新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私の親は、5年前に離婚し、現在、母の親権の下で生活しています。離婚した当時、父親は、無職であったため、養育費は母親が負担すると合意をしていたらしいのですが、現在父親は、経営者として大成し優雅な暮らしをしているそうです。これに対して母親は、リストラされてしまい何とか生活していけるぐらいの収入しかなく、私は高校に進学することができません。今から父親に養育費の負担を求めることはできないのでしょうか。 解説: 2.不請求の合意の効力 (2)次に、養育費を放棄する内容が、子供の扶養請求についてどのような影響があるか問題です。というのは養育の内容と扶養の内容は事実上同一ですし、養育費の放棄は扶養請求件の放棄とも考えられますし、母親の養育費の放棄は、子供の扶養請求権放棄の代理行為として有効ではないか、とも考えられるからです。結論を申し上げますと、母親の養育費の放棄は、子の扶養請求には影響がないと考えるべきです。その理由は、 @契約自由の原則から言えば、母親は法定代理人ですから、子の扶養請求を代理行使できますから放棄も可能なようですが、子供の生きる権利を根拠とする扶養請求権を放棄するような処分行為は、権利の性質上子供として個人の尊厳を損なう危険があり認められないと考えるべきです。 A法881条は扶養請求権の処分禁止規定し権利の(帰属上の)一身専属性を規定しています。すなわち、一身専属性とは権利の主体となるものだけが享有、行使できることを意味しますが、扶養請求は要扶養者として生活して生きていく権利を保障するものですから、当該権利者にのみ帰属、行使を認めているのです。そうであれば、第三者が代理行為によってもすべて放棄するような処分行為は許されないと解釈すべきです。 Bただし、養育義務を負うものが他方に養育費を請求しないという両親間の合意は、権利の処分行為として認めても子の権利に影響がなく不都合はありませんから、契約自由の原則に戻り当事者間で有効となります。 C判例(札幌高等裁判所昭和43年12月19日家裁月報21-4-139)も、父母の間でなされた養育費不請求に関する合意の効力の問題について、それは、父母間の分担に関しての合意であり、子が扶養請求権を処分し得ない以上(民法881条)、子からの扶養請求には影響を与えないとしているものがありますので、仮に父母間で不請求の合意があるとしても、あきらめずに、最寄の法律事務所にご相談なさることをお勧めいたします。 (3)事情の変更 専門的な話になってしまいますが、親族法も前述のように要扶養者、特に子供の教育を受ける権利、個人の生活し生きる権利を実質的に保障するため経済的面から柔軟に対応するため扶養の程度または方法は、権利者の需要、義務者の資力その他一切の事情を考慮して定められるものとされ(民法879条)、民法においても「扶養をすべき者・・・・事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消をすることができる」(民法880条)と規定されております。この規定は、子の養育費の増額または減額についても準用されていますので、今回のご事情を簡単にあてはめて考えて見ますと、離婚時、ある程度の収入を得ていた母親が現在、収入が低下している反面、無職であった父親が高収入を得ているのですから、事情に変更が生じたといえる事実があります。 判例においても、不請求の合意後に、父が定職に付き経済的に安定した反面、母と子は最低生活費を下回る基礎収入しかないという事案で、事情変更を認めて養育費の支払い請求を認めたものがあります。今回の相談者の件でも、事情変更を根拠に養育費の請求が認められる可能性はありますので、あきらめずに、具体的な事実につきましてはお近くの弁護士さんにご相談ください。 3.扶養請求権発生の始期について ≪参考条文≫ (扶養の程度又は方法) 第八百七十九条 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。
No.669、2007/9/10 17:11 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm
【民事・養育費請求権の放棄は有効か・請求時期】
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回答:
父母間の養育費不請求の合意があったとしても、子からの扶養請求には影響を与えないと考えられます。また、事情が変更したことによって、養育費を請求できる場合もありますので、事情によっては、今からでも父親に対して養育費の負担を求めることができると考えられます。
1.相談者の方は、父親に対して、養育費の請求をしたいとのことですが、そのようにお考えになるお気持ちは良く分かります。ただ、法律上扶養料を請求するには、@子供の要扶養状態A義務者の扶養能力というものが必要とされていて、この請求は、子が父または母に対してすることができるとされています。では、相談者の方は法律上も養育費を請求できるのでしょうか。簡単に検討していきますと、相談者の方は、まだ中学生であり、高校に進学したいとのお考えがあるとのことですが、高校進学率が95パーセントに近い現在では、高校卒業までは一般的に未成熟子にあたると考えられておりますので@の要件は満たすものと考えられます。また、父親も経営者として安定した収入を得ているのであれば最低生活費を下回っている収入とは考えられないでしょうからAの要件も満たす可能性は高いといえます。したがって、法律上、扶養料(養育費を子から請求する場合扶養料の請求となります)を父親に対して請求できることになります。
(1)しかしながら、離婚時、父母の間で、養育費は母親が負担するとの合意があります。この合意があるため、相談者は父親に一切請求できなくなるのでしょうか。この点、について、相談者の方はご心配であろうと思われます。先ず未成年者の子について養育の内容と、扶養の内容は実質的に重複するので養育費請求権と扶養請求権の関係について明らかにする必要があると思います。養育費の請求権は養育する者が(通常両親の一方)が養育義務(扶養の義務)を負う他方に対して請求する権利であり、扶養請求権は子供が扶養義務を負うものに対して独自に有する権利であり、その内容は実質的に同じでもまったく別個の権利であると考えられます。なぜなら、養育費が認められる理由(親の扶養義務が認められる理由)は親が子供を生んだ以上教育監護する義務が当然にあり、養育をする通常夫婦の一方は他方に経済状態に応じ請求する権利であるのに対し、扶養請求権は、憲法上国民の3大義務である教育の義務に対応する(憲法26条)子供の教育を受ける権利(生来的基本権)を実質的に保障して、個人の尊厳を守るためには生きる権利として未成年者に対して認められるものだからです。
また、離婚時、父親は無職であったとのことですから、父親には扶養能力がないために、父母間で、このような不請求の合意をせざるを得なかったとも考えられます。しかし、現在は、父親に経済的な余裕があるようですから、やはり自分の子供の養育費を負担すべきであると考えられますよね。では、法律的には、どのような根拠に基づき、請求できると考えられるのでしょうか。
このように、相談者の方が父親に対して養育費の請求ができると考えたとしても、具体的にいつから請求できるでしょうか。生まれたときからさかのぼって請求できるでしょうか。この点については、判例の考え方も多伎に渡っております。審判や調停の申立て時から請求できるとする判例もありますし、扶養義務者の扶養可能状態があると認められる時点、たとえば、父が定職について収入が安定した時、とする判例もあります。過去の扶養料請求という問題です。この点につきましては、様々な考え方がございますが、子供の生来的基本権である将来個人の尊厳を守り人間らしく生きていく前提の権利ですから、当事者の公平の観点も加味し、子供にとってもっとも有利な解釈がなされるべきです。扶養義務者の扶養可能状態があると認められる時点と解するのが妥当と考えられます。大審院判例(明治34年10月3日民録7-11)は過去の扶養料について履行遅滞におちいった分に限り請求できるとしています。判例によると、履行遅滞とは履行期が来たものについてはその時期から遅滞におちいりますから、要扶養状態の発生と扶養義務者が扶養可能な時が養育費の支払い時期と考えられ、その時の分から請求できる事になるでしょう。
(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し) 第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
(扶養請求権の処分の禁止) 第八百八十一条 扶養を受ける権利は、処分することができない。