新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.633、2007/6/1 15:15 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・養親は養子が死亡後離縁する事が出来るか・養子の認知した子がいる場合はどうか】

[相談]:私の両親は、法律上の婚姻をしていませんが、父からは認知されています。その父が先月亡くなりましたが、父の財産を相続することはできますか。また、実は父は他の女性と法律上婚姻している上に、婿養子(妻の両親と養子縁組)でもあります。父の養親は自分の財産を私が相続することは何としても阻止したいと思っているようで、生前の内に何か法的な手段を講じようとしている様子です。養親の財産を私が相続することはできるのでしょうか。また出来るとした場合、養親が阻止しようとしてる法的手段はあるのでしょうか。

[回答]
1 亡父の財産について
亡父が、認知した子供(被認知者)は、「子」にあたりますので、貴方には亡父の財産を相続する権利はあります。但し、被認知者は、「嫡出子でない子」にあたりますので、嫡出子の2分の1が相続分となります。もちろん、父親の法律上の妻が認知の効力を否定することによって、亡父と被認知者との法律的関係を断ち切る方法もありますが、認知を無効とするには、認知無効の訴えを提起して認知に対して反対の事実、すなわち父と被認知者が血縁上の親子関係でないこと、を主張することが必要となってきます。このような事実を立証し認知無効の裁判が確定すれば、被認知者が亡父の財産を相続する権利はないことになります。

2 養親の財産について
(1)亡父は法律上の妻の両親と養子縁組をしているとのことですが、養子縁組をしている場合、養親と亡父との間に血縁関係はなくても、法律上は養親の「子」ということになります。そして、今回のように、養親が健在していて間に父親(養子)が先に死亡してしまっている場合でも、父親が養子縁組をした後に貴方(被認知者)が出生し認知された子であれば被認知者も、「その者の子」(代襲相続)として、養親の財産を相続する権利があることになります。養子の子供(あなた)は養子縁組前に生まれ認知されている場合は当然に養親の財産について代襲相続権があるように思えますが、養子縁組の契約当事者は養親と養子のみで効力も当事者にしか及ばないため養子の子は養親の直系卑属すなわち孫にあたらないのです。しかし養子縁組後に生まれた子は養子が生んだ子供であり法定血族関係ですが孫になり代襲相続権があるわけです。
(2)しかし、先ほどご説明したように認知の効力を否定することによって、亡父と被認知者との法律的関係を断ち切ることができるのであれば、被認知者は亡父の「子」ではなくなるので、養親の財産を貴方は相続する権利は有しないことにはなります。
(3)また、被認知者と亡父との間に、血縁上の親子関係があることに争いようが無い場合には、養親が亡夫との養子縁組を解消(離縁)することによって、養親と被認知者との親族関係を断ち切る方法もあります。

本来、当事者の合意によって離縁するのが原則ではありますが、今回のように、当事者の一方である父が亡くなっている場合には、生存一方当事者である養親が離縁の申し立てを家庭裁判所にして、家庭裁判所の許可を得ることができれば、養親と亡父との養子縁組を解消(離縁)することができるのです。民法811条6号、家事審判法9条甲8号。具体的に「裁判所の許可」は条文上どのような場合に決定されるのか不明ですが、許可するには裁判上の離縁と同様な正当な理由を必要とすると解釈すべきです。なぜならそもそも養子縁組の関係は離婚と同じように当事者の意思により解消する事ができる事を原則としていますが、そうでない以上裁判上の離縁原因が必要とされています。これは養親子関係に入った場合、公平上当事者の養親子としての種々の信頼、利害関係等を考慮しやむをえない場合を除き(民法814条)勝手には縁組解消を認めないというものです。

それならば、公平の観点から一方の死亡の場合も当事者の合意による解消ではありませんから正当な理由が必要とされると解釈すべきだからです。審判規則の即時抗告(通常抗告に対比されますが、迅速性を要する判断の場合に提起期間を定め認められています。)もそれを予想しています。家事審判規則64条の2。本件の場合、単に代襲相続権を奪うためという理由では正当な理由がなく許可は認められないでしょう。非嫡出子は法的に養子であった父親の財産を法的に相続する権利を有しており、その子の意思、財産的利益を無視することは許されないからです。従って決定がなされて養親が亡父と離縁することによって、離縁した時から、亡父はご両親の「子」ではなくなりますので、離縁後に、たとえ養親が亡くなったとしても、被認知者も養親の財産を代襲相続する権利を有さないことになるのですが、その可能性は特別な事情がない限り少ないといえるでしょう。

3.更に養親が自分の財産を全て実子である娘(父の法律上の妻)に贈与するという内容の遺言書を作成することも考えられます。しかし、前述の方法によって貴方と父親、又は父親と養親との法律的関係を解消できなければ、貴方には、遺留分があることになります。したがって、貴方が遺留分減殺請求権を行使するという方法によって、養親の財産を取得できる方法もありますので、最寄の法律事務所でご相談ください。

≪参考条文≫
(認知に対する反対の事実の主張)
第七百八十六条
子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる
(協議上の離縁等)
第八百十一条
 縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。
2 養子が十五歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。
3 前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。
4 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項の父若しくは母又は養親の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
5 第二項の法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親族その他の利害関係人の請求によって、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。
6 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
第八百八十七条
被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない
(法定相続分)
第九百条
 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

家事審判法
第九条  家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
甲類
八 民法第八百十一条第六項 の規定による離縁をするについての許可

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