新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.781、2008/4/7 12:52 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・離婚による年金分割】

質問:結婚して35年になりますが、離婚を考えています。夫は現在65歳で、定年になって5年になります。平成19年4月以降に離婚した方が年金分割という制度があるため、有利になると聞き、少し我慢していましたが、最近、平成20年4月1日まで待った方がいい、という話を聞きました。どうしてでしょうか。また、夫は現在230万円くらいの年金をもらっていますが、離婚した場合、115万円もらえるのでしょうか。

回答:
1. 貴女が離婚による年金分割制度によって取得できる金額は、基本的に現在受け取っている金額(230万円)から、ご主人の老齢基礎年金(国民年金部分)と、配偶者加給金(厚生年金法44条1項、3項、等注1を参照してください。離婚したら給付が停止されますから分割対象にはなりません)を控除した年金部分について婚姻期間に応じた額を計算し、その2分の1の範囲ということになります。

2. 平成20年4月1日に施行される制度は、貴女の年金分割とは無関係です。この制度は、当事者の合意がなくても離婚により自動的に厚生年金等の分割(50%)がなされるというものですが、平成20年4月1日以降、貴女が後述の国民年金3号被保険者であることが条件です。すなわち、ご主人が厚生年金の保険料を支払い、ご主人の厚生年金の支払いと一緒に貴女の基礎年金(国民年金)を支払っている期間内であって(後述国民年金3号被保険者)平成20年4月1日以降の(夫の)老齢厚生年金が分割対象です。現在貴女のご主人は退職して5年も経っておりますので、貴女は現在国民年金3号被保険者ではありませんから、離婚しても貴女が利益を受ける関係にはありません。

解説:
1、平成16年の厚生年金保険法(その他の公的年金 例えば国家公務員共済組合法等も含みます)の改正により、平成19年4月から、いわゆる離婚に伴う公的年金分割の制度がスタートし、これ以降に離婚した場合、この制度の適用をうけ、半分年金がもらえる、というのは、耳にされたことがあると思います。

2、もっとも、この制度は、離婚した夫がもらう年金の半分を合意、調停、審判で当然にもらえる、と言う制度ではありません。質問からも、この点についてまず、誤解があるようなので、年金制度の基本からご説明します。

3、まず、わが国の年金制度を簡単に説明します。年金制度は、老齢(退職)、障害、死亡に関して毎年、定期的、継続的に一定の金額を支払う制度(保険制度)です。大きく分けると、公的年金(公的保険制度)と私的年金制度(個人年金、企業年金の任意保険制度)に分かれ、公的年金制度は、国民年金保険、厚生年金保険、各共済組合保険等があります。今回、離婚に伴い分割問題となっているのは、公的な年金です。なぜなら、私的年金は、公的年金と異なり夫婦間の合意により内容は自由に定める事が出来ますので、離婚の場合解約などして財産関係を清算することが可能であり、離婚に伴う財産分与の話し合いの中で解決できるからです。公的年金の構造ですが、国民年金からすべての国民に共通の基礎年金が支給され、厚生年金や共済年金からは、基礎年金に上乗せして給料に比例した年金が支給されるという2階建ての仕組みになっています。

4、そして、20歳以上60歳未満の人は、国民年金の強制保険加入被保険者となりますが、その種類は国民年金保険料の納め方によって3種類にわけられます(国民年金法7条)。
(1)第1号被保険者とは、自営業者や学生、あるいは無職の人などのように国民年金保険料を自分で納める人です。
(2)第2号被保険者とは、サラリーマンや公務員などのように、事業主と折半した額を給料から天引きされる形で、厚生年金保険料あるいは共済組合の保険料として納めている人のことです。第2号被保険者の国民年金保険料部分は、厚生年金などの保険料として納められた財源の中から拠出されており、別途支払わなければならないわけではありません。
(3)第3号被保険者は、第2号被保険者の被扶養配偶者のことです。第3号被保険者の国民年金保険料部分も、第2号被保険者から納められた厚生年金保険料などの財源からまとめて拠出するという形でまかなわれるので、第3号被保険者個人で年金を納付することはありません。

5、
(1)離婚に伴う公的年金に関する夫婦間の分割制度、すなわち厚生年金保険法等の改正はどうして行われたのでしょうか。それは、憲法13条、14条、24条が規定する家庭生活における個人の尊厳、夫婦両性の本質的平等を経済的側面から実質的に確保保障するために作られました。両性の本質的平等は婚姻中だけでなく、離婚に際しても夫婦間に形成された財産は平等に分配されなければ保障されているとはいえません。改正前は、離婚する夫婦の財産関係は夫婦の平等を経済的側面から守るために財産分与請求により清算されていました(民法768条)。しかし、清算の対象は、離婚時に現実化している財産を基本にしていましたから、将来取得できる年金を正確に財産分与の対象とするかどうか不明な点もあり、更に年金を対象にしても将来離婚の相手方が任意に履行しない場合には、再度差し押さえ等の手続が必要でした。判例上も正確に公的年金部分を財産分与の対象にして清算していたか、必ずしも明らかではありません。私的年金であれば、解約などして、清算の対象にできたのですが、公的年金の支払いは法律で決められており、離婚時当事者の自由な清算が出来ないのです。しかし公的年金の内容は、夫婦間の間に互いに協力して捻出した資金が基になっており、離婚に際してはこれを清算するのが公平ですし、通常、保険の名義人になっていない一方(通常主婦である妻)の家庭内における貢献を正当に評価できず、結果的に夫婦の対等、平等を確保できないことなります。そこで公的年金法を改正し、将来給付される年金を離婚時に分割を認め、夫婦の一方が直接公的年金を請求受領できるようにして、経済面において両性の本質的平等を図ったのです。

(2)平成19年4月からスタートした公的年金分割の制度というのは、簡単に言うと夫である自営業者以外の公務員、サラリーマン等が加入する厚生年金等の納付記録を専業主婦の妻が離婚時に合意で最大2分の1まで分割し、妻の年金受領時に受領できるというものです。しかし、今ご主人が受けているという年金は、老齢厚生年金と老齢基礎年金(上記でいう国民年金部分のこと)の合計ですから、分割の対象になるのは、老齢厚生年金の部分だけです。

(3)先ず、国民年金(老齢基礎年金)部分は分割の対象にはなりません。なぜなら、国民年金もその拠出は夫婦間共同の働きによりなされたものですが、国民年金法1条が明言するように、国民年金は保険者契約者である国民の人間として生きる生存権を最低限保障するために国家が公的義務として創設されたものですから、離婚に際して分割の対象とはならないのです。そういう意味で、法的差押の対象にもなっていません。離婚訴訟に伴い財産分与の支払いが認められても、差し押さえすることは出来ないのです(厚生年金法41条、国家公務員共済法49条等)。勿論、国民年金法には離婚に伴う分割の特別規定はありません。過去の判例においても老齢基礎年金部分を財産分与の対象にしたものはありません。

(4)しかし、老齢厚生年金の部分は国民年金と同じ様に公的保険なのですが、分割の対象としています。なぜなら厚生年金とは勤務労働者及びその家族(妻等)の生活が、将来老後、事故、傷害等不測の理由により侵害されないように創設されたものですから(厚生年金法1条)、不幸にして離婚になった以上、その保護を離婚した一方の配偶者にも認めるのが制度の趣旨に合致するからです。又、その拠出資金は夫婦の協力により納められたものですから、それに基づく将来の年金分配も公平に名義以外の配偶者にも与えるべきです。

(5)本改正前においても判例で、老齢厚生年金を離婚に基づく財産分与の対象にしているものもあります。

(6)仙台地方裁判所平成11年(タ)第126号、平成13年3月22日判決(離婚等請求事件)。この事件では、被告夫の退職共済年金(市役所勤務)から、加給年金部分と原告妻が別途勤務していたことによる独自の老齢厚生年金とを控除した残額について、ほぼ50%の支払いを毎期ごとに被告夫に命じています。すなわち、妻の厚生年金も財産分与の対象にしています。共働きである以上やむを得ない判断でしょう。

(7)東京地裁平成8年(タ)第550号、同平成9年(タ)第226号、平成12年9月26日民事部判決(離婚等本訴・反訴請求事件)。原告夫の厚生年金を財産分与の対象としましたが、毎期ごとの支払いではなくその他の財産関係を総合的に考慮し、一時金での支払いを夫に認めました。

(8)横浜地裁平6(タ)8号、一二四号、平9・1・22判決(離婚等請求・同反訴請求事件)。原告夫の複数の共済年金を財産分与の対象となったが、夫婦両名の財産関係を総合的に考慮し、妻が死亡するまで月額15万円の支払いを命じています。何故15万円になるかの計算上詳細な理由は示されていません。

(9)ご主人が受けている年金230万円のうち、例えば、老齢基礎年金が75万円、配偶者加給金(厚生年金法44条)が35万円とすると、分割対象となるのは、残りの120万円ということになります。また、分割の対象となるのは、婚姻期間に対応する期間ということになりますし、貴女が実際に受給資格をもつまでに、ご主人に支給された年金も考慮されますので、実際にはこれよりさらに厳縮されることが多いかと思います。したがって、230万円の半分115万円が必ずもらえるというものではありません。このように、具体的な分割される金額は、個別具体的事情によることになりますので、具体的金額の詳細は社会保険事務所にてご相談し、計算をしていただき説明を受けてください。

6、さらに、現在の制度では、あくまで、上限を2分の1として、分割の合意ができる、というのみであり、合意が得られた場合には公正証書又は公証人の認証を受けた私署証書を作成し、社会保険事務所に標準報酬改定請求を行なうということになりますし、合意が得られない場合には、家庭裁判所に調停、審判の申し立てを行い、分割の割合を決めることになります。なお、按分割合を決める話し合いをする前に分割をするために必要な情報(分割の対象となる期間、標準報酬総額、按分割合の範囲等)の提供を社会保険事務所に請求することができ、家庭裁判所へ申し立てる場合もこの資料の添付が必要になります。この請求を離婚する前に夫婦のどちらかが請求した場合には、相手には情報提供されません。

7、さらに、同じ改正により、新たに平成20年4月1日に施行される制度は、「3号分割」などとよばれ、この日以降に離婚した場合に、平成20年4月1日以降、第3号被保険者になっている間の厚生年金の納付記録について夫婦の合意なしに2分の1を分割できるようになるというものです。貴女が聞いたという平成20年4月1日以降に離婚した方が有利というのは、この制度が施行されることを指すものと思います。この制度の趣旨は、3号被保険者は、専業主婦など夫の扶養者になっているのですから、離婚するとそれ以後の社会生活が脅かされる危険がありますし、厚生年金は実質的に夫婦の共同の努力により積み立てられたのですから、経済的側面から夫婦の対等、本質的平等を更に保障するために話し合いではなく離婚すると自動的に50%の分割が認められたのです。

8、この制度については、合意なく、と言う点では、現行の制度より有利ではありますが、あくまで「平成20年4月1日以降、第3号被保険者となっている間の厚生年金」の納付記録が対象となるのみですので、平成20年4月以前の納付記録については、平成19年4月1日から施行された年金分割制度と同様、当事者間の合意が必要ということにはなります。

9、貴女のケースですが、そもそも、すでに現在ご主人が定年退職されているということですので、貴女は、すでに「第3号被保険者」ではありませんから、新制度の「恩恵」を受けることはないということになります。この制度のために離婚を待つということであれば、その必要はないというのが結論になるでしょう。年金分割も含めて、財産分与や慰謝料がどの程度になるか、一度弁護士に御相談になると良いでしょう。

≪条文参照≫

憲法
第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第二十四条  婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
○2  配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第二十五条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

注1 配偶者加給金の内容 厚生年金法44条1項、4項
配偶者加給年金は、夫の厚生年金の被保険者期間が20年以上あり、老齢厚生年金の受給権を取得した当時、生計を維持していた65歳未満の配偶者(妻)がいた場合に、老齢厚生年金に付けられものです。
しかし、例えばこの配偶者(妻)が被保険者期間20年以上の老齢厚生年金を受給できる場合等、配偶者の生計のめどが立つような場合(法44条4項に規定がある場合)にその支給が停止されてしまいます。

厚生年金保険法
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条  この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とし、あわせて厚生年金基金がその加入員に対して行う給付に関して必要な事項を定めるものとする。
(管掌)
第二条 厚生年金保険は、政府が、管掌する。
第三章 保険給付
第一節 通則
(保険給付の種類)
第三十二条  この法律による保険給付は、次のとおりとする。
一  老齢厚生年金
二  障害厚生年金及び障害手当金
三  遺族厚生年金
(受給権の保護及び公課の禁止)
第四十一条  保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、年金たる保険給付を受ける権利を別に法律で定めるところにより担保に供する場合及び老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。
2  租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金銭を標準として、課することができない。ただし、老齢厚生年金については、この限りでない。
(加給年金額)
第四十四条  老齢厚生年金(その年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が二百四十以上であるものに限る。)の額は、受給権者がその権利を取得した当時(その権利を取得した当時、当該老齢厚生年金の額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が二百四十未満であつたときは、第四十三条第三項の規定により当該月数が二百四十以上となるに至つた当時。第三項において同じ。)その者によつて生計を維持していたその者の六十五歳未満の配偶者又は子(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子及び二十歳未満で第四十七条第二項に規定する障害等級(以下この条において単に「障害等級」という。)の一級若しくは二級に該当する障害の状態にある子に限る。)があるときは、第四十三条の規定にかかわらず、同条に定める額に加給年金額を加算した額とする。ただし、国民年金法第三十三条の二第一項 の規定により加算が行われている子があるとき(当該子について加算する額に相当する部分の全額につき支給を停止されているときを除く。)は、その間、当該子について加算する額に相当する部分の支給を停止する。
2  前項に規定する加給年金額は、同項に規定する配偶者については二十二万四千七百円に国民年金法第二十七条 に規定する改定率であつて同法第二十七条の三 及び第二十七条の五 の規定の適用がないものとして改定したもの(以下この章において「改定率」という。)を乗じて得た額(その額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)とし、同項に規定する子については一人につき七万四千九百円に改定率を乗じて得た額(そのうち二人までについては、それぞれ二十二万四千七百円に改定率を乗じて得た額とし、それらの額に五十円未満の端数が生じたときは、これを切り捨て、五十円以上百円未満の端数が生じたときは、これを百円に切り上げるものとする。)とする。
3  受給権者がその権利を取得した当時胎児であつた子が出生したときは、第一項の規定の適用については、その子は、受給権者がその権利を取得した当時その者によつて生計を維持していた子とみなし、その出生の月の翌月から、年金の額を改定する。
4  第一項の規定によりその額が加算された老齢厚生年金については、配偶者又は子が次の各号のいずれかに該当するに至つたときは、同項の規定にかかわらず、その者に係る同項の加給年金額を加算しないものとし、次の各号のいずれかに該当するに至つた月の翌月から、年金の額を改定する。
一  死亡したとき。
二  受給権者による生計維持の状態がやんだとき。
三  配偶者が、離婚又は婚姻の取消しをしたとき。
四  配偶者が、六十五歳に達したとき。
五  子が、養子縁組によつて受給権者の配偶者以外の者の養子となつたとき。
六  養子縁組による子が、離縁をしたとき。
七  子が、婚姻をしたとき。
八  子(障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にある子を除く。)について、十八歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了したとき。
九  障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にある子(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子を除く。)について、その事情がやんだとき。
十  子が、二十歳に達したとき。
5  第一項又は前項第二号の規定の適用上、老齢厚生年金の受給権者によつて生計を維持していたこと又はその者による生計維持の状態がやんだことの認定に関し必要な事項は、政令で定める。
第三章の二 離婚等をした場合における特例
(離婚等をした場合における標準報酬の改定の特例)
第七十八条の二  第一号改定者(被保険者又は被保険者であつた者であつて、第七十八条の六第一項第一号及び第二項第一号の規定により標準報酬が改定されるものをいう。以下同じ。)又は第二号改定者(第一号改定者の配偶者であつた者であつて、同条第一項第二号及び第二項第二号の規定により標準報酬が改定され、又は決定されるものをいう。以下同じ。)は、離婚等(離婚(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者について、当該事情が解消した場合を除く。)、婚姻の取消しその他厚生労働省令で定める事由をいう。以下この章において同じ。)をした場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、社会保険庁長官に対し、当該離婚等について対象期間(婚姻期間その他の厚生労働省令で定める期間をいう。以下同じ。)に係る被保険者期間の標準報酬(第一号改定者及び第二号改定者(以下これらの者を「当事者」という。)の標準報酬をいう。以下この章において同じ。)の改定又は決定を請求することができる。ただし、当該離婚等をしたときから二年を経過したときその他の厚生労働省令で定める場合に該当するときは、この限りでない。
一  当事者が標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合(当該改定又は決定後の当事者の次条第一項に規定する対象期間標準報酬総額の合計額に対する第二号改定者の対象期間標準報酬総額の割合をいう。以下同じ。)について合意しているとき。
二  次項の規定により家庭裁判所が請求すべき按分割合を定めたとき。
2  前項の規定による標準報酬の改定又は決定の請求(以下「標準報酬改定請求」という。)について、同項第一号の当事者の合意のための協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者の一方の申立てにより、家庭裁判所は、当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して、請求すべき按分割合を定めることができる。
3  前項の規定による請求すべき按分割合に関する処分(以下「標準報酬の按分割合に関する処分」という。)は、家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)の適用に関しては、同法第九条第一項 乙類に掲げる事項とみなす。
4  標準報酬改定請求は、当事者が標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合について合意している旨が記載された公正証書の添付その他の厚生労働省令で定める方法によりしなければならない。
(請求すべき按分割合)
第七十八条の三  請求すべき按分割合は、当事者それぞれの対象期間標準報酬総額(対象期間に係る被保険者期間の各月の標準報酬月額(第二十六条第一項の規定により同項に規定する従前標準報酬月額が当該月の標準報酬月額とみなされた月にあつては、従前標準報酬月額)と標準賞与額に当事者を受給権者とみなして対象期間の末日において適用される再評価率を乗じて得た額の総額をいう。以下同じ。)の合計額に対する第二号改定者の対象期間標準報酬総額の割合を超え二分の一以下の範囲(以下「按分割合の範囲」という。)内で定められなければならない。
2  次条第一項の規定により按分割合の範囲について情報の提供(第七十八条の五の規定により裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官が受けた資料の提供を含み、これが複数あるときは、その最後のもの。以下この項において同じ。)を受けた日が対象期間の末日前であつて対象期間の末日までの間が一年を超えない場合その他の厚生労働省令で定める場合における標準報酬改定請求については、前項の規定にかかわらず、当該情報の提供を受けた按分割合の範囲を、同項の按分割合の範囲とすることができる。
(当事者等への情報の提供等)
第七十八条の四  当事者又はその一方は、社会保険庁長官に対し、厚生労働省令で定めるところにより、標準報酬改定請求を行うために必要な情報であつて次項に規定するものの提供を請求することができる。ただし、当該請求が標準報酬改定請求後に行われた場合又は第七十八条の二第一項ただし書に該当する場合その他厚生労働省令で定める場合においては、この限りでない。
2  前項の情報は、対象期間標準報酬総額、按分割合の範囲、これらの算定の基礎となる期間その他厚生労働省令で定めるものとし、同項の請求があつた日において対象期間の末日が到来していないときは、同項の請求があつた日を対象期間の末日とみなして算定したものとする。
第七十八条の五  社会保険庁長官は、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官に対し、その求めに応じて、標準報酬の按分割合に関する処分を行うために必要な資料を提供しなければならない。
(標準報酬の改定又は決定)
第七十八条の六  社会保険庁長官は、標準報酬改定請求があつた場合において、第一号改定者が標準報酬月額を有する対象期間に係る被保険者期間の各月ごとに、当事者の標準報酬月額をそれぞれ次の各号に定める額に改定し、又は決定することができる。
一  第一号改定者 改定前の標準報酬月額(第二十六条第一項の規定により同項に規定する従前標準報酬月額が当該月の標準報酬月額とみなされた月にあつては、従前標準報酬月額。次号において同じ。)に一から改定割合(按分割合を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した率をいう。以下同じ。)を控除して得た率を乗じて得た額
二  第二号改定者 改定前の標準報酬月額(標準報酬月額を有しない月にあつては、零)に、第一号改定者の改定前の標準報酬月額に改定割合を乗じて得た額を加えて得た額
2  社会保険庁長官は、標準報酬改定請求があつた場合において、第一号改定者が標準賞与額を有する対象期間に係る被保険者期間の各月ごとに、当事者の標準賞与額をそれぞれ次の各号に定める額に改定し、又は決定することができる。
一  第一号改定者 改定前の標準賞与額に一から改定割合を控除して得た率を乗じて得た額
二  第二号改定者 改定前の標準賞与額(標準賞与額を有しない月にあつては、零)に、第一号改定者の改定前の標準賞与額に改定割合を乗じて得た額を加えて得た額
3  前二項の場合において、対象期間のうち第一号改定者の被保険者期間であつて第二号改定者の被保険者期間でない期間については、第二号改定者の被保険者期間であつたものとみなす。
4  第一項及び第二項の規定により改定され、又は決定された標準報酬は、当該標準報酬改定請求のあつた日から将来に向かつてのみその効力を有する。
(記録)
第七十八条の七  社会保険庁長官は、第二十八条の原簿に前条第三項の規定により被保険者期間であつたものとみなされた期間(以下「離婚時みなし被保険者期間」という。)を有する者の氏名、離婚時みなし被保険者期間、離婚時みなし被保険者期間に係る標準報酬その他厚生労働省令で定める事項を記録しなければならない。
(通知)
第七十八条の八  社会保険庁長官は、第七十八条の六第一項及び第二項の規定により標準報酬の改定又は決定を行つたときは、その旨を当事者に通知しなければならない。
(省令への委任)
第七十八条の九  第七十八条の二から前条までに定めるもののほか、標準報酬改定請求及び標準報酬の改定又は決定の手続に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
(老齢厚生年金等の額の改定)
第七十八条の十  老齢厚生年金の受給権者について、第七十八条の六第一項及び第二項の規定により標準報酬の改定又は決定が行われたときは、第四十三条第一項及び第二項の規定にかかわらず、対象期間に係る被保険者期間の最後の月以前における被保険者期間(対象期間の末日後に当該老齢厚生年金を支給すべき事由が生じた場合その他の政令で定める場合にあつては、政令で定める期間)及び改定又は決定後の標準報酬を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし、当該標準報酬改定請求のあつた日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。
2  障害厚生年金の受給権者について、当該障害厚生年金の額の計算の基礎となる被保険者期間に係る標準報酬が第七十八条の六第一項及び第二項の規定により改定され、又は決定されたときは、改定又は決定後の標準報酬を基礎として、当該標準報酬改定請求のあつた日の属する月の翌月から、年金の額を改定する。ただし、第五十条第一項後段の規定が適用されている障害厚生年金については、離婚時みなし被保険者期間は、その計算の基礎としない。
(標準報酬が改定され、又は決定された者に対する保険給付の特例)
第七十八条の十一  第七十八条の六第一項及び第二項の規定により標準報酬が改定され、又は決定された者に対する保険給付についてこの法律を適用する場合においては、次の表の上欄に掲げる規定(他の法令において、これらの規定を引用し、準用し、又はその例による場合を含む。)中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとするほか、当該保険給付の額の計算及びその支給停止に関する規定その他政令で定める規定の適用に関し必要な読替えは、政令で定める。

第四十四条第一項
被保険者期間の月数が二百四十以上
被保険者期間(第七十八条の七に規定する離婚時みなし被保険者期間(以下「離婚時みなし被保険者期間」という。)を除く。以下この項において同じ。)の月数が二百四十以上

第四十六条第一項
の標準賞与額
の標準賞与額(第七十八条の六第二項の規定による改定前の標準賞与額とし、同項の規定により決定された標準賞与額を除く。)

第五十八条第一項
被保険者であつた者が次の
被保険者であつた者(第四号に該当する場合にあつては、離婚時みなし被保険者期間を有する者を含む。)が次の

(政令への委任)
第七十八条の十二  この章に定めるもののほか、離婚等をした場合における特例に関し必要な事項は、政令で定める。

国民年金法
第一章 総則
(国民年金制度の目的)
第一条  国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項 に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
(国民年金の給付)
第二条  国民年金は、前条の目的を達成するため、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付を行うものとする。
(管掌)
第三条  国民年金事業は、政府が、管掌する。
2  国民年金事業の事務の一部は、政令の定めるところにより、法律によつて組織された共済組合(以下単に「共済組合」という。)、国家公務員共済組合連合会、全国市町村職員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会又は私立学校教職員共済法 (昭和二十八年法律第二百四十五号)の規定により私立学校教職員共済制度を管掌することとされた日本私立学校振興・共済事業団(以下「共済組合等」という。)に行わせることができる。
3  国民年金事業の事務の一部は、政令の定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)が行うこととすることができる。
(用語の定義)
第五条  この法律において、「被用者年金各法」とは、次の各号に掲げる法律をいう。
一  厚生年金保険法 (昭和二十九年法律第百十五号)
二  国家公務員共済組合法 (昭和三十三年法律第百二十八号)
三  地方公務員等共済組合法 (昭和三十七年法律第百五十二号)(第十一章を除く。)
四  私立学校教職員共済法
第二章 被保険者
(被保険者の資格)
第七条  次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする。
一  日本国内に住所を有する二十歳以上六十歳未満の者であつて次号及び第三号のいずれにも該当しないもの(被用者年金各法に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金たる給付その他の老齢又は退職を支給事由とする給付であつて政令で定めるもの(以下「被用者年金各法に基づく老齢給付等」という。)を受けることができる者を除く。以下「第一号被保険者」という。)
二  被用者年金各法の被保険者、組合員又は加入者(以下「第二号被保険者」という。)
三  第二号被保険者の配偶者であつて主として第二号被保険者の収入により生計を維持するもの(第二号被保険者である者を除く。以下「被扶養配偶者」という。)のうち二十歳以上六十歳未満のもの(以下「第三号被保険者」という。)
2  前項第三号の規定の適用上、主として第二号被保険者の収入により生計を維持することの認定に関し必要な事項は、政令で定める。
3  前項の認定については、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章 (第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る