新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.783、2008/4/17 16:09 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・重婚的内縁と不当破棄・重婚的内縁関係が法律婚と同様に保護される場合があるか・その条件は何か】

質問:私は妻子ある男性と5年ほど同居していました。その男性は、妻とは別れるとずっと言っていたので、信じていましたが、最近、他に好きな女性ができたと言って出て行ってしまいました。奥さんがいる相手と付き合っていた私に非があると言われてしまえばそれまでなのですが、私のような立場だと相手に慰謝料請求するのは難しいのでしょうか。

回答:
1.妻と離婚して貴女と結婚するという男性と5年間同居していた、ということですから、内縁の不当破棄を理由に慰謝料の請求が可能と考えられます。慰謝料の金額は、経済状況により変わってきますが200万円程度と考えてよいでしょう。
2.また、女性に対してもその女性が男性に内縁の妻がいることを知っていた場合は損害賠償の請求ができます。
3.ただし、内縁関係にあった男性は戸籍上の妻と離婚していないということですから、貴女はいわゆる重婚的内縁関係にあり、貴女の請求が認められるのは戸籍上の婚姻関係が実質的に破綻している場合に限られます。
4.実質的婚姻関係破綻の具体的判断基準ですが、(事件ごとの個別的判断になりますが)@長期間夫婦関係が冷め切っていて家庭内別居状態で夫婦の実態がまったくない。A長期間別居状態である。B家庭裁判所の離婚、夫婦関係調整の調停を経ている。B家庭内暴力(DV=ドメスティックバイオレンス)等を総合的に考慮して決められるでしょう。
5.貴女の場合、5年間も同棲しており、妻とは完全な別居状態であり慰謝料請求は可能と思われます。
6.当事務所事例集bU30号、753号、757号も参考にしてください。

解説:
1.結婚届出をしている夫婦の場合、不当に婚姻を破綻させた者(有責配偶者といいます)は相手方に対して損害賠償責任(慰謝料)を負います。これと同様に内縁関係を不当に解消した者も、相手方に対して損害賠償責任を負うとされています。学説、判例上確立された理論です。ここで、内縁関係というのは、夫婦としての実態(結婚する意思と夫婦共同生活をしている事実)があるのに、単に婚姻届を出していないだけという関係をいいます。外形的には、夫婦同然の結婚生活を送っていても、結婚する意思がないいわゆる「同棲(事実婚)」は、一応「内縁関係」とは区別されます。民法は結婚届出を出した場合に限って夫婦として扱っています。これは戸籍を重視して結婚関係を客観的に明らかにし、そのような関係に限って夫婦としての保護を与えようとする考え方が基本にあります。このような基本を徹底すれば届出をしていない夫婦は法律上の夫婦として認めないということになります。しかし、現実の社会においては、このように厳格に処理をすると不都合が生じてきます。特に価値観の多様化した現代社会においては結婚届出をしない男女も多数存在します。このような現実を考えると、結婚届出を出していないというだけで、夫婦として保護しないというのは不当な結果を招くことになります。そこで、結婚届出を出していないが、夫婦として生活している男女を内縁として、戸籍上の夫婦と同様の保護与える方向で法的に扱われることになりました。ですから、内縁と同棲は区別して内縁に限って法律上の夫婦と同様に扱うとされています。

2.もっとも、内縁と同棲(事実婚)の違いは婚姻届を出す意思があるかどうかという内心の問題だけだとすれば、それを明確に区別するのは困難であり、また、同棲(事実婚)の場合であっても、婚姻関係と同様に保護すべきであるというケースも十分考えられます。

3.判例(岐阜家裁昭和57年9月14日審判)も、厳密にいえば、婚姻意思の点で「内縁」といえないような共同生活(7年近い共同生活の実態はあったものの、一方当事者の婚姻要求に対し、もう一方の当事者は浮気を繰り返し、その要求を拒み続けていた。)であったとしながらも、その「事実上の婚姻関係」を「内縁」と判断しており、実際内縁関係を婚姻意思の点で区別しているのではなく、むしろ、同棲していた期間、生活実態(この判例では、一方当事者の経営していた塾の売り上げ管理や、賃料の保証人をもう一方の当事者がしていた点など)が内縁と認められるかどうかの重要な点であると考えられます。

4.このような「内縁関係」を不当に解消した者について、損害賠償(慰謝料)を支払う義務を認める法律構成として、当初の判例は、「婚姻予約」の不履行という債務不履行責任として構成していましたが、その後、最高裁は、内縁の不当解消を「内縁配偶者の地位の侵害」という不法行為責任として、構成することも認めるようになりました(最判昭33.4.11)。内縁を法律上の夫婦と同様に保護しようとする考え方からすれば、婚約不履行というのはなじみません。すでに婚姻していると同様に扱うのに、婚約というのは矛盾していることになります。そこで、内縁配偶者の地位を法律上結婚している配偶者の地位と同様に保護し、その地位の侵害を不法行為と構成し、不法行為責任を認める構成が主張されたのです。なお、内縁関係とまではいえない継続的な性関係、短期間の同棲などの不当破棄を問題にする場合には、婚姻予約の不履行にあたるのかどうかを検討することにはなるでしょう。

5.内縁の不当破棄が不法行為に当たるとして、貴女のケースの場合、相手方が他の女性と結婚している状態であることから、いわば「重婚的」内縁関係ということになり、このような重婚的内縁関係が法的に保護されるのかが別途問題となります。わが国の婚姻制度は一夫一婦婚制を採っており、法的保護に値するか議論の余地があるのです。この点、かつては、妻子ある男性と内縁関係に入り、そのために婚姻を破綻させた女性の不法性を重視して不当破棄の慰謝料を認めない判例も多々見られました。今まで説明したとおり、民法の基本は届出を出した夫婦関係です。このような夫婦関係を清算しないで別に内縁関係にある場合にも、この内縁について法律上の保護与えることは先の法律上の夫婦関係を否定することにもなるため問題となるのです。最近では、「重婚的」内縁関係であることのみを理由として、慰謝料を認めないというような判断は少なくなっているといえます。法律上の夫婦であってもすでに婚姻関係が破綻している場合は、事実関係を重視して、内縁に保護を与えようという考え方です。例えば、東京地裁の平成3年7月18日の判決は、本妻と離婚して結婚する意思があると告げ、性的関係を持ち、子供も出来た上で、30年近く同居し、夫婦同然の生活を送っていたようなケースで、重婚的内縁関係であっても、妻との婚姻が形骸化している場合には、内縁関係に相応の法的保護が与えられるべきであり、これを理由なく破棄する場合には不法行為を構成する、と判示しています。他の判例、学説も「重婚的」内縁関係が保護されるのに、本妻との婚姻が形骸化していることが必要である、としています。

6.以上のような、判例の流れは婚姻制度の本質から見ても妥当なものと考えられます。そもそも、どうして夫婦に不貞行為が不法行為を形成するかという言えば、夫婦は互いに相手方に対して貞操保持請求権があり、不貞行為により第三者と共同して貞操保持請求権を侵害している(民法719条、共同不法行為)というところに根拠があります。貞操保持請求権は親族婚姻法に明確な規定はありませんが、婚姻の本質から当然に認められています。すなわち、婚姻とは、男女が精神的にも肉体的にも一体とした社会的な共同生活関係を形成することですから、互いに貞操守秘義務をもち相手方は貞操保持請求権を有するのです。従って、婚姻の実体が破綻し精神的肉体的共同体の実体がまったく喪失した場合は、戸籍上夫婦であっても貞操守秘義務の存在根拠が失われますから、その反射的効果として新たな内縁関係(事実上の婚姻)により形成された精神的肉体的一体となった共同体間に貞操保持義務を認めても二重の婚姻関係を認めることにはなりませんし、一夫一婦婚制度に反しませんから重婚的内縁関係でも貞操保持請求権を侵害した男性、女性に対し共同不法行為の構成が可能となるわけです。

7.このように重婚関係にあったとしても、内縁の妻が保護される可能性がありますが、すでに述べてきた通り、慰謝料という以上、当該解消行為が不法行為(あるいは債務不履行)を構成することが前提となります。婚姻外の男女関係の解消にあたって、必ずどちらか一方のみに有責性があるわけではなく、また、それが不法行為や責めに帰すべき債務の不履行になるとは限りません。法的保護に値すべき事案と主張するためには、暴力行為や不貞行為などの、不当な内縁の破棄であることの主張立証が必要となってきます。これは法律婚の解消の場合も同じです。

8.なお、関係の解消について、どちらにも責任がないという場合(損害賠償の問題にならない場合)でも、財産分与の問題は生じることにはなります。「内縁関係」が認められる場合に、その解消の際、財産分与の規定が類推されるとしても、「重婚的」内縁関係にまで財産分与規定を類推適用できるかについては同様の問題がありました。この点については、当初判例は、法律婚が事実上の離婚状態にあること、当該内縁夫婦が相当期間公然と共同生活をしていること、のほかに法律婚の破綻について責任のないことをあげ、有責性を重視していたといえます(広島高裁松江支部昭和40年11月15日決定)。

9.しかし、その後、有責性よりも社会通念上夫婦としての実態を重視するようになり、当該重婚的内縁のために法律婚が破綻した場合でも、事実上の妻が病気の本妻に代わって子の養育に務めるとともに、相手方の営業に協力して、倒産した営業を復活させ、金策・販売も事実上の妻が行なうなど、一方の財産形成に他方が寄与した場合に財産分与規定の類推適用を認める裁判例が出ており(福岡家裁小倉支部昭和52年2月28日審判)、「重婚的」内縁関係でも保護されるケースは十分に考えられるとみて良いと思われます。

10.本件では、好きな人が出来たといって出て行ったということですので、その女性に対して慰謝料請求が可能です。夫婦間の貞操義務については、内縁にも準用されると考えられています(東京地方裁判所昭和33年12月25日判決等)。但し、ここでもやはり「重婚的」内縁関係でも同様かという議論になります。この点、「重婚的」内縁関係の場合であっても、法律婚が事実上離婚状態にあり、内縁の妻が夫の「法律上の妻とは離婚することになっている」という言葉を信頼して、関係を継続した場合には、この夫がさらに別の女性と関係を持ち、内縁関係を解消するに至ったときには、この女性は内縁の妻に対して慰謝料支払いの義務があるとする判例(東京地方裁判所昭和62年3月25日判決)があり、やはり、事実上の離婚状態という一定の条件はありますが、重婚的内縁だから認めないという結論をとらないことは明らかです。

11.上記の様に見ていきますと、正式な法律婚と、内縁関係で、法律上の保護にほとんど相違は無いようにも思えます。これは、当事者からの依頼を受けて弁護士が法律構成を工夫して主張し、裁判所が当事者の生活実態に即して法律解釈を行い、できるだけ困っている内縁配偶者を救済しようという価値判断のもとに判例を集積してきたためですが、一部の点について、法律婚制度の根幹に関わるとして、類推適用を排除している分野がありますので、念のため、ご紹介します。全ての点で法律婚と内縁関係を区別無くしてしまえば、法律上整備された婚姻制度は形骸化し、崩壊し、社会秩序に混乱をもたらすので、一定の区別を残すことは致し方ないという考え方です。@内縁配偶者に相続権が認められない点(仙台家裁審判昭和30年5月18日、東京家裁昭和34年9月14日等)、A非嫡出子の相続分が嫡出子相続分の2分の1となる点(民法900条4項、最高裁決定平成7年7月5日等)等です。

12.内縁関係でお困りの場合は、一度お近くの法律事務所に御相談になると良いでしょう。

≪条文参照≫

民法
(共同不法行為者の責任)
第719条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

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