新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:私の夫は大阪の地方公務員ですが、バックにビデオカメラを設置し、デパートで女性の下半身を盗撮し逮捕されました。勿論前科などありません。至急弁護士さんに依頼し接見に行ってもらったのですが、弁護士さんの話によると夫は仕事上のストレスでかなり前から公衆の場所で盗撮を繰り返し、自宅の仕事場に多数の撮影済みのビデオ、CDが仕事部屋に隠し置いてあるというのです。ノートパソコンにも保存していたようです。弁護士さんは、「本件は件数、被害が大きいので略式裁判による罰金ではなく公判請求(公開裁判)されるかもしれないし、本人はすべて自供しているから後日、警察が必ず自宅捜索に来るので絶対に証拠となるものを破棄したり、隠したりしてはいけません。」と厳しく何度も注意されました。私が、このようなものを破棄したらどうなるのですかと聞きましたら、弁護士さんは、「証拠隠滅罪が成立し取り調べ、逮捕、起訴の可能性が十分あるので絶対にいけません。唯、裁判になっても妻が夫のために隠滅した場合は、事情により刑について配慮されることもあります。」と言われました。夫は昔から家族思いでまじめですし,今度昇進試験にやっと合格したばかりです。私は、迷ったのですが気が動転し弁護士さんが証拠品のことを教えてくれたのは暗に私たちを助けるためかも知れないと勘違いして、夫、家族を守るため私はもうどうなってもいいと思い、証拠品を探し出して近くの川に全部捨ててしまいました。今後私達はどうなるでしょうか。心配で夜も眠れません。 【解説】 2.しかし、ご主人は、初犯ですし、すべてを自供し反省の態度もあるようですから勾留請求の上延長されるかも知れませんが(刑訴208条)、罰金になる可能性も十分あります(50万円以下の罰金、6月以下の懲役)。常習(100万円以下の罰金、1年以下の懲役)になるかという点ですが、常習性の認定(事例集bS15号参照)には刑法の謙抑主義、厳格主義から各犯罪行為を数年にわたり行ったという立件が証拠により行われる必要ですから、本件では本人が過去すべての犯行を自供しても結果的に常習性は認定されないでしょう。又、過去の犯行はビデオ、CDがなければ単なる情状となり公判請求の可能性も薄まるでしょう。それに証拠隠滅をご主人が行ったわけでもありませんから、その点の責任も問われないと思います。そういう意味では貴女の証拠隠滅は明らかな違法行為ですが、結果的に夫を助けることに繋がっています。 3.今後の対応ですが、本罪の保護法益から被害者に対する示談謝罪、被害弁償を至急行い、社会に対しては贖罪寄付が必要です。犯行期間から100万円以上は必要でしょう。被害者との和解交渉はホームページ事例集に詳しく説明していますから検索で参照してください(事務所事例集bU91、784号等参照)。 4.次に、奥様の行為ですが、これらビデオ、CD、パソコン(パソコンはデータを消去しても簡単に復元できますので重要です)の破棄は、明らかに証拠隠滅罪(刑法104条)に該当します。前述のように、常習性の立証、立件の罪数にかかわる問題であり逮捕、起訴の可能性が全くないわけでもありません。本罪の法定刑が2年以下の懲役、20万円以下の罰金ですから理論上は罰金に該当することになると思います。しかし、貴女は妻であり、夫を助けたい一心で家族を守ろうとして犯行を行っていますから、刑事裁判になっても刑の免除となることが予想されます(刑法105条)。刑事事件の捜査、裁判は、言うまでもなく適正、公平、迅速に行わなければなりませんから(刑事訴訟法1条)、証拠隠滅は司法権、法社会秩序の維持に対する挑戦とも受け取れる卑怯な犯罪です。しかし、身内の者が何らかの理由により突然逮捕、拘留された場合、ご家族の人がこれを救おうとして行動することも、心あるものであればむしろ人間の情として自然であり、道義的にも非難しきれない面があると言わざるを得ません。そこで刑法は、証拠隠滅に至った経過、内容を検討し、犯罪は成立するが刑を免除することができると規定したのです。貴女は、弁護人の忠告により逮捕されることを覚悟で夫、家族を守るため犯行していますから、まさにこの条文の趣旨に合致するものと言えるでしょう。すでに証拠は川の藻屑と消えてしまい、もはやどうすることもできません。至急捜査機関に申し出て、事実を正直に話し謝罪してください。捜査員、検事も人の子です。家族を守ろうとして我が身を省みず行動した貴女を逮捕し立件することもないでしょう。犯行に使われたビデオ、自供等により有罪は十分立件できるのであれば奥様の調書を作成の上検討しますが、処罰する可能性は少ないような気もします。また貴女は、弁護人から犯行内容を詳しく聞かされ、気が動転し弁護人の度重なる忠告も家族を助ける暗示と勘違いしたとのこと無理からぬことだと思います。その点捜査員も理解してくれるかも知れません。証拠隠滅という違法行為をしないように何度も厳しく注意した弁護人も、貴女のご家庭の事情、ご主人の地位などを聞いて本心は何とか助けてあげたかったのかも知れません。冷たいようですが弁護人は法の支配の一翼を担うものとして、どのようなことがあっても違法行為を助長、幇助することはできないことを理解してあげてください。 5.現在依頼している弁護人を通じて至急示談、贖罪寄付などを行い、一刻も早くご主人様が家庭に戻られ職場復帰されることを願っております。 《条文参照》 憲法 刑事訴訟法 大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 東京都:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
No.801、2008/10/27 12:29 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
【刑事・起訴前弁護・盗撮と妻の証拠隠滅・刑の免除】
↓
【回答】
1.至急捜査機関に届けて、事実を包み隠さず話し謝罪してください。
2.奥様の取り調べはありますが、逮捕、起訴はないと思います。
3.ご主人は、勾留満期後罰金で釈放される可能性があります。被害者との示談、贖罪寄付が必要です。
1.ご主人の行為は、盗撮行為で各県の迷惑防止条例に該当し、携帯のカメラなどで撮影した場合は、大阪の場合略式手続で30万円程度の罰金になるようです(大阪迷惑防止条例6条、12条)。しかし、ご主人は盗撮行為を繰り返していますし、ビデオカメラという器械を細工して鞄に隠し常習的に犯行を繰り返していますから、公判請求となれば懲役刑を求刑され執行猶予が付くとしても有罪判決は免れません。東京都迷惑防止条例でも痴漢行為より盗撮行為の方がはるかに重くなっています(刑は上限が2倍。東京都迷惑防止条例5条、8条)。痴漢行為と異なり盗撮行為は直接被害者の身体に接触しないのにどうして刑が重いのかといいますと、その理由は迷惑防止条例の保護法益にあります。第1条を読めば分かると思いますが、条例の保護法益は被害者の性的羞恥心、公衆、社会生活の平穏という社会的法益です。現代社会は複雑化しインターネット、情報産業の発達により迅速に有益な知識、情報を取得できるようになりましたが、反面個人のプライバシー権侵害の危険性が指摘されています。元より公正な社会秩序建設の最終目的は個人の尊厳であり(憲法13条、法の支配の理念)、社会生活における個々人のプライバシーの保護は必要不可欠の条件です。迷惑防止条例の制定、改正、近年の重罰化の背景はここにあります。盗撮は、直接被害者に接触しませんが画像を複製されインターネット、情報機器により広く流布され、社会生活の平穏、個人のプライバシー侵害の危険性が大きいのです。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
(証拠隠滅等)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(親族による犯罪に関する特例)
第百五条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
第一条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
(目的)
第一条
この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もって府民及び滞在者の平穏な生活を保持することを目的とする。
(卑わいな行為の禁止)
第六条
何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
二 人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物における衣服等で覆われている人の身体又は下着を見、又は撮影すること。
三 みだりに、写真機等を使用して透かして見る方法により、公共の場所又は公共の乗物における衣服等で覆われている人の身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。
四 みだりに、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態にある人の姿態を撮影すること。
五 前各号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさえるような卑わいな言動をすること。
(罰則)
第十二条
次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
二 第六条の規定に違反した者
三 第十条第一項の規定に違反した者
2 常習として前項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(目的)
第一条
この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持することを目的とする。
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第五条
何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、多数でうろつき、又はたむろして、通行人、入場者、乗客等の公衆に対し、いいがかりをつけ、すごみ、暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第二号の暴力団をいう。)の威力を示す等不安を覚えさせるような言動をしてはならない。
(罰則)
第八条
次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者
2 前項第二号(第五条第一項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
7 常習として第二項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
8 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。