新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.775、2008/3/24 15:17 https://www.shinginza.com/seinen-kouken.htm

【民事・親族法・成年後見・使用人への給料等支払い・退職金の支払い・有料ケアー施設への入院及びそのための財産処分】

質問:私は独身のサラリーマンなのですが、父は税理士です。3ヶ月前高齢で急に具合が悪くなり入院する事になりました。肉体的健康面には問題ないのですが1ヶ月前から何を話しかけても意識朦朧としており十分答えてくれません。医師も意識面については回復不可能だといっています。税理士事務所には父が20年以上前から雇用していた事務長さんがいて何とか切り盛りしているのですが、その他女性の事務員さんもおり、残務整理のための給料、事務長の退職金、給料、入院費、治療費、交通費、駐車代をどのように支払ったらいいでしょうか。入院費支払いのため父から父個人の通帳を預かっているのですが、事務所経費の通帳は事務長さんが持っていますが入出金については任せています。又、最近転勤が決まり関西に行かなければなりませんので、退院後父の不動産を処分して有料ケアー施設に入れることはできるでしょうか。当面不都合はないのですが、他に法定相続人として遠くに嫁いだ姉がおり、後で財産支出の事で文句をいわれることが心配です。どうしたらいいでしょうか。後見制度というものがあると聞いたのですが、どのような手続なのでしょうか。

回答:
1.民法の成年後見の申立をする必要があります。
2.預っている預金から、お父様の入院費を支払う事は問題ないでしょう。
3.事務長さんの保管している通帳から、事務所の給料等実費を支払うことも問題ないと思います。退職金については高額になると思われますから、成年後見人を選任し裁判所に届けて(選任された後見監督人等の)指示も受けながら支払いに応じるのがいいと思います。
4. お父様のケアー施設に預けるため居住用不動産等の財産処分については、裁判所の許可が特に必要です。居住用不動産でなくても処分には十分な注意が必要です。
5.この解説を読んで理解できない点については、弁護士の相談を具体的に受けてください。

解説:
1.貴方が御質問の後見制度の手続きについて回答する前に、手続をよく理解できるように後見とはどういうものか一般的に先ず御説明いたします。というのは後見制度が平成11年度に改正され少し複雑になりましたし、文言上も紛らわしくなったからです。改正前は、禁治産者後見(広い意味では準禁治産者を含みます)と未成年者後見のみでしたが、現在は言葉も変わり「成年後見」(民法7条。禁治産者後見に対応するものです。広い意味では、成年後見に保佐と補助という制度も含まれます。)と「未成年者後見」(民法838条1号改正前と同様です)と「任意後見」(任意後見契約に関する法律)の3制度になりました。後見とは、意思能力(事理弁職能力、物事の是非の判断能力で大体15歳程度です)が不十分で完全な法律行為能力(単独で法律行為をする能力。20歳以上は原則としてこの能力を有します)を持たない人を保護するという意味です。人間は生まれてから死亡するまで意思能力が不十分な時期を必ず経ることになりますが、その典型が出生後成年までの未成年者の過程であり、成年になった後、年齢、病気等による意思能力の欠如の場合です。これに対応して改正法は、制限的能力者の保護を充実するために未成年者で両親等親権者がいない場合の「未成年者後見」、そして「成年後見」が用意され、更に意思能力が欠如する事を予想して、前もって本人が自ら契約により予想、準備するのが「任意後見」です。貴方のお父様は高齢で意思能力がないような状況であり、裁判所により後見人が選任される関係上、以上の制度の中で「成年後見」の問題になります。

2.どうしてこのような成年後見制度があるのかといいますと、意思能力が不十分な人が持つ財産の保護と取引の安全、適正な社会秩序の維持のためです。日本の法体系の理念は個人の尊厳の保障(憲法13条)にあるのですが、そのための具体的制度は私有財産制度(憲法29条)とこれを側面から保障する私的自治の大原則です。私的自治の原則の中心は、契約自由の原則と過失責任主義であり、その大前提は勿論各人の意思能力、法律行為能力の完全性です。意思能力が不十分な人が、どのような法律行為、不法行為を行ってもその結果に法的責任を問うことは出来ないのです(民法712条、意思自治の原則)。従って、適正公平な取引社会を保証するためには意思能力が不十分である者を前もって制度的に保護する必要がありますし(法律行為の無効、取消等により)、又、個人責任の原則から自分の生活は自らが守らなければならないからといって、意思能力が不十分となり自らの財産、生活環境の保持、維持が出来ないものを放置する事は個人の尊厳、生存権、私有財産制の実質的保障の面から許されません。更には、意思能力が不十分な者と取引に関与する相手方が不測の損害を蒙らないように配慮する必要もあります(公示制度の充実、後見登記等に関する法律)。そこで、国家は、以上の事態に対応すべく、このような国民の財産関係に例外的に介入し、国民の私有財産制度を実質的に保障するために成年後見制度を用意し、意思能力の不十分な者の財産、生活環境を保全維持継続しかつ、公示制度等により取引の相手方をも保護しようとしています。条文の解釈にあったっては以上の視点が重要です。基本的に未成年者後見(教育監護が中心となりますが)、任意後見もその趣旨は同様です。

3.総論が長くなりましたので、早速個別的問題を検討いたします。先ず、お父様の入院費等、税理士事務所の給料、経費についてですが、貴方、事務所の事務長が預っている通帳から支出することが出来るかという点ですが、これは意識朦朧となる前に通帳を預けた趣旨をどう解するのかという問題です。

4.この点については書面を作ってはいないでしょうが、事務所の経費、入院費用等を代理で支出する委任契約(民法643条)があったと評価してよいと思います。お父様の合理的意思としては、具合が悪くなり入院される時、入院費等身の回りの世話、事務所の経営費用、残務整理費用については日頃意思の疎通が出来ている貴方と、事務長に預金という財産の管理を委任し、入院、事務所の維持を任せたというふうに解釈するのが妥当だからです。委任の特色は、法律行為、事務の委託代理ですが、受任者は一定の裁量権を有し委任の目的に従い業務を処理する事ですので、目的の範囲内であればお尋ねの費用については自由に支出が可能と思われます。ただ、受任者は善管注意義務(民法644条)という高度な義務がありますから、不当な支出については後日成年後見人が就任した場合、裁判所の指示で法的責任を問われる可能性がありますので勿論いい加減な支出は許されません。ご注意ください。心配な時は弁護士さんのアドヴァイスを受けてください。尚、心配な場合は成年後見人選任前の保全処分という制度もございます(家事審判法15条の3)。

5.次に、1ヶ月前に意識朦朧となったことが委任契約にどのような影響を及ぼすかという問題ですが、影響はありません。仮にお父様の意思能力がなくなったとしても、委任契約の解除事由に該当しないからです。民法653条は委任者側の終了事由として死亡、破産手続きの決定のみを規定しており、意思能力の欠如は委任契約に影響を及ぼしません。委任契約は両当事者の個別的信頼関係を基本にしていますから、当事者の死亡は終了理由になりますし、破産は財産が管財人の管理に移される関係から委任の委託自体が意味を成さなくなるからです。又、委任者は、むしろ自ら財産を管理できなくなる可能性があるからこそ、そのような事態を回避するために委任契約を結んでおり、意思能力欠如により契約を終了せしめる事はそもそも委任の目的を達成できなくなるからです。このような委任契約は制度的には不十分ですが、むしろ平成11年改正後の「任意後見制度」の変形と見るこことも出来るわけです。

6.次に長年事務所に勤務した事務長の退職金の支払いですが、貴方及び事務長は預っている預金通帳から支出する事は出来ません。お父様の意思としては入院中の支払いは委任したものの、事務所を閉鎖する事を前提に退職金の支払いまで委任したとはご質問の内容からは読み取れないからです。お父様は意識朦朧とした状況で回復の見込みがないようですから、診断書をそえて貴方自身が4親等内の親族として成年後見の申立をすることになります(民法7条)。

7.後見人の選任は家庭裁判所がするのですが(民法843条1項)、その判断基準は、843条4項は「成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。」と規定していますが、成年被後見人の財産保全、管理について一番の適任者は誰かという点からのみ判断されます。成年後見制度の最終目的は被後見人の私有財産をいかにして保全、保持、管理するかという点にあるからです。従って、条文上は「成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況」と書いてありますが、貴方がお父様を療養看護するということではありません、療養看護のために支出する財産関係を維持保全するために選任するのです。例えば、病院、施設への入院契約を行う事です。この点未成年後見とは異なるところです。法律上ですが、老後、金銭的扶養の義務は別として、子供といえども心身の療養看護を請求する権利はありませんし、後見制度でも直接成年後見人に対し療養看護義務は認めておりません。子供に対してはあくまでも道徳上の義務しか残されていないのです。

8.貴方は、入院前から預金通帳を預り信頼関係がありますし、実子ですから選任の可能性は高いと思います。但し、姉との関係で父の財産管理について具体的な争いがあるようですと、弁護士等第三者が選ばれる可能性もあります。被後見人に選任されると、今までの貴方と事務長の委任契約は継続の意味がなくなり、目的を達し効力を失うことになります。法に従った後見人が選任された以上、個別委任契約の必要性はないからです。

9.次に成年後見人となった人は、被後見人の財産を調査し、その目録を作成しなければなりません(民法853条1項前段 年間支出予定表の作成につき同法861条1項)。また、家庭裁判所も、必要に応じて後見事務の報告や財産目録の提出を求めることも出来ます(民法863条1項)。更に、複数の後見人を追加で選任も出来ますし(民法843条3項)、成年後見人を監督する後見監督人の選任も必要でしょう(民法849条の2)。というのは、事務所の構成員からして事務所の財産、個人財産も多額になる様ですし、退職金も計算の基になる就業規則があったとしても支出が高額になる事が予想され、貴方と事務長の何等かの話し合いで被後見人の財産保全が脅かされる危険もないとはいえないからです。

10.後見人は被後見人の財産について管理代理する権限がありますが(859条)、具体的債務の支払い手続きについては明確に規定しておりません。条文上は委任の規定の準用により善管注意義務という抽象的な概念が根拠となります(民法869条、644条)。善管注意義務とは、受託者の属する職業、社会的地位に応じて客観的、一般的に期待される注意義務です(これに類似するものとして注意義務の程度が低い自己の財産を保管すると同一の注意義務があります(民法659条)、自分の能力はこの程度であるという事で責任を回避できることになります)。大まかにいえば、成年後見人という地位にある者として、被後見人の財産規模、経営規模等に応じ客観的、一般に要求される程度のかなり高度な注意を払って業務を遂行する、ということになります。その根拠は委任契約の受任者に一定の裁量権が認められるところにあります。すなわち、法律行為等の事務を信頼関係により委託されたものは自分の裁量で行動するのですから、自分の能力以上の委託された趣旨に基づく高度な客観的な注意義務を負担するのです。従って、委任内容が有償無償であるかどうかに関係がありません。自分がその様な能力がないということは責任を逃れる理由にはなりません。成年後見人の委任内容は、あくまで被後見人の財産の保全管理維持です。858条は以上の趣旨を具体的に説明しています。以上から、お父様を代理して退職金を支払うことは、就業規則に基づき厳格な計算の基に支払われる事になります。就業規則がなければ安易に支払うことはできません。監督者たる裁判所、後見監督人の十分な協議が必要でしょう。

11.以上の手続を踏み、被後見人の財産から被後見人が負っている債務の弁済は、被後見人が実際に負っている債務であるかどうかを十分に協議、検討、確認し行われます。退職金のみならす、後見人選任後の未払い事務員の給与等費用も以上の手続で支払われます。以上のように、被後見人の財産は、後見人、後見監督人、裁判所の監督の下、保持管理される事になります(民法863条)。不適正な計算が行われば、繰り返しますが、善管注意義務違反により後見人、後見監督人が法的責任を後日負わされることになります(法869条、852条 644条)。具体的には、裁判所により職権等により成年後見人、後見監督人の解任がなされ、新たな成年後見人が選任されます(法846条、843条、裁判官は数年おきに転勤しますので新たな裁判官が再度調査するのが通常です)。その様な場合は職務上弁護士が就任するでしょう。そして、内容証明、説明が不十分であれば最終的に損害賠償訴訟ということになります。裁判所としても監督者の立場にあり、放置すれば自らの責任追及の問題(国家賠償)にもなりかねませんので安易には考えません。

12.次にケアー施設入所のため不動産等の財産処分の件ですが、成年後見人は、成年被後見人の、「療養看護(実際の介護ではなく、介護契約や介護施設への入所契約の締結など)」(民法858条参照)を行いますので、ケアー施設入所の検討はできます。ただし、居住用不動産の処分については裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。居住用不動産は被後見人の重要な財産ですし、被後見人にとって居住環境が変わればその心身や生活に重大な影響を生じることに鑑み、処分については特に裁判所の許可を要件として被後見人の私有財産を特に保護しようとしたものです。後見制度はあくまで私有財産制度を前提にして、意思能力が不十分な者の財産を保全管理することに眼目があり容易に許可することは出来ません。居住用以外の不動産の売却も同様です。858条は、居住用不動産以外なら簡単に売却し被後見人の費用に充当できるようにも読めますが、制度趣旨からむしろ例示的規定であり、裁判所の許可と同様に監督機関と慎重なる協議、検討が求められます。貴方の場合、関西に転勤するという理由だけで居住用不動産処分は直ちに認められないと思います。現金への換価は、被後見人の財産減少にも繋がり兼ねませんし、財産保全という面から問題が残るからです。どうしても不動産処分を遂行する場合は、裁判所との協議、後見監督人との協議を繰り返し、かつ明確に書面に残し後日責任追及がされないように対策をとる必要があります。逐次弁護士との相談も必要でしょう。

≪条文参照≫

民法
(後見開始の審判)
第7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
(成年被後見人及び成年後見人)
第8条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。
(成年被後見人の法律行為)
第9条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
(後見開始の審判の取消し)
第10条 第七条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない。
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(委任の終了事由)
第653条  委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一  委任者又は受任者の死亡
二  委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三  受任者が後見開始の審判を受けたこと。
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第826条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
第844条 後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
第846条 後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。
第853条 後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、1箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。
2 財産の調査及びその目録の作成は、後見監督人があるときは、その立会いをもってしなければ、その効力を生じない。
第858条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
第859条 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
2 第824条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。
第859条の3 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
第860条 第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
第861条 後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。
2 後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。
第862条 家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。
第863条 後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。
2 家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。
第869条 第644条及び第830条の規定は、後見について準用する。
第870条 後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、2箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。

刑法
第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

憲法
第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第29条  財産権は、これを侵してはならない。
○2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
○3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

(家事審判法)
第九条  家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
甲類
一 民法 (明治二十九年法律第八十九号)第七条 及び第十条 の規定による後見開始の審判及びその取消し
二 民法第十一条 、第十三条第二項及び第三項、第十四条並びに第八百七十六条の四第一項及び第三項の規定による保佐開始の審判、その取消しその他の保佐に関する処分
二の二 民法第十五条第一項 、第十七条第一項及び第三項、第十八条、第八百七十六条の九第一項並びに同条第二項において準用する同法第八百七十六条の四第三項 の規定による補助開始の審判、その取消しその他の補助に関する処分
二の三 民法第十九条 の規定による後見開始、保佐開始又は補助開始の審判の取消し
十四 民法第八百四十条 、第八百四十三条第一項から第三項まで(同法第八百七十六条の二第二項 及び第八百七十六条の七第二項 において同法第八百四十三条第二項 及び第三項 の規定を準用する場合を含む。)、第八百四十九条、第八百四十九条の二、第八百七十六条の二第一項、第八百七十六条の三第一項、第八百七十六条の七第一項又は第八百七十六条の八第一項の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の選任
十五 民法第八百四十四条 (同法第八百五十二条 、第八百七十六条の二第二項、第八百七十六条の三第二項、第八百七十六条の七第二項及び第八百七十六条の八第二項において準用する場合を含む。)の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の辞任についての許可
十六 民法第八百四十六条 (同法第八百五十二条 、第八百七十六条の二第二項、第八百七十六条の三第二項、第八百七十六条の七第二項及び第八百七十六条の八第二項において準用する場合を含む。)の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の解任
十七 民法第八百五十三条第一項 ただし書(同法第八百五十六条 及び第八百六十七条第二項 において準用する場合を含む。)の規定による財産の目録の作成の期間の伸長
十八 民法第八百五十九条の二第一項 及び第二項 (これらの規定を同法第八百五十二条 、第八百七十六条の三第二項、第八百七十六条の五第二項、第八百七十六条の八第二項及び第八百七十六条の十第一項において準用する場合を含む。)の規定による数人の成年後見人、成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人の権限の行使についての定め及びその取消し
十九 民法第八百五十九条の三 (同法第八百五十二条 、第八百七十六条の三第二項、第八百七十六条の五第二項、第八百七十六条の八第二項及び第八百七十六条の十第一項において準用する場合を含む。)の規定による成年被後見人、被保佐人又は被補助人の居住用不動産の処分についての許可
二十 民法第八百六十二条 (同法第八百五十二条 、第八百六十七条第二項、第八百七十六条の三第二項、第八百七十六条の五第二項、第八百七十六条の八第二項及び第八百七十六条の十第一項において準用する場合を含む。)の規定による後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人に対する報酬の付与
二十一 民法第八百六十三条 (同法第八百六十七条第二項 、第八百七十六条の五第二項及び第八百七十六条の十第一項において準用する場合を含む。)の規定による後見、保佐又は補助の事務の報告、財産の目録の提出、当該事務又は財産の状況の調査、財産の管理その他の当該事務に関する処分
二十二 民法第八百七十条 ただし書(同法第八百七十六条の五第三項 及び第八百七十六条の十第二項 において準用する場合を含む。)の規定による管理の計算の期間の伸長
二十二の二 民法第八百七十六条の二第三項 又は第八百七十六条の七第三項 の規定による臨時保佐人又は臨時補助人の選任
第十五条の二  第九条第一項甲類に掲げる事項についての審判(戸籍の記載又は後見登記等に関する法律 (平成十一年法律第百五十二号)に定める登記の嘱託を要するものとして最高裁判所の定めるものに限る。以下この条において同じ。)が効力を生じた場合又は次条第一項の規定による審判(同条第五項の裁判を含む。)が効力を生じ、若しくは効力を失つた場合には、裁判所書記官は、最高裁判所の定めるところにより、遅滞なく、戸籍事務を管掌する者又は登記所に対し、戸籍の記載又は後見登記等に関する法律 に定める登記を嘱託しなければならない。
第十五条の三  第九条の審判の申立てがあつた場合においては、家庭裁判所は、最高裁判所の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずることができる。
○2  前項の規定による審判(以下「審判前の保全処分」という。)が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
○3  前二項の規定による審判は、疎明に基づいてする。

後見登記等に関する法律
(平成十一年十二月八日法律第百五十二号)
(趣旨)
第一条  民法(明治二十九年法律第八十九号)に規定する後見(後見開始の審判により開始するものに限る。以下同じ。)、保佐及び補助に関する登記並びに任意後見契約に関する法律(平成十一年法律第百五十号)に規定する任意後見契約の登記(以下「後見登記等」と総称する。)については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。
(登記所)
第二条  後見登記等に関する事務は、法務大臣の指定する法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所(次条において「指定法務局等」という。)が、登記所としてつかさどる。
2  前項の指定は、告示してしなければならない。
(登記官)
(後見等の登記等)
第四条  後見、保佐又は補助(以下「後見等」と総称する。)の登記は、嘱託又は申請により、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することができる物を含む。第九条において同じ。)をもって調製する後見登記等ファイルに、次に掲げる事項を記録することによって行う。
一  後見等の種別、開始の審判をした裁判所、その審判の事件の表示及び確定の年月日
二  成年被後見人、被保佐人又は被補助人(以下「成年被後見人等」と総称する。)の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)
三  成年後見人、保佐人又は補助人(以下「成年後見人等」と総称する。)の氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)
四  成年後見監督人、保佐監督人又は補助監督人(以下「成年後見監督人等」と総称する。)が選任されたときは、その氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)
五  保佐人又は補助人の同意を得ることを要する行為が定められたときは、その行為
六  保佐人又は補助人に代理権が付与されたときは、その代理権の範囲
七  数人の成年後見人等又は数人の成年後見監督人等が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことが定められたときは、その定め
八  後見等が終了したときは、その事由及び年月日
九  家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)第十五条の三第一項の規定による審判(同条第五項の裁判を含む。以下「保全処分」という。)に関する事項のうち政令で定めるもの
十  登記番号
2  後見等の開始の審判前の保全処分(政令で定めるものに限る。)の登記は、嘱託又は申請により、後見登記等ファイルに、政令で定める事項を記録することによって行う。
(任意後見契約の登記)
第五条  任意後見契約の登記は、嘱託又は申請により、後見登記等ファイルに、次に掲げる事項を記録することによって行う。
一  任意後見契約に係る公正証書を作成した公証人の氏名及び所属並びにその証書の番号及び作成の年月日
二  任意後見契約の委任者(以下「任意後見契約の本人」という。)の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)
三  任意後見受任者又は任意後見人の氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)
四  任意後見受任者又は任意後見人の代理権の範囲
五  数人の任意後見人が共同して代理権を行使すべきことを定めたときは、その定め
六  任意後見監督人が選任されたときは、その氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)並びにその選任の審判の確定の年月日
七  数人の任意後見監督人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことが定められたときは、その定め
八  任意後見契約が終了したときは、その事由及び年月日
九  保全処分に関する事項のうち政令で定めるもの
十  登記番号
(後見登記等ファイルの記録の編成)
第六条  後見登記等ファイルの記録は、後見等の登記については後見等の開始の審判ごとに、第四条第二項の登記については政令で定める保全処分ごとに、任意後見契約の登記については任意後見契約ごとに、それぞれ編成する。
(変更の登記)
(終了の登記)
(登記記録の閉鎖)
(登記事項証明書の交付等)
第十条  何人も、登記官に対し、次に掲げる登記記録について、後見登記等ファイルに記録されている事項(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
一  自己を成年被後見人等又は任意後見契約の本人とする登記記録
二  自己を成年後見人等、成年後見監督人等、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人(退任したこれらの者を含む。)とする登記記録
三  自己の配偶者又は四親等内の親族を成年被後見人等又は任意後見契約の本人とする登記記録
四  保全処分に係る登記記録で政令で定めるもの
2  次の各号に掲げる者は、登記官に対し、それぞれ当該各号に定める登記記録について、登記事項証明書の交付を請求することができる。
一  未成年後見人又は未成年後見監督人 その未成年被後見人を成年被後見人等若しくは任意後見契約の本人とする登記記録又は第四条第二項に規定する保全処分に係る登記記録で政令で定めるもの
二  成年後見人等又は成年後見監督人等 その成年被後見人等を任意後見契約の本人とする登記記録
三  登記された任意後見契約の任意後見受任者 その任意後見契約の本人を成年被後見人等とする登記記録又は第四条第二項に規定する保全処分に係る登記記録で政令で定めるもの
3  何人も、登記官に対し、次に掲げる閉鎖登記記録について、閉鎖登記ファイルに記録されている事項(記録がないときは、その旨)を証明した書面(以下「閉鎖登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
一  自己が成年被後見人等又は任意後見契約の本人であった閉鎖登記記録
二  自己が成年後見人等、成年後見監督人等、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人であった閉鎖登記記録
三  保全処分に係る閉鎖登記記録で政令で定めるもの
4  相続人その他の承継人は、登記官に対し、被相続人その他の被承継人が成年被後見人等若しくは任意後見契約の本人であった閉鎖登記記録又は第四条第二項に規定する保全処分に係る閉鎖登記記録で政令で定めるものについて、閉鎖登記事項証明書の交付を請求することができる。
5  国又は地方公共団体の職員は、職務上必要とする場合には、登記官に対し、登記事項証明書又は閉鎖登記事項証明書の交付を請求することができる。
(手数料)
(行政手続法の適用除外)
(行政機関の保有する情報の公開に関する法律の適用除外)
(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の適用除外)
第十四条  後見登記等ファイル及び閉鎖登記ファイルに記録されている保有個人情報(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十八号)第二条第三項に規定する保有個人情報をいう。)については、同法第四章の規定は、適用しない。
(審査請求)
(行政不服審査法の適用除外)
(政令への委任)

任意後見契約に関する法律
(平成十一年十二月八日法律第百五十号)
(趣旨)
第一条  この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。
一  任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
二  本人 任意後見契約の委任者をいう。
三  任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
四  任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。
(任意後見契約の方式)
第三条  任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
(任意後見監督人の選任)
第四条  任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一  本人が未成年者であるとき。
二  本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三  任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法 (明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条 各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2  前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
3  第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。
4  任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。
5  任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。

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