新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.777、2008/3/25 15:16 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事・少年事件・学校への犯罪事実の連絡は許されるか・被害届、告訴取り消し書の提出と警察側の拒否・送検、家庭裁判所への送致】

質問:私の公立高校1年生の息子(兄弟3人)がバス停で待っていた女性のミニスカートの中を手鏡で覗いて巡回中の警察官に捕まったのですが、当日直ちに謝罪し調書を取られ両親と共に帰宅しました。父親(会社勤務)にも家で怒られ泣いて謝っていましたし、食事も出来ず憔悴しきっています。祖父母も心配しています。勿論、非行暦もなく真面目な子供ですがおもしろ半分にやったそうです。警察の人は、最初優しくて「大丈夫だから」「そんなに心配ないよ」「被害者もあまり怒っていないし」「家庭でよく話し合ってね」といっていましたので安心していたのです。被害者は地域の人で処分されないように協力してくれるというので、専門家に相談し告訴の取り消し、被害届けを取り下げできるか警察に連絡したところ「その様な事は出来ません」「もともと告訴はされていませんから」といわれました。心配になり告訴取り消し書、被害届取り下げ書、示談書を作り警察署に持参したところ、担当警察官がいないということで拒否されました。夕方、担当警察官がいたのですが「被害者本人が持参しないと意味がありません」といわれ、又断られました。翌日、今度は被害者の女性も協力して一緒に警察署に行ってくれたのですが「一旦事件が発生した以上その様な書類は受け取れません」と再度断られました。次第に担当の警察官の機嫌が悪く口調もきつくなり「学校側との取り決めなので公立高校には連絡する」「事件書類は必ず検察庁に送ります」「たとえ被害届け、告訴取り消しがされても送検します」といっています。私としては結果的に警察署に対して何か悪い事をしてしまったかと思い悩んでしまいました。連絡されたら停学、退学になると思います。どうしたらいいでしょうか。

回答:
1.貴女のとった手続は正当なことであり、何も悩む必要はありません。
2.警察署担当者が色々な理由をつけて告訴取り消し書、被害届け取り下げ書、示談書の提出を拒絶する事は出来ません。直ぐに弁護士と相談しましょう。
3.このような場合、高校に連絡する事は出来ません。退学、停学が予想されます。警察署が要請に応じないようであれば、弁護士を依頼し連絡しないように交渉してもらいましょう。
4.告訴、被害届けが取り下げられた場合、検察庁に送検することは違法ではありませんが、妥当性に欠けるものと思います。弁護士と協議しましょう。
5.事務所事例集No716、No714、bS61、bS03,bQ91、bQ44、bP61も参考にしてください。

解説:
1.息子さんは女性のスカートの中を手鏡で覗き見しようとし女性の羞恥心を侵害していますから、東京都であればいわゆる迷惑防止条例違反行為に該当し、50万円以下の罰金、6ヶ月以下の懲役刑が規定されます(条例5条1項、8条)。14歳以上であり刑事責任能力(刑法41条)はありますので刑事手続をとられるのですが、高校1年生ですから未成年であり少年事件として扱われます。基本的には成人の刑事手続が適用になるのですが、少年の特殊性(少年の精神的肉体的未成熟性)から少年法という特別法が部分的に規定されています。少年法の目的は少年の健全な育成を目的として法秩序に反する性格を矯正し、環境を整備する事になります(少年法1条)。

2.どうして少年法が規定されている簡単に説明します。刑法とは犯罪と刑罰に関する法律の総称であり、刑罰は犯罪に対する法律上の効果として行為者に科せられる法益の剥奪、制裁を内容とする強制処分です。刑法の最終目的は国家という社会の法的秩序を維持するために存在します。どうして罪を犯した者が刑罰を受けるかという理論的根拠ですが、刑罰は、国家が行為者の法益を強制的に奪うわけですから、近代立憲主義の原則である個人の尊厳の保障、自由主義,(本来人間は自由であり,その個人に責任がない以上社会的に個々の人が最大限尊重されるという考え方)個人主義(全ての価値の根源を社会全体ではなく個人自身に求めるもの、民主主義の前提です)の見地から,刑罰の本質は個人たる行為者自身に不利益を受ける合理的理由が不可欠です。その理由とは,自由に判断できる意思能力を前提として犯罪行為者が犯罪行為のような悪いことをしてはいけないという社会規範(決まり)を守り、適法な行為を選択できるにもかかわらずあえて違法行動に出た態度,行為に求める事が出来ます(刑法38条1項)。そして,その様な自分を形成し生きて来た犯罪者自身の全人格それ自体が刑事上の不利益を受ける根拠となります。(これを刑法上道義的責任論といいます。判例も同様です。対立する考え方に犯罪行為者の社会的危険性を根拠とし、社会を守るために刑罰があるとする社会的責任論があります)

すなわち、刑事責任の大前提は行為者の自由意志である是非善悪を弁別し、その弁別にしたがって行動する能力(責任能力)の存在が不可欠なのです。この能力は、画一的に刑法上14歳以上と規定されていますから、少年であっても理論的には直ちに刑罰を科すことが出来るはずです。しかし、少年は刑事的責任能力としての最低限の是非善悪の弁別能力があったとしても総合的に見れば精神的、肉体的な発達は不十分、未成熟であり、周りの環境に影響を受けやすく人格的には成長過程にあります。従って、少年に対して形式上犯罪行為に該当するからといって直ちに成人と同様に刑罰を科するよりは、人格形成の程度原因を明らかにして犯罪の動機、原因、実体を解明し少年の性格、環境を是正して適正な成長を助けることが少年の人間としての尊厳を保障し、刑法の最終目的である適正な法社会秩序の維持に合致します。又、道義的責任論の根拠は、元々その人間が違法行為をするような全人格を形成してきた態度にあり、未だ成長過程にある未成熟な少年に刑罰を直ちに科す事は道義的責任論からも妥当ではありません。そこで、人格性格の矯正が可能な少年については処罰よりも性格の矯正、環境の整備、健全な教育育成を主な目的とした保護処分制度(保護観察、少年院送致等)及び少年に特別な手続が優先的に必要となるのです。更に少年の捜査等の刑事手続についても以上の観点から適正な解釈が求められます。

3.一般論が長くなりましたが、先ず警察署の告訴取り消し書、被害届け書の受領拒絶ですが、このようなことは許されません。少年事件といえども、捜査段階では刑事訴訟法の適用が存在します(少年法40条)。

4.
(1)告訴の取り消し、被害届けを取り下げについて、警察官は、「その様な事は出来ません」と説明していますが、これは明らかに違法な説明であり許されません。

(2)犯罪被害者は、検察官、司法警察員に対して犯罪事実を申告して、処罰を求める意思表示すなわち告訴をする事が出来ますし(刑訴230条)、すなわち撤回も自由に出来るのです。刑訴237条は親告罪についての規定ですが、本件の様な非親告罪であっても解釈上自由に何時でも裁判中でも告訴の撤回をする事が出来ます。国民は自力救済が許されませんから、犯罪被害にあった場合国家権力である捜査機関に助けを求めること(捜査の端緒)ができるのは当然の事ですし、被害者として犯人に対する処罰の気持ちがないことの意思表示は被害感情の表明として自由だからです。

(3)又、被害届けの提出については、法令上「警察官は,犯罪による被害の届出をする者があつたときは,その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず,これを受理しなければならない」という規定(犯罪捜査規範61条)があります。取り下げについては明確な規定がないのですが、これも自由に出来るものと解釈できます。被害届けとは、犯罪被害者が、被害事実を捜査機関に申告するものであり捜査の開始を促すものです。国民が刑罰権、捜査権限を国家権力に委任、独占せしめた以上当然の権利であり、被害者として被害の申告を撤回し捜査の必要性がないことの意思表示も又自由であり、捜査の妨害になるものではないからです。捜査の最終目的は適正な法社会秩序の維持であり、捜査継続の必要性、被疑者の処分処遇(刑訴248条起訴便宜主義はこれを前提にしています)の1要素として被害者の意見を参考にするも大切だからです。又、前述の告訴には被害届けの意味も含まれており、告訴の撤回を認める以上被害届けの撤回も当然是認される事になります。しかし単なる意思表明ですから、被害届け取り下げにより捜査が当然停止するというものではありません。但し、被害届け取り下げがなされれば、将来公判(正式刑事裁判)となった場合、証人として出廷してもらえない可能性があり捜査機関としては被害届けの取り下げを歓迎しませんし、捜査を開始する場合には必ず被害者に要請する手続になっています。

(4)尚、示談書は告訴取り消し被害届け取り下げの原因となり、これらの書類と一体なすものであり同様に取り扱われなければなりません。

5.次に、警察官の「もともと告訴はされていませんから」という説明ですが、これも虚偽の説明です。告訴とは犯罪被害者が、検察官、司法警察員に対して犯罪事実を申告して、処罰を求める意思表示であり、その表示の形式は特に定められておらず、書面による事も必要でなく(刑訴241条、243条)被害者の供述調書に処罰を求める供述が出ていれば告訴された事になるわけです。捜査が開始された以上被害者の処罰を求める意思表示は文書、口頭でなされていますから、警察官の説明は明らかに虚偽ということになります。

6.次に貴女は、心配になり告訴取り消し書、被害届取り下げ書、示談書を警察署に持参したところ担当警察官がいないということで拒否されていますが、これも法的に許されません。担当者がいないので受領できないように思うかもしれませんが、以上の書類について被害者に提出権が認められ反射的に警察署に法的に受領義務がある以上、受領の義務は警察署少年係、当該警察署全体に認められるのであり、担当者不在をもって拒否は出来ないからです。それに、担当者は不在でも一旦預り担当者に渡す事が出来る以上不当な受領拒絶と評価できるでしょう。

7.次に、貴女は、「被害者本人が持参しないと意味がありません」といわれ再度断られていますが、これも違法な対応です。告訴、及び、告訴の取り消しも代理人によりできることは刑訴240条で明文化されているからです。告訴の取り消しも意思表示ですし、権利行使の一身専属性も認められませんから、代理人が出来るのは意思表示の一般原則から当然の事です。貴女が被害者の代理人となり書類を提出するのは何ら問題ありません。被害届けの取り下げも同様です。

8.更に、貴女は、「一旦事件が発生した以上その様な書類は受け取れません」と警察官が説明していますが、上記の説明から違法な対応である事は明白です。被害届け、告訴の取り消しは事件が発生したからこそ行うものであり、警察官の説明は明らかに矛盾しています。

9.以上警察官の一連の行為を観察すると、少年にとり刑事手続、少年法による手続上実質的に不利益を科す対応です。告訴の取り消し(取り消しの原因を示している示談書等も一体をなすものです)とは、被害者が処罰意思を撤回することであり、告訴を起訴の要件とする親告罪でなくても被害者感情の考慮という点から成人の刑事事件でも、少年の刑事事件においても警察、検察官の処分、少年の保護処分(刑事処分も)の決定に重要な影響を及ぼし少年に手続き上有利に働くすものだからです。被害届けの取り下げ書も、法律的には犯罪行為が無くなる訳ではありませんが、被害者が刑事手続きを求めないという間接的意思表示であり捜査機関の刑事手続遂行に事実上支障をきたすものであるから、書面の受領拒否は少年の今後の処分に不利益に働く可能性があります。捜査段階で、被害届けも、告訴もないのに捜査を遂行すること自体異常ですから、軽微な犯罪であれば事実上捜査は終了するといっても過言ではないでしょう。さらに、少年の性格矯正、環境調整のためには被害者側の感情、態度も考慮する必要があり、その基礎となる資料の提出を阻害しており少年法の理念からも許されません。従って、前記警察官の対応は、何が何でも少年を何等かの処分に付したいという特別な動機が伺え、少年の健全な育成という点からも認められません。捜査機関は任務上被疑者を何とか処罰したいという考えがあり、被疑者の利益は考慮してくれない場合が多いのです。つまり被疑者の利益は弁護人と相談することになります。

10.
(1)警察官の機嫌が悪くなり「学校側との取り決めなので公立高校には連絡する」という説明ですが、これも問題です。確かに、未成年者中、高校生の教育上公立中高校とはその様な取り決めがあるようですが、少年及び家族にとっては退学、停学が予想され重大な問題です。

(2)結論から言えば、この様な手続は適正な捜査権の行使とは言えず許されません。その理由を詳しく御説明します。

(3)警察官は、地方公務員であり個人情報保護法を待つまでもなく国民の個人情報を管理できる立場にありこれらの情報については職務上当然に守秘義務があるのです(地方公務員法34条、警察法3条)。勿論 罰則もあります。(1年以下の懲役、3万円以下の罰金、同60条)。しかし捜査機関は捜査上、被疑者の関係者、機関に対して被疑事実を明らかにして証拠収集を行う必要がありますが、それが許されるのは、あくまで適正な捜査権の行使に必要な場合に限られます。従って、公立学校との取り決めによって、捜査の必要性がないのに少年の個人情報を漏らすことは許されません。本件では、少年の身分、住所、所属、家族関係は明らかであり、犯罪事実も被害者、少年にくい違いがありませんから学校に連絡する捜査上の必要性は一切ありません。連絡されて不利益を被るのは少年自身であり、行政的な処分の端緒を警察権力が与える事は捜査権の明らかな逸脱です。

(4)教育の必要性を警察官は強調していますが、理由とはなりません。被疑者少年の性格の矯正、環境の調整は全て家庭裁判所の権限に委託されており(少年法1条)、一般高校にその権限、機関、施設、担当職員、専門家は存在しませんから、通知は結果的に生徒の退学等の行政処分を行うという意味しかありません。家庭裁判所における少年の処遇は全て非公開に行われ(少年法22条)少年の成長過程における人権に配慮しているにもかかわらず、犯罪の捜査権のみを有する警察署が第三者機関にみだりに情報を漏らすことは少年事件の非公開制をないがしろにするもので許されません。

(5)犯罪捜査規範 (昭和三十二年七月十一日国家公安委員会規則第二号)は、「(関係機関との連絡)第二百六条  少年事件の捜査を行うに当たっては必要があるとき、家庭裁判所、児童相談所、学校その他の関係機関との連絡を密にしなければならない。」と規定しており、捜査の必要がなければ学校に連絡する必要はないわけです。その趣旨は犯罪捜査規範203条、204条にも現れています。

(6)連絡される危険があれば、弁護士と相談し直ちに異議を申し立てましょう。

11.
(1)担当警察官は、「事件書類は必ず検察庁に送ります」「被害届け告訴が取り消しになっても、送検する」といっていますが、確かに少年事件も刑事訴訟法により全件送致主義が原則です(全件送致主義、刑訴203条、同246条、少年法40条)。しかし、本件のように告訴、被害届けもない少年の場合、少年法による家庭裁判所への送致、成人の微罪処分と同様な規定もありますので(少年法40条、41条、 犯罪捜査規範214条)どの様に手続するか問題となります。

(2)担当警察官の発言は妥当性を欠くものと思います。

(3)少年の行為は、迷惑防止条例違反行為であり(成人であれば)罰金が予想される事件であり、少年法41条(犯罪捜査規範210条)から家庭裁判所への送致が原則だからです。又、事件後直ちに、被害者の告訴、被害届けが取り消され、被害者の宥恕、被害感情から実質的被害もほとんどない状況です。当初から告訴も、被害届けもない事件を捜査する事自体ある意味問題でしょう。さらに前科前歴もなく両親、祖父母、兄弟等家族構成、家庭環境も整い、本件では少年が謝罪し食事も出来ないような状況であり、反省更生の状態も良好です。従って、手続としては家庭裁判所への送致も不要でしょう。少年の性格の矯正、環境の調整の必要性もさほどなく家庭内教育、処遇に任せすべきです。少年の精神状態から言って公の機関にて問題視することもないと思います。犯罪捜査規範214条も以上を前提としています。警察、捜査機関の実務上ですが、罰金に該当するような事件で、当初から告訴も、被害届けもないような事件は家庭裁判所にも送致しないようです。どうしても心配であれば、弁護士さんに意見書なりを書いてもらい警察署に提出してみましょう。

(4)尚、警察署によっては送検、家裁送致の場合に種々の理由をつけて被疑者側提出書類を添付しない場合もありますから捜査機関への確認も重要です。

≪条文参照≫

東京都;公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(【迷惑防止条例】)
第5条(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
@ 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
第8条(罰則)
@ 次の各号の一に該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者

刑法
(故意)
第三十八条  罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
(責任年齢)
第四十一条  十四歳に満たない者の行為は、罰しない。

刑事訴訟法
第二百三十条  犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
二百三十七条  告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
○2  告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。
第二百四十条  告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である。
第二百四十一条  告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
○2  検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。
第二百四十二条  司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
第二百四十三条  前二条の規定は、告訴又は告発の取消についてこれを準用する。
第二百四十六条  司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

少年法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年及び少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
第四章 少年の刑事事件
第一節 通則
(準拠法例)
第四十条  少年の刑事事件については、この法律で定めるものの外、一般の例による。
第二節 手続
(司法警察員の送致)
第四十一条  司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
(検察官の送致)
第四十二条  検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
2  前項の場合においては、刑事訴訟法 の規定に基づく裁判官による被疑者についての弁護人の選任は、その効力を失う。

犯罪捜査規範
(昭和三十二年七月十一日国家公安委員会規則第二号)
第一章 総則
第一節 捜査の心構え
(この規則の目的)
第一条  この規則は、警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え、捜査の方法、手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。
(捜査の基本)
第二条  捜査は、事案の真相を明らかにして事件を解決するとの強固な信念をもつて迅速適確に行わなければならない。
2  捜査を行うに当つては、個人の基本的人権を尊重し、かつ、公正誠実に捜査の権限を行使しなければならない。
(法令等の厳守)
第三条  捜査を行うに当たっては、警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号)、刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号。以下「刑訴法」という。)その他の法令および規則を厳守し、個人の自由及び権利を不当に侵害することのないように注意しなければならない。
(被害届の受理)
第六十一条  警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2  前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。
(犯罪事件受理簿)
第六十二条  犯罪事件を受理したときは、警察庁長官(以下「長官」という。)が定める様式の犯罪事件受理簿に登載しなければならない。
(微罪処分ができる場合)
第百九十八条  捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
(微罪処分の報告)
第百九十九条  前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第十九号)により検察官に報告しなければならない。
(微罪処分の際の処置)
第二百条  第百九十八条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
一  被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
二  親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
三  被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。
(犯罪事件処理簿)
第二百一条  事件を送致し、又は送付したときは、長官が定める様式の犯罪事件処理簿により、その経過を明らかにしておかなければならない。
第十一章 少年事件に関する特則
(準拠規定)
第二百二条  少年事件の捜査については、この章に規定するもののほか、一般の例によるものとする。
(少年事件捜査の基本)
第二百三条  少年事件の捜査については、家庭裁判所における審判その他の処理に資することを念頭に置き、少年の健全な育成を期する精神をもつて、これに当たらなければならない。
(少年の特性の考慮)
第二百四条  少年事件の捜査を行うに当たつては、少年の特性にかんがみ、特に他人の耳目に触れないようにし、取調べの言動に注意する等温情と理解をもつて当たり、その心情を傷つけないように努めなければならない。
(犯罪原因等の調査)
第二百五条  少年事件の捜査を行うに当たつては、犯罪の原因及び動機並びに当該少年の性格、行状、経歴、教育程度、環境、家庭の状況、交友関係等を詳細に調査しておかなければならない。
(関係機関との連絡)
第二百六条  少年事件の捜査を行うに当たつて必要があるときは、家庭裁判所、児童相談所、学校その他の関係機関との連絡を密にしなければならない。
(保護者等との連絡)
第二百七条  少年の被疑者の呼出し又は取調べを行うに当たつては、当該少年の保護者又はこれに代わるべき者に連絡するものとする。ただし、連絡することが当該少年の福祉上不適当であると認められるときは、この限りでない。
(身柄拘束に関する注意)
第二百八条  少年の被疑者については、なるべく身柄の拘束を避け、やむを得ず、逮捕、連行又は護送する場合には、その時期及び方法について特に慎重な注意をしなければならない。
(報道上の注意)
第二百九条  少年事件について、新聞その他の報道機関に発表する場合においても、当該少年の氏名又は住居を告げ、その他その者を推知することができるようなことはしてはならない。
(少年事件の送致及び送付先)
第二百十条  少年事件について捜査した結果、その犯罪が罰金以下の刑に当たるものであるときは、これを家庭裁判所に送致し、禁錮以上の刑に当たるものであるときは、これを検察官に送致又は送付しなければならない。
2  送致又は送付に当たり、その少年の被疑者について、罰金以下の刑に当たる犯罪と禁錮以上の刑に当たる犯罪とがあるときは、これらをともに一括して、検察官に送致又は送付するものとする。
(関連事件の送致及び送付)
第二百十一条  他の被疑者に係る事件と関連する少年事件の送致又は送付については、次の各号の規定によるものとする。
一  少年事件が成人事件と関連する場合において、これらをともに検察官に送致又は送付するときは、各別の記録として送致又は送付すること。ただし、少年事件に関する書類が成人事件についても必要であるときは、この謄本又は抄本を添付すること。
二  数個の少年事件が関連する場合において、これらをともに検察官に送致又は送付するときは、各別の記録とすることを要しないこと。
三  少年法第三十七条 に規定する犯罪について、少年事件と成人事件とが関連する場合において、これらをともに検察官に送致又は送付するときは、各別の記録とすることを要せず、少年事件送致書又は少年事件送付書により、ともに送致又は送付すること。
四  少年事件が成人事件と関連し、又は数個の少年事件が関連し、その一方を検察官に送致又は送付し、他方を家庭裁判所に送致する場合において、一方の事件に関する書類が他方の事件についても必要であるときは、検察官に送致又は送付する事件の記録に、他の事件に関する書類の謄本又は抄本を添付すること。
(共通証拠物の取扱い)
第二百十二条  少年事件が成人事件と関連し、又は数個の少年事件が関連し、これらを各別に送致若しくは送付する場合において、共通の証拠物があるときは、次の各号の規定によるものとする。
一  少年事件と成人事件とが関連する場合には、成人事件に証拠物を添付すること。この場合においては、少年事件の記録にこの旨を記載すること。ただし、少年事件のみが重要と認められるときは、少年事件に証拠物を添付すること。
二  数個の少年事件のみが関連する場合には、検察官へ送致又は送付する事件に証拠物を添付すること。この場合においては、家庭裁判所に送致する事件の記録にこの旨を記載すること。
(送致書類及び送付書類)
第二百十三条  少年事件を送致又は送付するに当たつては、少年事件送致書(家庭裁判所へ送致するものについては、別記様式第二十号。ただし、当該都道府県警察の管轄区域を管轄する地方検察庁(以下「管轄地方検察庁」という。)の検事正が少年の交通法令違反事件の捜査書類の様式について特例を定めた場合において、当該都道府県警察の警察本部長がその管轄区域を管轄する家庭裁判所(以下「管轄家庭裁判所」という。)と協議してその特例に準じて別段の様式を定めたときは、その様式)又は少年事件送付書を作成し、これに身上調査表(別記様式第二十一号)その他の関係書類及び証拠物を添付するものとする。
(軽微な事件の処理)
第二百十四条  捜査した少年事件について、その事実が極めて軽微であり、犯罪の原因及び動機、当該少年の性格、行状、家庭の状況及び環境等から見て再犯のおそれがなく、刑事処分又は保護処分を必要としないと明らかに認められ、かつ、検察官又は家庭裁判所からあらかじめ指定されたものについては、被疑少年ごとに少年事件簡易送致書及び捜査報告書(家庭裁判所へ送致するものについては、別記様式第二十二号。ただし、管轄地方検察庁の検事正が少年の交通法令違反事件の捜査書類の様式について特例を定めた場合において、当該都道府県警察の警察本部長が管轄家庭裁判所と協議しその特例に準じて別段の様式を定めたときは、その様式)を作成し、これに身上調査表その他の関係書類を添付し、一月ごとに一括して検察官又は家庭裁判所に送致することができる。
2  前項の規定による処理をするに当たつては、第二百条(微罪処分の際の処置)に規定するところに準じて行うものとする。
(触法少年及びぐ犯少年)
第二百十五条  捜査の結果、次の各号のいずれかに該当する場合においては、少年警察活動規則 (平成十四年国家公安委員会規則第二十号)第三章 の定めるところによる。
一  被疑者が少年法第三条第一項第二号 に規定する少年であることが明らかとなつた場合
二  被疑者が罪を犯した事実がないことが明らかとなつたときであつて、この者が少年法第三条第一項第三号 に規定する少年である場合

地方公務員法
(秘密を守る義務)
第三十四条  職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
2  法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表する場合においては、任命権者(退職者については、その退職した職又はこれに相当する職に係る任命権者)の許可を受けなければならない。
3  前項の許可は、法律に特別の定がある場合を除く外、拒むことができない。
(罰則)
第六十条  左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は三万円以下の罰金に処する。
二  第三十四条第一項又は第二項の規定(第九条の二第十二項において準用する場合を含む。)に違反して秘密を漏らした者

警察法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持するため、民主的理念を基調とする警察の管理と運営を保障し、且つ、能率的にその任務を遂行するに足る警察の組織を定めることを目的とする。
(警察の責務)
第二条  警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2  警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法 の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない。
(服務の宣誓の内容)
第三条  この法律により警察の職務を行うすべての職員は、日本国憲法 及び法律を擁護し、不偏不党且つ公平中正にその職務を遂行する旨の服務の宣誓を行うものとする。

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