新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:友達に100万円を貸しましたが、なかなか返してくれません。借用書もあります。裁判をしてでも返して欲しいのですが、裁判より支払督促という方法が良いと聞きました。支払督促とはどういう手続きなのでしょうか。 解説: そして裁判所の強制執行をするためには、債権が存在することを証明するものが必要とされています。法律上は「債務名義」と読んでいます。債務名義の典型的なものが裁判所の判決です。判決は主文で「被告は、原告に対し…せよ」と命じています(ほかにも判決の形式はありますが、このように債務名義となるものを給付判決といいます。)。そして、判決を得る手続きを訴訟といいます。いわゆる本裁判です。しかし、すべての債務名義について訴訟手続きを要求することは不経済といえます。訴訟は公開の法廷で原告被告当事者が出頭して行われるのですが、権利があることに争いがなく、ただお金がないために支払わない、という場合まで訴訟をすることは、当事者としても裁判所としても、時間や労力の無駄といえるでしょう。そこで、権利関係に争いがない場合には、債権者の申し立てだけを根拠に支払督促という債務名義を与えようというのが支払督促の制度です。 2.このような、手続きですから次のように定められています。 (2)また、金銭の支払い等の代替物の給付を求める場合に限定されます。不動産の明け渡しなどを求めることはできません。これは、公正証書作成により明け渡しの債務名義を取得しようとする場合と同じです(公正証書については事例集bV41参照)。裁判所の訴訟手続きの例外として支払督促が認められていることから、債務者の履行する行為が類型的であること、仮に間違って執行されても金銭賠償が可能であるという理由で給付の内容が限定されています。 (3)さらに、支払い命令が確実に債務者の手元に届き異議を申し立てる機会を奪わないようにするため、公示送達によらないで送達ができることが必要とされています。公示送達というのは、債務者等の住所が不明の場合に裁判所の掲示板に命令を張り出したことにより債務者に命令が送達されたとして扱う制度なのです。通常訴訟で被告の所在が不明な場合、所在不明なため裁判ができないという事態を避けるための制度ですが、支払い命令では公示送達の制度は利用できないことになっています(公示送達については事例集bU66号参照してください)。これも、債務者に異議を申し立てる機会を保証することが理由です。 (4)適法な支払い命令の申し立てがあると、裁判所の書記官が申し立てに理由があるか否かを審査して、債権者の債権が生じていると考えられる事実が形式的に認められる場合は支払督促を発します。債務者を裁判所に呼んで事情を聴いたり、証拠を調べたりすることはありません。このように、債務者には弁解の機会もなく命令が発せられますから、債務者の利益を保護する必要があることから、債務者の支払督促に対する異議の申し立てが認められ、異議の申し立てがあると通常訴訟に移行することとなります。 (5)債務者異議の申し立てについては、理由は必要ありません(異議の申し立てには仮執行宣言の前にする督促異議と仮執行宣言後にする督促異議があります)。債権者の申し立てが、形式的に判断されるように、債務者の異議も形式的な要件を満たせば認められます。その意味では、支払督促に対する異議の申し立ては、債務者からの通常訴訟により裁判所に判断してほしいという申し立てと考えてよいでしょう。ですから、支払い命令に間違いがなくても形式的に適法な異議の申し立てがあれば通常訴訟となります。従って、債務者としては分割払いを希望するということでも異議の申し立てができることになっています。金銭の支払いに関する通常訴訟においては、裁判所は債務者が債務の存在について争わず、借入の事実を認めるものの、収入も財産もないという状況であれば、分割払いでの和解を債権者(原告)債務者(被告)双方に提案するのが通常です。全額認容判決がくだされても、債務者に資力がなければ、事実上回収することができないからです。今後、仕事につく可能性があるのであれば、分割払いでの和解に応じたとしても、和解調書(債務名義の一つ)を取得しておけば、将来支払を怠った場合に、債務者の給料などを差し押さえて回収することも将来的には考えられるからです。 3.なお、支払督促が債務者に送達されてから2週間以内に債務者の異議の申し立てがなかった場合、債権者申立人はさらに、裁判所書記官に対して支払督促についての仮執行宣言の申し立てをする必要があります。この申し立てを、30日以内に行わないと支払督促そのものの効力が無くなりますから注意が必要です。二重の手間のようにも考えられますが、債務者としては支払督促だけですと強制執行されるということが理解できないことから、支払督促により強制執行されることを債務者に対して念を押すための手続きといえます。初めに説明したとおり、支払督促の手続きは債権者の一方的な申し立てを根拠に裁判所が債務者に対し債務の履行を命令します。その後、強制執行の手続きとなるわけですが、仮執行宣言の申し立てとは、裁判所から債務に対して、この支払い命令で強制執行がされますよ、ということを債務者に念のために知らせることの申し立てです。債務を履行せよ、ということと、履行しないと強制執行されますよ、ということは違うことなので債務者によく理解させるための命令です。裁判所というところは中立公平な立場をとっているため債権者からすると不親切、二重手間ともいえる手続きになっているのです。 4.仮執行宣言付き支払督促について異議がなかった場合に、支払督促は確定し、確定判決と同じ効力が認められています(民訴396条)。なお、仮執行宣言付き支払督促に対する異議があっても、支払督促は無効にはなりませんので、仮に執行をする効力はあります。ただ確定していませんから、裁判がおこなわれることになるにすぎません。債務者とすると、強制執行されないようにするためには執行停止の仮処分等の申し立てが必要となります。以上の手続きが支払督促についての説明ですので参考にしてください。 ≪参考条文≫ (支払督促の要件)
No.746、2008/1/31 16:26
【民事・支払督促の制度】
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回答:支払督促とは民事訴訟法第7編「督促手続」に規定されている手続きで、金銭等の支払いに関して簡易裁判所の書記官が、債権者の申し立てだけに基づき、支払督促という強制執行することができる書類を発する手続です。債権者の申し立てが適法であれば、債務者の弁解等を聞かずにまた証拠調べも不要な手続きですから、債権者にとっては手間も費用(100万円の請求であれば収入印紙5000円、切手はがき代等約2500円程度の実費)もかからない便利な手続です。他方、債務者の保護も必要ですから、解説で説明するような訴訟手続きとは違った制限があります。たとえば、所在が不明の債務者に対しては、支払督促はできません。また、債務者から異議がでると通常の裁判手続きに移行します。
1.債務者(借主)が債務を履行しない(金銭を返済しない)場合、現代法治国家においては、裁判所の強制執行(財産の差し押さえ)により債務を強制的に履行させることが必要とされています。たとえ権利があっても債務者に対して任意に履行するよう請求できるだけで、債務者の意思に反してその履行を強制するためには、裁判所に強制執行を申し立てる必要があります。もし、裁判所の強制執行の手続きを取らないで債務者に債務の履行を強制すると、事情によっては強要罪や恐喝罪という犯罪になることもあります。
(1)まず、支払い命令は債務者所在地を管轄する簡易裁判所に書面で申立てることが必要です(民訴382条)。支払督促は債権者申立人の適法な申し立てがあれば、裁判所が債務の履行を命じる制度ですから、相手方債務者の立場を考慮して命令に異存があれば裁判所にすぐに異議を出せるようにしておく必要があります。そこで、訴訟の場合は被告の住所地以外も管轄が認められているのですが、支払督促については異議が申し立てられやすいよう相手方債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てることが必要とされています。このため、相手方債務者の異議が予測される場合は、申立人債権者としては通常訴訟を選択したほうが便利な時もあります。支払督促の場合は異議があると申し立てたその当該裁判所で通常訴訟に当然に移行しますから、遠隔の裁判所に申し立てた場合、債権者申立人は自宅から遠い裁判所に出頭する必要が出てくるからです。
第三百八十二条
金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。
(支払督促の申立て)
第三百八十三条
支払督促の申立ては、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してする。
2 次の各号に掲げる請求についての支払督促の申立ては、それぞれ当該各号に定める地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してもすることができる。
一 事務所又は営業所を有する者に対する請求でその事務所又は営業所における業務に関するもの
当該事務所又は営業所の所在地
二 手形又は小切手による金銭の支払の請求及びこれに附帯する請求
手形又は小切手の支払地
(訴えに関する規定の準用)
第三百八十四条
支払督促の申立てには、その性質に反しない限り、訴えに関する規定を準用する
支払督促の効力)
第三百九十六条
仮執行の宣言を付した支払督促に対し督促異議の申立てがないとき、又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は、確定判決と同一の効力を有する。