少年事件・保護処分の内容
刑事|少年法|少年審判|強制わいせつ罪|少年院送致|保護観察
目次
質問:
16歳高校生の息子が,通学途中満員電車で女子高生にわいせつ行為をして強制わいせつ罪で逮捕されてしまいました。息子は未成年ですから少年法が適用されると思うのですが,少年事件においては,どのような処分があるのか教えてください。
また,被害者と示談が成立し,告訴を取り消してもらえば,息子は処分されないで済むのでしょうか。
回答:
16歳の少年刑事事件についての処分としては,保護処分して保護観察,少年院送致,成人と同様に処罰を相当とする検察官送致(逆送といいます),保護処分前の試験観察があります。告訴が取り消されても保護処分の可能性はありますが告訴が取り消されると公訴権は消滅しますので検察官への逆送致はありません。
尚,少年事件に関し当事務所のホームページ事例集161番,244番、291番、291番、403番、461番も参考にしてください。
少年事件に関する関連事例集参照。
解説:
1.少年法の考え(少年法では女子でも少年と呼ぶ事になります。少年法2条)
少年法第1条が,その基本理念として掲げている「少年の健全育成」とは,個々の少年が社会の一員,1個の人格として成長するように,国において助力することを意味しています。
少年法は,非行を犯した少年について,できるだけ処罰でなく,教育的手段によってその非行性を矯正し,更生を図ることを目的としており,刑罰は,このような教育的な手段によって処遇することができないか,不適当な場合に限って科せられることになっています。これは,少年は精神的に未熟,不安定で,環境の影響を受けやすく,非行を犯した場合にも必ずしも深い犯罪性を持たないものが多く,これを成人と同様に非難し,その責任を追及することは適当でないということと,少年は,たとえ罪を犯した場合にも人格の発展途上にあるものとして,成人に比べればなお豊かな教育的可能性を持っており,指導や教育によって更生させることができるのにそれを行わず前科の烙印を押してしまうことは,本人の将来のためばかりでなく,社会にとっても決して得策ではないということに基づいています。
少年法は,この基本理念に基づいて,全ての少年事件を少年事件の専門機関である家庭裁判所に送致することを定め(これを,「全件送致主義」,「家裁送致主義」といいます。少年法41条,42条),保護処分によって改善更生の可能性がある以上は保護処分によって対処する(保護優先主義)という立場に立っています。
2.少年審判での処分
少年事件においては,前述いたしましたとおり,全ての事件を家庭裁判所に送致するという全件送致主義がとられていますので,原則として,成人の場合の起訴猶予に相当する処分や,家裁送致を経ない略式裁判による罰金の処分はありません。ただ,家庭裁判所で審判が開かれずに終わる場合(これを,「審判不開始」といます。)や,審判が行われても保護処分なしで終わる場合(これを,「不処分」といいます。)があります。したがいまして,少年事件を依頼された弁護士としては,非行事実の存在の蓋然性がないこと,事件が軽微であること等を主張して,審判不開始や不処分を獲得するよう活動することを,まず第1に考えます。もっとも本件では,非行事実の存在の蓋然性があり,事件は軽微であるとはいえませんので,不処分以外の審判開始後の処分について,以下,説明いたします。
(1)保護観察
保護観察とは,少年が20歳になるまでの間,保護観察官あるいは保護司のもとに定期的に通い,生活指導等を受ける処分をいいます。
(2)児童自立支援施設送致,児童養護施設送致
児童自立支援施設とは,不良行為を行った又は行うおそれのある児童について,不良行為を行わないようにするために教育保護を行う施設をいいます。児童養護施設とは,保護者不在又は保護者から虐待されている児童など,環境上養護を必要とする児童を養育保護する施設をいいます。これらの施設への収容は,原則として,義務教育中の児童が対象となりますので16歳の息子さんは対象になる可能性は少ないでしょう。
(3)少年院送致
少年院送致とは,少年を少年院に収容して,生活指導や職業指導等を行う処分をいいます。少年院には,初等少年院,中等少年院,特別少年院,医療少年院があり,初等少年院には,概ね14歳から15歳の少年が在院し,中等少年院には,概ね16歳から19歳の少年が在院しています。また,特別少年院は,非行が進んでいるなど特別の処遇が必要な少年を収容しており,医療少年院は,特別な医療措置が必要な少年を収容しています。
(4)検察官送致(逆送)
検察官への送致には2つの類型があります。1つは,少年が審判期日までに20歳以上となる場合になされるものです。そして,もう1つの類型は,刑事処分を相当と認める場合になされるものです。具体的に説明しますと,死刑,懲役又は禁錮に当たる罪の事件について,調査の結果,その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは,検察官に送致されます。また,16歳以上の少年が犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪(殺人,傷害致死等)の事件については,犯行の動機及び態様,犯行後の情況,少年の性格,年齢,行状及び環境その他の事情を考慮し,刑事処分以外の措置を相当と認めるときを除き,検察官に送致されます。検察官に送致された事件につきましては,原則として,検察官から起訴され,成人と同様の刑事裁判が行われます。後述のように本件強制ワイセツ罪は,親告罪であり告訴が取り消されれば,公訴権が消滅する結果逆送の意味がありませんので検察官送致はありません。
(5)試験観察
家庭裁判所では,少年に対する処分を直ちに決めることが困難な場合,少年を適当な期間,家裁調査官の観察に付すことがあります。これを試験観察といいます。試験観察においては,家庭裁判所調査官が少年に対して更生のための助言や指導を与えながら,少年が自分の問題点を改善していこうとしているかといった視点で観察を続けます。試験観察は,少年の状況に応じて異なりますが,数か月程度の期間行われます。試験観察の期間中は,家裁調査官が少年の行動を観察し,少年について更生が期待できる状態になっているかなどの確認をして報告をします。この観察の結果なども踏まえて裁判官が最終的な処分を決めることになります。なお,試験観察の方法としては在宅で行う場合(これを「在宅試験観察」といいます。)と,民間の人や施設に少年を預けてその指導を委ねながら観察する場合(これを「補導委託」といいます。)があります。
3.本件について(少年事件と親告罪)
本件においては,強制わいせつ罪(刑法176条)で逮捕されたとのことですが,強制わいせつ罪は,刑法上親告罪(刑法180条)であり被害者の告訴が訴訟条件となっています。少年事件においても,被害者と円満に示談解決し告訴を取り下げてもらえれば,親告罪告訴欠如として当然に審判不開始になると誤った考えをする人がいます。
しかしながら,少年保護事件において審判に付せられるべき少年は,少年法3条所定の少年即ち罪を犯した少年その他同条1項2号又は3号に該当する少年であって,かかる少年に対し,その性格の矯正及び環境の調整に関し適切な保護処分を加えて同少年の健全な育成を期することが少年法の目的とするところであります。したがいまして,かかる少年の犯した犯罪が本件のように親告罪であり,その告訴がなく又は告訴が取り消された場合であっても,検察官が捜査の結果犯罪の嫌疑があると考えるときは,検察官は少年法42条により,これを家庭裁判所に送致し,裁判所はこれに対し少年法の定めるところに従い,調査審判をなし,適当と認める保護処分をなすべきものであると考えられています。
このことは,東京高等裁判所昭和29年6月30日決定においても,少年事件における家庭裁判所の機能並びに保護処分の性質に鑑み疑を容れないところであるとされています。したがいまして,仮に,本件について少年院送致等の決定が下された場合には,親告罪告訴欠如を理由として抗告申立をしても,抗告は棄却されることになります。すなわち,親告罪を審判条件とするような主張は,保護処分の性質を刑罰と同一視したものであって排斥を免れないことでしょう。
もっとも,親告罪という制度は,訴追をすることによって,被害者の名誉・秘密・感情等が著しく傷つけられ,その他被害者の利益が損なわれることがあるので,国家訴追主義,起訴独占主義を原則とする我が国の刑事手続にあっては重大な例外をもうけ,訴追の必要性という重大な公益的要請と他の利益(主として犯罪被害者の利益)との利害の調整を図ったものにほかなりません。そこで,事件を依頼された弁護士としては,まず,被害者と円満に示談を成立させ,告訴を取り下げてもらえるよう活動します(被害者との示談交渉については,当事務所ホームページ事例691番,686番,622番等多数ありますので参考にしてください。)。
そして,その活動の結果,被害者と示談が成立し,告訴を取り消していただけたら,その旨報告することになりますが,その際,親告罪の趣旨は,被害者の名誉・秘密・感情等を守ることを目的としており,被害者が親告を断念したにもかかわらず,少年事件においてはこれと無関係に審判に付することには慎重であるべきことや環境調整による要保護性のないこと等を主張して,可及的に審判不開始となるよう活動することでしょう。まずは,お近くの弁護士に相談することをお勧めいたします。
以上