新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問: 妻が、私との離婚について、家庭裁判所に調停を申し立ててきました。私も離婚に応じ、離婚調停成立に際し、小学2年生の子供の親権者を妻として、妻に養育を任せることにしましたが、その代わりに、2ヶ月に1回は、私と子供とが面接交渉することを認めてもらい、調停条項に入れました。何度かは無事面接できたのですが、今回、次の日程を決めようとしたところ、子供が会いたくないと言っている等と言われました。面接の時は楽しく過ごしてくれていたと思っていたので、驚いて、子供に直接話を聞きたいと言ったのですが、それも嫌だと言っている、といって応じてもらえません。本当に子供がそう言っているのであれば、できるところを改善して再開したいと思いますし、そもそも、本当にそうなのか、妻が嫌なのではないか、と思ってもいます。調停で約束した以上は、やはり、守って欲しいと思うのですが、守ってもらうためのいい方法はないでしょうか。 解説: 2.本来であれば、離婚の時親権者、監護権者を協議、家事審判、訴訟で決められたのですから、そのほかにどうして直接規定もない面接交渉権なる権利を親権もないもう一方の親に認める必要があるのでしょうか。この点当職は未成年の子が精神的、肉体的に健全に成長発育するために親権、監護権もない親に認められる親子関係から当然に派生する権利として認められると解釈します。すなわちあまりに当然の権利であり法律上明文化しなかったものと考えます。その理由をご説明いたします。 @わが憲法が目標とする個人の尊厳の確保は、精神的、肉体的に未熟な時期にある未成年の子にこそ必要であり、そのためには子供は家庭生活における両親との日常会話を含めた全人格的交流を通じて成長していくものです。法律上は家庭生活の中で重要な権利義務の総体として血族たる両親に親権が認められ身分上の教育監護権(居所指定、懲戒、職業許可権)、財産的管理権を定め権利義務として規定しているのです。この権利は、権利というより互いに義務を内包するものであり子から見ると教育を受ける権利であると同時に、親から見ると教育をする権利、義務の総体なのです。従って、その内容は元々親子である事から当然に派生、生じる権利を抽出し法文化したものであり婚姻中は共同して行使することに何の問題もありません。しかし、離婚の場合は夫婦が同居しませんので子供の教育のためやむを得ず一方にのみ基本的な親権、監護権を分割したに過ぎませんから、この処分は親権を持たない親子間の会話する権利、通信し交流する権利までも奪うものではありません。従って離婚によりも親子関係はなくなりませんので面接、通信する権利は当然に一方に残され有していると考えられます。よく考えてみれば至極当然の事なのです。しかしこの交渉権も元々は子の成長のためのものであり、不幸にも親権が分離され一方がその権利を有しない以上本来の趣旨たる子の福祉、発育に反し他方の具体的親権行使を阻害するような場合は制限される事になるわけです。 A以上のように面接交渉権には、子の監護義務を全うするため、親に認められる権利というだけでなく、人格の円満な発達に不可欠な両親の愛育の享受を求める子の権利という性質もあります。この権利の法的性質には、当職の説のように親の自然権だと考える説の他、親の監護に関する権利であるとする説、あるいは、親ではなく子の権利だとする説等、いろいろな見解もありますが、いずれにせよ、実務上、お子様の福祉を理由とした制約は認められています。最近の裁判例でも、「現代親子法の基本的理念が、「子のための親権」という思想に立脚する以上、子の福祉を無視して、単に親または親権者であるからというだけで、当然に面接交渉権を有する旨の見解には同調することができない。いかなる子供も、個人として尊重され、平和的文化国家の有用な構成員として、人格の完成を目指し、心身の健全発達を求める基本的人権が保障されなければならない。」「このような精神に照らせば、面接交渉権の性質は、子の監護義務を全うするために親に認められる権利である側面を有する一方、人格の円満な発達に不可欠な両親の愛育の享受を求める子の権利としての性質をも有するものというべきである。」との見解を述べた後、未成年者の子の面接交渉権について、子の年齢やこれまでの経過や現状等を考え、あと数年成長した後で自ら面接交渉を望む時期を待たせることが未成年者らの福祉のため適当だ、として、結果的に、すぐ面接を実現することを否定したケースもあります(大阪家審平成5年12月22日)。このケースは、申立人である父親が、相手方との同棲により前妻と離婚し、相手方は、申立人との間に長女長男の二人の子供を設けた後、申立人の暴力等の理由で家を出て別居し、申立人が二人の子供を連れだして保育園に預けた後、父を親権者と定め双方が協議離婚したものの、申立人が二名の子供を養護施設等に入れてしまったことから、相手方が保護請求をして子供を取り戻し同居して、子供達の福祉に支障がない生活を送っている中で、申立人が面接を求めたケースですので、ご相談の件とは若干異なりますが、判断基準としては参考になると思います。つまり、面接交渉は、あくまでも子供のために認められるものなので(親に認められる権利といっても、子供の監護のため、というのが根拠ですから)、親だからという理由だけで行使が必ず認められるものではありません。 B以上のように子の福祉、成長を基本とし相手方親権行使の具体的な不都合性、離婚までのいきさつ、面接の必要性、回数、時間等の総合的視点から権利行使の解釈が求められる事になります。 3.面接交渉権が認められた場合その強制的実現の方法ですが、本件のように定められた面接回数が実現されなかった場合に、それを直ちに実現するよう直接強制することはできません。 @確かに、親には、自ら現実に養育していなくても、子供との面接交渉が認められることが多く、家庭裁判所でも、子の監護に関する処分として(家事審判法9条乙類4号)、面接交渉を定めることができますが、面接交渉が子供の看護のため認められるものであることから、その性質上たとえ面接交渉を調停で約束したからと言って嫌がる子供に、直接会うように強制することはできず、法律上直接の強制手続は用意されていません。 Aここで、便宜上、本件のように相手方債務者が債務を履行しない場合、権利(債務内容)実現の強制的手段について説明しておきますが、大きく分けると2つあります。強制履行と金銭的評価に変えて行う損害賠償請求(民法417条)です。強制履行の内容は、民法414条に規定されていますが、抽象的で文言が正確に使われておらず不親切で1回読んだだけではよく理解できません。強制履行は、さらに4つに別れ直接強制(文言どおり債務の内容を直接実現します。414条1項の強制履行とは直接強制を意味します。)、間接強制(債務を履行しないと履行するまで金銭賠償を認めて履行を促します。これは何故か414条に規定がなく民事執行法172条に規定があります。)、代替執行(第三者に費用を支払い代わって履行してもらうこと、建物収去明渡し請求の建物取り壊しなどです。414条2項)、意思表示義務の執行(裁判所が行う判決で債務者に代わって意思表する事でありこれだけは別に執行行為が要りません。登記の申請を求める訴訟等です414条2項但し書き)に分かれます。まず、直接強制は、物の引渡し請求(学問上与える債務といわれています)にしか認められませんので本件のようなものの引渡しではなく人の行為を求める面接請求(学問上なす債務と呼ばれます)には使えません。民事上の争いは単に私人間の私的な権利の実現の紛争、手続きであり(刑事事件のような厳格な手続きは用意されていません)その強制履行は国家による被告人の法益剥奪を目的とする刑法(刑罰)と本質的に異なりますから債務者の行為自体を意に反して強要せしめるような方法は人権侵害の危険があり禁じているのです。414条1項但し書き「性質がこれを許さざる」とはこの意味です。以下その他の方法を順に検討してみます。 4.では次に直接面会を強制できないとすると他にどのような方法があるかを考えてみます。 このように調停や審判で決められていても、子供との面会を物理的に強制的に行うことはできないことから裁判所に強制執行を申し立てる方法としては前述のように間接強制という方法が検討されています(民事執行法172条)。間接強制は、裁判所が義務者に対し履行しない場合は1日につきいくらの金員を支払え、という命令をして義務の履行を強制する執行方法です。しかし、このように金銭的な圧力をかけることには問題が生じることが懸念されます。 5.そこで当初から、面接交渉が、養育している親側の事情、意向で難航しそうだ、という特殊なケースでは、調停調書等で、実現されなかった場合には違約金を払う等と定める場合もありますので、その違約金自体の支払を強制する(つまり、財産を差し押さえる)ことは、一応はあり得ますが、相手もなかなか応じないと思いますし、上記のような性質から、裁判所も消極的になりがちですので(監護している親を経済的に追いつめるのですから、親から話を聞いて、あるいは、子供なりに察して、子供自身を追いつめる可能性もあります)、まず、なかなかそのような定めはできません。また、仮にそう決めておいても、実際に、実現されなかった場合には、お子様の意思等、正当な理由があれば、結局、支払義務は否定される、とも考えられます。さらに、お金の支払を強制されても、どうしても子供が嫌がるので応じられない、ということもあり得ますので、そうなると、面接自体の実現にはつながりません。もちろん、あらかじめ明確に決めていなければ、違約金は取れません。 6.そのため、面接交渉の調停条項がうまく実現されない場合には、強制的手段ではありませんが家庭裁判所の履行勧告(家事審判法15条の5)という方法が、よく用いられることになります。この制度は、履行するように勧める、というだけの制度ですので、従わないからといって、不利益を科したり、さらに強制手続が可能になったりするわけではありません。しかし、面接交渉についての調停条項を成立させた家庭裁判所に、調停条項が守られていないことを伝え、この履行勧告を求めると(口頭で認められる場合もあります)、家庭裁判所は、相手の当事者に、履行についてのこちらの主張を伝えるだけでなく、相手の事情や意向を聞いて、それを報告してくれることもあります。その際、家庭裁判所の調査官が、心理的な専門知識を背景に、詳細に事情聴取をしてくれることもあります。家庭裁判所から連絡が来ることで、相手方も、履行しなければならない、という意識を強く持つことも多いと思いますし、また、こちらも、家庭裁判所からの報告を聞いて、本当の原因は何か、ある程度考えることができます。ただ、本来は、あくまでも、相手方に履行を勧めるという制度で、事実上、ある程度事情を聞いて対応してくれる場合がある、というだけですから、それでも面接が実現されず、原因がよくわからなかったり、解決できなかったりする場合には、再度、面接交渉の調停をやり直して、時間をかけて、きちんと現状を調査し、状況によっては、今の調停条項を見直し、新たな条件設定を行うしかないと思います。 7.どのタイミングで、このような裁判所を通じた手続きをとるかも、非常に微妙な判断だと思います。もし、相手方が、本当に、何とか会わせたいと思っていて、お子様にうまく応じてもらえるよう苦慮している、という状況で、いきなり家庭裁判所からの連絡を受けてしまうと、こちらの努力も考えずに、そういう強攻策に出るのであれば、もう協力しない、という気持ちにさせて、状況を後退させる危険もあります。また、せっかく合意できた条件を、再度の調停で維持できるかもわかりません。これまでのいろいろな出来事、先方への感情、お子様を思うお気持ちから、なかなか冷静な判断が難しいときもあるかと存じます。離婚を多く扱う弁護士であれば、このようなときに、配慮すべき点、少しでも現状を打開する方法、先方の気持ちにも配慮する方法等の経験を、もっていることが多いと思います。調停成立の際に、弁護士を依頼していれば、その弁護士に相談したほうが、事情がよくわかっているとは思いますが、ご本人様のみで成立させた場合には、別の弁護士であっても、手続をとる前に、ご相談されたほうが安全でしょう。一度、感情の行き違いが生じると、なかなか、関係の改善が難しくなってしまうこともあります。 8.尚、前記した代替執行は費用を負担し第三者が代わって債務内容を実現するもので代替性の認められない面接交渉には勿論利用できませんし、面接を求めるものですから「意思表示義務の履行」も問題になりません。最終的には相手方親権者が何ら子の福祉、養育について正当な理由もなく面会、連絡を一切拒否するようであれば、金額的には多くは望めませんが前述した民事的損害賠償をする事も考えられる手段です。 9.以上本件では、小学2年生であり、未だ意思能力、判断能力は十分ではありませんが、相手方親権者が正当な理由を説明することなく、一切の面会、通信も拒否するようであれば子の成長、福祉に反するとはいえませんので最終的には前述の損害賠償など強制的手段をとらざるをえないものと思われます。 10.これまでは法的な手段を中心に説明してまいりましたが、一応これといった有効な手段がない以上、面接の回数が2ヶ月に1回というのは多いようにも思いますから一旦回数を減らし、親権者の拒否する理由を第三者である親族、弁護士なりを立てよく聞きその不安、理由を除去する現実的方法を模索し、例えば面会時間の短縮、子の奪還を危惧しているようであれば弁護士の立会いを行い、手紙のやり取りのみに限定する等して面接交渉を続行する事をご提案いたします。 11.又、法的手続をとらざるを得ないとしても、弁護士を代理人にして、その都度相談して、慎重に進めた方がいい場合もあります。一度、お近くの法律事務所にご相談下さい。 ≪条文参照≫ 家事審判法 家事審判法 民法 民事執行法
No.696、2007/10/29 15:02 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm
【親族・親権・離婚後の面接交渉権・履行勧告・実現方法】
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回答:調停条項に記載された面接交渉権は法的に認められるのですが、相手方親権者が任意に応じない場合に強制的に直接面会を実現する方法は現行法上ありません。ただ、手紙などの通信は認められますし、履行勧告や再度の調停という方法が考えられますが、権利の性質上これといった即効性のある有効な方法がなく、その手段については子供の成長福祉、その他総合的観点から慎重な協議、検討が必要とされるでしょう。
1.まず、貴方は、お子様との定期的面接交渉について調停で合意して、調停調書に調停条項として記載していますがこのような権利は親族法上「面接交渉権」といわれますが、直接規定した条文はありません。しかし、判例上(東京家庭裁判所家事審判昭和33年12月14日家裁月報17-4-55)、学説的にもこの権利は認められています。面接交渉権とは、未成年の子がいる夫婦が離婚した場合に、親権者、監護者でもない親が、子供に面接し、文通などなどの通信を行う権利を言います。条文の根拠としては民法766条1項の「監護について必要な事項」2項「監護について相当な処分」の内容のひとつとして認められます。当事者に協議が出来ない場合には家事審判法では9条乙類4号の「監護に関する処分」として認められています。
第9条 家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
乙類
4.民法第766条第1項又は第2項(これらの規定を同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分
(民法766条 離婚後の子の監護に関する事項の定め等
第1項 父母が協議上の離婚をするときには、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときには、家庭裁判所が、これを定める。)
第15条の5 家庭裁判所は、権利者の申出があるときは、審判で定められた義務の履行状況を調査し、義務者に対して、その義務の履行を勧告することができる。
(参考)
第15条の6 家庭裁判所は、審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠つた者がある場合において、相当と認めるときは、権利者の申立により、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をなすべきことを命ずることができる。
第25条の2 家庭裁判所は、調停又は第24条第1項の規定による審判で定められた義務の履行について、第15条の5から第15条の7までの規定の例により、これらの規定に掲げる措置をすることができる。
第28条 第15条の6又は第25条の2の規定により義務の履行を命ぜられた当事者又は参加人か正当な事由がなくその命令に従わないときは、家庭裁判所は、これを10万円以下の過料に処する。
(履行の強制)
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
4 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
(損害賠償の方法)
第四百十七条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
(代替執行)
第百七十一条 民法第四百十四条第二項 本文又は第三項 に規定する請求に係る強制執行は、執行裁判所が民法 の規定に従い決定をする方法により行う。
2 前項の執行裁判所は、第三十三条第二項第一号又は第六号に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める裁判所とする。
3 執行裁判所は、第一項の決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。
4 執行裁判所は、第一項の決定をする場合には、申立てにより、債務者に対し、その決定に掲げる行為をするために必要な費用をあらかじめ債権者に支払うべき旨を命ずることができる。
5 第一項の強制執行の申立て又は前項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 第六条第二項の規定は、第一項の決定を執行する場合について準用する。
(間接強制)
第百七十二条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3 執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4 第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5 第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。