新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:10ヶ月前に死亡した私の父の負債についての相談です。父の相続人は母と私です。私は20年前にサラリーマンの夫と結婚し遠い地方で暮らしています。父は、叔父が始めた会社を途中から手伝い、役員になって勤務していましたが、とても生真面目で会社の事はほとんど家庭に持ち込まない主義でしたし、お金に困るような事は別段なかったようです。ただ、今回私は初めて知ったのですが父は、叔父から頼まれて母と相談の上かなり前から会社の資金調達のため自宅(数千万円)を銀行の抵当にいれていたとのことです。10ヶ月前に父が死亡したとき、私としては財産があっても母が暮らす自宅とささやかな預金程度だと思っていましたから、一切相続財産には口を出しませんでしたし、事実上話し合いになっても放棄するつもりでした。母も、自宅の抵当のことは問題ないと思い年金で暮らしていたのですが、最近、叔父の会社が不景気で経営困難になり倒産してしまい、突然相続人である私たちに金融会社から数億円の保証債務等請求がきたのです。父は、家族に黙って叔父に頼まれて会社及び叔父の借り入れの連帯保証人になっていたのです。母も突然の事で驚いていますし、私としてもどうしていいか分かりません。破産や分割弁済も避けたいです。どうしたらいいのでしょうか。 解説: 2.この点について、「自己のために相続のあったことを知った時」とは、相続の発生の事実(被相続人死亡の事実)及び自らが相続人であることを知った時であるが、例外的に相続財産(マイナス財産を含めて)の全部又は一部を知った時か、知ることができる状況にあった時であると解釈致します。その例外的場合とは、相続財産(マイナス財産を含めます)がまったくないと信じ、かつ信じることに相当な事情があり相続財産の調査を行う事が期待出来ない特別の事情がある場合だけです。これは最高裁判所の判例見解です。 3.その理由をご説明します。 遺産がマイナスであれば、法定相続の意味は実質的に相続財産に関する第三者の取引の安全をどう保証するかということになってしまい自ら責任のない負債を承継するかどうかの判断を法定相続人に与え経済的利益を保護する必要がありますし、そもそも夫婦、親子といえども個人主義、私有財産制の下、財産権利関係は互いに独立別個のものであり、承継するか拒否するかは相続人の自由ですから、相続人の最終意思を確認する必要があるのです。また、相続財産の権利関係は、特別な権利(一身専属権その他)を除き被相続人(父)の死亡により内容に変更を受けず当然に相続人に移転していますから、それを前提に取引は継続維持されており相続放棄、限定承認により権利関係の主体が変動すると更に権利関係は複雑混乱することになり、円滑な取引秩序が維持できません。そういう意味から放棄は家庭裁判所という公の場所で申述しなければなりませんし、一旦放棄、承認した以上は考慮期間内でも撤回は出来ないことになっています(民法919条)。従って、相続人の利益と取引の円滑、安全の確保を調和して3ヶ月という短い考慮期間を設けているのです。 Aそうであれば、通常、相続が発生し、自らが相続人であることが分かれば直ちに相続財産を調査するのが一般です。しかし、被相続人にまったくの相続財産がないと思った場合、相続財産の調査をしようと思わないのが普通ですから、被相続人の死亡を知った時から考慮期間を一律に計算することは、相続人に判断材料がなく著しく不利益です。このような場合、相続人の利益を考え承認か放棄を決める基準となる財産、負債の内容を確認できた時から起算するという事にもなります。しかし、相続財産に関する取引の安全を保護する必要もありますので相続人が相続財産の不存在を知らなくても、その内容を知りうる状況の場合は、相続財産の調査、判断が出来る状況にあるにもかかわらずこれを放置しているのですから、相続人の保護より取引の安全を優先させるべきことになります。又、判断材料が財産関係の一部であってもこれにより相続人としては承認放棄の判断を行うため進んで調査し、3ヶ月の期間が不十分であれば裁判所に期間延長を申し出て許可を受けなければなりません(915条1項但し書き)。 B又、このように解釈しないと法定考慮期間の経過を待って相続人に負債を請求するような不法業者を助長する事になりますし、一般の家庭では相続財産がまったくないと思った場合、相続税が発生しませんから(現在、基礎控除5000万円と相続人1人につき1000万円の追加額、貴方の場合7000万円以上にならないと相続税は生じません)申告の必要はなく、自ら特に負債内容を調査することもありませんので、死亡時から考慮期間を計算すると相続人に不利益な結果となってしまいます。 C判例(最高裁判決昭和59年4月27日)の事案は、被相続人と相続人が離婚により長期にわたり音信不通であり、被相続人死亡に立ち会ったとき被相続人の生活状況からして一切の財産など不存在の状況であり、債権者が貸し金請求訴訟を起こした場合です。被相続人死亡1年後の放棄が問題になりました。以上のような事実関係であれば以下のような判決要旨になります。判決要旨「相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合であっても、上記各事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が上記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である」としています。妥当な解釈です。 D これに対して、最高裁の見解は相続人に不利益であるから、「知った時」とはもう少し広く解釈して、放棄か承認かを判断できるような相続財産(特にマイナス財産)の内容を知った時であると解釈する考え方もあります。例えば、積極財産の存在を知っていただけでは放棄、承認の判断が出来ませんのでマイナス財産を知った時から熟慮期間を進行させようとするものです。これに同調する高等裁判所の判決もあります。 E大阪高等裁判所、平成10年2月9日付決定。本件は、相続人5人で遺産分割をした後で保証債務が明らかになり事実上相続しなかった3人の相続放棄について遺産分割を遺産の処分と認めず、かつ被相続人死亡時からの熟慮期間の進行を認めませんでした。何の相続財産も取得しない相続人を実質的に保護しています。但し、この事案は、原則的熟慮期間経過後わずか2ヶ月後の放棄であり取引の安全より相続人の利益を優先しています。決定内容は、「3か月以内に相続放棄をしなかったことが、相続人において、相続債務が存在しないか、あるいは相続放棄の手続をとる必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信したためであり、かつそのように信ずるにつき相当な理由があるときは、相続債務のほぼ全容を認識したとき、または通常これを認識しうべきときから起算するべきものと解するのが相当である。」 しかし、この決定の第一審神戸家庭裁判所では遺産分割は処分行為であり法定承認としているので放棄は出来ないという理論です。 F名古屋高等裁判所、平11(ラ)26号、平11.3.31決定、相続放棄申述却下審判に対する即時抗告事件。この決定は、更に広く解釈し、「相続の開始があった」とは、被相続人名義の財産を知っていても自己が相続する財産(マイナスも含む)はないと思った以上期間は進行しないとしています。すなわち、期間は、プラス、マイナス財産を問わず、自分に具体的相続分があると知った時(知りうべき時)が、相続の開始を知った時に当たるというものです。相続人が、実質取り分がないと思い他の相続人の協議に任せておいたところ、5年後被相続人の連帯保証を発見し、急いで相続放棄をしたという事案です。決定は、「相続人が被相続人の死亡時に、被相続人名義の遺産の存在を認識していたとしても、たとえば右遺産は他の相続人が相続する等のため、自己が相続取得すべき遺産がないと信じ、かつそのように信じたとしても無理からぬ事情がある場合には、当該相続人において、被相続人名義であった遺産が相続の対象となる遺産であるとの認識がなかったもの、即ち、被相続人の積極財産及び消極財産について自己のために相続の開始があったことを知らなかったものと解するのが相当である。」と述べています。 G前記名古屋高裁の第一審 相続放棄申述事件、岐阜家平11(家)15号、平11.2.5審判は、最高裁の理論を踏襲しています。「相続人が被相続人の死亡の事実とそれにより自己が相続人となった事実を知った後3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり、かつ、そう信じるについて相当な理由があると認められるときは、熟慮期間は、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきであるが、本件では、申述人が被相続人の死亡の時点で、被相続人所有の不動産の存在を認識していることは申述人が自認するところである。 申述人は、平成10年10月13日頃に至り、債権者からの催告によって、被相続人が申述人の兄の経営する会社の債務について保証をしていた事実を知り、本件における熟慮期間はその時点から進行すると主張するが、被相続人の死亡の時点でその積極財産について上記のような認識があった以上、遺産分割協議の結果、申述人が何も取得しなかったとしても、熟慮期間は積極財産の一部の存在を知った被相続人の死亡時から起算すべきものと解するほかない。」 H最高裁判所、第三小法廷平成14年(許)第6号、平成14年4月26日決定。遺産分割決定後の遺産を受け取らなかった相続人の(相続人になった事を知り3ヶ月経過後の)相続放棄を認めませんでした。放棄の申し出は、期間経過後約3年半も過ぎており相続財産に関する取引の安全をとったのでしょう。第一審、高裁も同様の判断です。この判決は、前記昭和59年最高裁の趣旨を踏襲しています。「相続の承認又は放棄に係る3か月の熟慮期間は、原則として、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から起算すべきものであり、相続人が上記各事実を知った場合であっても、その時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかった原因が、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の事情からみて、当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において自己が相続すべき遺産がないと信じたためであり、かつ、そのように信じるについて相当な理由があると認められるときには、当該熟慮期間は相続人が自己が相続すべき財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁参照)。」 4.では本件を検討してみます。 Aしかし、お母様は既に3ヶ月が経過しているので、もはや放棄は出来ません。お母様は、叔父さんの会社の負債についてかなり以前から自宅を担保に入れた事を知っていますし、将来何も問題がないと思ったとしても、父が会社の債務について他にも保証等の事実があるかどうか確認できた状況にありますし、場合によっては、熟慮期間延長の申し立て調査することが出来たからです(民法915条1項後段、2項)。しかし、前記高裁判例もありますし、死亡後1年も経過していませんので、ともかく放棄の申立てを行ってみることも一つの方法です。この場合は、死亡時と熟慮期間開始時が異なることについて詳細な説明が必要ですので、弁護士に申立てを依頼すると良いでしょう。 B基本的に、お母様は、数億円の保証債務の返済が出来ませんので、破産の手続をとることが必要と思われます。ただ、自宅がありますので抵当権(破産法上別叙権といいます)実行まで居住を続けることも出来ますので一度弁護士と対応をご相談ください。 5.ところで、万が一家庭裁判所にて相続放棄が認められたからといって安心できません。放棄が受理されても連帯保証の債権者は保証債務請求訴訟を提起することができるからです。貴方としては、相続放棄が家庭裁判所で認められ確定した以上、更に裁判所で争うことが出来るのは二度手間であり、訴訟経済上おかしいように思うかも知れません。保証債務請求は、私的紛争ですから、債権者も裁判を受ける権利を有し(憲法32条)自らの主張を裁判所で判断してもらう事が出来るからです。民事訴訟は、私的紛争を適正、公平に解決することを目的にしていますから(民事訴訟法1条)、家庭裁判所が職権探知主義に基づき、どんなに慎重に審議したとしても(家事審判法9条1項甲類29号、甲類は、乙類と違い調停になじまないものです。家事審判規則114条、115条、99条、家事審判手続きについては事例集bU76号を参照してください。)債権者も証拠、主張を提出できる機会を与えなければならないのです。 ところが、相続放棄手続は、相続人が自ら相続放棄の意思表示を家庭裁判所に申述するものであり、当事者は相続人だけですので(債権者を探し出し呼び出して主張を聞いたりしません)、いかなる判断が下されても債権者は不服であるとの主張(即時抗告、家事審判法14条)が出来ないのです。又、家庭裁判所の決定(裁判所が行う公的判断なのですが本来の権利関係に関する争いを判断する判決とは異なります。)は当事者にしか拘束力がありませんから、相続放棄手続の当事者ではない債権者には拘束力がありません(既判力の主観的範囲)。したがって、保証債務の債権者は、債務履行請求訴訟の中で「相続放棄」の有効性を再度争い、有利な証拠を提出できることになりますし、当該地方裁判所は、家庭裁判所が判断した相続放棄決定に拘束される事なく新たに判決ができる事になります。 6.以上のような事情から、家庭裁判所で行われる相続放棄の申述受理の申し立て家事審判手続きは、債権者の主張、反論、証拠提出がありませんから、債権者との債務請求等訴訟の判断(判決)より相続人に幾分有利になる可能性はございます。しかし、最終的に債権者との訴訟になった場合には、前記最高裁判所の判例が基準になることが予想されますので十分注意が必要ということになります。 ≪参考条文≫ 民法 家事審判法 家事審判規則
No.754、2008/2/13 9:33 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm
【相続放棄・考慮期間3ヶ月の期間の起算時期】
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回答:
1.貴方は今からでも家庭裁判所に相続放棄の申立を行えば受理される可能性が残されています。しかし、現在の最高裁判所の判例をそのまま読むと、債権者が保証債務履行請求訴訟を起こしてきた場合、相続放棄を理由に抗弁しても敗訴となる危険が十分にあります。もっとも、最高裁判所の事案は貴方と異なる事実であり、貴方と類似の事案で放棄を認めた高等裁判所の判決もありますから、簡単にあきらめられない事件です。というのは、お父様の死亡後10ヶ月以内ですので、相続財産に関する取引の安全より、相続人の信頼利益保護が優先するような場合もありえるからです。弁護士との協議が必要でしょう。
2.お母様は相続放棄自体が認められないと思います。弁護士等と相談して破産の手続をとる必要があります。
3.事例集bS23号も参照してください。
1.(問題点の指摘)貴方とお母様は10ヶ月前にお亡くなりになったお父様の法定相続人であり、貴方とお母様にお父様の財産に関し相続が発生したことを知っていますから、民法915条1項、912条1項2号の規定を読む限り「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に」「単純若しくは限定承認又は相続の放棄をしなかったとき」に該当し、相続について承認(法定単純承認といいます)したものと看做される結果、マイナスの財産も相続することになりますから、金融機関の請求は当然のようにも考えられます。しかし、数億円の保証債務の存在を知ったのは相続開始10ヶ月後であり、相続開始時に以上の事実を知っていれば勿論相続放棄をしたはずですから、その様な事実を知らなかった貴方及びお母様にとっては不測の事態と言わざるを得ません。又、金融会社によっては債務者の死亡後3ヶ月を経過してから相続人に請求する場合もあり、事情を知らない相続人にとってははなはだ不利益です。そこで「相続の開始があったことを知った時」とは具体的に何時なのかが解釈上問題となります。
@まず、どうして915条1項は相続放棄について3ヶ月の考慮期間を設けているか明らかにしなければなりません。それは、相続人となった者が負債を含めて相続財産を相続するかどうかの最終意思確認と相続財産をめぐる権利関係を早期に明確にして相続財産に関する取引の安全を守るためです。今回のように遺言がなく相続が開始した場合、法定相続人が遺産を相続する理由は、亡くなった被相続人(父)の遺産処分について、妻や子供に遺産を譲りたいという合理的なそして推定的な意思、そして遺産の形成が妻や子供等の有形無形の財産的精神的な寄与の清算、残された家族の生活維持、更には相続財産関係についての取引の安全確保もあります。すなわち、経済社会において取引相手が万が一死亡しても取引、権利関係は消滅せず相続制度によりその法定相続人に継承されるという保証があるので、一定の担保を基に取引は継続維持発展するのです。しかし、法定相続人の立場から見た場合、相続されるのはプラスの財産ばかりではありません、被相続人が今回のように事業に関与していればマイナス、負債をあわせて引き受ける事になりますから喜んでばかりはいられません。
@貴方については、最高裁の理論に従う限り3ヶ月の期間は満了しております。貴方は遠く地方にいましたが、父の遺産の内容である自宅の財産を知っていましたから、その時から期間は進行しており熟慮期間は満了しているからです。但し、本件の問題は、相続財産に関する取引の安全保護か相続財産に関し事情をあまり知らない相続人の保護をいかに調整するかという問題であり、貴方のように、死亡後10ヶ月しか経過していない場合、前に記載した大阪、名古屋高等裁判所のように熟慮期間進行時期について最高裁とは異なる判断が下されるかも分かりませんので、とりあえず相続放棄することもお勧めします。従いまして、あなたの場合にも救済される可能性がないとは言えませんので、とりあえず、債権者からの請求で債務の存在を知った時から3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続(相続放棄の申述受理手続きの申立)をするとよいでしょう。但し、熟慮期間経過後の申立になりますので、不安な時は弁護士などの専門家に相談するか、提出書類の作成を依頼されると良いでしょう。後日、申述が受理されると、「相続放棄申述受理証明書」の発行を求めることが出来るようになりますので、債権者に対しては、この写しを交付することにより、支払い義務を逃れることが出来る場合もあります。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百十九条 相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項 の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項 の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第二項 の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
第九条 家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
甲類
二十五の二 民法第九百十九条第四項 の規定による相続の限定承認又は放棄の取消しの申述の受理
二十六 民法第九百二十四条 の規定による相続の限定承認の申述の受理
二十九 民法第九百三十八条 の規定による相続の放棄の申述の受理
第十四条 審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる。その期間は、これを二週間とする。
第九十九条 相続に関する審判事件は、被相続人の住所地又は相続開始地の家庭裁判所の管轄とする。
第百十四条 相続の限定承認若しくは放棄又はその取消の申述をするには、家庭裁判所に申述書を差し出さなければならない。
2 相続の限定承認又は放棄の申述書には、左の事項を記載し、申述者又は代理人がこれに署名押印しなければならない。
一 申述者の氏名及び住所
二 被相続人の氏名及び最後の住所
三 被相続人との続柄
四 相続の開始があつたことを知つた年月日
五 相続の限定承認又は放棄をする旨
3 相続の限定承認又は放棄の取消の申述書には、前項第一号及び第二号の事項の外、左の事項を記載し、申述者又は代理人がこれに署名押印しなければならない。
一 相続の限定承認又は放棄の申述を受理した家庭裁判所及び受理の年月日
二 相続の限定承認又は放棄の取消の原因
三 追認をすることができるようになつた年月日
四 相続の限定承認又は放棄の取消をする旨
(昭二三最裁規三八・昭三七最裁規四・一部改正)
第百十五条 家庭裁判所は、前条第一項の申述を受理するときは、申述書にその旨を記載しなければならない。
2 第百十一条の規定は、前条第一項の申述を却下する審判にこれを準用する。