新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:バスを利用した際、ささいなことで運転手とトラブルになってしまいました。お釣りを渡されるときに、仕返しに10円玉40枚で渡されたのですけれど、この運転手を許せません。こういう嫌がらせに対しては泣き寝入りするしかないのでしょうか。10円玉40枚だなんてひどすぎませんか。 このことは、「法貨として適用する」という文言があることから、あなたが支払う場合のみでなく、お釣りを受け取る場合にも同様に適用されるものです。つまり、お店の人が、同一の通貨21枚以上で支払おうとした時には、あなたご自身が、そのお釣りの支払いを拒否できるということになります。なお、ここで問題となっているのは「貨幣」であり、「通貨」ではありません。「貨幣」とは、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律5条により「貨幣の種類は、五百円、百円、五十円、十円、五円及び一円の六種類」と定められていますが、「通貨」とは、貨幣にいわゆるお札(日本銀行券)も合わせたものです(同法2条3項)。そして、「日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は、法貨として無制限に通用する」という条文からも分かるとおり、お札は枚数に制限なく、法貨として通用するのです。したがって、お札はたとえ千円札であっても、支払のときに何枚でも使うことができ、たとえ20枚を超えたとしても支払いを拒絶されることはありません。 今回の相談についてなのですが、あなたはお釣りを渡されるとき、10円玉40枚でのお釣りの支払いを拒否することができた、ということになります。つまり、20枚までは「法貨」である以上は仕方ないのですが、それ以上については拒絶できたということであって、それをお釣りとして受け取った以上は、これを認めたということになるわけです。 2.ただ、後の祭りとはいえ、公共の乗り物であるバスの運転手がこのような形でお釣りを支払うということ自体、極めて悪質なケースと言えるでしょう。どのようなトラブルがあったかは明らかではありませんが、このような支払い方を運転手の方がしたこと自体を問題視することは可能かと思われます。ただし、この運転手の行為をもって慰謝料請求をしようにも、この行為があなたに対する不法行為となるかは疑問の残るところです。知らなかったこととはいえ、あなたは10円玉40枚でのお釣りの支払いを拒否することはできたわけですし、支払い方はどうであれ、お釣りの金額についても正当な金額であったためです。強いて言えば、それ自体が嫌がらせであって、この行為により精神的苦痛を蒙ったという主張になるかと思いますが、このような精神的苦痛を金銭的に評価しうるか、裁判での請求になじむか、というのはさらに検討が必要かと思われます。したがって、裁判により慰謝料を請求するということは現実的には難しいところになりますので、会社に苦情を言い、正式な謝罪を求めるということが一つの解決策になると考えます。 ≪参考条文≫ 民法 通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律 日本銀行法
No.774、2008/3/19 12:26
【相談・貨幣による支払方法】
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回答:
1.通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律7条により、同一貨幣は一度に20枚までしか使うことはできず、21枚を超える支払いについてはこれを拒絶することができます。この法律により、買い物をする時には同一通貨を21枚以上使うことはできません。もっとも、この場合、お店の方の了解があれば通貨として利用できます。要するに、21枚以上になったら受け取る人が拒否できる、ということです。「法貨として適用する」という条文の中の「法貨」というのは、「強制通用力を法律上与えられている通貨」(『有斐閣法律用語辞典』)を意味し、「お金として通用する貨幣」ということです。したがって、21枚以上の硬貨は、お金として通用しない貨幣として扱われるということになるわけです。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(通貨の額面価格の単位等)
第二条 通貨の額面価格の単位は円とし、その額面価格は一円の整数倍とする。
2 一円未満の金額の計算単位は、銭及び厘とする。この場合において、銭は円の百分の一をいい、厘は銭の十分の一をいう。
3 第一項に規定する通貨とは、貨幣及び日本銀行法 (平成九年法律第八十九号)第四十六条第一項 の規定により日本銀行が発行する銀行券をいう。
(貨幣の種類)
第五条 貨幣の種類は、五百円、百円、五十円、十円、五円及び一円の六種類とする。
2 国家的な記念事業として閣議の決定を経て発行する貨幣の種類は、前項に 規定する貨幣の種類のほか、一万円、五千円及び千円の三種類とする。
3 前項に規定する国家的な記念事業として発行する貨幣(以下この項及び第十条第一項において「記念貨幣」という。)の発行枚数は、記念貨幣ごとに政令で定める。
(法貨としての通用限度)
第七条 貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する。
(日本銀行券の発行)
第四十六条 日本銀行は、銀行券を発行する。
2 前項の規定により日本銀行が発行する銀行券(以下「日本銀行券」という。)は、法貨として無制限に通用する。