Googleマップの口コミによる名誉毀損(削除、損害賠償請求)
民事|名誉毀損|不法行為の被害者と加害者の利益対立|投稿記事削除の仮処分|プロバイダ責任制限法
目次
質問:
私は、従業員1人で小さな個人商店を営んでいる者です。ある日、ふと思い立って、Googleで当店の店名を検索して、エゴサーチをしたところ、Googleマップに「買い物の際にセクハラされた。二度と行かない。」などという口コミがされているのを発見しました。私は、全く身に覚えがなかったのですが、こういった口コミを一々取り合っても切りがないと思って、これを放置していました。ただ、その後、取引先のお客様より、この口コミについて何件か問い合わせがありました。そのため、口コミを放置したままにしておくのは、当店の信用に関わると考え直し、口コミを削除するとともに、謂われない中傷をした口コミの投稿者に損害賠償を請求したいと思っています。
口コミの投稿者には全く心当たりはないのですが、そのような状況の中、名誉毀損が成立するとして、口コミを削除するとともに、口コミの投稿者に対し、損害賠償請求することはできるのでしょうか。
回答:
1 損害賠償請求するための名誉棄損の成否について
名誉棄損が成立する要件は、実務上、民事事件の場合においても、刑事事件の場合とほぼ同様の枠組みが採用されており、基本的に、①公然と②事実を摘示して③人の名誉を毀損した場合に名誉毀損が成立することになります。ただし、④公共の利害に関する事実に係り、かつ、⑤その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合には、⑥事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、違法性が阻却され、不法行為は成立しないことになります。
本件で特に問題となり得る点としては、本件の「買い物の際にセクハラされた。」との口コミが事実を摘示したものといえるか否かという点が挙げられますが、東京高裁平成24年4月18日判決では、「セクハラという言葉は、特に女性を不快な気持ち、苦痛な状態に追い込み、人間の尊厳を奪う性的な言葉や行動を意味しており、今日においては、セクハラという言葉のみから、その具体的な事実の摘示がなくとも、女性に対して人間の尊厳を奪うような性的な言葉を発し、行動をした者であると推測することができる」旨が判旨されており、セクハラという言葉をもって、事実の摘示があったと認められるものと考えられます。
2 口コミの削除について
その上で、Googleマップの口コミを削除する方法としては、①Googleに対して任意での口コミの削除を依頼する方法、②口コミの投稿者に対して口コミを任意に削除するよう求めるという方法、③Googleを相手方(債務者)として投稿記事削除の仮処分の申立てを行うという方法の3つが挙げられます。
Googleが任意で削除依頼に応じるのは、「禁止および制限されているコンテンツ」に該当するものに限られ、①の方法が奏功する可能性は高くないと言わざるを得ません。また、口コミの投稿者には全く心当たりがないということであれば、②の方法も取り得ません。そのため、現実的には、③の方法によることになりますが、投稿記事削除の仮処分では、特に、被保全権利である人格権(名誉権)が違法に侵害されていること(名誉毀損が成立すること)を疎明する必要があります。
3 投稿者に対する損害賠償について
また、口コミの投稿者に対する損害賠償請求をするに当たっては、口コミの投稿者を特定する必要があります。そして、口コミの投稿者を特定するためには、Googleを相手方(債務者)とする発信者情報開示の仮処分の申立て、接続プロバイダを相手方(被告)とする発信者情報開示請求訴訟の提起を行わなければなりません。
発信者情報開示の仮処分や発信者情報開示請求訴訟では、特に、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)5条1項の要件を充たし、発信者情報開示請求権が存在することを疎明・立証しなければならず、ここでも、権利侵害の明白性の要件(同項1号)との関係で、名誉毀損が成立することを疎明・立証する必要があります。
なお、接続プロバイダのアクセスログの保存期間はおおよそ3か月から6か月程ですが、これを経過してしまうと、アクセスログが消えてしまい、契約者(口コミの投稿者)の氏名や住所等の情報を得ることができなくなってしまいます。このような事態を回避するためには、接続プロバイダに対し、アクセスログの保存申請を行ったり、発信者情報消去禁止の仮処分を申し立てたりすることが有用です。
4 名誉棄損に関する関連事例集参照。
解説:
1 口コミの削除について
⑴ まず、Googleに対し、任意での口コミの削除を依頼する方法について解説します。
その手順としては、自店の店名をGoogleで検索すると、検索結果画面の右側に店舗情報が表示されるので、そこの「すべてのGoogleのクチコミを見る」をクリックします。全ての口コミが表示されたら、該当の口コミ欄の右上にある3点リーダーをクリックします。更に、「レビューを報告」という選択肢が生じたら、これをクリックします。そうすると、「口コミを報告」というページが表示されるので、「関連性のないコンテンツ」等の削除理由の内、該当のものを選択することで、任意での口コミの削除を依頼することができます。
ただ、Googleが任意で削除依頼に応じるのは、「禁止および制限されているコンテンツ」に該当するものに限られます。具体的には、ハラスメントやヘイトスピーチ等の対話、虚偽のエンゲージメントやなりすまし等の詐欺的なコンテンツ、わいせつ・冒とく的な表現や露骨な性的描写を含むコンテンツ等の成人向けコンテンツ、規制されているコンテンツ、危険なコンテンツ、違法コンテンツ、関連性のないコンテンツ等が挙げられています。ご相談の口コミは「買い物の際にセクハラされた。二度と行かない。」というもので、任意の削除の対象には該当しないと考えられますが、一度試みても良いでしょう。
なお、削除依頼の結果がGoogleから通知されることはありません。
⑵ 次に、口コミの投稿者に対し、口コミを任意に削除するよう求めるという方法を解説します。
口コミの投稿者本人であれば、直ぐに口コミを削除することができるので、この方法は、最も素早く口コミを削除することができる方法といえますが、口コミの投稿者を特定することができない限り、この方法を用いることはできません。また、仮に特定できた措定も口コミの投稿者が任意の削除に応じなければ、別の方法が必要になります。
とはいえ、 投稿者を特定できるのであれば、弁護士名義の通知書を内容証明郵便の方法で口コミの投稿者の住所に宛てて送付する、といった対応があり得ます。
投稿者を特定できない場合の特定方法については、投稿者に対する損害賠償請求のところでも後で解説しますが、「プロバイダ責任制限法」に基づいてGoogleに対し、投稿者に関する情報の開示を求めることができます。口コミの投稿者を特定することを「発信者情報特定」ともいい、インターネット上で誹謗中傷を受けた場合、ウェブサイトなどに対して、投稿者に関する情報の開示を請求することが認められています。
この場合、Googleに対して、口コミ投稿者に関する情報を開示させる「発信者情報開示請求書」という書類を作成し、Googleに提出して発信者の情報を開示するように請求します。Googleから投稿者の、IPアドレスとタイムスタンプが開示されます。
Googleが、投稿者の情報を任意に開示しない場合は、開示について仮処分を裁判所に申し立てることができます。
⑶ 最後に、Googleを相手方(債務者)として投稿記事削除の仮処分の申立てを行うという方法が挙げられます(民事保全法23条2項)。
口コミの削除を求める法的な手続きとしては、他に通常の民事訴訟による方法もありますが、訴訟での解決は長期間を要するため、迅速性が重視される仮処分の手続きによることが一般的です。
投稿記事削除の仮処分が認められるためには、①被保全権利の存在、②保全の必要性という2つの要件を充たす必要があります(同法13条1項)。①被保全権利とは、仮処分命令の発令によって実現を保全すべき権利のことをいいます。また、②保全の必要性とは、本案訴訟の前に仮処分命令を発令することを正当化できる程に具体的な必要性のこと(生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるために仮処分命令による記事の削除が必要と認められること)をいいます。今回のような口コミの削除の場合に特に問題となるのは、①被保全権利の存在の要件であり、被保全権利である人格権(名誉権)が違法に侵害されていること(名誉毀損が成立すること)を疎明する必要があります。名誉毀損については、第3項で詳述しますが、投稿記事削除の仮処分では、申立人(債権者)において違法性阻却事由をうかがわせる事情がないことまで疎明しなければなりません。
手続きの流れとしては、申立書や疎明資料の他、資格証明書等の必要書類を裁判所に提出し、投稿記事削除の仮処分の申立てを行います。そうすると、その当日若しくは翌日か翌々日に債権者面接が行われます。債権者面接では、申立人(債権者)側のみが裁判所に出頭した上、裁判官から口頭でいくつか質問があるので、それに回答することになります。そして、裁判官が申立てに一応の理由があると判断すれば、当事者双方から話を聞く審尋期日が設定されることになります。この審尋期日は複数回設けられるのが通常で、その間、相手方からは、反論を内容とした書面が提出されるなどします。
Google側は、記事を増加させてアクセスを増やすことにより広告などの収益が上がりますので、できるだけ記事を削除したくありません。①利用規約を設けてサイト利用者の責任においてクチコミを掲載しているものであり当社に責任は無い、②記事が虚偽であることを確認することができない、③公益性が一応認められる、などと主張するのが一般的です。それに対して、債権者側(あなた)は、①セクハラ事件の被害届も出ておらず店員や常連客などの陳述書からも書き込みで指摘された事実が存在しない、②事実が存在しないので公益性も認められない、③書き込みにより債権者の名誉が侵害されており、店舗の来客や問い合わせや売り上げなどが現実に減少しており逸失利益の損害が発生していること、などを主張し、疎明(法的な立証に至らなくても裁判所に仮処分を発令させるほどの一応の心証を与える程度の立証活動)して、記事削除の仮処分命令を求めることになります。
その後、裁判官が、当事者双方の主張・反論を踏まえ、なお申立てに理由があると判断すれば、債権者(申立人)に担保金を納付することを命ずる担保決定が出されることになります(なお、投稿記事削除の仮処分の場合、担保金は30~50万円程度となります。ただ、担保金は、事件終了後、裁判所から担保取消決定や担保取戻しの許可を得ることにより、返還を受けることができるのが通常です。)。これを受け、担保金を供託して、立担保証明を裁判所に提出すると、「債務者は別紙投稿記事目録記載の投稿記事を仮に削除せよ」といった内容の仮処分命令が発令されます。
なお、Googleが令和4年7月に法務省の要請に応じて日本国内での法人登記を完了したことから、本店所在地を管轄する東京地方裁判所に対し、投稿記事削除の仮処分を申し立てることができます。また、従前は、わざわざ米国発行の資格証明書を取り寄せなければなりませんでしたが、日本の法務局が発行する米国法人Google LLC及びグーグル・テクノロジー・ジャパン株式会社の履歴事項全部事項証明書等の資格証明書を取得して提出すれば足りるようになりました。その他、外国送達や翻訳文の提出も不要となりました。
2 口コミの投稿者に対する損害賠償請求について
⑴ 口コミの投稿者を特定するための法的な手続き
ア 口コミの投稿者に対して損害賠償請求をするためには、口コミの投稿者を特定する必要がありますが、口コミの投稿者を特定するためには、次のとおり、Googleを相手方(債務者)とする発信者情報開示の仮処分の申立て、接続プロバイダを相手方(被告)とする発信者情報開示請求訴訟の提起を行わなければなりません。
イ まず、Googleを相手方(債務者)として発信者情報開示の仮処分を東京地方裁判所に申し立て、投稿者のIPアドレス(ネットワークに接続されたサーバーやパソコンなどの通信機器を識別する番号のこと。)及びタイムスタンプ(記事が投稿された時刻の記録のこと。)の開示を求めます。なお、Googleでは、ログイン時IPアドレスしか保存しない運用となっていますので、口コミの投稿直前のログイン時IPアドレスの開示を求めることになります。
発信者情報開示の仮処分での①被保全権利は、プロバイダ責任制限法5条1項に規定されている発信者情報開示請求権です。そのため、債権者(申立人)が同項の要件を充たすことを疎明しなければなりません。同項の要件の内、特に問題となるのは、「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(同項1号、権利侵害の明白性)の要件であり、投稿記事削除の仮処分と同様、名誉毀損が成立することを疎明する必要があります。名誉毀損については、第3項で詳述しますが、発信者情報開示の仮処分では、申立人(債権者)において違法性阻却事由をうかがわせる事情がないことまで疎明しなければなりません。
仮処分の申立てが認められ、投稿者のIPアドレスが開示されたならば、WHOIS検索を用いるなどして、そのIPアドレスから接続プロバイダ(インターネット接続の電気通信役務を提供する事業者のこと。)を特定します。
なお、その他の点については、担保金が10~30万円程度となること以外は、投稿記事削除の仮処分と基本的に異なりません。
ウ 次に、接続プロバイダを相手方(被告)として発信者情報開示請求訴訟をプロバイダの本社所在地を管轄する裁判所(多くの場合、東京地方裁判所となります。)に提起し、契約者(口コミの投稿者)の氏名や住所等の情報の開示を求めます。なお、接続プロバイダに対し、発信者情報開示請求書を提出し、契約者(口コミの投稿者)の氏名や住所等の情報を任意に開示するよう求めることもできますが、ほとんどの場合、任意での開示には応じてくれません。
発信者情報開示請求訴訟でも、プロバイダ責任制限法5条1項に規定されている発信者情報開示請求権が主張・立証の対象となり、権利侵害の明白性の要件(同項1号)との関係で、名誉毀損が成立することを立証する必要があります。名誉毀損については、第3項で詳述しますが、発信者情報開示請求訴訟では、原告において違法性阻却事由をうかがわせる事情がないことまで立証しなければなりません。
手続きの流れとしては、訴状や書証の他、資格証明書等の必要書類を裁判所に提出し、発信者情報開示請求訴訟の提起を行います。そうすると、裁判所は、相手方(被告)に対して訴状等の写しを送付した上で、第1回口頭弁論期日を指定し、原告・被告の双方に対して出廷するよう呼出しを行います。相手方(被告)においては、第1回口頭弁論期日までに、訴状に対する認否や自分の主張等を記載した答弁書を裁判所に提出することになります。発信者情報開示請求訴訟の場合は、他の多くの民事訴訟とは異なり、当事者尋問(当事者が経験した事実について、当事者本人を尋問し、その供述を証拠とする手続き)等を実施することなく、第1回口頭弁論期日で審理終結とされた上で、判決によって裁判所の判断が示されるのが通常です。
そして、接続プロバイダを相手方(被告)とする発信者情報開示請求訴訟において最も気を付けなければならない点は、アクセスログの保存期間です。接続プロバイダのアクセスログの保存期間はおおよそ3か月から6か月程ですが、これを経過してしまうと、アクセスログが消えてしまい、契約者(口コミの投稿者)の氏名や住所等の情報を得ることができなくなってしまいます。このような事態を回避するためには、接続プロバイダに対し、アクセスログの保存申請を行うことが有用です。より確実にアクセスログの保存を求めたい場合には、担保金として10万円程度を要しますが、発信者情報消去禁止の仮処分を申し立てることになります。
なお、上記のとおり、仮処分が認められるためには、①被保全権利の存在、②保全の必要性という2つの要件を充たす必要がありますが、プロバイダは契約者の氏名や住所等の情報を保有しており、②保全の必要性が認められないため、仮処分の申立てではなく、訴訟の提起によることになります。
⑵ 口コミの投稿者に対する損害賠償請求訴訟
口コミの投稿者の氏名や住所等の情報が分かり、これを特定することができたならば、いよいよ、口コミの投稿者に対し、損害賠償請求をすることになります。
勿論、口コミの投稿者に対し、直接、損害賠償請求をし、損害賠償金を任意に支払わせるという方法もあり、投稿者が、大企業の従業員であったり比較的に社会的に地位の高い人であった場合、投稿者も事実の発覚を危惧して賠償金を任意に支払う場合もあり得ますが、交渉が纏まらなかった場合には、口コミの投稿者を相手方(被告)として損害賠償請求訴訟を被害者である相談者様若しくは口コミの投稿者の住所地を管轄する裁判所に提起し、損害賠償金の支払いを裁判所に命じてもらう必要があります。
損害賠償金の支払いを裁判所に命じてもらうためには、民事上、名誉毀損が成立すること、すなわち、不法行為が成立することを主張・立証しなければなりません(民法709条)。名誉毀損については、第3項で詳述しますが、損害賠償請求訴訟では、発信者情報開示請求訴訟と異なり、被告において違法性阻却事由の存在を主張・立証することになります。
手続きの流れとしては、第1回口頭弁論期日の開催までは、発信者情報開示請求訴訟と同様ですが、それ以降は、口頭弁論期日や弁論準備手続期日が何度も繰り返され、当事者双方の主張や争点が整理されることになります。その上で、場合によっては、当事者尋問等が行われた上で、審理終結となり、判決によって裁判所の判断が示されます。裁判所によって判決までに和解勧告がなされ、当事者双方がこれに応じる場合には、裁判上の和解によって紛争は終結となります。
なお、口コミ等の投稿者を特定するために要した調査費用(主に、弁護士費用。)については、近似の裁判例は、口コミ等の投稿者を特定するためには、基本的に、仮処分や訴訟手続きを経る必要があり、これを個人で行うことは事実上困難であることを理由として、その全額を損害として認め、相手方(被告)に賠償させる、という傾向にあります。
3 民事上の名誉毀損について
⑴ 民事事件の場合、刑事事件の場合と異なり、如何なる場合に名誉毀損が成立するのかが明文で定められているわけではありません。
もっとも、実務上、民事事件の場合においても、刑事事件の場合とほぼ同様の枠組みが採用されており、基本的に、①公然と②事実を摘示して③人の名誉を毀損した場合に名誉毀損が成立することになります(事実摘示型の名誉毀損)。
まず、①公然とは、不特定又は多数の者が直接に認識できる状態のことをいいます。Googleマップの口コミは、不特定多数の人が閲覧することが予定されたものであるため、本件でも、この公然性の要件は充たすと考えられます。
次に、②事実の摘示とは、真実であるか否かを問わず、事実を示すことをいいます。ここで摘示される事実は、必ずしも具体的なものである必要はなく、東京高裁平成24年4月18日判決では、「セクハラという言葉は、特に女性を不快な気持ち、苦痛な状態に追い込み、人間の尊厳を奪う性的な言葉や行動を意味しており、今日においては、セクハラという言葉のみから、その具体的な事実の摘示がなくとも、女性に対して人間の尊厳を奪うような性的な言葉を発し、行動をした者であると推測することができる」旨が判旨されており、社会通念上、その言葉自体から具体的な事実が想起されるのであれば、事実の摘示と認められることになります。なお、民事上の名誉毀損については、実務上、そもそも事実の摘示がなかったとしても、意見や論評の表明によっても成立するものとされています(意見論評型の名誉毀損)。最高裁平成9年9月9日判決でも、「新聞記事による名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである。」旨が判旨されています。
最後に、③名誉毀損とは、他人の社会的評価を低下させるおそれのある行為をいいます。ある表現が他人の社会的評価を低下させるおそれのあるものであるか否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして判断されます。また、現実に他人の社会的評価を低下させることまでは必要なく、他人の社会的評価の低下を招く危険性を生じさせることで足りるとされています。本件の「買い物の際にセクハラされた。」との口コミは、女性に対して人間の尊厳を奪うような性的な言葉を発し、行動をした者であると推測させるものですので、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にしても、他人の社会的評価を低下させるおそれのあるものといえるでしょう。
⑵ 仮に民事上の名誉毀損が成立するとしても、事実摘示型の場合は、④公共の利害に関する事実に係り、かつ、⑤その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合には、⑥事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、違法性が阻却され、不法行為は成立しないことになります。
まず、④公共の利害に関する事実とは、多数の人の社会的利害に関係する事実で、かつ、その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるものをいいます。公共の利害に関する事実に当たるか否かは、事実の性質及び内容に照らして客観的に判断されます。なお、私生活上の行状に関する事柄は、基本的に、公共の利害に関する事実に当たらないとされますが、それが政治家等の公人に関するものであれば、公共の利害に関する事実に当たるとされることがあります。
次に、⑤その目的が専ら公益を図ることにあったことについては、公共の利害に関する事実と認められれば、公益を図る目的があったものと推認されることになるため、これを覆す事実がない限り、公益を図る目的があったものと認定されることになります。また、裁判例でも「専ら」との表現が用いられることが多いですが、必ずしも、他の目的が併存していた場合に公益を図る目的があったことが否定されるわけではなく、主たる目的が公益を図ることにあれば足りるとされています。
最後に、⑥真実であることの証明があったことについては、適示された事実の重要部分が真実性の証明の対象となり、重要部分であるか否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして判断されます。仮に適示された事実の重要部分が真実でなかったとしても、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合に、真実であると誤信し、その誤信が確実な資料・根拠に基づくものであったならば、故意又は過失が否定され、不法行為は成立しないことになります(最高裁平成14年3月8日判決参照)。
なお、意見論評型の名誉毀損の場合は、上記とは少し異なる判断枠組みが採用されています。具体的には、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合に、意見若しくは論評の前提としている事実の重要部分が真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど、意見若しくは論評としての域を逸脱したものでない限り、違法性が阻却され、不法行為は成立しないことになります。仮に意見若しくは論評の前提としている事実の重要部分が真実であることの証明がなかったとしても、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合に、真実であると誤信し、その誤信が確実な資料・根拠に基づくものであったならば、故意又は過失が否定され、不法行為は成立しないことになります(最高裁平成9年9月9日判決参照)。
4 まとめ
以上のとおり、Googleマップの口コミの削除や口コミの投稿者に対する損害賠償請求をするためには、基本的に、仮処分や訴訟手続きを経る必要があり、専門家でないと対応が難しいと言わざるを得ません。
特に、口コミの投稿者に対する損害賠償請求については、口コミの投稿者を特定する必要があります。そして、口コミの投稿者を特定するためには、Googleを相手方(債務者)として発信者情報開示の仮処分を東京地方裁判所に申し立てるとともに、接続プロバイダを相手方(被告)として発信者情報開示請求訴訟をプロバイダの本社所在地を管轄する裁判所(多くの場合、東京地方裁判所となります。)に提起しなければなりませんが、接続プロバイダのアクセスログの保存期間はおおよそ3か月から6か月程であるため、迅速に手続きを進める必要があります。
そのため、Googleマップの口コミの削除や口コミの投稿者に対する損害賠償請求をすることを検討されているのであれば、出来る限りお早めに、お近くの法律事務所でご相談されることをお勧めいたします。
以上