新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.658、2007/8/14 12:57

【探偵業の業務の適正化に関する法律・制定について・制度趣旨・罰則】

質問:探偵業者に依頼をしようと考えています。初めてのことなので、料金のことや個人情報は正しく保護されているのか、契約書を作成してもらえるのか等、色々と不安です。興信所や探偵業を営む上で一定のルールは存在するのでしょうか?また、万が一、そのルールが守られなかった場合、その業者に対して罰則はあるのでしょうか?

回答:
1、「探偵業者」「興信所」は、顧客からの依頼に応じて、事実証明に要する記録を収集する業務を行う業者です。従来、探偵業者を対象とした(民法の一般規定以外の)法的な規制は特にありませんでした。探偵業者に依頼する行為は、契約などの法律行為ではなく、事実行為の代行業務ですので、法律上は準委任契約(民法656条)となり、いわゆる「便利屋」と同様の扱いとなります。準委任契約についての主な条文を引用します。

民法656条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
民法644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
民法645条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法648条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
民法651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

2、当事者に一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りではない。

民法653条 委任は、次に掲げる事項によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

一般に法律事件は、全て、事実関係を認定し、これに法律を適用して、適正な解決を得ることが要請されていますから、法律分野について、弁護士(弁護士法)や裁判所(民事訴訟法、裁判所法)の制度が整備され、関係者が如何に努力をしても、事実関係の段階(探偵業者や興信所の段階)で不適切な証拠収集がおこなわれていれば、法律事件全体の処理にも悪影響を及ぼしかねないことになります。これら業務の適正化は、国民の権利保護及び公平公正に関してきわめて重大な要素であると言えます。

しかしながら、消費者相談の各種窓口では、「興信所」「探偵業」に関する相談件数は年々増加傾向にあると言われています。例えば、事務所も持たずにレンタルオフィスやフリーダイヤルの転送電話等で集客を行い、必要以上に規模を大きく見せたり実態を辿られないように工夫する業者も多いようです。この結果リスクを伏せ、良いことしか説明しない誇大営業を行う業者、全く何もしないで調査料金を請求する業者、説明のなかった法外な追加費用を請求してくる業者などが後を絶ちませんでした。契約に問題がある場合は、錯誤無効(民法95条)や詐欺取消(96条)等の一般規定を用いるしか方法はありませんでした。消費者の側の主張立証が難航し、事実上、被害回復を断念するようなケースもあったと思います。

民法95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
民法96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

ではなぜこのような被害が蔓延することになったのでしょうか。たとえば米国では探偵業に関する法整備が進んでおり、資格制が採られているのに対し、日本では探偵は無資格者でも営むことができ、業務をするにあたって何の届出や許可も必要がありません。そのため、何かトラブルが生じたときでもその「探偵事務所」を名乗った人物が、本当に適正な「探偵業」を営んでいるのか確かめる手段がなく、その調査が困難になりやすいというのが現状です。また、探偵は個人のプライバシーを取り扱う仕事にも関わらず法的に規制がないことや、同じ調査でも料金相場が各会社によって全く違うなど、統一性がほとんどありませんでした。日本でも、司法制度改革などにより、開かれた司法へのアクセスが充実してきており、トラブルが生じた場合に、泣き寝入りせず、適正な法的な処理を希望する事例が増えてきていると思います。必然的に、証拠収集業務への要請も高まってきていると言えるでしょう。

このような中で、契約をめぐる苦情や調査対象者をめぐるトラブル、違法な調査などを減らすために、「必要な規制」を施して、「業務の適性化」を実現し、「個人の権利利益の保護」を図ることを目的として、平成18年6月2日に探偵業の適正化に関する法律(探偵業法)が制定されました。この法律は、平成19年6月1日から施行されました。この法律によって探偵業務が「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務」と定義され、そのうえでいくつかのルールが設けられました。

探偵業法の施行により、どのような点が変わってくるのでしょうか。内容を簡単にまとめてみます。

『届出制』 探偵業者は営業所ごとに都道府県公安委員会に対して届出をしなくてはいけません。

『欠格事由』以下の者は探偵業をおこなうことはできません。
・成年被後見人、被保佐人及び破産者で復権を得ていない者
・過去に一定の違反をした方
・暴力団員
・未成年者
『法令遵守、違法目的の禁止』
・名義貸しの禁止
・個人の権利利益を侵害しないこと
・守秘義務の徹底

『契約の適正化、重要事項の説明責任』
探偵業者が依頼者と契約を締結するときには、下記の事項について説明しなくてはいけません。
・氏名・名称、代表者について
・届出書類に記載されている事項説明
・個人情報保護法を遵守するものであること
・守秘義務について
・サービス内容
・委託に関する事項
・金銭のやりとりについて
・契約の解除に関する事項
・業務上作成した書類、取得した資料の処分に関する事項

『書類交付義務』
探偵業務を行う契約を締結したときは、契約内容を明らかにする書類を依頼者に交付しなくてはいけません。

『従業員の教育・監督義務』
探偵業者は従業員に対して、業務を適正に実施させるための必要な教育をおこなわなくてはいけません。

『罰則規定』
都道府県公安委員会は、探偵業者に対し、報告の徴収、立ち入り検査、指示、業務停止命令、営業廃止命令などおこなうことができることとし、次の通り罰則を設けています。
・行政指導があった後の違反・・・1年懲役/100万
・無届・名義貸し・公安委員会の指示違反・・・6ヶ月懲役/30万

これまで興信所探偵業社を規制する法律がなかったため、民事不介入の原則に従わざるを得ず、行政官庁からは契約不履行、詐欺・脅迫等を行なう悪徳探偵業者を処分出来ず、警察も立ち入りをすることが困難で、探偵の依頼者が泣かされていたという実態がありましたが、今回探偵業法が施行され、その業務について規制を定められたことで、探偵業界の正常化が図られ、これまで不明瞭であった悪徳探偵業者などは淘汰されていくと考えられます。従来、探偵業務・興信所業務について、業界団体である民法法人(認可法人)として社団法人日本調査業協会が設立され、業務の適正化にあたっていましたが、これに探偵業法が加わったことで、わが国でも、探偵業務・興信所業務の適正化の環境整備が進むことが期待されます。将来的には、探偵業法でも、業界団体の指定がなされることも予想されます。社団法人に加入している業者の中から、依頼する業者を選ぶことも良いと思います。

民法34条(公益法人の設立)学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。

弁護士事務所としても、従来に増して、事実関係の証拠収集段階にも注意を払うべきでしょう。探偵業法について、また、探偵に依頼した際に生じたトラブルや疑問点がある場合は、お近くの法律事務所までお問い合わせください。

<探偵業の業務の適正化に関する法律>
(目的)
第一条 この法律は、探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。
2 この法律において「探偵業」とは、探偵業務を行う営業をいう。ただし、専ら、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。以下同じ。)を業として行う個人を含む。)の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除く。
3 この法律において「探偵業者」とは、第四条第一項の規定による届出をして探偵業を営む者をいう。
(欠格事由)
第三条 次の各号のいずれかに該当する者は、探偵業を営んではならない。
一 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの
二 禁錮以上の刑に処せられ、又はこの法律の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して五年を経過しない者
三 最近五年間に第十五条の規定による処分に違反した者
四 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員(以下「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者
五 営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号のいずれかに該当するもの
六 法人でその役員のうちに第一号から第四号までのいずれかに該当する者があるもの
(探偵業の届出)
第四条 探偵業を営もうとする者は、内閣府令で定めるところにより、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に、次に掲げる事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
一 商号、名称又は氏名及び住所
二 営業所の名称及び所在地並びに当該営業所が主たる営業所である場合にあっては、その旨
三 第一号に掲げる商号、名称若しくは氏名又は前号に掲げる名称のほか、当該営業所において広告又は宣伝をする場合に使用する名称があるときは、当該名称
四 法人にあっては、その役員の氏名及び住所
2 前項の規定による届出をした者は、当該探偵業を廃止したとき、又は同項各号に掲げる事項に変更があったときは、内閣府令で定めるところにより、公安委員会に、その旨を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、内閣府令で定める書類を添付しなければならない。
3 公安委員会は、第一項又は前項の規定による届出(同項の規定による届出にあっては、廃止に係るものを除く。)があったときは、内閣府令で定めるところにより、当該届出をした者に対し、届出があったことを証する書面を交付しなければならない。
(名義貸しの禁止)
第五条 前条第一項の規定による探偵業の届出をした者は、自己の名義をもって、他人に探偵業を営ませてはならない。
(探偵業務の実施の原則)
第六条 探偵業者及び探偵業者の業務に従事する者(以下「探偵業者等」という。)は、探偵業務を行うに当たっては、この法律により他の法令において禁止又は制限されている行為を行うことができることとなるものではないことに留意するとともに、人の生活の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない。
(書面の交付を受ける義務)
第七条 探偵業者は、依頼者と探偵業務を行う契約を締結しようとするときは、当該依頼者から、当該探偵業務に係る調査の結果を犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いない旨を示す書面の交付を受けなければならない。
(重要事項の説明等)
第八条 探偵業者は、依頼者と探偵業務を行う契約を締結しようとするときは、あらかじめ、当該依頼者に対し、次に掲げる事項について書面を交付して説明しなければならない。
一 探偵業者の商号、名称又は氏名及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 第四条第三項の書面に記載されている事項
三 探偵業務を行うに当たっては、個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)その他の法令を遵守するものであること。
四 第十条に規定する事項
五 提供することができる探偵業務の内容
六 探偵業務の委託に関する事項
七 探偵業務の対価その他の当該探偵業務の依頼者が支払わなければならない金銭の概算額及び支払時期
八 契約の解除に関する事項
九 探偵業務に関して作成し、又は取得した資料の処分に関する事項
2 探偵業者は、依頼者と探偵業務を行う契約を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項について当該契約の内容を明らかにする書面を当該依頼者に交付しなければならない。
一 探偵業者の商号、名称又は氏名及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 探偵業務を行う契約の締結を担当した者の氏名及び契約年月日
三 探偵業務に係る調査の内容、期間及び方法
四 探偵業務に係る調査の結果の報告の方法及び期限
五 探偵業務の委託に関する定めがあるときは、その内容
六 探偵業務の対価その他の当該探偵業務の依頼者が支払わなければならない金銭の額並びにその支払の時期及び方法
七 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
八 探偵業務に関して作成し、又は取得した資料の処分に関する定めがあるときは、その内容
(探偵業務の実施に関する規制)
第九条 探偵業者は、当該探偵業務に係る調査の結果が犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法な行為のために用いられることを知ったときは、当該探偵業務を行ってはならない。
2 探偵業者は、探偵業務を探偵業者以外の者に委託してはならない。
(秘密の保持等)
第十条 探偵業者の業務に従事する者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。探偵業者の業務に従事する者でなくなった後においても、同様とする。
2 探偵業者は、探偵業務に関して作成し、又は取得した文書、写真その他の資料(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。)について、その不正又は不当な利用を防止するため必要な措置をとらなければならない。
(教育)
第十一条 探偵業者は、その使用人その他の従業者に対し、探偵業務を適正に実施させるため、必要な教育を行わなければならない。
(名簿の備付け等)
第十二条 探偵業者は、内閣府令で定めるところにより、営業所ごとに、使用人その他の従業者の名簿を備えて、必要な事項を記載しなければならない。
2 探偵業者は、第四条第三項の書面を営業所の見やすい場所に掲示しなければならない。
(報告及び立入検査)
第十三条 公安委員会は、この法律の施行に必要な限度において、探偵業者に対し、その業務の状況に関し報告若しくは資料の提出を求め、又は警察職員に探偵業者の営業所に立ち入り、業務の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により警察職員が立入検査をするときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(指示)
第十四条 公安委員会は、探偵業者等がこの法律又は探偵業務に関し他の法令の規定に違反した場合において、探偵業の業務の適正な運営が害されるおそれがあると認められるときは、当該探偵業者に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができる。
(営業の停止等)
第十五条 公安委員会は、探偵業者等がこの法律若しくは探偵業務に関し他の法令の規定に違反した場合において探偵業の業務の適正な運営が著しく害されるおそれがあると認められるとき、又は前条の規定による指示に違反したときは、当該探偵業者に対し、当該営業所における探偵業について、六月以内の期間を定めて、その全部又は一部の停止を命ずることができる。
2 公安委員会は、第三条各号のいずれかに該当する者が探偵業を営んでいるときは、その者に対し、営業の廃止を命ずることができる。
(方面公安委員会への権限の委任)
第十六条 この法律の規定により道公安委員会の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、方面公安委員会に行わせることができる。
(罰則)
第十七条 第十五条の規定による処分に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第四条第一項の規定による届出をしないで探偵業を営んだ者
二 第五条の規定に違反して他人に探偵業を営ませた者
三 第十四条の規定による指示に違反した者
第十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第四条第一項の届出書又は添付書類に虚偽の記載をして提出した者
二 第四条第二項の規定に違反して届出書若しくは添付書類を提出せず、又は同項の届出書若しくは添付書類に虚偽の記載をして提出した者
三 第八条第一項若しくは第二項の規定に違反して書面を交付せず、又はこれらの規定に規定する事項を記載しない書面若しくは虚偽の記載のある書面を交付した者
四 第十二条第一項に規定する名簿を備え付けず、又はこれに必要な事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をした者
五 第十三条第一項の規定に違反して報告をせず、若しくは資料の提出をせず、若しくは同項の報告若しくは資料の提出について虚偽の報告をし、若しくは虚偽の資料を提出した者又は同項の規定による立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
第二十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
第二条 この法律の施行の際現に探偵業を営んでいる者は、この法律の施行の日から一月間は、第四条第一項の規定による届出をしないで、探偵業を営むことができる。
(検討)
第三条 この法律の規定については、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行の状況、探偵業者の業務の実態等を勘案して検討が加えられ、必要があると認められるときは、所要の措置が講ぜられるものとする。

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