私道、位置指定道路の廃道
民事|位置指定道路|公衆用道路|公共の用に供する道路
目次
質問:
私の家の私道についての質問です。この私道は,私の父が昔,敷地の一部を通路として造成し,道路位置指定を受けて,さらに公衆用道路として分筆登記もしたものです。父が亡くなり,自宅の敷地と共に私が単独相続し,現在は私の所有地となっています。実は,敷地自体も決して広くなく,将来の建替えの際には少しでも建築面積を確保したいので,この私道の存在を邪魔に思っているのが本音です。近隣の人々は当然のようにこの私道を通行に利用していますが,私が勝手にこの私道をつぶすことは許されないのでしょうか。
回答:
1.道路位置指定を受けた私道をつぶして宅地とするには、行政庁の廃道処分が必要です。しかし、問題の私道が近隣の建物にとって接道義務を満たす唯一の道路となっている場合,廃道処分は許されません。また,それ以外の場合でも,その私道について通行権を有する人がいる場合には,廃道は通行権を侵害する行為として,妨害排除請求や損害賠償請求の対象となるため,事実上許されないといえます。
2.事例集699番も参考にしてください。
3.位置指定道路に関する関連事例集参照。
解説:
1.位置指定道路とは
建築基準法(以下,「建基法」)上,建築物の敷地は原則として2メートル以上「道路」に接していなければならないとされています(接道義務。建基法43条1項)。建基法はこのような接道義務を定めると同時に,「道路」については原則として幅員4メートル以上でなければならないこと等の厳しい制限を設け,すべての建築物が交通,安全,防火,衛生上適切な道に十分面している状態の実現を目指しています(建基法42条)。位置指定道路は,このような「道路」の一種です(私道)。建基法42条1項5号により,土地を建築物の敷地として利用するため,道路法等の公法規定によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で,これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもので,かつ,幅員4メートル以上のものであることが要件となっています。上記の接道義務を満たすため,私道を「道路」とする必要がある場合,特定行政庁に対し道路位置指定の申請を行い(建基法施行規則9条),指定を受けることになります。このような位置指定道路となっていること自体から,問題の私道は接道義務との関係で必要があって位置指定の申請がなされたと推測できます。そのような必要とは,たとえば,近隣の家屋がそのままでは接道義務を満たさず,お父様に対価を払って位置指定道路を造ってもらうよう約束した場合とか,土地の一部を分割譲渡するにあたって,接道義務を充足させ,条件を良くするために位置指定道路を造った場合などです。
2.「公衆用道路」,「公共の用に供する道路」について
「公衆用道路」は登記地目の一種です(不動産登記規則99条)。地目は,土地の主たる用途を登記上表示するため,登記事項の一つとされているものです。私道であっても,道路として開放されており,客観的に広く不特定多数人の利用に供されていれば,「公衆用道路」と認められます。ご相談の私道は,もと宅地の一部であったと思われますから,お父様がこれを分筆するとともに,「公衆用道路」への地目変更を行ったことがうかがえます。一方,「公共の用に供する道路」とは,固定資産税及び都市計画税が非課税とされる要件の一つです(地方税法348条2項5号,702条の2)。本来,登記地目とは関係なく土地の現況に基づいて判断されるもので,「公衆用道路」であれば自動的に非課税となるわけではありません。ただ,実質的基準は「公衆用道路」とほぼ同じとされ,登記地目が「公衆用道路」であることは一つの判断要素となりうることから,上述のような地目変更は,この非課税措置を受けることを目的として行われる場合が多いと思われます。「公衆用道路」も「公共の用に供する道路」も,当該道路が建基法上の「道路」であるかどうかとは関わりがありませんし,道路の現況の変更を制限するといった効果も伴いません。なぜなら登記制度と建築基準法の目的、制度趣旨が異なるからです。すなわち、登記制度は、不動産取引を安全確実にして個別買主等を保護するためにありますから(民法177条),取引における不動産の利用経済的価値を判断する材料として「公衆用道路」という地目が定められています。他方、建築基準法は、防災、衛生、交通等一般国民全体の健康、生命、財産を保護の対象として社会生活上の公共的利益を保護法益としているので(建築基準法1条),当然その要件効果も異なるのです。
3.廃道の制限
(1)廃道の自由
道路として使用していた土地につき,道路としての使用をやめることを廃道といいます。土地は私的所有の対象であり,所有権とは物を自由に使用・収益・処分しうる権利ですから(民法206条),私道を廃道することも本来所有者が自由になしうるのが原則です。しかし,ひとたび土地が「道路」となると,その土地は交通,安全,防火,衛生といった公益上重要な役割を担う場合が考えられます。とくに,その「道路」によってのみ接道義務を満たす建物が存在する場合には,その重要性が顕著です。そこで,建基法45条1項は,廃道によって接道義務違反の敷地を生ずる場合には,特定行政庁はその廃道を禁止または制限できる旨定めています。この禁止・制限は,具体的には,措置命令(建基法9条)の手続きにのっとり,個別に行われるものです(建基法45条2項)。
(2)行政庁に対する廃道申請手続
ところで,多くの行政庁では,私道の廃止に際し行政庁に対する申請を要求し,しかも申請には権利者の承諾書の添付等の厳格な様式を定めています。このような扱いは,あたかも廃道について許可制を設けているかのようであり,一見すると,建基法45条の規定を超えた私権の制限であるようにも思えます。しかし,行政庁が行う私道の廃止とは,行政庁が過去に道路位置指定の処分を行っている道路について,その指定の撤回を行うことを内容とする,いわば「廃道処分」であり,上述の私権の行使そのものたる,事実上の利用形態の変更としての廃道とは異なると考えられます(東京地裁昭和38年4月30日判決参照)。したがって,行政庁が廃道申請について厳格な様式を要求することは,建基法45条の制限の具体化ではなく,まったく別個の問題といえます。そして,位置指定の申請と異なり,廃道の申請に関しては法令の規定が存在しないため,各行政庁が独自に規定を設けるにあたり,位置指定の申請に準じた厳格な手続きを要求しているに過ぎないのです。もっとも,行政庁の廃道処分があって初めて,私道が建基法上の「道路」ではなくなり,敷地面積への参入もできることとなるので,ご相談のケースでは,廃道処分を伴わなければ意味がないといえるでしょう。そして,行政庁の廃道処分が接道義務違反の結果をもたらす場合,その処分は建基法43条1項違反の違法なものとなるため(東京地裁上記判決,最高裁昭和47年7月25日判決),申請時にそのことが明らかであれば,廃道処分は下りないはずです。したがって,接道義務違反が生じる場合,廃道はできないという結論になるのです。
4.通行権
廃道によって接道義務違反が生じず,かつ,廃道申請についての行政庁の手続要件を満たす場合であっても,当該私道について通行権を有する人がある場合,その人との関係で廃道は制限されることになります。通行権には,債権的なもの,物権的なもの(通行地役権),人格権的なもの(№699参照)が考えられます。本件では,私道が位置指定道路として建基法上の「道路」となっており,長年その私道の存在を前提に生活環境が形成されてきているであろうことを考えると,人格権的な通行権に基づく妨害排除請求が認められるケースであることも十分考えられます。
以上