性行為の様子を撮影していた際に成立する犯罪と対応|撮影罪の新設
刑事|令和5年7月13日「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」施行
目次
質問:
私は、30歳の会社員です。今年の8月21日に、SNSで知り合った女性を自宅に招いて性行為をしました。相手の年齢は、20歳で、いわゆるパパ活として3万円のお手当を渡しました。
その際、自宅の天井に隠しカメラを設置して、性行為の様子を撮影していました。相手の女性には撮影を伝えていませんでした。
当日、相手の女性からは指摘を受けませんでしたが、行為後に私が部屋を少し離れたときに、相手の女性がカメラを設置していた箇所をじっと見ていたように思います。
仮に撮影が相手の女性にばれていた場合、私は何等かの罪に問われるのでしょうか。犯罪になる場合、どのように対応したら良いのでしょうか、
回答:
1 性的な行為の撮影については、令和5年7月13日に「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が施行されたため、同法律違反により処罰の対象となります。
本件のように、同意を得ずに性行為の様子を撮影した場合には、同法2条1項1号ロに違反するものとして、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処せられることになります。
2 盗撮行為は、従前は各都道府県の迷惑防止条例違反により処罰されていましたが、今回、国法により処罰の対象となり、その法定刑も重くなりました。
法改正の直後は、捜査機関が積極的な立件を試みる傾向が強いです。本件のような性行為中の盗撮については、迷惑防止条例違反で処罰されていた時代でも、逮捕に至ることが多い事案でした。
法改正の経緯を踏まえると、仮に相手女性が警察に盗撮の被害を申告した場合、逮捕に至る危険性は高いように思われます。
その反面、速やかに被害者と示談をするなどして、適切な対処をすれば、逮捕や処罰の不利益を回避できる可能性は高いです。相手女性の態度でご不安な点があれば、直ちに弁護士に相談して、いかなる対応を取るべきか、具体的な助言を受けることをお勧め致します。
3 なお、相手の女性が18歳未満の場合には、性行為自体についても処罰の対象となります。この点は別途事例集2027番などもご参照ください。
4 盗撮に関する関連事例集参照。
解説:
1 性的姿態等撮影罪(撮影罪)の創設
性的な行為の撮影については、令和5年7月13日に「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下「性的姿態撮影等処罰法」といいます。)が施行されました(いわゆる撮影罪)。
従前は、性行為自体の同意がある場合に、その様子を撮影する行為について承諾がないときは、明白な処罰規定となる法律はありませんでした。そのため従前は、各都道府県の迷惑防止条例違反の盗撮規定等により処罰されていましたが、各都道府県により、要件の差違があり、統一的な運用がされていませんでした。
また近年は、カメラ付きスマートフォンの普及や高性能化により、盗撮事案をより厳しく処罰する必要性が高まっていました。
上記のような状況を受け、令和5年、国法により盗撮が明示的に処罰の対象となり、その法定刑も重くなりました。
2 性的姿態等撮影罪の構成要件
⑴ 対象となる「性的姿態等」について
性的姿態撮影等処罰法において、撮影等が処罰の対象となる「性的姿態等とは、以下の2点を言います(性的姿態撮影等処罰法第2条1項1号)
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
※刑法百七十七条第一項に規定する性交等
「性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」
上記のイでは、性器や臀部(おしり)、胸部などの一般的な性的部位や、下着の撮影が処罰の対象とされています。
定義上、下着以外の衣服の上から胸部や臀部を撮影した場合には、本罪における「性的姿態等」には該当しません。そのため、近年問題となっている、運動中の露出度の高いユニフォームの盗撮(アスリートの盗撮)などは、本罪による処罰の対象とはなりません。
もっとも、衣服の上から撮影した場合であっても、その態様によっては、「卑猥な言動」として、各都道府県の迷惑防止条例で処罰の対象となる場合があります(参照事例集No.1370)。
上記のロは、性行為の最中の様子が対象とされています。条文上は、刑法の不同意性交罪の文言を引用していますが、同意の上で行われた性行為の撮影も含まれます。よって、本事案のように、パパ活などで性行為の実施自体には同意がある場合でも、無断で撮影すれば本事案の処罰対象となります。
なお、これらの姿態であっても、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら、自ら露出し又はとっているものは除かれます(性的姿態撮影等処罰法2条1項)。
⑵ 処罰対象となる撮影態様
処罰の対象となる撮影態様は以下のとおりです。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、性的姿態等を撮影する行為
これは、いわゆる盗撮を処罰する条項です。本件の事例も、これに該当すると思われます。
二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
(※刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由)
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があ ること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
これは、刑法上の不同意わいせつ及び不同意性交罪の処罰対象となるような、状況での撮影を禁止する行為です。たとえ盗撮ではなく、相手が撮影したことを認識していたとしても、三号(アルコールの影響)や五号(同意しない意思を表明させるいとまがなかった)に該当するとして、処罰対象とされる危険があることには注意が必要でしょう。
三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
典型的なのが、「自分が後から見て思い出すためだけだ」などと告げて、性行為の様子を撮影したような場合です。
四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
相手が16歳未満の場合には、上記の類型に該当せずとも、罪となります。ただし、相手が13歳以上であって、撮影者との年齢差が5歳差以下であれば、処罰の対象とはなりません。このような規定を設けたのは、交際している同級生同士が同意の上で撮影する事案等を除外するためです。
また「正当な理由」の例示として、親が、子どもの成長の記録として、自宅の庭で上半身裸で、水遊びをしている子どもの姿を撮影する場合や、地域の行事として開催される子ども相撲の大会において、上半身裸で行われる相撲の取組を撮影する場合などが考えられます(法務省「性犯罪関係の法改正等Q&A」https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00200.html#Q3-2)。
なお、撮影した結果がいわゆる児童ポルノに該当するものであれば、児童ポルノの製造罪が別途成立する場合もあります。
⑶ 法定刑など
本件のように、同意を得ずに性行為の様子を撮影した場合には、同法2条1項1号ロに違反するものとして、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処せられることになります。
なお、性的姿態撮影等処罰法では、撮影された性的姿態の映像や写真を第三者に提供することや、不特定多数に送信すること、提供目的で保管することも処罰の対象とされています。
3 想定される捜査の流れと対策
⑴ 捜査の流れ
本相談の事例について、仮に相手女性が警察に盗撮の被害を訴えた場合には、捜査が開始されてしまう危険が高いと言えます。処罰のためには、当然、盗撮を立証する証拠が必要となりますが、相手女性が「隠しカメラが起動しているのを目撃した」と証言すれば、右証言を証拠として処罰することは可能です。
捜査が開始された場合、多くの場合は、被疑者を逮捕して取り調べることになります。性的姿態等撮影罪は、そこまで重い罪ではなく、初犯であれば罰金刑が予想されるところですが、画像の消去などの証拠隠滅行為の危険が高いことから、事前の予告なしに逮捕に踏み切ることが多いと見込まれます。また、法改正の直後は、捜査機関が積極的な立件を試みる傾向が強いです。本件のような性行為中の盗撮については、迷惑防止条例違反で処罰されていた時代でも、逮捕に至ることが多い事案でした。
法改正の経緯を踏まえると、仮に相手女性が警察に盗撮の被害を申告した場合、逮捕に至る危険性は高いように思われます。
⑵ 処罰回避のための対応
ア 示談
これらの捜査や処罰を回避するためには、以下で述べる対策が考えられます。まずは、速やかに被害者と示談をすることです。性的姿態等撮影罪は親告罪(被害者の告訴がなければ処罰できない罪)ではありませんが、個人の法益を保護するための規定ですので、被害者と示談が成立していれば、捜査や処罰の対象となることはまずありません。被害者との示談をする場合、本人が直接被害者と接触すると二次被害の危険があるとみなされてさらに捜査が加速してしまう危険があるため、必ず弁護士を通じて連絡をすべきでしょう。
イ 自首
また、仮に示談をすることが難しい場合には、あらかじめ警察に自ら出頭し、捜査に協力する意思を表示しておくことも有効です。逮捕の主な目的は、逃亡や証拠隠滅、被害者への威迫的な接触などを防止する点にありますので、それらの行為を実施しないことを誓約しておけば、逮捕を回避(または逮捕後の早期釈放)できる可能性が高まります。なお、出頭したとしても、実際に被害者が被害申告をしていない場合には、当方の出頭(自首)のみをもって捜査が実施され、処罰されるということはまずありません。自首はしたけれども、被害者が現れなかった場合には、そのまま処罰はされずに事件終了します。
出頭の際、盗撮した画像や動画を消去してしまうと、証拠隠滅を実施したとみなされてしまう場合もあるため、注意が必要です。消去する場合には、どのような目的で、どのような方法で消去したのかを明確に記録しておく必要があります。
これらの適切な対処をすれば、逮捕や処罰の不利益を回避できる可能性は高いです。
4 まとめ
新法の成立により、性的姿態の盗撮については、捜査機関がより積極的に捜査を試みる可能性が高いです。また近時は、こういった新法があることを熟知してパパ活をしている女性も多く、性行為中に隠しカメラを積極的に探している女性もいるようです。そのような女性は、事件後に速やかに警察に相談して、事件としての立件を強く希望している場合が多いです。行為時の相手女性の態度でご不安な点があれば、直ちに弁護士に相談して、いかなる対応を取るべきか、具体的な助言を受けることをお勧め致します。
以上