民事・根保証・根抵当元本確定時期

民事|根保証|民執法398条1項|東京高決平成22年6月22日

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

平成19年4月20日に私の父(甲)が亡くなったのですが,父はまだ存命中であった平成13年4月1日,遠い親戚であるAさんに頼まれ,AさんとB銀行との「金銭消費貸借・手形割引等継続的取引」という契約について,B銀行との間で貸金等根保証契約を締結するとともに,甲所有不動産に根抵当権を設定し,登記をしていました。

極度額はどちらも500万円とされておりますが,元本確定期日についてはいずれも定めはなかったようです。上記根保証及び根抵当は,父が亡くなったことで元本が確定したと考えてよいのでしょうか。

もし確定していないとすれば,どのようにすれば元本が確定するのでしょうか。

回答:

1.根保証については甲さんが亡くなったことで,(甲さんがなくなった日をもって)元本が確定していますが,根抵当については確定していません。根抵当権について元本を確定させるためには,B銀行に対して元本確定請求をする必要があります。

2.根抵当権に関する関連事例集参照。

解説:

第1 根保証契約について

1.貸金等根保証契約

本件の保証契約はいわゆる貸金等根保証契約といわれるものです(貸金等根保証契約の解説についてはNo、618をご参照下さい)。平成17年の民法改正前は,貸金等根保証契約(いわゆる根保証契約)の元本確定に関する明文規定は設けられておらず,どのような事由が発生したときに元本が確定するかは判然としていませんでした。ところで,根保証とは,ある一定の取引から生じる複数の債務を,一定額の範囲において包括的に保証するものです。保証の対象となる債務は取引の過程で発生したり消滅したりを繰り返すため,元本(少し語弊はありますが,最終的に保証しなくてはならない債務額というような意味です)が確定するまでの間,根保証人はどれだけの債務額を保証しなければいけないのかはっきりとせず,常に不安定な立場に立たされることになり,また,確定日ないし確定事由が定まっていないと,その不安定な立場が延々と続くことになってしまいます。そこで,そのような弊害を少しでも取り除くために,平成17年改正により,元本確定日の設定につき期間の制限を設けると共に,確定事由についても明文規定を設けたのです。

確定事由としては,①債権者が,主債務者または保証人の財産について,金銭の支払を目的とする債権についての強制執行または担保権の実行を申し立てたとき(ただし,手続の開始があったときに限る),②主債務者または保証人が破産手続開始の決定を受けたとき,③主債務者または保証人が死亡したとき,という3つのものが規定されています(民法465条の4)。本件では,保証人である甲さんが亡くなられているわけですから,上記③に該当することになります。

2.改正民法の適用関係

もっとも,甲さんがB銀行と契約した時点では,上記規定がなかったことから,本件についてその適用があるのかどうかを検討する必要がありますが,上記規定は,既存の根保証契約にも直ちに適用するものと規定されています(民法附則2ないし4条)。

3.本件の元本確定期日

以上より,甲さんとB銀行との間の根保証契約については,甲さんが亡くなった日をもって,元本が確定しているということになります。

第2 根抵当権について

1.根保証と根抵当権の違い

ある一定の限度額(極度額)の範囲で,第三者の債務を担保するという意味では,根保証契約と根抵当権の設定は,類似した性質を持っていると言えます。もっとも,根保証契約の場合,保証人はあらゆる財産をもって第三者の債務を担保しなければならないのに対し,根抵当権設定者(物上根保証人)の場合は,ある一定の物の範囲内でその債務を担保すれば足りることから,根保証債務者と比べると,その要保護性は多少劣るということになります。そのような理由等から,根抵当権設定者の死亡は根抵当権の元本確定事由とはされていません(民法398条の20参照)。したがって,本件についても,根抵当権設定者である甲さんが死亡したというだけでは,根抵当権の元本は確定していないことになります。

2.根抵当権の元本確定

しかしながら,元本の確定日が設定されていない場合に,いつまでも不安定な立場に置かれるという意味では,根抵当権設定者も根保証債務者と何ら変わりはありません。そこで,根抵当権についても,元本確定日の定めがない場合には,根抵当権設定の時から3年が経過したときは,元本の確定を請求することが出来るものとし(民法398条の19),根抵当権設定者の保護を図っています。元本確定請求をした場合,請求の日から2週間で元本が確定することになります。

3.本件の元本確定期日

これを本件について見てみると,根抵当権の設定をしたのが,平成13年4月1日ですので,今現在,既に設定の日から3年以上が経過しており,元本確定請求をすることが出来る状態になっています。元本確定請求は形成権であり,一方的に請求をすれば足りますが(相手方の承諾は必要ありません),請求日について争いになる可能性もありますので,元本確定請求は,確定日付のついた内容証明郵便でするべきと言えます。そして,元本確定請求をすると,請求の時から2週間を経過することで元本が確定します。なお,この「請求の時」とは,相手方に内容証明郵便が届いた時を指します(民法97条1項)。

第3 まとめ

以上のとおり,根保証については元本が確定しており,根抵当については元本が確定しておらず,確定させるためには元本確定請求が必要である,というのが一応の回答となりますが,主債務者とB銀行との契約如何によっては,時効の問題が生じる余地もありますし,また,場合によっては,相続放棄等についても検討せねばならない可能性もありますので,まずは専門家に相談されるべきであろうと思います。

以上

関連事例集

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※参照条文

民 法(隔地者に対する意思表示)

第九十七条  隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

2  隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。(根抵当権の元本の確定請求)

第三百九十八条の十九  根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定する。

2  根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。

3  前二項の規定は、担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない。 (根抵当権の元本の確定事由)

第三百九十八条の二十  次に掲げる場合には、根抵当権の担保すべき元本は、確定する。

一  根抵当権者が抵当不動産について競売若しくは担保不動産収益執行又は第三百七十二条において準用する第三百四条の規定による差押えを申し立てたとき。ただし、競売手続若しくは担保不動産収益執行手続の開始又は差押えがあったときに限る。

二  根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。

三  根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から二週間を経過したとき。

四  債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。

2  前項第三号の競売手続の開始若しくは差押え又は同項第四号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は、確定しなかったものとみなす。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない。(貸金等根保証契約の元本の確定事由)

第四百六十五条の四  次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。

一  債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。

二  主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。

三  主たる債務者又は保証人が死亡したとき。附 則 (平成一六年一二月一日法律第一四七号)(経過措置の原則)

第二条  この法律による改正後の民法(以下「新法」という。)の規定は、次条及び附則第四条(第三項及び第五項を除く。)の規定による場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、この法律による改正前の民法の規定によって生じた効力を妨げない。 (保証契約の方式に関する経過措置)

第三条  新法第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、この法律の施行前に締結された保証契約については、適用しない。 (貸金等根保証契約に関する経過措置)

第四条  新法第四百六十五条の二及び第四百六十五条の三(第二項を除く。)の規定は、この法律の施行前に締結された貸金等根保証契約(新法第四百六十五条の二第一項に規定する貸金等根保証契約をいう。以下同じ。)については、適用しない。

2  この法律の施行前に締結された貸金等根保証契約であって元本確定期日(新法第四百六十五条の三第一項に規定する元本確定期日をいう。以下同じ。)の定めがあるもののうち次の各号に掲げるものの元本確定期日は、その定めにかかわらず、それぞれ当該各号に定める日とする。

一  新法第四百六十五条の二第一項に規定する極度額(以下この条において単に「極度額」という。)の定めがない貸金等根保証契約であって、その元本確定期日がその定めによりこの法律の施行の日(以下この条において「施行日」という。)から起算して三年を経過する日より後の日と定められているもの 施行日から起算して三年を経過する日

二  極度額の定めがある貸金等根保証契約であって、その元本確定期日がその定めにより施行日から起算して五年を経過する日より後の日と定められているもの 施行日から起算して五年を経過する日

3  この法律の施行前に締結された貸金等根保証契約であって元本確定期日の定めがないものについての新法第四百六十五条の三第二項の規定の適用については、同項中「元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)」とあるのは「元本確定期日の定めがない場合」と、「その貸金等根保証契約の締結の日から三年」とあるのは「この法律の施行の日から起算して三年」とする。

4  施行日以後にこの法律の施行前に締結された貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。

5  この法律の施行前に新法第四百六十五条の四各号に掲げる場合に該当する事由が生じた貸金等根保証契約であって、その主たる債務の元本が確定していないものについては、施行日にその事由が生じたものとみなして、同条の規定を適用する。

6  この法律の施行前に締結された新法第四百六十五条の五に規定する保証契約については、同条の規定は、適用しない。

7  前項の保証契約の保証人は、新法第四百六十五条の五に規定する根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る当該主たる債務者の債務について、次の各号に掲げる区分に応じ、その元本確定期日がそれぞれ当該各号に定める日より後の日である場合においては、その元本確定期日がそれぞれ当該各号に定める日であるとしたならば当該主たる債務者が負担すべきこととなる額を限度として、その履行をする責任を負う。

一  当該根保証契約において極度額の定めがない場合 施行日から起算して三年を経過する日 二  当該根保証契約において極度額の定めがある場合 施行日から起算して五年を経過する日

8  第六項の保証契約の保証人は、前項の根保証契約において元本確定期日の定めがない場合には、同項各号に掲げる区分に応じ、その元本確定期日がそれぞれ当該各号に定める日であるとしたならば同項の主たる債務者が負担すべきこととなる額を限度として、その履行をする責任を負う。