新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:電車内で痴漢被害に遭いました。犯人は逮捕されましたが,その後釈放されていると聞いています。先日,弁護人に就いた弁護士さんから示談の申入れを受けたのですが,自分がどういう立場なのか法的なことがわからず,どうしていいか決めかねています。示談に応じた方がいいでしょうか。示談金の相場はいくらくらいでしょうか。 解説: ≪迷惑防止条例違反の在宅被疑者≫ ≪公判請求と略式起訴≫ ≪起訴猶予の可能性≫ 以上が刑事手続の現状と見通しです。 【民事上の法律関係】 ≪不法行為に基づく損害賠償請求権≫ ≪慰謝料として認められる可能性のある金額≫ ちなみに,平成20年12月施行の犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成十九年法律第九十五号)による損害賠償命令の申立て制度は,特に被害者が民事上の損害賠償請求をすることについて精神的負担が大きい刑事事件(強姦,強制わいせつ,誘拐、監禁等)についてのみ被害者保護の立場から刑事裁判所で簡易な手続きにより(4回で終了、任意的口頭弁論となっています)民事損害賠償を認めています。本件とは異なりますが,この制度は被害者が自ら民事訴訟を起こす精神的負担の大きさを物語っています。本件も強制わいせつ類似のわいせつ的事案であり参考になると思います。 【弁護人からの示談の提案に対して】 ≪示談の意義≫ ≪示談が及ぼす事実上の効力≫ ≪被害者救済の方法としての示談≫ ≪起訴前の示談に応じることのメリット,デメリット≫ ≪いくらなら示談に応じるべきか≫ ≪弁護人から示談申入れの連絡が来たら≫ ≪条文参照≫ 刑事訴訟法 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成十九年法律第九十五号)
No.794、2008/7/18 20:45 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
[刑事,被害者,弁護人から示談の申入れを受けたとき]
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回答:ご心痛お察しいたします。当然のことですが,示談に応じるか応じないかはあなたの自由です。結論については最終的にはご自身で出していただかざるを得ませんが,ただ,自由と言われてもどうするのが最適か分かりかねるというのはそのとおりでしょう。そこで,やや長文になりますが,刑事手続の進行状況と民事上の法律関係についてざっとご説明します。あなたがご判断をする上での目安にしていただければ幸いです。
【刑事手続の現状と見通し】
まず,痴漢行為の犯人とされる者は,現在,刑事訴訟法上の被疑者(マスコミでいう「容疑者」)という立場で,検察官から事情聴取を受けている状態にあります。犯人の行為がいかなる犯罪に該当するのかを決めるのは裁判所ですが,電車内の痴漢行為という行為態様からすると,おそらく各都道府県の定める迷惑防止条例違反であると予想されます。ご参考までに東京都の迷惑防止条例(正式名:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)違反に対しては,6か月以下の懲役か,50万円以下の罰金という刑罰が定められています。既に,あなたも警察署や検察庁で事情聴取を受け,供述調書を作成されたり,実況見分に立ち会ったりされているでしょうが,被疑者もまた,警察署や検察庁からの呼び出しに応じて,取調べに応じていることと思います。検察官は,今後,警察が収集した証拠や,自身の取調べ結果などを総合し,被疑者に対して刑事裁判を求めるかどうか,つまり,起訴するかどうかの判断をすることになります。
この点,起訴するにしても2とおりの手続があります。ひとつは,裁判官,検察官,被告人(被疑者は起訴されると「被告人」という立場になります。本当は誤解を招く表現なのですが,マスコミでは「被告」などと呼ばれることもあります。),弁護人が法廷に集まって審理を開く正式裁判の請求(これを「公判請求」といいます。)です。もうひとつは,警察署や検察庁で取り調べられた書面証拠のみが裁判所に送られ,裁判官がその事件記録だけを読んで罰金の額を定める略式手続の請求(これを「略式起訴」といいます。)です。本件がどちらになるかは一概に言えませんが,今回が初犯で,事実関係を認めて反省の情を示しているということであれば,略式起訴になる確率が高いでしょう。略式起訴されて罰金刑が言い渡されるときの量刑については,上記の事情を前提とすると,高くても20万円から30万円前後ではないかと思います。
反対に,検察官は,裁判まで求めるには及ばないとして,「今回は起訴を見送る」とする処分(起訴猶予処分)をする場合もあります(刑訴248条。起訴便宜主義)。ただ,被害者が処罰を求めている場合には,検察官も起訴猶予にはしにくく,その可能性は限りなく低くなります。ちなみに,起訴猶予処分といっても,決して事件自体がなかったこととされるものではなく,刑事記録が捜査機関(検察庁)によって保管・管理されることとなります。もし,被疑者が今後犯罪行為に及ぶようなことがあれば,本件の存在についても,当然,捜査機関が参照することになるでしょう。
次に,当事者間の法律関係である民事上の状況について説明します。刑事上の法律関係が刑罰権を有する国と刑罰を受けるかもしれない被疑者・被告人との関係であるのに対し,民事上の法律関係は,被害者であるあなたと加害者との関係です。あなたは,被疑者(加害者)に対して不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求権を有していると考えられます(民法709条)。損害賠償請求権の存否については争いがなかったとしても,その程度(金額)に争いがあれば,究極的には,あなたが訴訟等の法的手続を取ることにより,裁判所において慰謝料額が算定され,加害者に対してその支払いが命じられることになるでしょう。
裁判手続を利用したとき,損害賠償として実務上どの程度の額が認められる傾向にあるのかについては十分な資料はありませんが,感覚的には,裁判所が認めるのは数万円から20万円程度ではないかと思います。加害者を懲らしめるのに必要な金額はいくらかという考え方(懲罰的損害賠償制度)を採用しているアメリカなどとは違い,我が国では発生した損害の金銭評価がいくらかという考え方を採用しています。そして,精神的損害の金銭評価が難しいこともあって,それに対する慰謝料の算定に対しては消極的な傾向にあるといえます。加えて,裁判手続を利用されるのにも労力・費用がかかります。簡易裁判所の少額訴訟手続(60万円以下)を利用すれば,弁護士に依頼せずともある程度の訴訟追行が可能ですが,1回の期日で結審するとは言え,手間暇は避けられません。こうしてみると,被害者の方にとっては,経済的,時間的,心理的な負担に見合った額が認められるとは限らないのが,残念ながら,現状の一端であるということもできます。
示談とは,厳密な法律用語ではありませんが,民事上の紛争を訴訟等の法的手続によることなく,当事者の話し合い等で解決する行為を「示談」と呼んでいます。本件のような事案に即した言い方をすると,加害者が被害者に対して,深くお詫びし,その印としてお金を支払うなどし,被害者がそれを了承・受領することで,民事上の法律関係(不法行為に基づく損害賠償に関する紛争)を清算するということになるでしょう。
上記のとおり,示談はあくまで民事上の行為であり,示談が成立したからと言って,検察官は迷惑防止条例違反の被疑事実について起訴猶予処分にしなければならない義務はありません。「民事と刑事は別」と言われるのはこのことです。ただし,検察官は,犯罪事実が認められると考えられる場合でも,諸般の事情を考慮して,起訴しない判断をする権限を持っています(起訴便宜主義)。そして,もし民事上の示談が成立していれば,そのことがこの諸般の事情の一つとして考慮されるでしょう。有体に言えば,示談が成立していれば,事実上,検察官が起訴猶予処分にする可能性が高くなります。
刑事手続上,捜査段階における検察官の職責は,罪を犯したと疑われる者のうち,起訴相当とする者を起訴し,法令に照らして刑罰に処すことを裁判所に求めることにあります。他方,捜査段階の刑事弁護人に就任した弁護士は,起訴すべきでない事案,起訴せずに済む事案は起訴をしないよう求め,起訴が避けられない事案については,裁判に向けての準備をすることを職責としております。その意味で,起訴するかしないかの点について形式的に見れば,検察官と弁護人は,対立する意見を持つとも言えます。しかし,本件のように被害者のいる事案においては,方法論こそ違えど,被害者救済という目的については共通する点もあります。つまり,検察官は,罪を犯したと疑われる者について刑罰に処すことを求めることにより,本人の再犯防止と同種事犯の抑制を図ることで,結果的に被害者が救済されることを考えるのに対し,弁護人は,刑事手続上有利な事情として考慮される可能性があることを被疑者に説明して,被疑者に示談を申し入れる意思がある場合には,その実現に助力することで,被害者に現実の救済が図られるという道筋を考えることもできるのです。検察官は公務員であり,本来的職務でない示談の話し合いを取り持つことはできません。ただ,検察官が略式起訴をして,裁判所が罰金の支払いを命じたとしても,罰金は検察庁を通じて国庫に納められるもので,被害者に生じた現実の損害の填補については,各自が自己責任で民事手続をとるようにと言うだけになってしまいます。しかし,弁護士であれば,弁護人として被疑者の利益を図りながら,かつ,被害者の現実的な支援につながる示談という選択を試みることができるのです。
これまで説明してきたように,起訴前の示談に応じれば,自ら請求をしたり,面倒な法的手続を採ったりすることなく,被害弁償を受けることができます。また,ただでさえ,理不尽な犯罪被害によって精神的に疲弊しているときに,わざわざ法的手続を採ることはなかなかの負担だと思います。こうした負担から解放される利益にも着目する必要があるでしょう。加えて,起訴前に示談が成立すれば,検察官が起訴猶予処分にする可能性があります。これに対し,起訴後に示談が成立しても,検察官は起訴を取り消しませんし,裁判所が無罪判決を言い渡すわけでもありません。したがって,起訴前の段階は,被疑者にとって,示談を申し入れるモチベーションが最も高い時期であるといえます。今,示談金を支払いたいと言っている被疑者が,起訴後や裁判後に同じ金額を提示するとは限らないばかりか,示談の申入れすら諦められてしまうかもしれないのです。他方,起訴前の示談に応じると,検察官が起訴猶予処分にする可能性が高まってしまいます。この意味で,どうしても被疑者を起訴してほしい場合には,起訴前の示談はデメリットがあるといえます。早期の被害弁償が受けらず,自ら手間暇の負担をし,民事の裁判所が認める限度の賠償を請求できれば構わないから,刑事処分を課してほしいというご希望である場合には,起訴前の示談に応じるべきではありません。
示談金の相場がいくらくらいなのかを気にされる方は多くいらっしゃいます。初犯の事案の量刑相場である20万〜30万円程度が一つの参考にはなるでしょうが,それだけを示談に応じるか否かの基準にすべきではありません。たとえば,10万円であっても,加害者側が任意に提示するものであれば,特段の労を要せず弁償を受けることができます。しかし,たとえ,この倍額20万円が民事の裁判所の判決で認められたとしても,それを自ら法的手続を採って回収しようとすれば,それ以上の費用や労力がかかる可能性もあります。罰金を払ってお金がなくなってしまうかもしれません。さらに,被疑者本人には全く資力がないが,被疑者の身を案じた親族が5万円を提示してきたとします。親族には本来法的な義務がないので,親族に対し法的な請求をすることはできません。この申入れを断れば,法的に請求できるのは,お金がない被疑者本人だけになってしまいます。訴訟を起こして判決をもらったとしても,お金がない人から取ることはできません。このように,現実に受けられる被害弁償額の可能性を考慮する必要があります。結局のところは,「被疑者側が支払える限度と考えている金額と,被害者が諸般の事情を考慮すればそれもやむを得ないとして,一応承諾できる金額がどこかで合致するかしないか」というケースバイケースになるでしょう。
お知り合いに弁護士がいないような一般の方の場合,被疑者の弁護人と話をすることに漠然とした不安を抱くかもしれません。しかし,弁護士の個性にもよるものの,弁護人の方も被害者の方には相当気を使って連絡していることと思います。したがって,過度の不信に陥らず,ある程度腹を割って話し合った方が,双方にとって有益な場合もあります。とはいえ,交渉の相手方であることは変わりありませんから,弁護人から提案があったときは一旦返事を保留にさせてもらって,あなたの側も弁護士に相談したうえで回答することや,交渉窓口を弁護士にすることも考えられます。
起訴便宜主義 第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
第一節 損害賠償命令の申立て等
(損害賠償命令の申立て)
第九条 次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二 次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十六条から第百七十八条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条(逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条から第二百二十七条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
2 損害賠償命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3 前項の書面には、同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。
(申立書の送達)
第十条 裁判所は、前条第二項の書面の提出を受けたときは、第十三条第一項第一号の規定により損害賠償命令の申立てを却下する場合を除き、遅滞なく、当該書面を申立ての相手方である被告人に送達しなければならない。
(管轄に関する決定の効力)
第十一条 刑事被告事件について刑事訴訟法第七条、第八条、第十一条第二項若しくは第十九条第一項の決定又は同法第十七条若しくは第十八条の規定による管轄移転の請求に対する決定があったときは、これらの決定により当該被告事件の審判を行うこととなった裁判所が、損害賠償命令の申立てについての審理及び裁判を行う。
(終局裁判の告知があるまでの取扱い)
第十二条 損害賠償命令の申立てについての審理(請求の放棄及び認諾並びに和解(第五条の規定による民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解を除く。)のための手続を含む。)及び裁判(次条第一項第一号又は第二号の規定によるものを除く。)は、刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでは、これを行わない。
2 裁判所は、前項に規定する終局裁判の告知があるまでの間、申立人に、当該刑事被告事件の公判期日を通知しなければならない。
(申立ての却下)
第十三条 裁判所は、次に掲げる場合には、決定で、損害賠償命令の申立てを却下しなければならない。
一 損害賠償命令の申立てが不適法であると認めるとき(刑事被告事件に係る罰条が撤回又は変更されたため、当該被告事件が第九条第一項各号に掲げる罪に係るものに該当しなくなったときを除く。)。
二 刑事訴訟法第四条、第五条又は第十条第二項の決定により、刑事被告事件が地方裁判所以外の裁判所に係属することとなったとき。
三 刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百二十九条若しくは第三百三十六条から第三百三十八条までの判決若しくは同法第三百三十九条の決定又は少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条の決定があったとき。
四 刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百三十五条第一項に規定する有罪の言渡しがあった場合において、当該言渡しに係る罪が第九条第一項各号に掲げる罪に該当しないとき。
2 前項第一号に該当することを理由とする同項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
3 前項の規定による場合のほか、第一項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(時効の中断)
第十四条 損害賠償命令の申立ては、前条第一項の決定(同項第一号に該当することを理由とするものを除く。)の告知を受けたときは、当該告知を受けた時から六月以内に、その申立てに係る請求について、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
第二節 審理及び裁判等
(任意的口頭弁論)
第十五条 損害賠償命令の申立てについての裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
2 前項の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。
(審理)
第十六条 刑事被告事件について刑事訴訟法第三百三十五条第一項に規定する有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が第九条第一項各号に掲げる罪に該当する場合に限る。)には、裁判所は、直ちに、損害賠償命令の申立てについての審理のための期日(以下「審理期日」という。)を開かなければならない。ただし、直ちに審理期日を開くことが相当でないと認めるときは、裁判長は、速やかに、最初の審理期日を定めなければならない。
2 審理期日には、当事者を呼び出さなければならない。
3 損害賠償命令の申立てについては、特別の事情がある場合を除き、四回以内の審理期日において、審理を終結しなければならない。
4 裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き、その取調べをしなければならない。
(審理の終結)
第十七条 裁判所は、審理を終結するときは、審理期日においてその旨を宣言しなければならない。
(損害賠償命令)
第十八条 損害賠償命令の申立てについての裁判(第十三条第一項の決定を除く。以下この条から第二十条までにおいて同じ。)は、次に掲げる事項を記載した決定書を作成して行わなければならない。
一 主文
二 請求の趣旨及び当事者の主張の要旨
三 理由の要旨
四 審理の終結の日
五 当事者及び法定代理人
六 裁判所
2 損害賠償命令については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。
3 第一項の決定書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、損害賠償命令の申立てについての裁判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。
4 裁判所は、相当と認めるときは、第一項の規定にかかわらず、決定書の作成に代えて、当事者が出頭する審理期日において主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、損害賠償命令の申立てについての裁判を行うことができる。この場合においては、当該裁判の効力は、その告知がされた時に生ずる。
5 裁判所は、前項の規定により損害賠償命令の申立てについての裁判を行った場合には、裁判所書記官に、第一項各号に掲げる事項を調書に記載させなければならない。
第三節 異議等
(異議の申立て等)
第十九条 当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、前条第三項の規定による送達又は同条第四項の規定による告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
4 適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、仮執行の宣言を付したものを除き、その効力を失う。
5 適法な異議の申立てがないときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有する。
6 民事訴訟法第三百五十八条及び第三百六十条の規定は、第一項の異議について準用する。
(訴え提起の擬制等)
第二十条 損害賠償命令の申立てについての裁判に対し適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てに係る請求については、その目的の価額に従い、当該申立ての時に、当該申立てをした者が指定した地(その指定がないときは、当該申立ての相手方である被告人の普通裁判籍の所在地)を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、第九条第二項の書面を訴状と、第十条の規定による送達を訴状の送達とみなす。
2 前項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、損害賠償命令の申立てに係る事件(以下「損害賠償命令事件」という。)に関する手続の費用は、訴訟費用の一部とする。
3 第一項の地方裁判所又は簡易裁判所は、その訴えに係る訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、決定で、これを管轄裁判所に移送しなければならない。
4 前項の規定による移送の決定及び当該移送の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(記録の送付等)
第二十一条 前条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては、当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き、第十六条第四項の規定により取り調べた当該被告事件の訴訟記録(以下「刑事関係記録」という。)中、関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認めるもの、捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認めるものその他前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所に送付することが相当でないと認めるものを特定しなければならない。
2 裁判所書記官は、前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所の裁判所書記官に対し、損害賠償命令事件の記録(前項の規定により裁判所が特定したものを除く。)を送付しなければならない。
(異議後の民事訴訟手続における書証の申出の特例)
第二十二条 第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における前条第二項の規定により送付された記録についての書証の申出は、民事訴訟法第二百十九条の規定にかかわらず、書証とすべきものを特定することによりすることができる。
(異議後の判決)
第二十三条 仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合において、当該訴えについてすべき判決が損害賠償命令と符合するときは、その判決において、損害賠償命令を認可しなければならない。ただし、損害賠償命令の手続が法律に違反したものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償命令を認可する場合を除き、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における当該訴えについてすべき判決においては、損害賠償命令を取り消さなければならない。
3 民事訴訟法第三百六十三条の規定は、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における訴訟費用について準用する。この場合において、同法第三百六十三条第一項中「異議を却下し、又は手形訴訟」とあるのは、「損害賠償命令」と読み替えるものとする。
第四節 民事訴訟手続への移行
第二十四条 裁判所は、最初の審理期日を開いた後、審理に日時を要するため第十六条第三項に規定するところにより審理を終結することが困難であると認めるときは、申立てにより又は職権で、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をすることができる。
2 次に掲げる場合には、裁判所は、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をしなければならない。
一 刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでに、申立人から、損害賠償命令の申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があったとき。
二 損害賠償命令の申立てについての裁判の告知があるまでに、当事者から、当該申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があり、かつ、これについて相手方の同意があったとき。
3 前二項の決定及び第一項の申立てを却下する決定に対しては、不服を申し立てることができない。
4 第二十条から第二十二条までの規定は、第一項又は第二項の規定により損害賠償命令事件が終了した場合について準用する。