新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私は、半年前、元妻と離婚の調停をし、3歳の子供の親権を元妻に渡し、養育費を1ヶ月10万円支払うことを条件に調停が成立し、調停調書が作成されました。今、私は失業し、養育費を払うことができなくなりました。この調停事項を拒否し、養育費の支払いを拒むことはできますか?元妻は再婚し、子供も再婚相手と養子縁組をしたと聞きました。それなのに私が従来どおりの養育費を払わないといけないのでしょうか? 2.本来、当事者である貴方が合意し決めた養育費の支払いは、調停調書に記載されている以上、確定判決(家事審判法21条。)の効力として既判力(判決が確定した場合、裁判所はそれに抵触する判断ができないし当事者も主張できないこと)があり、合意したときの事情が変わっても勝手に変更できないはずですが、養育費(親権の変更等も)については、事情変更による養育費の変更を法律上再度裁判所に判断を求めることができます(民法766条2項、家事審判法9条乙類4号)。 3.調停成立以後の事情を基に養育費を計算し(事務所ホームページ養育費、婚姻費用の計算についての計算式、簡易早見表参照)、適正な養育費を主張する場合の参考にしてください。 解説: 2. 3.以上のような養育費の請求は、子供の人間としての尊厳を守るため成長、発達をいかに保護すべきかという合目的観点から決定されますから、通常の勝ち負けを決める訴訟によらずに家事審判事項として規定しています。すなわち、両親が養育費をどれだけにするかという勝ち負けを決めるということが本来の目的ではありませんから、子供の福祉を中心に決定されなければなりません。 4.家事審判とは、個別的に定められた家庭に関する事件(本件養育費の決定等)について訴訟手続である民事訴訟法ではなく、非訟事件手続である家事審判法に基づき家庭裁判所が判断する審判を言います。私的な権利、法律関係の争いは訴訟事件といい、民事訴訟手続により行われます。民事訴訟とは、国民の私的な紛争について裁判所が公的に判決等により判断を行い強制的に解決するものですから、当事者にとり適正(より真実にあっていること)公平で、迅速性、費用のかからないものでなければなりません(訴訟経済)。従って、訴訟事件は、原告被告を相対立する当事者と捉え、公正を担保するため公開でなければいけませんし、当事者の公平を保つため主張、立証、証拠収集について当事者の責任とし(当事者主義、弁論主義といいます。)、裁判所は仮に真実、証拠を発見し気づいたとしても、勝手に当事者の主張を変更し、証拠を提出、収集できないことになっているのです。更に、紛争の公的早期解決のため迅速に、費用がかからないようにその進行について積極的に訴訟指揮が行われます。しかし、事件の内容によってはこのような対立構造になじまない紛争があります。権利の存否(事実関係の有無、当事者の勝ち負け)が問題となる紛争ではなく、離婚時に親権者を定めたり、両親の養育費を定めたり、当事者の利害をどのように調整すべきか問題となるような紛争です。 すなわち、当事者に任せておいては事件の真の解決につながるか問題があり、国家、裁判所が後見的、裁量的判断を求められる事件があります。これが非訟事件です。非訟事件については、基本的には非訟事件手続法があり、個々の非訟事件について個別的に法令を定めて事件の性質に合った非訟手続を用意しています。家事審判とは非訟事件の中の、家庭に関する事件をさし、家事審判法はその手続を規定しているのです。非訟事件の基本構造は、事件の性質上合理的解決のため裁判所が裁量権を有し、後見的に介入し民事行政的作用の面があり、攻撃し相対立する当事者という形は取っていません。当事者の意見にとらわれず合理的解決を目指しているので、事件の内容を公開せず(非公開、非訟事件手続法13条)、国家が後見的立場から主張、証拠、収集について介入し自ら証拠収集ができ、主張に対するアドヴァイスができる事になっています(職権探知主義といいます。非訟事件手続法11条、当事者主義に対立する概念です。)。訴訟の指揮、進行も迅速性を最優先にせず、訴訟経済もさほど強調されません。本件養育費の決定は、双方どちらの両親が、どれだけ負担するかどうかという勝ち負けが大切ではなく、人間として生きていく子の生まれながらの権利をどのようにして確保実現していくかという問題であり、離婚を合意し相争っている夫婦の主張に拘束される事なく、証拠等を収集し国家が意思表示できない子の正当な利益を考え、後見的立場から判断を下す事になるわけです。 5.このような背景から、養育費の金額については、父母双方の収入状況を基に総合的に判断がなされます。原則としては、離婚の当事者の話し合いで決めることができますが、話し合いがまとまらなかった場合には、家庭裁判所の調停、審判で決めることになります。家庭裁判所には、子供の人数、年齢に応じた養育費の算定の基準が設けられており、年収金額、自営か勤務(サラリーマン)かによって判断がなされます。計算方法については、事務所ホームページ、養育費の計算方法を参照してください。事例集bU84号も参考にしてください。 6.家庭裁判所の家事調停において、調停が成立したときは、調停調書を作成します。この調停調書の記載には、「確定判決と同一の効力を有する」ものとされています(家事審判法21条)。すなわち、確定した判決と同様に既判力、執行力等の法的な拘束力が認められています。既判力とは、確定した調書の記載内容についての拘束力のことであり、調停の成立時点での判断の内容にその後裁判所は拘束され、その時点までに当事者が主張しえた事項をそれ以降主張できなくなり、判断の内容を覆すことはできないことになります(民訴114条115条)。また、執行力とは、調停調書を債務名義として、債務者に対して(預金差押・給与差押など)債務の実行を強制することができる効力です。強制執行が可能となる効力です(民事執行法22条)。調停による解決に実効性を持たせ、紛争の蒸し返しを防ぎ、確実な解決を図るために、調停調書にかかる強力な効力が認められているのです。 7.そのため、一旦調停調書において、養育費の支払義務、金額が記載された場合には、既判力によって調停調書の内容に拘束され、原則として調停の時点で主張しえた事情は主張できなくなります。調停内容の無効の主張は遮断されます。そして、養育費の支払義務には執行力がありますので、貴方が任意に養育費の支払いをしない場合には、強制執行によって、貴方の所有する財産の差押をうけ、強制的に養育費の支払いをさせられることになります。従って、原則として、調停調書の内容に従い、定められた養育費を支払う必要はあります。 8.しかし、第766条2項、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。」、家事審判法第9条乙類四項(民法第七百六十六条第二項)は調停成立後に当事者間に事情の変化が生じた場合には、調停内容の変更を認めています。 9.そこで、このような規定は確定判決の既判力に反するのではないかという疑問が生じます。しかし、養育費についての家事審判による和解調書の既判力は制限されていると解釈する事が出来ます。すなわち、調書成立の基礎となった事情の変更認定によりその範囲で既判力は失われるということになります。その理由は、@養育費の決定は子供の人権を守るという観点から合目的に定められるものであり、離婚した夫婦当事者の合意により本来左右されないものなのです。従って、調書による確定判決の効力たる既判力も制限を受けるのです。Aそもそも既判力とは、訴訟手続における当事者主義に基づき、当事者が口頭弁論において自らの責任で訴訟を追行したという点に求められるのですが、非訟事件手続の家事審判事項にはその背景がないのです。B既判力は判決に認められるものであり決定(民訴87条但し書き、口頭弁論が任意的な裁判所の判断。同119条)には原則として認められませんから、本来家事審判は全て決定事項であり、養育費が調停調書によらず決定でなされた場合を比較すると当然の制限といえます。Cこの点について、既判力がそもそもないという考え方もあるようです。 10.以上より養育費の金額について、変更を求める調停、審判を申し立てることができます。具体的な事情としては、物価の高騰、貨幣価値の変動、父母の再婚とそれに伴う子の養子縁組、父母の病気、就職、失職などが挙げられます。 11.本件の場合、事情の変更としては、貴方の失業による収入の減少と相手方の再婚、及び再婚相手と子供の養子縁組が挙げられます。貴方の失業による収入の減少は、養育費を減額させるための重要な要因となります。また、相手方が再婚したことは、再婚相手の収入にもよりますが、一般的には相手方の経済的事情がよくなったものと考えられますので、養育費を減額させるための要因となります。そして、再婚相手と子供が養子縁組をしたことも養育費を減額させるための重要な要因となります。離婚後に子供が元妻の再婚相手と養子縁組をした場合には、(勿論、貴方と子供の血縁関係に基く親子関係も継続しますが)、法律的には再婚相手も子供の親となり、扶養義務が生じ、その子供を経済的に扶養すべき義務のある者が1人増えたことになるからです。従って、養育費算定の基礎収入に変更がありますので、調停内容の養育費の金額を減額することが可能であると考えられます。養育費計算方式に従い詳細なる検討が必要です。 12.判例を参照します。 13.具体的な手続ですが、当事者間の話し合いがまとまらなければ養育費を請求する相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、養育費減額の調停及び審判を求めることになります。手続、内容等に不安な場合は専門家である弁護士にご相談をされることを勧めます。 《参照条文》 憲法 家事審判法 民法 民事訴訟法
No.790、2008/5/12 17:38 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm
【親族・養育費・離婚した妻が再婚した場合に、養育費の変更が出来るか】
↓
回答:
1.養育費の変更は可能と思われます。
1.夫婦が離婚する場合、未成年の子供がいるときは、子供の監護をすべきものを決める必要があります。そのため、離婚において、未成年の子供の親権者をいずれの親にするかを決めることになります。そして、親権の帰属とは別に、夫婦の収入等に応じて、養育費の負担を決めることになります(民法766条1項、家事審判法9条乙類4号)。
(1)離婚の際の養育費は民法766条の「その他監護について必要な事項」、家事審判法9条乙類4号「その他子の監護に関する処分」の解釈として認められていますが、養育費の実質的根拠条文は、民法877条に求める事が出来ます。877条の解釈として親は、直系血族として生活力がない未成年者の生活保持義務が認められます。その理論的根拠ですが、未成年の子は、人間の尊厳(憲法13条)を保持するため教育を受ける権利を有し(憲法26条)、発達に応じて自分を生んだ親に対して、経済的には扶養料(養育費)を請求できることになりますし、これを親の方から見ると教育の権利義務(憲法26条)の内容として経済的に扶養する義務が存在します。養育費は、離婚に際して教育監護権を有する一方が他方に請求するものであり、子供が独自に請求するものではありませんが、実質的には子の扶養請求権を親が代理し、離婚して両親の独自の請求権として規定し認めているのです。
(2)すなわち、養育費と扶養料は実質的に同一であり、子の人間として生きる権利を保障するために、両親の一方が他方に請求する権利と子供が独自に請求する権利を別個の角度から重畳的に認め、子供の成長発達を保護しているのです。従って、二重に請求は出来ませんし、養育費を請求する親がいない子(死亡等)は独自に扶養請求ができるのです。勿論、そういう意味で親が養育費の請求権を放棄することも出来ないわけです。
@神戸家裁姫路支部 平成12年9月4日審判、子の監護に関する処分(養育費請求)申立事件。元夫が離婚時に合意した養育費を支払わないので、離婚後再婚し養子縁組を行った子の養育費を請求した元妻の申立について、裁判所は再婚した養親の収入を当然に申立人側の基礎収入として詳細に計算し申立を却下しています。
A東京家裁 平2.3.6審判、平元(家)3672号,3673号,3674号、子の監護に関する処分(養育費減額)申立事件。離婚時に決めた公正証書による養育費を離婚後元妻の再婚、3人の子の養子縁組により、新たな養親の収入を基礎収入として詳しく計算しなおして、養育費を減額し(30万円を21万円に減額)パイロットである元夫の減額請求を認めています。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
○2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第9条 家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
甲類
乙類
四 民法第七百六十六条第一項 又は第二項 (これらの規定を同法第七百四十九条 、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分
第21条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。但し、第9条第1項乙類に掲げる事項については、確定した審判と同一の効力を有する。
2 前項の規定は、第23条に掲げる事件については、これを適用しない。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
《改正》平16法147
2 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3 前2項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
(嫡出子の身分の取得)
第809条 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
(口頭弁論の必要性)
第八十七条 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
(既判力の範囲)
第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2 前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。
(決定及び命令の告知)
第百十九条 決定及び命令は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる。