新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は,平成18年1月9日,友人のAさんが金融会社からお金を借りるにあたり,保証人になりました。友人の契約は300万円の枠で,借りたり返したりできるような契約のようで,私は,その債務を300万円の限度で保証するというもののようですが,詳しいことはよく分かりません。私はAさんを信用していましたし,特に問題はないと思っていたのですが,そのAさんが1か月ほど前,自己破産の申し立てをし,破産手続の開始決定が出たとのことで,金融会社から私に対して,お金を返せとの催促の電話がかかってくるようになりました。金融会社が言うには,元本が300万円で,その他に利息や遅延損害金がつくので,全て払えとのことなのですが,私はこれらを全て支払わなくてはならないのでしょうか。私が経営している個人会社が保証人になった場合はどうでしょうか。 解説: Aわが国は,自由主義経済,資本主義経済を採用しており,経済活動を行うには当然資本が必要であり自己資本のほかに不足であれば借入金により事業を開始,維持継続する事になります。金員を借り入れるにあたっては,返済の確保のため担保として物的担保(抵当権等)又は人的担保として保証人が債権者側から要請されるのですが,人的担保は物的担保と比較し(物的担保は登記が必要ですし,目的物に限定があります)手続が簡単で,保証範囲も広い事から物的担保と併せて人的担保(保証契約も)利用されてきました。保証契約は,私的自治の原則,契約自由の原則(あまりに当然のことであり特に条文はありません)によって支配されますから,その内容,方式は自由に定めるができることになります。そして,この原理を利用し,金融業者は,経済的に有利な立場を利用し,法的知識を駆使し,直接事業の当事者でない商取引に無知な保証人に事実上不利益な保証契約を締結し,予想できないような金額を予想できないような時期に契約書を盾に請求し,不当な責任を保証人に負わせる事態が生じました。 しかし,本来私的自治の原則契約自由の原則が採用される理由は,実質的に対等な当事者による,適正公平な取引経済社会秩序の適正な運用,維持,建設であり,そのため契約自由の原則には当然権利濫用,信義誠実の原則,公平の原則(憲法12条,13条,民法1 条)が当然に内在するのであり,以上のような不公平な事態を放置する事は許されず,本法律が追加改正されたのです。従って,その内容の中心は,主たる債務の限定(貸し金等に限る),保証額の限定(極度額),保証の期限(元本確定時期)の定め,保護すべき保証当事者の特定(一般人,法人は含まれません)です。物的担保,抵当権についても昔から同様の問題が生じていましたが,昭和46年の根抵当権の規定新設,その後の改正により物的担保保証人の保護は図られています。その点,人的保証については以前からの判例,今回の改正により,より保護が図られることになりました。その様な経緯から貸し金等根保証契約の内容は,根抵当権の規定に類似点が多く見られます。 B尚,本件のような貸金等根保証契約についてはNo、618,No、635もご参照下さい。 2, Aすなわち,極度額に関する契約書の規定が不適法であり,「極度額に関する定めがない」と考えられる場合です。例えば,Aさんの主債務に関する限度枠しか規定されておらず,根保証人の保証限度枠が規定されていないような場合です。貸金等保証契約それ自体が無効になるでしょう。 B本条は,前述のように,事前に契約書に極度額を明記させ,法的な商取引に無知な一般の人が際限ない過大な保証債務を後日請求される事態を回避しようとした規定です。その場合には,そもそもあなたは保証人ではないことになりますので,一円も返さなくてよいことになります。 3, Aかつては,極度額,期限,主たる債務の無限定を内容とする「包括根保証」という契約の名の下,根保証人は,主債務者が借り入れをした元本のみならず,利息,違約金,遅延損害金などすべての債務を負担させられるという状況が容認されていました。このような状況において根保証人は,主債務者の借り入れができる債務枠(元本枠)は知りうるものの,契約時において,利息や遅延損害金等がどれくらい発生するのかは判断することができず,最終的に全部でどのくらいの債務額になるか,予想することは非常に困難であり,非常に不安定な立場に立たされることになります。そこで,契約時において保証人の予測可能性を確保し,契約を慎重ならしめるため,平成17年改正民法では,貸金等根保証契約においては極度額を定めなければならないこととし,また,極度額は「主たる債務の元本だけでなく,利息,違約金,遅延損害金全て含めた限度額」として定めなければならないこととしました(民法465条の2第1項,2項)。 B被担保債権が特定されている一般抵当権と異なり(民法375条,元本の他利息,損害金等について最後の2年分を担保する)根抵当は,設定者の不測の損害を防止するため極度額の範囲に元本,利息,損害金が踏まれる事が明記されており同様の趣旨と解することが出来ます。 4, Aこのような保証契約は465条の2項の趣旨から無効と解釈すべきです。すなわち,契約書に主たる債務者として,「貸し金債権,手形割引債権」との記載が必要です。 B本条は,貸金等による根保証契約による一般人の保証人を不当な請求から保護するために規定されたものであり,「一定の範囲に属する不特定の債権を主たる債務とする保証契約」以外の契約は根保証人保護の見地から認めない趣旨と考えられるからです。そう解釈しないと包括根保証を事実上認めることになり本条の実効性は確保できないからである。 Cこの点,根抵当でも被担保債権の範囲を398条の2で「一定の範囲に属する不特定の債権」として4種類の債権を明記し,それ以外の債権を認めていません。これは,被担保債権の範囲を限定し,不当に担保提供者の信頼,利益を害しない様にしたものであり,根保証にもその趣旨は当てはまるからである。 Dただ,根抵当権は物権であり物権法定主義の見地から公示による取引の安全上被担保債権を明確にする必要性がありますが,他方,根保証は債権であり契約自由の原則が基本であり,このような契約も有効であるとも考えられますが,根保証の制度趣旨から根保証人を保護優先し,根抵当と同様に無効と解釈すべきです。 5, Aその趣旨は,465条の5にも現れています。本条は,難解でよく理解できにくい規定ですが,簡単に言うと根保証の保証人となった法人の求償権発生の場合,その求償債権自体の保証人(根保証も含む)になった一般人を実質的に保護する規定です。例えば,保証会社が主たる債務者(事業者,借り入れ者)に求償する場合,その求償権を担保するためにあらかじめ一般人(主たる債務者の関係者)を保証人(根保証人)にした場合の規定です。この規定がないと求償権の保証人が包括根保証の被害者のような立場に立たれるのでこれを避けるための規定です。 6,本件に関する解説は以上のとおりですが,契約書の分析など,判断が難しい点もあるかと思いますので,分からないことなどがあれば,弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。 ≪条文参照≫ 憲法 民法
No.736、2008/1/7 11:28 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm
【民事・根保証契約・極度額の定めがない場合・包括根保証・根保証人が会社の場合】
↓
回答:
1,貴方の保証契約が,民法の規定する貸金等根保証契約に該当すると思われますから極度額300万円の範囲で支払えば足り,これを超えて支払う必要はありません。
2,また,契約書の記載内容によっては保証契約が無効となり一円も払わなくて良いと判断される可能性もあります。例えば,極度額300万円の記載が契約書にない場合,主たる債務の特定がまったくないような場合です。
3,会社が保証人の場合は,包括根保証でない限り,300万円と利息,損害金を負担する事になります。
1,
@貴方は,友人Aに依頼されてAさんが金融機関からの限度額を定め繰り返し借り入れる債務について保証人になっていますので,平成17年改正施行された貸金等根保証契約に関する法律が適用になるものと考えられます。この法律は,わずか4か条なのですが,どうしてこのような法律が出来たか前もって御説明いたします。
@貴方は,保証契約書をよく理解せず友人に頼まれるまま署名したようにも見えますがこれを抗弁には出来ません。詐欺,錯誤にあたらない限り保証契約は有効です。ただ,保証契約の記載内容を検討する必要があります。先ず,保証の限度額300万円が,契約書に記載ない場合は,この保証契約書は無効となるでしょう。民法462条の2,2項,3項が明記しています。
@次に,保証契約書に極度額300万円が明記されたとしても,貴方は,元本,利息,損害金等すべて含めて300万円の限度で支払う義務しかありません。300万円の他に利息,損害金等を請求する金融会社の主張は認められません。民法465条の2が規定しています。
@さらに,300万円の極度額が定められてあっても保証契約書に保証の対象となる主たる債務の内容が何ら特定されず,包括根保証のように「Aの金融会社に対する一切の債権を担保する」と記載してある場合,保証契約自体の有効性が再度問題となります。民法465条の2は,貸金等根保証契約の要件として「一定の範囲に属する不特定の債権を主たる債務とする保証契約」である事を保証契約の要件としており,この内容に反するかどうか問題になるからです。
@貴方の会社が根保証人となった場合は,465条の2が規定するように貸し金等根保証の保護を受けることは出来ませんから,包括的根保証として公序良俗に反し無効でない限り,元本の他に利息損害金も支払う法的義務が生じます。本法律は,商取引に無知な一般個人を保護するために改正されたものであり,会社は営利を目的とする社団法人であって,通常商取引には十分な知識,対策が可能であると思われるからです。
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によつて,これを保持しなければならない。又,国民は,これを濫用してはならないのであつて,常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条 すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。
(基本原則)
第一条 私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は,これを許さない。
(解釈の基準)
第二条 この法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として,解釈しなければならない。
(保証人の責任等)
第四百四十六条 保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負う。
2 保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは,その保証契約は,書面によってされたものとみなして,前項の規定を適用する。
(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
第四百六十五条の二 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について,その全部に係る極度額を限度として,その履行をする責任を負う。
2 貸金等根保証契約は,前項に規定する極度額を定めなければ,その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は,貸金等根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
(貸金等根保証契約の元本確定期日)
第四百六十五条の三 貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において,その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは,その元本確定期日の定めは,その効力を生じない。
2 貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には,その元本確定期日は,その貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。
3 貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは,その元本確定期日の変更は,その効力を生じない。ただし,元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において,変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは,この限りでない。
4 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は,貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。
(貸金等根保証契約の元本の確定事由)
第四百六十五条の四 次に掲げる場合には,貸金等根保証契約における主たる債務の元本は,確定する。
一 債権者が,主たる債務者又は保証人の財産について,金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし,強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
(保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権)
第四百六十五条の五 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて,第四百六十五条の二第一項に規定する極度額の定めがないとき,元本確定期日の定めがないとき,又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第四百六十五条の三第一項若しくは第三項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは,その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は,その効力を生じない。
(抵当権の被担保債権の範囲)
第三百七十五条 抵当権者は,利息その他の定期金を請求する権利を有するときは,その満期となった最後の二年分についてのみ,その抵当権を行使することができる。ただし,それ以前の定期金についても,満期後に特別の登記をしたときは,その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2 前項の規定は,抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし,利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない
(根抵当権) 三百九十八条の二 抵当権は,設定行為で定めるところにより,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
2 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は,債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して,定めなければならない。
3 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権又は手形上若しくは小切手上の請求権は,前項の規定にかかわらず,根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
(根抵当権の被担保債権の範囲)
第三百九十八条の三 根抵当権者は,確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について,極度額を限度として,その根抵当権を行使することができる。
2 債務者との取引によらないで取得する手形上又は小切手上の請求権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において,次に掲げる事由があったときは,その前に取得したものについてのみ,その根抵当権を行使することができる。ただし,その後に取得したものであっても,その事由を知らないで取得したものについては,これを行使することを妨げない。
一 債務者の支払の停止
二 債務者についての破産手続開始,再生手続開始,更生手続開始又は特別清算開始の申立て
三 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え