますが、いずれについても自殺について病院に過失があったか否か、過失と自殺との因果関係が問題となります。そして過失責任については、自殺という結果の予見と回避の可能性を前提とした予見義務違反、結果回避可能性を前提とする結果回避義務違反があったか否かが問題となります。これらの義務違反が認められる場合は因果関係があるということになると考えてよいでしょう。このように過失の有無については具体的な事実関係に沿った検討が必要になります。

2、入院契約は、患者自身に入院治療が必要な疾病状態があることを前提として、患者と病院の間で交わされる特殊な契約形態です。病院は入院生活設備を提供し、診療サービスを提供し、患者は医師の診察・治療・手術などを受け治療費を支払います。精神科の入院が通常の入院契約と異なるのは、患者自身の判断能力が著しく低下していたり、自傷他害の危険が極めて高い場合があるために、患者自身の意思に反してでも、病院側は患者の行動制限や身体拘束や外出制限や面会制限などをすることができるという特質があります。このような特殊な契約条件は、精神保健福祉法や、その施行令などで法令として定められています。

3、このように精神科の入院契約は特殊な契約であるという特質はありますが、もちろん、病院と患者の間の入院契約であることに変わりはありません。病院側は、患者が入院治療を全うできるように努力する安全配慮義務を負担しています。これは絶対に自殺させないようにありとあらゆる努力をしなければならないというものではなく、医師が当時の技術水準で当然に求められる注意義務を果たしていたかどうかが問われるものです。

4、患者が自殺してしまった場合の病院の責任について、近時の最高裁判例も含めて参考になるものがありますのでいくつかご紹介致します。

5、御相談では、入院して3か月後に、外出制限が解除された直後に飛び降り自殺してしまったということですので、外出制限の解除をした医師の判断が適切だったのかどうか問題になり得る事案と言えます。当時の問診内容や投薬状況など総合的に判断して、担当医師の法的責任の有無が判断されることになります。一般的には困難な事案と言えますがどうしても納得できないという場合には、一度弁護士事務所に御相談なさってみると良いでしょう。

6、入院契約に関する関連事例集参照。

解説:

1、入院契約

病院に行って外来診療を受けたり、入院治療を受けている時に格別に意識することは少ないかもしれませんが、それぞれ、病院側と患者の間で診療契約や入院契約が存在しています。それは契約書という形式で記録されない場合もありますが、「入院申込書」「問診票」などの形で記録されています。

民法典の典型契約の中に、法律効果を発生させる法律行為の代行を依頼する「委任契約(民法643条)」というものがありますが、診療契約は、法律行為以外の「事務行為・事実行為」を依頼する「準委任契約(民法656条)」に位置づけて解釈することができます。

民法643条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

民法656条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

※大阪地方裁判所平成20年2月21日判決

『診療契約とは,患者等が医師ら又は医療機関等に対し,医師らの有する専門知識と技術により,疾病の診断と適切な治療をなすように求め,これを医師らが承諾することによって成立する準委任契約であると解され,医師らは民法645条により,少なくとも患者の請求があるときは,その時期に説明・報告することが相当でない特段の事情がない限り,本人に対し診療の結果,治療の方法,その結果などについて説明及び報告すべき義務(てん末報告義務)を負うといえる。

もっとも,医師らの患者に対する説明,報告の内容,方法等自体が委任者である患者の生命,身体等に重大な影響を与える可能性もあることから,患者に対する説明,報告の内容,方法等に際しては医師等の専門的な判断も尊重されるべきであり,医師らに一定の裁量が認められ,てん末の報告も,事案に応じて適切な方法で行われれば足りるというべきである。そして,医師らが適切な方法でてん末の報告を行う場合に,診療録等を示して行う必要があるか否かは,当該診療の内容,医師らが行った説明,当該診療録等の記載内容の重要性,医師らが当該診療録等を示すことができない事情,患者がてん末報告のために診療録等を示すよう求める理由や必要性,報告時の患者の症状等の具体的事情を考慮して決すべきものと解される。』

このように、診療契約や入院契約は、病院と患者の間で取り交わされる特定の病気の治療を目的とした有償の準委任契約であると考えられます。

委任契約や準委任契約の特徴に関して重要な2つの条文を御紹介致します。

民法644条(受任者の注意義務)受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

これは「善良なる管理者の注意」、いわゆる「善管注意義務」というものです。受任者(医師・病院)は、患者の入院・診療にあたって、医師として社会通念上求められる最低限度の注意義務を負担することになります。善管注意義務に関して、銀行員の印影照合についての判例がありますので御紹介致します。

※最高裁判所昭和46年6月10日判決

『銀行が当座勘定取引契約に基づき、届出の印鑑と手形上の印影とを照合するときは、銀行の当該事務担当者に対して社会通念上一般に期待されている業務上相当な注意をもって慎重に行うことを要し、右事務に習熟している銀行員が右のような注意を払って熟視するならば肉眼で発見できるような印影の総意が見落とされて、偽造手形が支払われたときは、その支払いによる不利益を取引先に帰せしめることは許されない。』

民法645条(受任者による報告)受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

これは受任者の報告義務というものです。前記大阪地裁平成20年判決でも「医師らは民法645条により,少なくとも患者の請求があるときは,その時期に説明・報告することが相当でない特段の事情がない限り,本人に対し診療の結果,治療の方法,その結果などについて説明及び報告すべき義務(てん末報告義務)を負うといえる。」と判示されています。

ただ、入院診療契約の特殊なところは、診療・治療行為の提供者が、国家資格者である医師に限定されているところです。また、特に精神疾患の場合は、正常な判断能力や意思表示の能力が著しく低下してしまった場合の治療をも目的としていることから、様々な法令で契約内容に特約が定められています。

医師法第19条1項 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

これはいわゆる「医師の応召義務」を定めた規定です。通常の契約であれば、私的自治・契約自由の原則がありますから契約を締結するかどうかは当事者の任意の判断に任せられているのですが、医師の診療の場面では、困っている患者さんを前にして求められた場合には、既に治療開始している他の患者の治療予約などで手一杯であるなど正当な理由が無ければ、受診を拒むことができないとされています。

更に、精神医療の場面では病気の内容と程度によっては、患者自身や周りの人々に対する自傷他害の切迫した危険があるため、患者の行動制限など特殊な措置を医師が行い得ると定められています。行動制限は、建物の外に外出できないというものから、特定の病棟内から外出できないもの、特定の部屋から外出できないもの、また、切迫した事情の下では、身体の身動きが取れない「身体拘束・医療拘束」に至る場合もあります。医療の場面では、契約自由の原則に大きな修正が入っているのです。

※精神保健福祉法第36条(処遇)

1項 精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。

2項 精神科病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であつて、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。

3項 第一項の規定による行動の制限のうち、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動の制限は、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。

このような法令による診療契約の修正は、勿論、患者自身の治療目的を全うできるようにするための安全配慮義務を制度化しているものと言えます。

2、安全配慮義務

当事者間の契約内容は通常、契約書で定まりますが、勿論、契約書に定めが無い事項についても、「付随義務」として当事者間で相互に「安全配慮義務」を負担することがあります。

※最高裁判所昭和59年4月10日判決 『ところで、雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。』

この判例は雇用契約に付随する「安全配慮義務」について判示したものですが、この注意義務は、あらゆる契約において観念することができます。入院契約でも診療契約でも、付随義務として「安全配慮義務」を双方が負担していると解釈することができます。契約書に定めが無くても、口頭の取り決めがあったわけでもなくても、当事者間を拘束する「注意義務」が課せられるのは、究極的には「当事者の合理的意思解釈」に求めることができます。契約関係に入る両当事者間では、契約内容に従って、相互に債権(相手に請求できること)債務(相手から請求されること)を負担する関係になりますが、この主たる債権債務を履行したり受領したりすることに付随して、当然に、相手に「生命・身体・財産」の不測の損害を生じないように配慮するべきことが期待されているのです。契約というのは、当事者間の「約束」であり、「共同作業」と言えますから、そのような関係に入った者同士の間で、そのような関係性の中において相互に期待すべき注意や行動が、「安全配慮義務」ということになります。従いまして、そのような安全配慮義務は契約書などに必ずしも明確に具体的に定められていなくても契約両当事者を拘束すると考えられますし、契約内容に従って、おのずからその義務内容も変わってくることになります。安全配慮義務の内容がどうなっているか、どの程度の注意義務があって、どのような結果回避行動をどの程度するべきなのか、契約内容と従来の治療経緯や、両当事者の立場や技術や能力に鑑みて解釈されることになります。勿論、安全配慮義務は契約上の義務のひとつですから、契約書に詳細に定めることもできますし、口頭で約束することもできます。そのような特約が存在する場合は、安全配慮義務の内容は、その具体的な特約内容に従って両当事者を拘束することになります。

公務員の任用関係において安全配慮義務が問題となった判例がありますのでご紹介致します。

※最高裁判所昭和50年2月25日判決 『思うに、国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法一〇一条一項前段、自衛隊法六〇条一項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法九八条一項、自衛隊法五六条、五七条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法六二条、防衛庁職員給与法四条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法七六条)、治安出動時(同法七八条以下)又は災害派遣時(同法八三条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。』

国と公務員の間の任用関係も、民間の雇用契約に類似する部分があり、当事者間の安全配慮義務の解釈において参考にできるものです。この判例では、「生命及び健康等を危険から保護する」ことが求められていると判示しています。死亡に至るような危険を回避すべきことは当然として、それに至る手前の段階であっても、例えば過労によるうつ病を発症しないように配慮する義務があると考えることができます。

さて、御相談頂いている入院契約に付随する自殺の法的責任問題に関して言えば、この安全配慮義務違反があったと言えるかどうかの問題になります。入院・診療契約は、患者の病気を治療することを目的とした契約ですから、契約当時の医療水準に基づいて、病気を治療して快方に向かわせることが契約目的であり、患者が自殺して亡くなってしまうようなことは避けなければなりません。入院当時の病状に照らして自殺の危険性が観察されていたのであれば、病院側は、当時提供できる最善の安全措置を執るべき安全配慮義務があったと解釈することができます。

3、判例紹介

任意入院中の患者が、医師に無断で外出して自殺してしまったという事案について、無断で外出することを防止する処置がとれていなかったことが病院側の過失といえるか問題になり、病院側の過失を否定した判例を紹介します。

※最高裁判所令和5年1月27日判決、損害賠償請求事件

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91716

『前記事実関係等によれば、任意入院者は、その者の症状からみて医療を行い、又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合を除き、開放処遇を受けるものとされており、本件入院当時の医療水準では無断離院の防止策として徘徊センサーの装着等の措置を講ずる必要があるとされていたわけでもなかったのであるから、本件病院において、任意入院者に対して開放処遇が行われ、無断離院の防止策として上記措置が講じられていなかったからといって、本件病院の任意入院者に対する処遇や対応が医療水準にかなうものではなかったということはできない。

また、本件入院当時、多くの精神科病院で上記措置が講じられていたというわけではなく、本件病院においては、任意入院者につき、医師がその病状を把握した上で、単独での院内外出を許可するかどうかを判断し、これにより、任意入院者が無断離院をして自殺することの防止が図られていたものである。これらの事情によれば、任意入院者が無断離院をして自殺する危険性が特に本件病院において高いという状況はなかったということができる。さらに、本件患者は、本件入院に際して、本件入院中の処遇が原則として開放処遇となる旨の説明を受けていたものであるが、具体的にどのような無断離院の防止策が講じられているかによって入院する病院を選択する意向を有し、そのような意向を本件病院の医師に伝えていたといった事情はうかがわれない。

以上によれば、上告人が、本件患者に対し、本件病院と他の病院の無断離院の防止策を比較した上で入院する病院を選択する機会を保障すべきであったということはできず、これを保障するため、上告人が、本件患者に対し、本件病院の医師を通じて、上記3の説明をすべき義務があったということはできない。そうすると、本件病院の医師が、本件患者に対し、上記説明をしなかったことをもって、上告人に説明義務違反があったということはできないというべきである。』

病院側の賠償責任を否定した最高裁判決の判断の枠組みは、「任意入院者は、その者の症状からみて医療を行い、又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合を除き、開放処遇を受けるものとされて」いること、「本件入院当時の医療水準では無断離院の防止策として徘徊センサーの装着等の措置を講ずる必要があるとされていたわけでもなかった」ことから、開放処遇と無断離院防止策としての徘徊センサー装着措置が取られていなかったことが、医療水準からみて不適切な措置とは言えないとしています。

さらに、本件患者が、本件入院に際して、本件入院中の処遇が原則として開放処遇となる旨の説明を受けていたが、具体的にどのような無断離院の防止策が講じられているかによって入院する病院を選択する意向を有し、そのような意向を本件病院の医師に伝えていたといった事情もうかがわれなかったことも判断材料とされました。

つまり、事件当時の医療水準から乖離した措置が取られたわけでもなく、また、患者側から格別の配慮を求める事前の申し出も無かったことにより、病院側の法的責任が否定されたことになります。

次に、入院中の患者が4階の病室から飛び降りて自殺したという事案について、常時監視を行わず、定時巡視も行われなかったことが過失といえるか、問題になった事例を紹介します。結論としては、入院中の患者には、差し迫った自殺行動が認めらなかったことから、自殺の予見可能性がなかったとして、常時監視の義務はなく、また、定時巡視が時間通り行われなったことは認められるが、義務違反とまでは言えないとしています。

※東京地裁平成18年10月2日判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=80235

『(1) 原告は,被告病院従事者らには,厳重な監視体制をとることにより,Aがベランダから転落するのを防止すべき義務があったにもかかわらず,Aに対する厳重な常時監視を行わず,また,11月21日午前零時の定時巡視を怠り,その結果,本件転落事故を発生させた過失がある旨主張する。

そして,前記認定事実及び後掲証拠によれば,①Aが入院していた病室は,被告病院4階であって,内側から手動で解錠してベランダに出られる構造の部屋であったこと(乙A8・2頁,乙B1,弁論の全趣旨),②被告病院での夜勤帯の定時巡視は本来午後8時から翌日午前8時までの2時間ごとの偶数時に行われることになっていたところ,夜間に緊急入院があったため,担当のG看護師が巡視でAのベッドを訪れたのは11月21日午前零時40分ころであり,その時には,Aはベッドを離れ,ベランダから投身自殺を図っていたこと(乙A8・3頁,証人G反訳書5・1頁)がそれぞれ認められる。

(2) しかしながら,前記認定のとおり,Aには,11月20日までの間,差し迫って自殺行動に移る可能性を予測させる言動が見受けられていなかったことからすれば,被告病院従事者らにおいて,Aを常時監視すべき義務があったと認めることはできない。

また,前記認定事実及び後掲証拠によれば,以下の事実が認定できる。

ア 被告病院の看護体制は,日勤と夜勤に分かれており,全ての入院患者につき,全ての看護師のいる場で,口頭による申し送りがされていた(乙A8・1頁,証人G反訳書2・2頁,3頁)。Aについては,衝動的に自傷行為を起こす可能性がある患者であり,看護方針として,不眠,不安,不機嫌などや表情,行動に注意すると共に,訴えを十分に聞くこと,危険物(刃物,コード類など)を身の回りに置かないこと,離院に注意することなどが確認されていた(前記1(3)エ)。

イ 11月20日午後4時30分から翌21日午前8時までの夜勤看護師はG看護師とK看護師の2名で,Aの担当はG看護師であった(乙A8・3頁)。

G看護師は,11月20日午後9時ころ,Aに内服薬を服用させた後,消灯し,午後11時ころにも,Aを見回ったが,その際,Aは寝息を立てて入眠中であった(前記1(11)イ)。

ウ その後もG看護師は,Aの病室の向かいにあった重傷患者を状態観察のため見回った際など,Aの病室に入ってAの様子や戸締まりなどを注意して観察していたが,特に変わりはなく,Aはいずれも入眠中であった(乙A5の2,証人G反訳書2・7頁ないし9頁,反訳書5・17頁)。

エ 11月21日午前零時10分ころ,緊急入院患者がいたため,G看護師は,同日午前零時の定時巡視が遅れ,午前零時40分ころAの病室を訪れたところ,Aは不在であり,G看護師が,病棟,トイレ等を捜した後,午前1時20分ころ,ベランダにスリッパを発見し,Aが中庭に倒れているのが発見された(乙A3・43頁)。

そして,これに加え,前記認定のとおり,Aには,差し迫って自殺行動に移る可能性を予測させる言動が見受けられていなかったこと,夜間,緊急入院があれば,定時巡視の時間が若干ずれるのはやむを得ない事態であることからすれば,被告病院における巡視頻度,看護・監視態勢に不適切な点があったと認めることはできず,被告病院従事者らに,監視を怠った義務違反があると認めることはできない。』

この事案では、自殺前日まで患者に、「差し迫って自殺行動に移る可能性を予測させる」言動が見受けられていなかったことから、被告病院従事者らにおいて患者を常時監視すべき義務があったと認めることはできないとされています。被告病院での夜勤帯の定時巡視は午後8時から翌日午前8時までの2時間ごとの偶数時に行われることになっていましたが、この程度の巡視体制を提供できていれば安全配慮義務違反には至っていないということです。

また、夜間に緊急入院患者が発生した場合などに、定時巡視の時間が若干ずれるのはやむを得ない事態であるとされ、被告病院における巡視頻度,看護・監視態勢に不適切な点があったと認めることはできず,被告病院従事者らに,監視を怠った義務違反があると認めることはできない、とされています。

次に、うつ病の初期と診断され、入院数日前に3回の自殺行動があった、入院患者が、病院から無断外出し、翌日遺体で発見された事案を紹介します。死亡の原因が自殺なのか否かについて不明であり、裁判所は自殺ではないという認定をしたうえで、無断で外出し死亡に行ったことについて病院に過失があるといえるか、具体的に検討した上、過失はないと判断しています。閉鎖病棟に入院するほどの症状ではなかったこと、本人も閉鎖病棟への入院は希望していなかったこと、解放病棟での治療や監視状況からして過失はなったと判断しています。

※新潟地裁平成15年3月19日判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=6527

『前記第2の1(争いのない事実等)及び第3(争点に対する判断)の1並びに弁論の全趣旨によれば,確かに,入院当時Cは自殺が多いとされるうつ病の病初期にあったこと,Cには希死念慮が認められ,被告病院に入院する数日前から3回の自殺行動があったこと,D医師及び被告病院の看護職員はこれらの事情を知っていたことが認められ,これによれば,D医師及び看護職員は,Cを入院させ,診察,看護に当たっては,自殺を含む不慮の事故に備えて,Cの所在や行動等に注意を払うべきものということができる。

しかしながら,他方,前記第2の1及び第3の1並びに弁論の全趣旨によれば,本件においては,当時Cについて閉鎖病棟に入院させる必要があるほど切迫した症状になかったこと,入院に当たり以前入院した病室に入院したいというCの希望が考慮され開放病棟に入院したこと,開放病棟では当然のことながら患者に対しある程度の行動の自由が容認されていること,Cは被告病院に入院後,抑うつ状態が軽快する様子が見られ,穏やかな表情や笑顔も見られたこと,入院中には自殺に繋がるような兆候や病院を出ようとする特異な行動等は全く見られなかったこと,原告は行方不明の前日及び当日午前中にCと面会をしており,その際もCに異常な様子を認めていないこと,被告病院の看護計画では,Cについて入院後しばらくの間1時間置きに所在を確認する方針であったところ,当日午前11時30分前ころ看護職員Hは病棟内を巡回を行い,ホールにいたCに対して食事の時間を告げ,正午ころCは昼食を摂り,同日午後0時30分前後ころHから薬を貰って昼食後の服薬をし,その1時間余り後の午後1時40分ころCの姿が確認できなくなったものであり,ほぼ看護計画に則った所在確認等が行われていたことが認められる。

以上によれば,Cが被告病院に入院後に無断離院して,事故に巻き込まれたりするなど自殺以外の原因で死亡する危険性が高い状況にあったとはいえないことが認められる上,被告病院でとられていた看護計画以上に,被告病院において,Cの行動を絶えず監視して事故死に至らないようにすべき注意義務があるとは到底認めることはできない。』

本件は、入院当時の患者が、自殺が多いとされるうつ病の病初期にあったこと、希死念慮(自殺念慮)が認められ、被告病院に入院する数日前から3回の自殺行動があったこと、医師及び被告病院の看護職員はこれらの事情を知っていたことが認められ、これによれば、担当医師及び看護職員は,患者を入院させ,診察,看護に当たっては,自殺を含む不慮の事故に備えて,患者の所在や行動等に注意を払うべきものと判断されています。

しかしながら、当該事案では、

「当時Cについて閉鎖病棟に入院させる必要があるほど切迫した症状になかったこと」

「入院に当たり以前入院した病室に入院したいというCの希望が考慮され開放病棟に入院したこと」

「Cは被告病院に入院後,抑うつ状態が軽快する様子が見られ,穏やかな表情や笑顔も見られたこと」

「入院中には自殺に繋がるような兆候や病院を出ようとする特異な行動等は全く見られなかったこと」

「親族が行方不明の前日及び当日午前中にCと面会をしており,その際もCに異常な様子を認めていないこと」

「被告病院の看護計画では,Cについて入院後しばらくの間1時間置きに所在を確認する方針であったところ,当日午前11時30分前ころ看護職員Hは病棟内を巡回を行い,ホールにいたCに対して食事の時間を告げ,正午ころCは昼食を摂り,同日午後0時30分前後ころHから薬を貰って昼食後の服薬をし,その1時間余り後の午後1時40分ころCの姿が確認できなくなったものであり,ほぼ看護計画に則った所在確認等が行われていたこと」

これらの事情により、「Cが被告病院に入院後に無断離院して,事故に巻き込まれたりするなど自殺以外の原因で死亡する危険性が高い状況にあったとはいえないことが認められる上,被告病院でとられていた看護計画以上に,被告病院において,Cの行動を絶えず監視して事故死に至らないようにすべき注意義務があるとは到底認めることはできない。」とされ、賠償責任が否定されました。

病院側に安全配慮義務が認められるとしても、それがどのようなレベルのものなのか、更に実際の場面において、それを逸脱した事情があったのかどうか、詳細に検討されることになります。

最後に、うつ病で閉鎖病棟に入院していた患者が、外出のため医師の付き添いのもと閉鎖病棟から出た直後、病院内のトイレに行くといって医師の目を逃れて無断で病院から出て行き5日後に湖で溺死体で発見され自殺と認定された事案です。自殺の予見可能性があったことから、医師にはトイレに行く際も、トイレの外で待機しているだけでは不十分で、窓から出ていくことも予見して目を離さないようにする義務があったとして、病院側の過失を認めています。

※京都地裁令和5年4月26日判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=92294

『ア 被告病院への入院以前の経過の概要

Eは、平成30年2月1日(以下、同年の出来事は月日のみでいう。)、インフルエンザに罹患した後、右耳の難聴や耳鳴を発症し、7月頃から多様な身体症状を訴えてK病院を受診した。

Eは、8月頃から、次第に人格変化や思考能力の低下などを呈するようになり、9月21日には、希死念慮を伴ううつ病と診断され、L病院に医療保護入院をした。

Eは、9月25日、L病院を退院したが、その後、再度症状が悪化し、K病院の精神科に外来通院することとなった。(甲6p7、甲7p159)

イ 被告病院における経過の概要

Eは、10月23日、K病院の紹介によって、被告病院に医療保護入院することとなり、その際、危険回避のため、行動制限の範囲を病棟内のみ・家族同伴外出可と定められた。Eは、同日の診察後、原告Aの付添いで外出した帰りに被告病院外来棟のホールにあるトイレ(以下「本件トイレ」という。)の窓から無断離院した後、医師・看護師同伴の場合のみ外出可と行動制限の範囲が変更された。(甲6p10、11、乙A2p2、6、7)

Eは、11月5日午後2時頃、外出のためにH医師及びJ医師の同伴の下で被告病院の閉鎖病棟を出た。その際、同病院の外来棟のホールにおいて、H医師が上着を取りに行くためにその場を離れた。その後、Eは、J医師に対してトイレに行きたい旨述べ、J医師はこれを承諾した。Eは本件トイレに入り、J医師は、同トイレの出入り口が見えるホール内のソファーに座って待機していたが、数分後に本件トイレ内を見に行くと、Eの姿はなく、Eが本件トイレの窓から無断離院したことが発覚した。(本件事故。乙A2p80)

⑶ Eの死亡

11月10日、Eの遺体が琵琶湖内で発見された(乙A2p92~97)。Eの死

亡時期は11月5日頃(推定)、死亡の原因は溺死と診断され、自殺と判断された(甲2、6p38、弁論の全趣旨)。』

『⑷ 精神科医療に関する医学的知見

ア 離院リスク、自殺リスクの評価に関する知見

(ア)日本精神神経学会精神保健に関する委員会作成の「日常臨床における自殺予防の手引き」(甲12p7、13)

a 社会生活を送る中で、自殺の危険因子に対して保護因子が不足する場合に、例えば自殺念慮を抱くというハイリスクな状態となり、自殺の危 険性を有するに至ると考えられる。

自殺の危険因子としては、個人的因子(過去の自殺企図、精神疾患、絶望感、大きな身体的または慢性的な疾患など)、社会文化的因子(支援を求めることへのスティグマなど)、状況的因子(失業、関係性又は社会性の喪失、自殺手段への容易なアクセスなど)があり、保護因子として は、家族の支援に対する強い結びつきなどがある。

b 自殺念慮の評価につき、評価の基本は患者の訴えを真摯に聞くことであり、繰り返し確認することも必要であること、患者は心理的に追い詰められていても「大丈夫です」と返答する場合があるところ、症状が重篤なために自殺念慮を否定する場合もあり、患者の言葉を鵜呑みにするのは危険である。患者が自殺念慮を否定している場合でも①自殺念慮を表面上否定している、②自殺念慮を表出できない、③自殺念慮を確認できない状態である可能性も検討する。

(イ)日本精神科救急学会作成の「2009年12月9日版精神科救急医療ガイドライン⑶(自殺未遂者対応)」(甲17p20、31)

a 主要な危険因子として、過去の自殺企図・自傷行為歴、職業問題、身体疾患の罹患及びそれらに対する悩み、自殺につながりやすい精神疾患・心理状態・性格等がある。

b 自殺の危険性は変動するため、自殺念慮の評価や危険因子の評価を継続的に繰り返すことが大切である。特に、外出、外泊、退院等の治療環境の変更や精神状態の変化があった場合、ライフイベントが出現した場合などが再評価を行う時期であると考えられる。

(ウ)被告病院事故調査委員会作成の「2019年5月24日付け医療事故調査報告書」(甲6)

患者が、観察上、落ち着き問題ないとみられる状態で、自分の意志で症状を隠す時には、医療者であってもその症状を容易に見抜くことはできない。(甲6p41)

(エ)その他の知見

一般に身体症状を伴ううつ病は、そうでないうつ病と比較すると衝動的な自殺のリスクは低くないとはいえるが、実際に自殺のリスクがあるかどうか、あったとしてその程度については、患者の状態から類推するほかない。(乙B3p1)

イ 無断離院に関する医学的知見

(ア)精神科の入院患者のうち、病識に欠ける者は、治療等の必要がないと考え、無断離院しやすい。(証人F医師)

(イ)被告病院事故調査委員会作成の「2019年5月24日付け医療事故調査報告書」(甲6)

a 離院した事態をもって直ちに自殺リスクがあるとはいえず、離院が治療への抵抗や同意できない状態であると考えれば、自殺のリスクとは分けて検討すべきである。(甲6p43)

b 精神科患者の離院は、重大なリスクとみなして共有し、注意喚起することが必要である。精神科における離院の定義は幅が広く、職員が少し目を離した隙に、患者の姿が見えなくなるような場合、患者本人は離院するつもりでなかったとしても、離院とみなす認識を持つことが求められるほどの重大性がある。(甲6p45、52)

c 一般的に精神科で求められる「患者から離れない」とは文字どおり患者から離れない付添いを意味する。(甲6p49、51)

⑸ 被告病院のマニュアル等の記載

ア 被告病院の無断離院時対応マニュアル(乙A4、5)

(ア)被告病院の無断離院時対応マニュアルには、無断離院の要因として、「病識に乏しく、入院の理由が理解できないため退院の希望が強い」、「自由に行き来できないことに対し不満を抱き、また、閉じ込められているという意識が強く、入院環境そのものや疾患による不安が強い。このような患者が離院する危険性が高い。」との記載がある。

(イ)上記マニュアルには、無断離院の対策として「無断離院の恐れのある患者情報を多職種で共有し、離院防止に努める。」、「医療保護入院中の患者が本館に他科受診や検査に行くときには、入院他科依頼表を『精神保健福祉法により行動制限中です』とかかれた紙と共にクリアファイルはさみ、それを持って出棟する。出棟に付き添うスタッフは患者の側からはなれないようにする。」との記載がある(なお、平成30年2月に改訂された乙A5には後段の記載が欠落しているが、修正しようとして、意図せず脱落したままとなったものであり、医師向けのマニュアルには記載されていた。(甲6p49))。

イ 被告病院の「精神科神経科 医員の業務について(2018 年度版)」(乙A6、以下、上記アのマニュアルと併せて「被告病院マニュアル等」という。)

患者の付添いについて「外出を制限されている患者さんが西病棟を出る必要がある時は医員もしくは研修医が付き添う必要がある。付添中は患者さんから離れない。病棟外で患者さんの付き添いを他のスタッフに引き継ぐ際にはしっかり確認をとること。(重要)」と記載されている。

2 無断離院防止義務としての付添義務違反(争点3)について

本件事案の内容に鑑み、争点3につき、まず判断する。

⑴ア Eは、医療保護入院患者であり、医学的に入院強制が必要とされた患者であったことからすると、一般的に、無断離院等の危険行動に及ぶ危険性があったといえる。もっとも、精神病院における閉鎖処遇下の患者であっても、患者ごとにその病状は様々であり、病状の内容・程度により必要となる措置にも差異があるといえるから、被告病院が、Eについて無断離院等の危険行動を防止するための具体的な措置を講じるべき注意義務を負うというためには、本件事故当時のEの病状その他の言動及び本件事故当時の様子を踏まえて判断する必要があるというべきである。

イ そこで、前記認定事実に基づき、Eの被告病院入院時、入院後の病状、本件事故当時の状況等を検討するに、以下の点を指摘することができる。

(ア) Eは、被告病院入院前、K病院において希死念慮を伴ううつ病と診断され、病状が不安定で今後も予断を許さないとされ、自責的な様子もみられた(認定事実⑴ク(イ))。

なお、この点につき、被告は、10月22日付の診療情報提供書(乙A1)には、9月21日の診察時は希死念慮を伴ううつ病と判断されたが、その後、精神病圏の疾患と考えてサインバルタ(抗うつ薬)からロナセン(非定型抗精神病薬)に処方薬が変更されており、希死念慮を伴ううつ病との診断は変更されていると主張し、上記提供書は、傷病名を「精神病圏の精神疾患の疑い」と記載していることが認められるが、上記提供書記載の経過をみると、9月21日の診察時の所見(希死念慮を伴ううつ病)をもとにL病院に医療保護入院し、その後数日で退院したが、症状が再度悪化し投薬処方を変えて様子を見ている中で被告病院へ紹介されたもので、10月22日時点では一時の自殺念慮や混乱は軽減していたものの、病状が不安定で今後も予断を許さないとされ、Eが自責的になっていること等の病状説明に基づき、被告病院へ紹介されていることからすると、9月21日以降大きな病状変化が生じていたとは認め難い。

(イ) Eには、病識がなく、被告病院における入院治療に対して拒否的な態度であった(認定事実⑵ア(ア))。病識に欠ける者は、治療等の必要がないと考え、無断離院しやすいとされる(同⑷イ(ア))。

(ウ) Eは、被告病院への入院初日である10月23日に、家族同伴外出可とする行動制限を受けている中で、妻を同伴者とする外出の際、本件トイレの窓から脱出し、病院敷地外で発見された。Eに無断離院があった経緯を受けて、医師・看護師同伴の場合外出可へと行動制限が強化された(認定事実⑵ア(イ))。

(エ) 10月24日には出入り業者の後ろに続いて病棟を出た(認定事実⑵イ(ウ))。

(オ) 10月27日、廊下の窓を開けて顔を外に出そうとしたり、ライトコート内を何度ものぞいていたことがあり、離院リスクが高い、突発的な行動も予測されるため、不審な行動がないかモニターで注意し観察する必要があると判断された(認定事実⑵エ)。

(カ) 10月30日、H医師の病歴聴取の際、Eは、K病院精神科通院時の話として、薬でおかしくなること等からいらいらして逃げ出したくなったため、待合室から逃げた後、死にたくなって近くの竹やぶに入り、高い木に登ったが、落ちる勇気がなくそのまま降りた旨を話した(認定事実⑵カ)。

(キ) 11月1日、I医師の診察の際、四肢と顔の右側のしびれ、顎のしびれ、だるい感じ等を訴え、顔面運動・感覚には問題はないとされたものの精神病症状の出現がないか注意を払う必要があるとされた。Eは、その後も右耳から頭にかけて今までにない感じの継続的な痛みを訴え、同月2日から4日にかけても、顔面の痺れ、局部の硬さや排尿困難、残尿感等を訴えており、不安の増強が疑われた(認定事実⑵ク(ウ)(エ)、同ケ、コ、サ)。

(ク) 本件事故当日、Eは、不眠、手足のしびれ等があり、全体として調子は良くない旨訴えていたが、現在までの検査で器質的原因は明らかではなく、訴えが多い背景には不安の強さもあると考えられた(認定事実⑵シ(イ))。

ウ 以上に認定した被告病院入院前の状況(9月21日に希死念慮を伴ううつ病と診断され、病状が不安定で予断を許さない状態とされた状況から大きな病状変化があるとは認め難い状況で被告病院入院に至った)、被告病院入院後の経緯・状況(病識がなく入院に拒否的で、入院初日には、本件事故と同様本件トイレの窓から脱出し無断離院をしており、その後の行動からも離院リスクが高い、突発的な行動も予測されるとして、注意して観察する必要があるなどとされた)、本件事故当日の状況(不眠や体調の不良の訴えがあり、不安が強いことが確認された)を総合考慮すると、本件事故当時、Eには病状が不安定で、不安が強い状況が認められ、衝動的な自傷・自殺のリスクが相応にあるとともに無断離院等の危険行動に及ぶ具体的な危険性があったといえ、被告病院においてもこれを予見することが可能であったということができる。

そして、無断離院やその危険性のある行動をとっていたこと等を含むEの状況に加え、被告病院マニュアル等において、患者の出棟に付き添うスタッフは患者の側から離れないようにしなければならないとされていたことを踏まえると、本件事故当時、閉鎖病棟外でEに付き添うに際し、H医師及びJ医師は、Eの側を離れないようにすべきものであり、随時本件トイレの中の様子をうかがうなど本件トイレ内にいるEの動静を確認することができる状態で付添いをすべき義務を負っていたというべきであるし、H医師において一時的に付添いを離れるのであれば、J医師が精神科における研修初日の研修医であることに鑑み、Eの上記入院時の状況等を伝えるなどして、Eの動静を確認できる状態で付添いをすべきことを指導すべき義務を負っていたといえる。

エ ところがH医師は、J医師に対して上記指導をすることなく付添いから離れ、かつ、J医師は、Eの動静を確認することができない位置で数分程度待機していたというのであるから、H医師及びJ医師は、上記義務を怠った注意義務違反があるといわざるを得ない。

⑵ア これに対し、被告は、本件事故当時Eの症状は安定し、離院リスクも軽減していた上、自傷他害のおそれは低く、仮に離院しても重大な結果が生じる可能性は低かったことからすると、医師同伴の外出中に本件トイレを利用するときのEの動静を監視する義務はなかった旨主張し、被告提出の意見書(乙B2、B3。以下「被告意見書」という。)にはこれに沿う部分がある。

しかし、Eには、本件事故当時、無断離院等の危険行動に及ぶ具体的な危険性があり、自傷・自殺リスクも相応に認められることは前記⑴のとおりである。

自傷・自殺のリスクに関して補足するに、診療情報提供書(乙A1)に記載のとおり、Eが、9月19日死にたくなって近くの竹やぶに入り、高い木に登ったが落ちる勇気がなくてそのまま降りた旨述べていたこと、9月21日K病院において希死念慮を伴ううつ病と診断されたこと、その後も病状が不安定で今後も予断を許さないとされていたことからすれば、被告病院への入院時点において、Eに、自傷・自殺のリスクが相応にあったことは否定し難い。そして、Eは、被告病院入院後も、多様な身体症状を訴え続けており、突発的な行動に出る危険性が指摘され、本件事故当時まで、不安の増強も考えられていた状態であり、Eの状態が安定していたとか、寛解していたとはいえない。なお、Eは10月29日に医師の付添いにより30分ほどの外出ができているが、Eの上記病状経過からすると、上記の認定に影響を及ぼすほどの事情であるとは解されない。また、本件事故当時は、被告病院入院から約2週間しか経過しておらず、病歴聴取を終えた段階であり、今後さらに症状の把握に努め、治療方針等を決定する予定で、病名等の診断は未了の段階であり、現に、本件事故当時も未だEの行動制限の程度は緩和されていなかった。

これらの点を踏まえると、本件事故当時、Eの自傷・自殺リスクがほとんどない状態であるとか、自傷・自殺のリスクを念頭に置いた処置が不要といえるような状態であったとまでは認められない。

以上によると、本件事故当時のEの状態が、行動制限に従って付添いを行う医師において、Eの動静を確認することができない方法による付添いが許容されるほどの状態であったとは認め難く、付添義務に関し、被告病院マニュアル等に沿った前記⑴認定の内容から緩和される状況であったとはいえないから、被告の上記主張は採用することができない。

イ 被告意見書において、付添いの方法について、本件トイレの中まで付添いを行った場合のEの不快感等を考慮すれば、本件トイレの外で待機することは適切な付添方法であったと考えられる旨の指摘がある。

しかし、本件事故当時、Eの動静を確認することができない方法による付添いが許容されるほどの状態であったとはいえないことは上記ア認定のとおりであり、Eに一定の不快感等を与え得るとしても、付添いの必要性、重要性を考慮すれば、Eの動静を確認することができる状態での付添義務を課すことが不当であるとはいえない。

ウ また、被告意見書には、精神科に入院する患者による無断離院をなくそうとすると強度な行動制限を課すことになり開放医療の必要性に反するとの指摘がある。

しかし、Eは閉鎖処遇で行動制限を課されている患者であり、本件で問題となる注意義務は、Eに無断離院等の危険行動に及ぶ具体的な危険性、自傷・自殺のリスクが相応にあるといえる状況下において、医師同伴の外出時に、以前に本件トイレの窓から脱出したことがあることを含む病状や行動歴を踏まえ、Eが本件トイレを利用する際の付添の在り方に関する注意義務であって、既に課されている行動制限の適切な実施を求めるものにすぎず、より強度な行動制限を課すことを求めるものではないから、上記指摘は本件に係る判断を左右しない。

⑶ なお、以上の認定判断に関し、被告は、被告病院のスタッフは、Eが被告病院への入院初日に本件トイレから離院したことは共有していたが、同トイレの窓から離院したことは知らなかった旨主張し、M精神保健福祉士は、当時、原告AからEが本件トイレから逃げたと聞いたのみで、その余の情報については聞いていない旨証言する。

しかし、原告Aは、M精神保健福祉士に対して、買い物の帰りに、Eが本件トイレから出てこないので確認したところ、Eが本件トイレの窓から離院したと伝えた旨、相反する供述をする。そして、被告病院の診療記録(乙A2p6)には、入力者をM精神保健福祉士として、「妻と一緒に買い物に行った帰り、外来のトイレに行ったが中々トイレから出て来なかった為、不信(ママ)に思った妻がトイレを確認。本人はトイレにいなかった。『逃げ出した~。』と妻が言い病院の外を探しに行った。」という記載があるところ、本件トイレの外で待機していた妻がトイレの中を確認すると、いなかったとのことで、本件トイレの窓の設置状況等を踏まえれば、トイレの出入口を通らずに外出した可能性をうかがわせる記載である。原告Aの上記供述は、かかる診療記録の記載にも沿うものであり、その内容としても特に不自然な点はなく、信用することができる。

他方、M精神保健福祉士の証言に関しては、診療記録には買い物の帰りに離院が発生したといった情報等も記載している点で、現時点での上記証言は、診療記録の記載に照らしても客観的正確性に疑問が残る。また、無断離院が精神科において、重大なリスクとみなして共有し注意喚起することが必要とされる(認定事実⑷イ(イ))ことからすると、無断離院を避けるための行動制限下で無断離院が発生し、患者を捜索する際には離院の具体的状況等について聴取をするのが自然と解されるし、原告Aが伝えないということも考えにくい。

そうすると、前記M精神保健福祉士の証言部分は、信用性の認められる原告Aの供述に照らし、採用できないといわざるを得ない。

したがって、Eが、被告病院の入院初日に、本件トイレの窓から無断離院をしたことは、被告病院のスタッフに報告されており、共有し得た事実というべきであり、前記認定判断が前提とする同事実に対する被告の上記主張は採用できない。

もっとも、診療記録の記載からも、行動制限下で同伴者のいる外出時に外来棟のトイレに行き、同伴者がEの動静を確認しにくい状況を利用して無断離院をしたとの情報が被告病院のスタッフに共有されていたことは明らかである。

かかる情報を前提として、Eに対して、医師・看護師同伴の場合のみ外出可とする行動制限が定められ、そこで要求される付添義務の内容は、前記認定のとおりと解されるところであって、被告病院において、本件トイレの窓から離院したとの離院方法が明確に共有されていなかったとしても、本件における付添義務の具体的内容が異なるとはいえない。

原告らは、上記離院方法に関する情報共有義務違反も主張するが、無断離院防止義務の一内容として、付添義務の内容の前提となるものと解されるから、別途評価すべきものとはいえない。

3 自殺防止義務としての自殺リスク評価検討義務違反(争点1)について

原告らは、Eが被告病院入院当初から自殺リスクが高いとうかがわれる状況にあったことを前提に、被告病院医師らには、Eの自殺念慮の有無を確認し、過去の自殺企図歴、うつ病を含む精神疾患の可能性、離院リスクの高まり、その他の危険因子に関する情報を適切に収集し、それらの情報を踏まえて自殺リスクの評価検討を継続的に行う義務があったにもかかわらず、これを怠ったと主張する。

しかし、Eに自傷・自殺のリスクが相応にあったことは前記2のとおりであるが、前記認定事実によれば、被告病院入院当時、Eは、同病院入院前にみられた一時の自殺念慮や混乱については、その程度が軽減した状態であったとみられ、被告病院入院後におけるEの一連の言動をみても、具体的な自殺の危険性が切迫していたとか、危険性が高まっていたとうかがわせるほどの言動まではみられない。したがって、上記原告らの主張は前提を欠き、採用できない。

4 無断離院防止義務(付添義務)違反とEの死亡との相当因果関係(争点4)について

⑴ 被告は、自殺の具体的かつ切迫した危険がない場合は、Eが無断離院をしたからといって、自殺することを予見できないから、無断離院防止義務違反と結果発生(自殺)との間に相当因果関係はないと主張する。

そこで、本件事故当時のEの状態に鑑み、被告病院医師らの上記注意義務違反により無断離院したことと自殺との間に相当因果関係が認められるか検討する。

Eは、被告病院入院の約1か月ほど前に、希死念慮を伴ううつ病と診断されてL病院に医療保護入院したことがあり、その際は、入院後落ち着いていると判断され数日で退院したが、病状が再度悪化し、薬による悪影響の可能性や見立ての変更などを行う状況で、家族には病状は不安定で今後も予断を許さない、薬物調整には時間が掛かる、Eは自責的になっていることなどの説明がなされ、被告病院が紹介されていること(認定事実⑴)からすると、被告病院入院時には症状は相当不安定であったといえる。そして、被告病院入院後も、前記2⑵のとおり、Eの状態は特に安定していたとか、寛解していたといえる状態ではなく、突発的、衝動的な自傷・自殺のリスクは相応にある状態であった。

このようなEの状況に加え、Eが無断離院をし、直ちに同人を発見、確保できない場合には、被告病院の看護下を離れたことで適切な治療等を受けられないことや環境変化等による症状の悪化等が生じ得るといえるし、行動が何ら制限されていないことから自殺も容易となるといえる。

⑵ 以上のEの被告病院入院時の状況、その後本件事故までの経過の中で症状が安定したとか寛解したなどとはいえないこと、無断離院後の病状悪化の可能性、自殺の容易性等を踏まえると、Eが無断離院をして自殺に至る可能性は十分に認められ、被告病院医師らにおいてもかかる経過について予見することは可能であるし、予見すべき範囲内のものといえる。

したがって、被告病院医師らの付添義務違反とEの自殺との間には相当因果関係があると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。

5 過失相殺等(争点5)について

前記認定事実によれば、Eは、被告病院への入院時、希死念慮を伴ううつ病との診断を受けた経緯があり、病状が不安定で予断を許さない、自責的になっているとされていたものの、自殺の具体的な危険が切迫したという状況にはなかったこと、本件事故当時、まだ被告病院入院から約2週間程度経過したところで、被告病院においては、Eの治療方針等につき、今後決定していく予定とされ、病名等の診断は未了の段階であったこと、E自身、早く退院するために医療関係者らに意図的に嘘をついていたなど、Eの病状の把握が困難な面もあったといえること(かかる嘘をついていたことや原告Aに対するメッセージ等について、原告Aも、切迫した危険の徴候として被告病院のスタッフに報告することなどはしておらず、上記の治療段階に照らせば、原告Aからの情報収集をしていなかったことが被告病院医師らに直ちに帰責されるべきものとまではいえない。そうすると、上記の事情は、被告病院医師らによる病状把握が困難であった事情として、被告の損害分担を軽減する事情と解するのが相当である。)、そして、Eの死は、上記状況の下で、Eが自殺に及んでしまったことによって生じたものであることなどの事情が認められる。

これらの事情に鑑みれば、損害の公平な分担を趣旨とする民法722条2項、418条の法理を類推適用し、上記各事情その他本件に顕れた一切の事情を考慮した上、原告らの損害のうちその5割を減額して、被告に負担させるのが相当である。』

この裁判例は、5割の過失相殺の減額を経て、病院から遺族側に合計2830万円の賠償が命ぜられたものでした。

この判例では、病院と医師が提供すべき医療水準を示すものとして、次の資料が引用されました。精神科医療に携わる者が考慮すべき事情として、間接的に入院契約の安全配慮義務を規定する資料の一部とされているのです。

『日本精神神経学会精神保健に関する委員会作成の「日常臨床における自殺予防の手引き」』

『日本精神科救急学会作成の「2009年12月9日版精神科救急医療ガイドライン⑶(自殺未遂者対応)」』

『被告病院の無断離院時対応マニュアル』

『被告病院の「精神科神経科医員の業務について(2018年度版)」』

また、賠償責任を判断するにあたって考慮された事情は、次の通りでした。

・自殺の約2か月前から、次第に人格変化や思考能力の低下などを呈するようになり、希死念慮を伴ううつ病と診断され、別の病院に医療保護入院した

・1度目の医療保護入院から退院した後に、再度症状が悪化し、被告病院に医療保護入院することとなった

・被告病院が紹介されたとき、家族には病状は不安定で今後も予断を許さない、薬物調整には時間が掛かる、Eは自責的になっていることなどの説明がなされていたこと

・入院当初、危険回避のため、行動制限の範囲を病棟内のみ・家族同伴外出可と定められた

・Eは、被告病院への入院初日である10月23日に、家族同伴外出可とする行動制限を受けている中で、妻を同伴者とする外出の際、本件トイレの窓から脱出し、病院敷地外で発見された

・Eに無断離院があった経緯を受けて、医師・看護師同伴の場合外出可へと行動制限が強化された

・10月24日には出入り業者の後ろに続いて病棟を出た

・10月27日、廊下の窓を開けて顔を外に出そうとしたり、ライトコート内を何度ものぞいていたことがあり、離院リスクが高い、突発的な行動も予測されるため、不審な行動がないかモニターで注意し観察する必要があると判断された

・10月30日、H医師の病歴聴取の際、Eは、K病院精神科通院時の話として、薬でおかしくなること等からいらいらして逃げ出したくなったため、待合室から逃げた後、死にたくなって近くの竹やぶに入り、高い木に登ったが、落ちる勇気がなくそのまま降りた旨を話した

・Eは、11月5日午後2時頃、外出のためにH医師及びJ医師の同伴の下で被告病院の閉鎖病棟を出た。その際、同病院の外来棟のホールにおいて、H医師が上着を取りに行くためにその場を離れた。その後、Eは、J医師に対してトイレに行きたい旨述べ、J医師はこれを承諾した。Eは本件トイレに入り、J医師は、同トイレの出入り口が見えるホール内のソファーに座って待機していたが、数分後に本件トイレ内を見に行くと、Eの姿はなく、Eが本件トイレの窓から無断離院したことが発覚した。11月10日、Eの遺体が琵琶湖内で発見された(乙A2p92~97)。Eの死亡時期は11月5日頃(推定)、死亡の原因は溺死と診断され、自殺と判断された。

・E自身、早く退院するために医療関係者らに意図的に嘘をついていたなど、Eの病状の把握が困難な面もあったといえること

このような状況下では、Eが無断離院をして自殺に至る可能性は十分に認められ、被告病院医師らにおいてもかかる経過について予見することは可能であるし、予見すべき範囲内のものといえから、被告病院医師らの付添義務違反とEの自殺との間には相当因果関係があると認められました。病状が不安定な状態の時に、家族との外出時に無断離院したトイレに、付き添いをせずに一人で行かせたことに医師の過失があったと判断されたのです。特に、入院後に自殺未遂や無断離院が実際に発生している事例では、病院側の注意義務は加重されていくものと考えることができるでしょう。

4、御相談の事例

本件では、入院して3か月後に息子様の外出制限が解除された直後に飛び降り自殺してしまったということです。外出制限の解除をした医師の判断が適切だったのかどうか問題になり得る事案と言えます。外出制限解除時の息子様の病状がどうだったのか、詳細に検討する必要があります。息子様の病状は改善傾向にあったのか、悪化しつつあったのか、具体的資料で立証する必要があります。当時の問診内容や投薬状況など総合的に判断して、担当医師・病院の法的責任の有無が判断されることになります。

ご紹介した判例などから、判断材料となる事項を列挙致します。

・息子様の診断名(病名)、その疫学的な自殺危険度

・病状の方向性、快方か悪化か

・希死念慮の有無、また、その強さ

・自殺未遂の有無、その回数

・入院してからの無断離院の有無、その方法、その回数

・入院時の処遇方法(開放処遇、制限処遇)の説明はどうだったか、それに対して患者側より自殺防止措置についてどのような要請をしたか

・転落死のリスクのあるベランダ構造があったか、刃物類、コード類など自殺リスクを高める備品の管理に不備が無かったか

・病院の患者巡視体制はどうだったか、それが守られていたかどうか

・入院してからの態度、治療や服薬に素直に従っていたか

・WHOによる「自殺予防の手引き」に準拠した措置があったか

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/67603/WHO_MNH_MBD_00.4_jpn.pdf

・日本精神医学会による「日常臨床における自殺予防の手引き」に準拠した措置があったか

https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/journal/suicide_prevention_guide_booklet.pdf

参考措置1、病院と保健所で人事交流し、保健所の精神担当保健師が病院に出向しているような体制をとり、保健所の精神保健福祉相談員と連携して、地域の社会資源につなげていく支援を行っているか。

参考措置2、本人の様子、背景事情、本人の対応能力・周囲の支援力、対応、帰結で構成されている自殺リスクアセスメントシートが活用されているか。

参考措置3、自殺関連問題を扱った研修(全職種参加によるロール・プレイング研修)が行われているか。疾患や状況を実務的な内容で設定し、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、心理士、薬剤師、事務まで含めた全職員が参加する。

息子様は、入院して3か月が経過し、病状も快方に向かっており、希死念慮も観察されず、自殺未遂や無断離院の前例も無かったという事ですから、上記判例の枠組みからみれば病院側の賠償責任を問うことは難しいかもしれません。一般的には困難な事案と言えますがどうしても納得できないという場合には、一度弁護士事務所に御相談なさってみると良いでしょう。

以上

関連事例集

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※参照条文・判例

精神福祉保健法

第36条(処遇)

1項 精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。

2項 精神科病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であつて、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。

3項 第一項の規定による行動の制限のうち、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動の制限は、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。

第37条

1項 厚生労働大臣は、前条に定めるもののほか、精神科病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。

2項 前項の基準が定められたときは、精神科病院の管理者は、その基準を遵守しなければならない。

3項 厚生労働大臣は、第一項の基準を定めようとするときは、あらかじめ、社会保障審議会の意見を聴かなければならない。

○精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準

(昭和六十三年四月八日、厚生省告示第百三十号)

精神保健法(昭和二十五年法律第百二十三号)第三十七条第一項の規定に基づき、厚生大臣が定める処遇の基準を次のように定め、昭和六十三年七月一日から適用する。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準

(平一二厚告九七・題名追加、平一二厚告五三七・改称)

第一 基本理念

入院患者の処遇は、患者の個人としての尊厳を尊重し、その人権に配慮しつつ、適切な精神医療の確保及び社会復帰の促進に資するものでなければならないものとする。また、処遇に当たつて、患者の自由の制限が必要とされる場合においても、その旨を患者にできる限り説明して制限を行うよう努めるとともに、その制限は患者の症状に応じて最も制限の少ない方法により行われなければならないものとする。

第二 通信・面会について

一 基本的な考え方

(一) 精神科病院入院患者の院外にある者との通信及び来院者との面会(以下「通信・面会」という。)は、患者と家族、地域社会等との接触を保ち、医療上も重要な意義を有するとともに、患者の人権の観点からも重要な意義を有するものであり、原則として自由に行われることが必要である。

(二) 通信・面会は基本的に自由であることを、文書又は口頭により、患者及びその家族等(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第五条第二項に規定する家族等をいう。以下同じ。)その他の関係者に伝えることが必要である。

(三) 電話及び面会に関しては患者の医療又は保護に欠くことのできない限度での制限が行われる場合があるが、これは、病状の悪化を招き、あるいは治療効果を妨げる等、医療又は保護の上で合理的な理由がある場合であつて、かつ、合理的な方法及び範囲における制限に限られるものであり、個々の患者の医療又は保護の上での必要性を慎重に判断して決定すべきものである。

二 信書に関する事項

(一) 患者の病状から判断して、家族等その他の関係者からの信書が患者の治療効果を妨げることが考えられる場合には、あらかじめ家族等その他の関係者と十分連絡を保つて信書を差し控えさせ、あるいは主治医あてに発信させ患者の病状をみて当該主治医から患者に連絡させる等の方法に努めるものとする。

(二) 刃物、薬物等の異物が同封されていると判断される受信信書について、患者によりこれを開封させ、異物を取り出した上、患者に当該受信信書を渡した場合においては、当該措置を採つた旨を診療録に記載するものとする。

三 電話に関する事項

(一) 制限を行つた場合は、その理由を診療録に記載し、かつ、適切な時点において制限をした旨及びその理由を患者及びその家族等その他の関係者に知らせるものとする。

(二) 電話機は、患者が自由に利用できるような場所に設置される必要があり、閉鎖病棟内にも公衆電話等を設置するものとする。また、都道府県精神保健福祉主管部局、地方法務局人権擁護主管部局等の電話番号を、見やすいところに掲げる等の措置を講ずるものとする。

四 面会に関する事項

(一) 制限を行つた場合は、その理由を診療録に記載し、かつ、適切な時点において制限をした旨及びその理由を患者及びその家族等その他の関係者に知らせるものとする。

(二) 入院後は患者の病状に応じできる限り早期に患者に面会の機会を与えるべきであり、入院直後一定期間一律に面会を禁止する措置は採らないものとする。

(三) 面会する場合、患者が立会いなく面会できるようにするものとする。ただし、患者若しくは面会者の希望のある場合又は医療若しくは保護のため特に必要がある場合には病院の職員が立ち会うことができるものとする。

第三 患者の隔離について

一 基本的な考え方

(一) 患者の隔離(以下「隔離」という。)は、患者の症状からみて、本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に、その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるものとする。

(二) 隔離は、当該患者の症状からみて、その医療又は保護を図る上でやむを得ずなされるものであつて、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。

(三) 十二時間を超えない隔離については精神保健指定医の判断を要するものではないが、この場合にあつてもその要否の判断は医師によつて行われなければならないものとする。

(四) なお、本人の意思により閉鎖的環境の部屋に入室させることもあり得るが、この場合には隔離には当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による入室である旨の書面を得なければならないものとする。

二 対象となる患者に関する事項

隔離の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、隔離以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合

イ 自殺企図又は自傷行為が切迫している場合

ウ 他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為が認められ、他の方法ではこれを防ぎきれない場合

エ 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合

オ 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合

三 遵守事項

(一) 隔離を行つている閉鎖的環境の部屋に更に患者を入室させることはあつてはならないものとする。また、既に患者が入室している部屋に隔離のため他の患者を入室させることはあつてはならないものとする。

(二) 隔離を行うに当たつては、当該患者に対して隔離を行う理由を知らせるよう努めるとともに、隔離を行つた旨及びその理由並びに隔離を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。

(三) 隔離を行つている間においては、定期的な会話等による注意深い臨床的観察と適切な医療及び保護が確保されなければならないものとする。

(四) 隔離を行つている間においては、洗面、入浴、掃除等患者及び部屋の衛生の確保に配慮するものとする。

(五) 隔離が漫然と行われることがないように、医師は原則として少なくとも毎日一回診察を行うものとする。

第四 身体的拘束について

一 基本的な考え方

(一) 身体的拘束は、制限の程度が強く、また、二次的な身体的障害を生ぜしめる可能性もあるため、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置として行われる行動の制限であり、できる限り早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならないものとする。

(二) 身体的拘束は、当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動の制限であり、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。

(三) 身体的拘束を行う場合は、身体的拘束を行う目的のために特別に配慮して作られた衣類又は綿入り帯等を使用するものとし、手錠等の刑具類や他の目的に使用される紐、縄その他の物は使用してはならないものとする。

二 対象となる患者に関する事項

身体的拘束の対象となる患者は、主として次のような場合に該当すると認められる患者であり、身体的拘束以外によい代替方法がない場合において行われるものとする。

ア 自殺企図又は自傷行為が著しく切迫している場合

イ 多動又は不穏が顕著である場合

ウ ア又はイのほか精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合

三 遵守事項

(一) 身体的拘束に当たつては、当該患者に対して身体的拘束を行う理由を知らせるよう努めるとともに、身体的拘束を行つた旨及びその理由並びに身体的拘束を開始した日時及び解除した日時を診療録に記載するものとする。

(二) 身体的拘束を行つている間においては、原則として常時の臨床的観察を行い、適切な医療及び保護を確保しなければならないものとする。

(三) 身体的拘束が漫然と行われることがないように、医師は頻回に診察を行うものとする。

第五 任意入院者の開放処遇の制限について

一 基本的な考え方

(一) 任意入院者は、原則として、開放的な環境での処遇(本人の求めに応じ、夜間を除いて病院の出入りが自由に可能な処遇をいう。以下「開放処遇」という。)を受けるものとする。

(二) 任意入院者は開放処遇を受けることを、文書により、当該任意入院者に伝えるものとする。

(三) 任意入院者の開放処遇の制限は、当該任意入院者の症状からみて、その開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合にのみ行われるものであって、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあってはならないものとする。

(四) 任意入院者の開放処遇の制限は、医師の判断によって始められるが、その後おおむね七十二時間以内に、精神保健指定医は、当該任意入院者の診察を行うものとする。また、精神保健指定医は、必要に応じて、積極的に診察を行うよう努めるものとする。

(五) なお、任意入院者本人の意思により開放処遇が制限される環境に入院させることもあり得るが、この場合には開放処遇の制限に当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による開放処遇の制限である旨の書面を得なければならないものとする。

二 対象となる任意入院者に関する事項

開放処遇の制限の対象となる任意入院者は、主として次のような場合に該当すると認められる任意入院者とする。

ア 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に悪く影響する場合

イ 自殺企図又は自傷行為のおそれがある場合

ウ ア又はイのほか、当該任意入院者の病状からみて、開放処遇を継続することが困難な場合

三 遵守事項

(一) 任意入院者の開放処遇の制限を行うに当たっては、当該任意入院者に対して開放処遇の制限を行う理由を文書で知らせるよう努めるとともに、開放処遇の制限を行った旨及びその理由並びに開放処遇の制限を始めた日時を診療録に記載するものとする。

(二) 任意入院者の開放処遇の制限が漫然と行われることがないように、任意入院者の処遇状況及び処遇方針について、病院内における周知に努めるものとする。

※参考判例

令和3年(受)第968号 損害賠償請求事件

最高裁判所令和5年1月27日 第二小法廷判決

主 文

1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

2 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。

3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理 由

上告代理人森脇正、同寺内沙由貴の上告受理申立て理由第2及び第3について

1 本件は、統合失調症の治療のため、上告人の設置する香川県立丸亀病院(以

下「本件病院」という。)に入院した患者(以下「本件患者」という。)が、入院中に無断離院をして自殺したことについて、本件患者の相続人である被上告人が、上告人には、診療契約に基づき、本件病院においては無断離院の防止策が十分に講じられていないことを本件患者に対して説明すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った説明義務違反があるなどと主張して、上告人に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求する事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

本件患者は、平成7年頃から、複数の精神科病院に入通院していたところ、平成8年8月、本件病院を受診し、統合失調症と診断された。以後、本件患者は、本件病院において統合失調症の治療を受けるようになり、平成21年7月までの間に、合計6回にわたり、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)22条の4第2項(平成25年法律第47号による改正前のもの)にいう任意入院者として入院した(以下、同項にいう任意入院者としての入院を「任意入院」という。)。上記各入院中、本件患者が自傷行為や自殺企図に及んだことはなく、無断離院をしたこともなかった。

本件患者は、平成21年11月26日、統合失調症の治療のため、本件病院

に任意入院(以下「本件入院」という。)をした。

本件患者は、本件入院に際して、主治医から、本件入院中の処遇につき、原則として、開放的な環境での処遇(本人の求めに応じ、夜間を除いて病院の出入りが自由に可能な処遇をいう。以下「開放処遇」という。)となるが、治療上必要な場合には、開放処遇を制限することがある旨等が記載された書面を交付された。

本件病院の精神科においては、任意入院者は、原則として、入院後しばらくの間病棟からの外出を禁止されるが、その後、症状が安定し、主治医において自傷他害のおそれがないと判断したときは、本件病院の敷地内に限り単独での外出を許可されていた(以下、病棟から上記敷地内への外出を「院内外出」という。)。

病棟の出入口は、常時施錠されており、単独での院内外出を許可されている任意入院者が院内外出をするときは、鍵を管理している看護師にその旨を告げ、看護師が上記出入口を開錠するなどして、当該任意入院者を病棟から出入りさせていた。

また、本件病院の敷地は、門扉が設置された1箇所を除き塀で囲まれていたが、上記門扉は、平日の日中は開放され、その付近に守衛や警備員はおらず、監視カメラ等も設置されていなかった。

本件患者は、本件入院当初、病棟からの外出を禁止されていたが、平成21年12月1日から、単独での院内外出を許可された。その後、主治医の判断により、単独での院内外出を禁止される期間もあったが、平成22年6月16日には、再び単独での院内外出を許可された。

本件患者は、平成22年7月1日、看護師に対し、本件病院の敷地内の散歩を希望する旨を告げて病棟から外出し、そのまま本件病院の敷地外に出た後、本件病院の付近の建物から飛び降りて自殺した。当時、本件患者は、単独での院内外出を許可されていたが、上記敷地外への単独での外出は許可されていなかった。

なお、本件患者は、本件入院中、自殺企図に及んだり、希死念慮を訴えたりすることはなかった。

精神保健福祉法36条1項は、精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができると規定する。そして、同法37条1項の委任に基づき厚生労働大臣が精神科病院に入院中の者の処遇について定めた「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第37条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」(昭和63年厚生省告示第130号)は、任意入院者は、原則として、開放処遇を受けるものとし、開放処遇の制限は、当該任意入院者の症状からみて、その開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合にのみ行われる旨定めている。

本件入院当時、精神科病院の中には、無断離院の可能性が高い患者に対しては、院内の移動に際して付添いを付けたり、徘徊センサーを装着したりするといった対策を講じている病院もあった。もっとも、多くの精神科病院においてこれらの対策が講じられていたわけではなかったし、本件入院当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準において、無断離院の防止策として徘徊センサーの装着等の措置を講ずる必要があるとされていたわけでもなかった。

3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、説明義務違

反を理由とする被上告人の損害賠償請求を一部認容した。

統合失調症の治療のため任意入院をしている患者は、一般に無断離院をして自殺する危険性が高いという特質を有すること、本件患者も、本件入院に際して、自らが自傷他害に及ぶおそれがあると認識し、本件病院に入院することにより適切に自己の症状が管理されると期待していたと推認されること等に照らせば、本件患者と上告人との間で締結された診療契約においては、本件病院における無断離院の防止策の有無及び内容が契約上の重大な関心事項になっていたということができる。そうすると、上告人は、本件患者に対し、無断離院の防止策を講じている他の病院と比較した上で入院する病院を選択する機会を保障するため、本件病院の医師を通じて、本件病院においては、平日の日中は敷地の出入口である門扉が開放され、通行者を監視する者がおらず、任意入院者に徘徊センサーを装着するなどの対策も講じていないため、単独での院内外出を許可されている任意入院者は無断離院をして自殺する危険性があることを説明すべき義務を負っていたというべきであり、上告人にはこれを怠った説明義務違反がある。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次

のとおりである。

前記事実関係等によれば、任意入院者は、その者の症状からみて医療を行い、又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合を除き、開放処遇を受けるものとされており、本件入院当時の医療水準では無断離院の防止策として徘徊センサーの装着等の措置を講ずる必要があるとされていたわけでもなかったのであるから、本件病院において、任意入院者に対して開放処遇が行われ、無断離院の防止策として上記措置が講じられていなかったからといって、本件病院の任意入院者に対する処遇や対応が医療水準にかなうものではなかったということはできない。

また、本件入院当時、多くの精神科病院で上記措置が講じられていたというわけではなく、本件病院においては、任意入院者につき、医師がその病状を把握した上で、単独での院内外出を許可するかどうかを判断し、これにより、任意入院者が無断離院をして自殺することの防止が図られていたものである。これらの事情によれば、任意入院者が無断離院をして自殺する危険性が特に本件病院において高いという状況はなかったということができる。さらに、本件患者は、本件入院に際して、本件入院中の処遇が原則として開放処遇となる旨の説明を受けていたものであるが、具体的にどのような無断離院の防止策が講じられているかによって入院する病院を選択する意向を有し、そのような意向を本件病院の医師に伝えていたといった事情はうかがわれない。

以上によれば、上告人が、本件患者に対し、本件病院と他の病院の無断離院の防止策を比較した上で入院する病院を選択する機会を保障すべきであったということはできず、これを保障するため、上告人が、本件患者に対し、本件病院の医師を通じて、上記3の説明をすべき義務があったということはできない。そうすると、本件病院の医師が、本件患者に対し、上記説明をしなかったことをもって、上告人に説明義務違反があったということはできないというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違

反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中上告人敗訴部分は、破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから、同請求を棄却すべきである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。