新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.756、2008/2/14 15:23

[民事・民事執行・強制執行と財産の所在捜索・財産開示手続]

質問:知人に貸したお金を返してもらうために裁判を起こし、勝訴しましたが、それでも払ってくれません。強制執行するにはどうしたらよいですか。財産が何処にあるのか分からない場合はどうしたらよいですか。

回答:
(1)法治国家では、自力救済は許されませんので、私的紛争の解決手続は全て国家機関、裁判所が国民に代わって行います。したがって、強制執行手続は、民事裁判の実効性を確保するために、きわめて重要な手続です。裁判所が判決で支払を命じても、債務者が応じない場合は、債権者が弁済を得ることが出来ないからです。そこで、権利関係を判断する民事訴訟法とは別に、民事執行法という法律で、債権者が強制的に弁済を得るための手続が法定されています。裁判制度は、権利関係の存在を判断する機関と、判断された権利関係を実現する機関が別個になっていますから強制執行を開始するには、債権者の申立が再度必要となります。

(2)債権の存在が勝訴判決で確定していても、債権者が、実際上強制執行するためには権利を主張する債権者が債務者の財産を探さなければなりません。裁判制度の目的は言うまでもなく私的紛争を適正公平、迅速低廉に解決する事ですから(民訴1条)債権者の権利実現を保証するために種々の制度が用意されています。破産手続きや、財産開示手続が平成16年に新設され使える場合もあります。以下、順次説明します。

解説:
1.確定した勝訴判決の正本のことを、「債務名義」と言います(民事執行法22条1号)。争いのある権利関係について裁判所が判断したものであり強制執行を開始するために必要な書類です。

2.判決が確定した場合、通常は、支払完了まで、年率5%もしくは6%の遅延損害金が掛かってしまいますので、できるだけ早く支払を行ってしまった方が、敗訴確定した債務者に有利ですので、早急に支払いを行う債務者も居るでしょう。

3.債務者が任意に支払をしないときは、債権者としては、権利実現のため強制執行の準備をせざるをえないでしょう。強制執行には、大きく分けて、債権執行、不動産執行、動産執行、の3つがあります。債権執行は、債務者が受け取る予定の「給与」や「売掛金」、「預貯金」、「預託株式」を差し押さえるものです。不動産執行は、自宅土地建物など債務者名義の不動産を差し押さえる手続です。動産執行は、「家財道具」や「現金」「有価証券」などを差し押さえる手続です。

4.債務者が一般的なサラリーマンであれば、勤務先の会社を調べ、その会社を第三債務者として、給与の差押を申立します。周囲の人物に対して事情を聞き取りしたり、毎日出かける先は何処か調べたりして、会社を探します。場合によっては、調査業(探偵業)に依頼して、勤務先を調べてもらうことも考えられます。

5.債務者名義の預貯金を差し押さえる場合は、第三債務者として、銀行名及び支店名を特定することが必要です。郵便貯金の場合は、各地の貯金事務センターを第三債務者として手続を行います。債務者が受け取る「年金」は、差押禁止債権(国民年金法24条など)ですので、差押できませんが、自動振込などで銀行口座に振込された後で、口座の預金を差し押さえることは可能と解釈されています。

6.債務者が上場株式の株主である場合は、証券会社を特定できれば、預託された株式を差し押さえることが出来ます。(民事執行規則150条の3)

7.不動産執行に関しては、自宅土地建物の登記簿謄本を調べてみると良いでしょう。住民票を移転している場合は、過去の住民票所在地についても、請求してみると良いでしょう。登記簿謄本を請求する場合は、「共同担保目録付き」で請求します。自宅土地建物の他にも、所有している不動産が判明する場合もあります。不動産の謄本に債務者の所有権が登記されている場合は、抵当権などの担保権の登記された金額と、不動産の時価を比較し、担保価値に余剰があるようであれば、不動産執行の申立を検討します。

8.動産執行では、債務者の手元現金や生活道具や日常必需品が含まれるため、民事執行法131条、民事執行法施行令1条で、差押禁止動産が定められており、66万円以下の現金は差し押さえることが出来ませんので、実効性に欠ける場合が多く、一般に、慎重な事前調査が必要です。

民事執行法131条(差押禁止動産)次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
民事執行法施行令1条(差押えが禁止される金銭の額)民事執行法第131条第3号の政令で定める額は、66万円とする。

9.債務名義に従い強制執行、一般先取特権の実行をしても、十分な弁済を受けられず債務者の財産が見つからない場合は、平成15年の民事執行法改正(施行は平成16年4月1日から)で追加された、「財産開示手続 民事執行法196条以下」を検討すると良いでしょう。

10.この制度の趣旨は、債務名義、担保権を有している債権者が強制執行等を行っても債務者の一般財産から十分な弁済を受けることが出来ない時に債権者を救済する手続です。法治国家において自力救済は許されませんから、必ず、公的機関(裁判所)の判断を受けた判決及び、その判決が強制執行できる効力を有することを証明して(執行分付与 民事執行法26条)国家機関(執行する裁判所)に申し立てて強制的に執行手続をする事が必要です(権利関係の判断機関と確定した権利関係を実現する機関が違うので手続を円滑にするために必要となります)。しかし、債務者の一般財産を確認、特定する事が困難な場合もあり、隠匿されている事態も考えられます。この様な事態を放置しておく事は適正、公平、迅速、低廉に私的紛争を解決しようとする民事訴訟法の理念(民訴1条)にもとる事になります。そこで、債務者の一般財産を当てにする債権者の権利実現を迅速に図るために設けられたのが財産開示手続です。したがって、一般先取特権(この担保権は存在を証明すれば任意競売でき勿論債務名義は必要ありません。)と異なり債務者の一般財産を債権実行の引き当てとしない担保権(抵当権、質権、動産先取特権は担保物が特定され弁済が予想されます)はこの手続を利用できません。

11.これは新しい手続ですので、まだまだ十分に活用されているとは言い難いものがありますが、債務名義を持つに至った債権者の方は、是非、手続を検討すると良いでしょう。市民が手続を活用するようになれば、運用もそれにあわせて、効率化することが期待できます。財産開示手続は次の2つの事例で申立を行うことができます。

@強制執行等の申立を行ったが、配当手続をしても、債権全額の弁済を得られなかったとき。(民事執行法197条1項1号)
A知れている財産に対する強制執行(一般先取特権の実行)をしても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があるとき。(民事執行法197条1項2号)ここで「疎明」とは、裁判で勝訴するのに必要な「証明」には至らないが、裁判所を理解させるだけの説明を行うことをいいます。

裁判所が財産開示手続の開始決定を行うと、債務者に対する開示期日の呼び出しが為され、債務者には、財産目録を作成・提出し、開示期日において、財産についての陳述を行う義務が生じます。開示期日に出頭しない場合や陳述を拒否したり、虚偽の陳述を行った場合は、30万円の過料(に処せられます。(民事執行法206条)罰則はこれだけですので、不誠実な債務者がこの手続きを無視する可能性も考えられます。実効性も完全なものではありません。東京地方裁判所民事執行センター公表資料である財産開示手続の概要を最後に記載しましたので参考にしてください。

12.また、債務者が、強制執行を逃れるために、不動産の名義を移転するなど、財産隠しを行っている場合や競売手続の妨害がある場合は、債権者の権利実現を不正に妨害するものであり刑法96条の2「強制執行妨害罪」、同96条の3「競売妨害罪」が成立する可能性がありますので、必要に応じて、内容証明郵便で警告したり、刑事告訴を行うことが考えられます。以下、条文と判例をご紹介します。

刑法96条の2 強制執行を免れる目的で、財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮装の債務を負担した者は、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法96条の3 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札の公正を害すべき行為をした者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。

平成5年10月4日東京地裁判決 抵当権を消滅させ強制執行を免れる目的で、抵当不動産を損壊した行為が、強制執行妨害罪にあたるとされた事例
平成11年7月29日福岡高裁判決 賃貸不動産の賃料差押を受けた債務者が、賃借人との契約を更改し、差押債権者に送金すると偽り賃料を受領した行為が、強制執行妨害罪にあたるとされた事例
平成17年3月29日東京地裁判決 法人の代表取締役が、法人の民事再生申立に伴い、連帯保証債務に基き強制執行されることを免れるため、預金を払い戻し、妻や姪に保管させた行為が、強制執行妨害罪にあたるとされた事例
平成18年12月13日最高裁決定 不動産競売手続において、裁判所執行官の現況調査期日において、虚偽の事実を陳述し、虚偽の契約書を提出した行為が、競売妨害罪にあたるとされた事例

13.債務者に十分な財産が無い場合は、債権者として、破産申立を行い(破産法18条)、破産手続きの中で、財産目録を作成させ、そこから配当を得るようにする方法も考えられます。破産管財人には、破産者宛の郵便物を受け取り開封することができる(破産法82条)など強力な調査権限がありますし、破産法でも財産隠しは罰則規定(破産法265条等)がありますから、ある程度の強制力が期待できると言えるでしょう。債権者が破産申立を行うには、債権の存在と支払不能の状態について疎明しなければなりません。ある程度の資料を用意して裁判所に説明しなければならないわけです。

破産法18条2項 債権者が破産手続開始の申立をするときは、その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。
破産手続開始の原因とは、個人については、「支払不能」の状態であり、法人については「支払不能又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう。)」とされています。(破産法15条、16条)債務超過とは、貸借対照表(バランスシート)において、負債の部に計上された額が、資産の部に計上された金額を上回る状態を指します。

14.弁護士が手続を行う場合は、上記手続の可否について資料を検討したり、債務者に対して、上記手続を行うことを警告しながら弁済を促す通知を行ったり、また、実際に上記手続を行ったりして、弁済を得られるように努力することになります。確定判決で認められた債権の消滅時効期間は10年間です(民法174条の2)ので、判決確定後10年近く経過してしまった場合は、再度、時効中断のために、訴え提起することが考えられます。勝訴判決を取っても、債務者が行方知れずで、諦めてしまう人も多いのですが、意外に、10年間という単位で考えると、債務者の資力が回復する場合もあり、回収の可能性が大きくなるものです。諦めず、専門家に相談しながら、回収の努力をすると良いでしょう。

≪参考資料≫

財産開示手続の概要( 東京地方裁判所民事執行センターが発表、説明しているものです。参照いたします。)東京地方裁判所民事執行センター資料。
目 次
1 管轄裁判所   2 申立手数料   3 予納郵便切手   4 申立人     5 申立の要件   6 申立書(書式) 7 申立書作成上の注意事項 
8 添付書類    9 証拠書類    10 財産開示手続実施決定後の手続等
1 管轄裁判所
債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所(民事訴訟法4条)が,執行裁判所として管轄します(民事執行法196条)。また,この管轄は専属管轄とされています(民事執行法19条)。
  したがって,債務者の現在の住所地を管轄する地方裁判所に申立てをすることになり,東京都の23区及び島しょ部に住んでいる債務者については,東京地方裁判所民事執行センターに申立てをすることになります。
・債務者が判決等に記載の住所から移転している場合は,住民票,戸籍の附票等でそのつながりを証明する必要があります。
・財産開示手続は,債務者が財産開示期日に出頭し,宣誓の上で財産を開示する手続ですので,債務者の住所,居所その他送達をすべき場所が分からない場合は,この手続を利用することはできない(民訴法110条から113条までの公示送達の規定は適用されません。)と考えられています。
2 申立手数料(収入印紙)
2,000円(民訴費用法3条別表第1の11の2イ)
・同一の債権者が複数の債務名義に基づいて申立てをする場合も1個の申立てとなります。
・債権者が数名の場合は,数個の申立てとなるため,人数分の申立手数料が必要となります。
・同一の債務名義に複数の債務者が記載されている場合も,財産開示手続の性質上,債務者ごとに別事件として申立てをすることが必要となります。
3 予納郵便切手
8,400円(500円12枚,100円・80円・50円・10円各10枚)
4 申立人
(1) 執行力のある債務名義の正本を有する債権者(民事執行法197条1項)
 執行力のある債務名義の正本(仮執行宣言付判決,仮執行宣言付支払督促,確定した支払督促,執行証書(公正証書)を除く。)を有する金銭債権の債権者
 (主な債務名義の例)
判決正本,手形判決正本,※少額訴訟判決正本,※家事審判正本,和解調書正本,民事調停調書正本,△家事調停調書正本,訴訟費用額確定処分正本
・執行文の付与が必要です。ただし,※印は執行文は不要,△印は内容により執行文が不要となりますが,承継及び条件成就の場合は,必ず執行文が必要となります。・判決正本,手形判決正本及び少額訴訟判決正本が仮執行宣言付の場合並びに家事審判正本の場合は,確定証明書の添付が必要となります。
(2) 一般の先取特権を有する債権者(民事執行法197条2項)
債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者(民法306条参照)
5 申立ての要件
(1) 執行力のある債務名義の正本を有する債権者(民事執行法197条1項)
4A記載の執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者であること。
A執行開始要件を備えていること(民事執行法29条〜31条)。
・(a)債務者に当該債務名義の正本又は謄本が送達されていること(民事執行法29条前段),(b)条件成就執行文又は承継執行文が付与された場合は,同執行文の謄本及び証明文書の謄本が送達されていること(民事執行法29条後段),(c)請求が確定期限の到来に係る場合は,その期限が到来していること(民事執行法30条1項)等の執行開始要件を備えていることは,通常の強制執行の場合と同様です。
B強制執行を開始することができない場合でないこと。
・債務者について,破産宣告,会社更生手続開始決定,民事再生手続開始決定,会社整理手続開始決定及び特別清算手続開始決定がなされている場合は,強制執行を開始することができないので,財産開示手続も実施することができません。
(2) 一般の先取特権を有する債権者(民事執行法197条2項)
A債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者であること(民法306条参照)。
【案内】雇用関係の先取特権の存在について,申立人が証明すべき事実及び一般的な証明文書
A一般の先取特権を実行できない場合でないこと。
・被担保債権の履行期が到来していること。
・債務者について,破産宣告及び会社更生手続開始決定がなされている場合並びに民事再生手続において,再生裁判所が一般の先取特権の実行の中止又は取消しを命じた場合は,一般の先取特権を実行できないので,財産開示手続も実施することができません。
(3) 執行力のある債務名義の正本を有する債権者及び一般の先取特権を有する債権者共通の要件
A次のa.又はb.に該当することを主張,立証する必要があります。
a強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6箇月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が金銭債権(被担保債権)の完全な弁済を得ることができなかったこと(民事執行法197条1項1号及び2項1号)。
6箇月以内に実施された動産,不動産若しくは債権に対する強制執行又は担保権の実行における配当若しくは弁済金の交付において,申立人が金銭債権(被担保債権)の完全な弁済を得ることができなかったことを主張し,配当表又は弁済金交付計算書の謄本,開始決定正本又は差押命令正本,配当期日呼出状等の提出を要します。
(注) 配当表又は弁済金交付計算書の謄本からだけでは,財産開示手続における債務者に対するものか判断できないので,債務者の氏名,住所の記載のある開始決定正本又は差押命令正本,配当期日呼出状等の提出が必要になります。
b知れている財産に対する強制執行(担保権の実行)を実施しても,申立人が当該金銭債権(被担保債権)の完全な弁済を得られないこと(民事執行法197条1項2号及び2項2号)。
申立人が,債権者として通常行うべき調査を行った結果,知れている財産がどれだけ存在するのか,そしてそれらの財産に対する強制執行(担保権の実行)を実施しても,請求債権の完全な弁済を得られないことを主張し,その疎明として次の資料の提出を要します。
・不動産
居住地,所在地(本店,支店)等の不動産を調査したが,これを所有していないことあるいは所有していても無剰余であること。
(資料)不動産登記事項証明書(全部事項証明書),ブルーマップの写し,調査結果報告書
・債権
法人,個人事業者:営業内容から通常予想される債権について調査したが,完全な弁済を得られる財産が判明しなかったこと。
個人:勤務先を調査したが不明であること,給料等のみでは完全な弁済を得られないこと。
(資料)商業登記事項証明書,調査結果報告書,第三者の陳述書・聴取書
・動産
価値がないこと。
(資料)調査結果報告書
A債務者が申立ての日前3年以内に財産開示期日においてその財産を開示した者でないこと(一部の財産を開示しなかったとき等を含む。)(民事執行法197条3項)。
本要件は,申立ての段階においては,明示的な主張立証を要しないと考えています。ただし,過去3年内に全部の財産を開示したことが実施決定前に裁判所に明らかになった場合には,申立人は,一部の財産の非開示(1号),新たな財産の取得(2号)又は雇用関係の終了(3号)の要件を立証する必要があり,その立証がなければ申立ては却下されます。
6 申立書
(1) 執行力のある債務名義の正本を有する債権者
(a) 財産開示手続申立書(頭書)
【書式】財産開示手続申立書(PDF)
(b) 当事者目録
【書式】当事者目録(PDF)
(c) 請求債権目録
【書式】請求債権目録(PDF)
(d) 財産調査結果報告書
【書式】財産調査結果報告書(個人用・法人用)(PDF)
(2) 一般の先取特権を有する債権者
(a) 財産開示手続申立書(頭書)
【書式】財産開示手続申立書(PDF)
(b) 当事者目録
【書式】当事者目録(PDF)
(c) 担保権・被担保債権・請求債権目録
【記載例】担保権・被担保債権・請求債権目録(PDF)
(d) 財産調査結果報告書
【書式】財産調査結果報告書(個人用・法人用)(PDF)
(注) 本件申立ては,債務者ごとに別事件として申し立てる必要があります。
7 申立書作成上の注意事項
(1) 申立書1枚目(頭書)
申立てを理由付ける事実を具体的に記載し,かつ,立証を要する事由ごとに証拠を記載しなければなりません(民事執行規則182条2項,27条の2第2項)。
(2) 当事者目録
A当事者の氏名又は名称及び住所,代理人の氏名及び住所を記載してください(民事執行規則182条1項)。
B債務名義上の氏名又は名称及び住所について更正決定があるときは,その正本及び債務者に対する送達証明書を提出してください。
C債務名義上の氏名又は名称及び住所について,変更又は移転がある場合は,当事者目録に,変更又は移転後の氏名又は名称及び住所を記載し,債務名義上の氏名又は名称及び住所も併記してください。この場合は,つながりを証する住民票,戸籍謄本,商業登記事項証明書等の公文書を添付する必要があります。
D目録については,写しを4部提出してください。
(3) 請求債権目録(執行力のある債務名義に基づく場合)
A債務名義を,裁判所名,事件番号及び債務名義の種類で特定し,請求債権額を記載してください。
B付帯請求(遅延損害金)については,申立日までに発生したものに限定する必要はありません。
C目録については,(2)Dと同様です。
(4) 担保権・被担保権債権・請求債権目録(一般の先取特権に基づく場合)
A担保権を特定し,その担保権によって担保される債権額等を記載してください。付帯請求(遅延損害金)については,(3)Bと同様です。
B目録については,(2)Dと同様です。
8 添付書類
 (1) (すべての申立てに共通)
A当事者が法人の場合
商業登記事項証明書,代表者事項証明書等(申立人は2箇月以内,債務者は1箇月以内に発行されたもの)
B代理人による申立ての場合
弁護士:委任状
許可代理人:代理人許可申立書,委任状,代理人と本人との関係を証する書面(社員証明書等)
C債務名義上の氏名又は名称及び住所について,変更又は移転がある場合
住民票,戸籍の附票,履歴事項証明書,閉鎖商業登記事項証明書等
(2) 執行力のある債務名義の正本を有する債権者
A執行力のある債務名義の正本(4(1)参照)
BBの送達証明書
C債務名義が更正されている場合は,その決定正本
DCの送達証明書
ECの更正決定が主文の更正の場合は,その確定証明書
F仮執行宣言付きの判決等正本及び家事審判正本の場合は,その確定証明書
Gその他執行開始要件を備えたことの証明を要する場合は,その証明文書(5(1)B参照)
(3) 一般の先取特権を有する債権者
● 一般の先取特権を有することの証明文書
・雇用関係の先取特権の存在にかかる証明文書は,原本及びその写し2通を裁判所に提出してください。写しのうち1通は,債務者へ財産開示手続の実施決定正本とともに送達します(民事執行法197条4項)。
【案内】雇用関係の先取特権の存在について,申立人が証明すべき事実及び一般的な証明文書
9 証拠書類(すべての申立てに共通)
(1) 民事執行法197条1項1号及び2項1号の要件を証する文書
5(3)Aa参照
(2) 民事執行法197条1項2号及び2項2号の要件を疎明する文書
5(3)Ab参照
(3) 民事執行法197条3項の要件を証する文書
5(3)B参照
10 財産開示手続実施決定後の手続等
(1) 実施決定が確定したら,1箇月ほど後の日が財産開示期日として指定されます。財産開示期日の約10日前の日が債務者の財産目録提出期限と指定されます。
(2) 提出された財産目録は,民事執行法201条に掲げられた者に限り,財産開示期日前においても閲覧することができます。
(3) 開示義務者が財産目録を提出した後は,債務者の同意がない限り,財産開示手続申立事件を取り下げることはできません(民事執行法20条,民事訴訟法261条2項)。
(4) 申立人(申立人が法人の場合は代表者),同代理人弁護士,同許可代理人は,財産開示期日に出頭し,執行裁判所の許可を得て,開示義務者に対し質問することができます(民事執行法199条4項)が,根拠のない探索的な質問や債務者を困惑させる質問は許可されません。
なお,財産開示期日の円滑な実施のため,質問がある場合は,事前に質問書を提出してください。
(5) 執行力のある債務名義の正本及び同送達証明書は,財産開示手続申立事件が終了するまで還付されません。
(6) 開示義務者が財産開示期日に出頭しなかった場合,財産開示手続は終了します。

民事執行法
(強制執行の実施)
第二十五条  強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する。ただし、少額訴訟における確定判決又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決若しくは支払督促により、これに表示された当事者に対し、又はその者のためにする強制執行は、その正本に基づいて実施する。
(執行文の付与)
第二十六条  執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与する。
2  執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。
第二十七条  請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合においては、執行文は、債権者がその事実の到来したことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
第四章 財産開示手続
(管轄)
第百九十六条  この章の規定による債務者の財産の開示に関する手続(以下「財産開示手続」という。)については、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
(実施決定)
第百九十七条  執行裁判所は、次のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号、第四号若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
2  執行裁判所は、次のいずれかに該当するときは、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより、当該債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する担保権の実行を実施しても、申立人が前号の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
3  前二項の規定にかかわらず、債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあつてはその代表者。第一号において同じ。)が前二項の申立ての日前三年以内に財産開示期日(財産を開示すべき期日をいう。以下同じ。)においてその財産について陳述をしたものであるときは、財産開示手続を実施する旨の決定をすることができない。ただし、次に掲げる事由のいずれかがある場合は、この限りでない。
一  債務者が当該財産開示期日において一部の財産を開示しなかつたとき。
二  債務者が当該財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき。
三  当該財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき。
4  第一項又は第二項の決定がされたときは、当該決定(第二項の決定にあつては、当該決定及び同項の文書の写し)を債務者に送達しなければならない。
5  第一項又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6  第一項又は第二項の決定は、確定しなければその効力を生じない。
(期日指定及び期日の呼出し)
第百九十八条  執行裁判所は、前条第一項又は第二項の決定が確定したときは、財産開示期日を指定しなければならない。
2  財産開示期日には、次に掲げる者を呼び出さなければならない。
一  申立人
二  債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあつてはその代表者)
(財産開示期日)
第百九十九条  開示義務者(前条第二項第二号に掲げる者をいう。以下同じ。)は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産(第百三十一条第一号又は第二号に掲げる動産を除く。)について陳述しなければならない。
2  前項の陳述においては、陳述の対象となる財産について、第二章第二節の規定による強制執行又は前章の規定による担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項その他申立人に開示する必要があるものとして最高裁判所規則で定める事項を明示しなければならない。
3  執行裁判所は、財産開示期日において、開示義務者に対し質問を発することができる。
4  申立人は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産の状況を明らかにするため、執行裁判所の許可を得て開示義務者に対し質問を発することができる。
5  執行裁判所は、申立人が出頭しないときであつても、財産開示期日における手続を実施することができる。
6  財産開示期日における手続は、公開しない。
7  民事訴訟法第百九十五条 及び第二百六条 の規定は前各項の規定による手続について、同法第二百一条第一項 及び第二項 の規定は開示義務者について準用する。
(陳述義務の一部の免除)
第二百条  財産開示期日において債務者の財産の一部を開示した開示義務者は、申立人の同意がある場合又は当該開示によつて第百九十七条第一項の金銭債権若しくは同条第二項各号の被担保債権の完全な弁済に支障がなくなつたことが明らかである場合において、執行裁判所の許可を受けたときは、前条第一項の規定にかかわらず、その余の財産について陳述することを要しない。
2  前項の許可の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
(財産開示事件の記録の閲覧等の制限)
第二百一条  財産開示事件の記録中財産開示期日に関する部分についての第十七条の規定による請求は、次に掲げる者に限り、することができる。
一  申立人
二  債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号、第四号若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する債権者
三  債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者
四  債務者又は開示義務者
(財産開示事件に関する情報の目的外利用の制限)
第二百二条  申立人は、財産開示手続において得られた債務者の財産又は債務に関する情報を、当該債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。
2  前条第二号又は第三号に掲げる者であつて、財産開示事件の記録中の財産開示期日に関する部分の情報を得たものは、当該情報を当該財産開示事件の債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。
(強制執行及び担保権の実行の規定の準用)
第二百三条  第三十九条及び第四十条の規定は執行力のある債務名義の正本に基づく財産開示手続について、第四十二条(第二項を除く。)の規定は財産開示手続について、第百八十二条及び第百八十三条の規定は一般の先取特権に基づく財産開示手続について準用する。
第五章 罰則
第二百六条  次の各号に掲げる場合には、三十万円以下の過料に処する。
一  開示義務者が、正当な理由なく、執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日に出頭せず、又は当該財産開示期日において宣誓を拒んだとき。
二  財産開示期日において宣誓した開示義務者が、正当な理由なく第百九十九条第一項から第四項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたとき。
2  第二百二条の規定に違反して、同条の情報を同条に規定する目的以外の目的のために利用し、又は提供した者は、三十万円以下の過料に処する。
(管轄等)
第二百七条  前条に規定する過料の事件は、執行裁判所の管轄とする。


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