新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:突然、弁護士と名乗る男性から電話がかかってきました。夫が痴漢事件を起こし、今すぐ被害者と示談をすれば、告訴しないといわれました。夫は大手企業に勤めているので、明るみになってはクビになると思い、すぐさま指定口座に500万円の慰謝料を振り込んでしまいました。その後、夫に確認したところ、夫にはまったく身に覚えがないことが判明しました。振込詐欺に遭ってしまったのです。今考えると、電話がかかってきた男性が本物の弁護士であるかも定かではありません。自分としては、将来のためにコツコツ貯めてきたお金なので、騙した加害者が許せません。残念なことに、加害者で唯一分かることといえば、携帯電話の番号と銀行口座だけです。直後に、弁護士と名乗る人物に電話をかけましたが、一切連絡が取れなくなってしまいました。加害者の居場所などを突き止め、返還請求をする方法はないでしょうか。 1.被害に遭ったと気づいた時点で、早急に最寄りの警察署に相談しましょう。具体的にどういう被害に遭ったのか振込明細等分かる資料を持参し、詐欺による告訴手続きをして被害届を提出することです。取引に利用した銀行、及び振込先銀行に対しても、早急に被害状況を連絡しましょう。銀行のその後の対応は、警察の指示に従うことになりますから捜査機関と協議しながら先ずは預金凍結を行う事です。 2.次に、お近くの弁護士に具体的に依頼し、銀行口座の仮差押手続を行う必要があります。これは、当該口座の入出金ができなくなる手続きです。同時に、弁護士会照会制度を利用して加害者の情報を得ることです。なぜなら加害者は、自分の足取りを残さないように転々と移動を繰り返し、行方を晦ませていますから詐欺行為の本人は不明ですが、銀行口座と携帯番号から欺もう行為者及び口座名義人の情報をつかむことが可能です。 3.弁護士の確認方法は、日本弁護士連合会のホームページ(http://www.nichibenren.or.jp/)を検索し、弁護士検索をしてください。弁護士は、必ず日本弁護士連合会に登録されているため(弁護士法8条)、全国すべての弁護士が検索できます。たとえば、名前で検索すれば、法律事務所の住所や連絡先もひと目で分かります。インターネットができないという事情があれば、日本弁護士連合会に、直接電話で問い合わせをしてもよいでしょう。弁護士が実際に登録されていても、連絡先の電話番号が、弁護士会の登録と異なる時は、「なりすまし」の可能性もあるので、注意が必要です。 解説: 2.振り込め詐欺は、詐欺罪(刑法246条)や組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反(組織的詐欺)が成立します。詐欺罪は懲役10年以下、組織的詐欺(第3条9号)は1年以上の有期懲役(最高15年です。刑法12条)となっています。さらに、銀行口座の売買も犯罪です。これは、口座を買う側だけでなく、売る側にも罪が問われます。本人確認法(金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律)では、他人になりすまして口座開設をおこなったり、預金通帳やキャッシュカードを他人から譲り受けたり、他人に売り渡したりすることも禁止されています。銀行口座は、様々な振り込め詐欺事件で悪用されています。口座を売った側が「何に使われたか分からない」「自分は知らなかった」という言い訳は通用しません。罰則は50万円以下の罰金ですが、「口座屋」として業として行った場合には2年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はその両方となっています。なお、平成19年10月現在で「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」が審議されています。この法律が成立すればさらに被害救済の手段が増えることになります。 3.@以上のように本件は刑事事件ですが、なによりも大切な事は貴女の老後に備えていた資金の取戻しです。そこで、振込先預金の凍結が必要です。詐欺集団が預金口座から引き落とす前に口座名義人の取引停止を行うのです。本来であれば、他人の預金口座の取引停止を求めるためには法的手続きである保全手続すなわち仮差押手続が必要なはずです。しかし、各銀行の預金規定、規定集に法的手続きによらず銀行が独自の判断で自発的に預金者の取引を停止する処置が定められています。某都市銀行預金規定10条、11条には、「預金、預金契約上の地位その他この取引に関わる一切の権利及び通帳は、譲渡、担保、第三者に利用させる事はできないのでこれに違反した場合」「預金が、法令、公序良俗に違反する行為に利用されるか、利用される恐れあると認められた場合」以上の場合には、預金取引を停止することが出来る旨明確に定められています。銀行規定集にも同様の定めがあります。預金取引は、金融業の基本的取引であり、金融業が、経済秩序の適正な運営を目的として遂行されなければならないことは言うまでもありませんから、以上のような違法取引が許されず、凍結される事は妥当な処置です。振り込み詐欺は、預金口座を譲渡していますので、この規定により凍結することが出来ます。 A具体的な方法ですが、金融機関としてもある程度の証拠を求めますので、先ず電話にて連絡し、その後事情説明書、捜査機関への被害届け、告訴の書類を添付するか、その後直ちにFAX郵送すると伝えてとりあえず凍結を求めるべきです。捜査機関からの金融機関への連絡要請の効果的でしょう。告訴被害届けの様式は、当事務所「書式ダウンロード」によりご自分で作成も可能です。事案が複雑で高額な場合は弁護士に依頼するといいでしょう。費用は5万円から10万円程度です。 B詐欺集団もこれを予想して、早急に預金口座から引きおとしを図ろうとしますが500万円の場合身分証明書を現在求められますので、譲渡口座の場合簡単には引き出せませんが、キャッシュカードであればそれも可能です。やはり一刻も早い対応が大切です。 4.次に、凍結しても被疑者、口座名義人が捜査機関等の取調べを受けて自発的に返金に応じれば別ですが(規模が小さく単独犯のような場合は事実あるかも解かりません)、そうでなければ騙し取られた金員は戻ってきません。これからが法的手続きです。先ず、仮差押手続が必要です。保全手続の内容は当事務所ホームページ事例集で参照してください(費用としては、弁護士費用合計約20−40万円と最終的には貴女に返還されますが保全手続の保証金50万-100万円ほど用意する必要があります)。しかしこの手続きについて相手方を誰にするか問題です。振り込み詐欺を行った人物が判明した場合ですが、仮差押手続において請求権者(騙された貴女のことです)を債権者(原告でなく、このように表示されます)として、騙した人を債務者(被告でなくてこのように表示されます)にして手続を行う場合、振り込んだ口座名義人が同一であれば問題なく仮差押手続は認められますが、口座名義人が通帳の売買などで違っていれば原則保全は認められません。他人の口座を仮差押えできないからです。しかし、このような場合口座名義人も振り込み詐欺の共犯関係と捉えて、債務者を口座名義人として申し立てる事が必要です。次に振り込み詐欺を行った人物が判明しなくとも、口座名義人を共犯者と捉えて同様に債権者は被害者である貴女であり、債務者はやはり口座名義人となります。しかし、口座名義人の住所を調査する必要がありますから銀行金融機関が任意に開示しない可能性が高いので弁護士照会手続を行う必要があります。 5.次に、弁護士会照会制度について説明しましょう。弁護士会照会とは、弁護士が受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出る手続きをいいます(弁護士法23条の2)。これは、受任事件について訴訟資料を収集し、職務活動を円滑に執行処理するため手段として用いられています。照会権を有しているのは弁護士会であるため、弁護士や弁護士法人は、各所属弁護士会に照会申請を行っています。申出を受けた弁護士会は、審査の上、照会先へ申出書を送付しています。その後、照会先から申請者へ回答書が送付される仕組みになっています。適正公平な訴訟の運営に不可欠の制度ですので、照会先も趣旨を理解し、積極的に回答することが期待されます。 6.弁護士会照会という制度は、法律上、照会先には「報告義務」が原則となっています(広島高裁岡山支部判平成12年5月25日、大阪高裁平成19年1月30日判決)。例外的に、報告の持つ公共的利益にも優先して保護しなければならない法益が他に存在するようなときには「正当な理由」があるもとして、報告拒絶が許される場合があります。ただ、個人の名誉やプライバシーの権利は、それだけで弁護士法第23条の2に基づく報告義務に優先するものではありません。よって、本件の場合、携帯電話会社も銀行も、契約時の氏名・住所・連絡先などの開示に応じる可能性が高く、加害者特定への何らかの手がかりに繋がるでしょう。 7.具体的な方法は、加害者の手がかりとなる携帯電話の番号から、携帯電話会社に弁護士会照会請求をします。誰でも、携帯電話会社に加入して契約するときには、必ず契約書を作成しているため、名義人の氏名・住所・連絡先等の情報を得ることができます。たとえば、携帯番号○○○−○○○○−○○○○につき、下記の内容をご回答ください、といったものです。(1)契約者又は購入者の氏名(2)契約者又は購入者の住所(3)契約年月日(4)連絡先電話番号(5)請求書送付先名(6)請求書送付先住所(7)請求書送付先電話番号。 8.今回のご相談のように、銀行の振込口座が分かる場合にも、銀行に弁護士会照会請求を行います。たとえば、「○○銀行 ○○支店 普通口座 口座番号○○○○○○ 口座名義人○○○○」について、名義人の登録氏名及び住所を教えてください、といったものです。近年、振込詐欺と同質のヤミ金問題について、口座の開設の住所・氏名の照会を受けた金融機関では、法律上、報告する公的な義務を負うと判断した下級審判例があり(大阪地裁平成18.2.22判決)、金融機関においても積極的に弁護士会照会請求に応じる動きとなっています。 9.弁護士会照会請求によって何らかの手がかりを突き止めることができれば、先ほど申し上げた保全手続である仮差押手続、そして本訴請求である損害賠償による返還請求訴訟も可能になるでしょう(本訴請求の弁護士費用は最初に30万円、報酬として利益額の15%ほど必要でしょう)。調査の結果、仮に、加害者が転居してしまっている場合においては、弁護士職務上請求を利用して、転居先を調査する方法もあります。住民票を移している場合には、有効です。ただ、残念なことに、携帯電話や銀行口座を契約する際、虚偽の住所や名前を記載している場合(現在は証明書がなければ口座開設は出来ないのでその可能性は少ないと思います。)においては、加害者の住所を突き止めることは、困難です。警察の力が必要でしょう。口座名義人の住所が不明であっても公示催告という特別な手続(事務所ホームページ参照)もありますので諦めず手続を進める必要があります。 10.その他、刑事上の手続として、捜査機関が譲渡した口座名義人を立件し口座の預金を差し押さえし等して裁判により没収、追徴した場合には、犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律により一部被害の回復の可能性があります。具体的な対応、解決策については、お近くの弁護士と協議して見ましょう。 ≪参考条文≫ 弁護士法 刑法 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律 犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律
No.694、2007/10/29 10:15
【民事・振り込め詐欺・弁護士会照会制度・銀行への申立による口座凍結・仮差し押さえ】
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回答:直ちに警察に告訴、被害届けを出すと同時に捜査機関と協力していただき振込先銀行へ電話連絡をして当該預金の取引を停止、凍結してもらう事です。その後、弁護士照会制度を利用し、口座名の住所等を確認し、仮差押をして損害賠償請求訴訟を提起して、預金口座を差し押さえて強制執行により振り込み金額を回収することになります。
1.このような事件は、現在、社会問題になっている「振り込め詐欺」と呼ばれるものです。振り込め詐欺とは、電話を使って偽の話で相手を騙し、振込みを要求する犯罪です。今回のご相談では、弁護士を装ってもっともらしい話をつくりあげていますが、最近では、年金問題で苦しんでいる市民の弱みにつけこみ、税務署職員を装って請求する詐欺事件も横行しています。注意してください。具体的な詐欺の手口は、警察署や消費者センター等のホームページに掲載されていますので、ご参考になさってください。
(弁護士の登録)第八条 弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。
(報告の請求)第二十三条の二 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
(詐欺) 第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(平成十一年八月十八日法律第百三十六号)
第三条 次の各号に掲げる罪に当たる行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。以下同じ。)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、当該各号に定める刑に処する。
九 刑法第二百四十六条 (詐欺)の罪 一年以上の有期懲役
(平成十八年六月二十一日法律第八十七号)
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 被害回復給付金の支給
第一節 通則(第三条・第四条)
第二節 犯罪被害財産支給手続
第一款 手続の開始等(第五条―第八条)
第二款 支給の申請及び裁定等(第九条―第十三条)
第三款 支給の実施等(第十四条―第十七条)
第四款 特別支給手続(第十八条―第二十条)
第五款 手続の終了(第二十一条)
第六款 被害回復事務管理人(第二十二条―第二十七条)
第七款 雑則(第二十八条―第三十四条)
第三節 外国譲与財産支給手続(第三十五条―第三十九条)
第三章 不服申立て等(第四十条―第四十八条)
第四章 雑則(第四十九条)
第五章 罰則(第五十条・第五十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律 (平成十一年法律第百三十六号。以下「組織的犯罪処罰法」という。)第十三条第二項 各号に掲げる罪の犯罪行為(以下「対象犯罪行為」という。)により財産的被害を受けた者に対して、没収された犯罪被害財産、追徴されたその価額に相当する財産及び外国譲与財産により被害回復給付金を支給することによって、その財産的被害の回復を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 犯罪被害財産 組織的犯罪処罰法第十三条第二項 に規定する犯罪被害財産をいう。
二 被害回復給付金 給付資金から支給される金銭であって、支給対象犯罪行為により失われた財産の価額を基礎として次章第二節又は第三節の規定によりその金額が算出されるものをいう。
三 給付資金 組織的犯罪処罰法第十三条第三項 の規定により没収された犯罪被害財産の換価若しくは取立てにより得られた金銭(当該犯罪被害財産が金銭であるときは、その金銭)、組織的犯罪処罰法第十六条第二項 の規定により追徴された犯罪被害財産の価額に相当する金銭又は第三十六条第一項 の規定による外国譲与財産の換価若しくは取立てにより得られた金銭(当該外国譲与財産が金銭であるときは、その金銭)であって、検察官が保管するものをいう。
四 支給対象犯罪行為 第五条第一項又は第三十五条第一項の規定によりその範囲が定められる対象犯罪行為をいう。
五 外国犯罪被害財産等 外国の法令による裁判又は命令その他の処分により没収された財産又は追徴された価額に相当する金銭(日本国の裁判所が言い渡した組織的犯罪処罰法第十三条第三項 の規定による犯罪被害財産の没収の確定裁判の執行として没収された財産及び組織的犯罪処罰法第十六条第二項 の規定による犯罪被害財産の価額の追徴の確定裁判の執行として追徴された価額に相当する金銭を除く。)であって、日本国の法令によれば対象犯罪行為によりその被害を受けた者から得た財産若しくは当該財産の保有若しくは処分に基づき得た財産又はそれらの価額に相当する金銭に当たるものをいう。
六 外国譲与財産 外国犯罪被害財産等又はその換価若しくは取立てにより得られた金銭であって、外国から譲与を受けたものをいう。
七 費用 この法律の規定による公告及び通知に要する費用その他の給付資金から支弁すべきものとして法務省令で定める費用をいう。
八 費用等 費用及び第二十六条第一項(第三十九条において準用する場合を含む。)に規定する被害回復事務管理人の報酬をいう。