新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:最近、友人が、「電車内の痴漢で疑いをかけられたら、その場は逃げてしまった方がいい。」という話をしているのを聞きました。実際はどうなのでしょうか? 回答: 2.仮に冤罪でなくても罪を認め謝罪、更生の意思表示、態度を表明すれば早期に拘束を解かれ、起訴便宜主義(刑訴248条)から処罰されない場合もありますから、落ち着いて取り調べに応じ弁護士を呼んで協議してください。 解説: 2.実はこのとき、逮捕があるかどうか、という問題があります。刑事訴訟法213条によれば、現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる、という条文があります。逮捕とは、被疑者に逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれがあるときに、これを防止するために身柄を拘束し引き続き抑留することを言います(刑訴199条等)。例えば、駅のホームで被害女性や周囲の人から「腕をつかまれた」場合、身柄を拘束されている状態であればその時点で逮捕があったと考えることができます。すると、刑訴214条で、警察関係者以外の者が逮捕をしたときは直ちにこれを検察官または警察官に引き渡さなければならない、という条文がありますので、駅事務室で待っている間に警察が来て連れて行かれた、という部分が警察官への引渡と解されます。従って、この時点で強引に暴行等を加えて逃走した場合は被害者、駅員に暴行罪(刑法208条)、警察官に対しては公務執行妨害罪(刑法95条)が成立します。逃走していますが逃走罪(刑法96条)、加重逃走罪(刑法97条)は成立しません。本罪は少なくても『勾引状』という条文上の文言から逮捕状等の令状が執行されているものが対象になりますので、暴行等を加え逃走しても本罪(逃走罪にも該当しません)にはあたりません。本罪の保護法益は刑事司法等の国家の拘禁作用ですが、犯人が逮捕を免れようとして逃走するのは通常ありうることであり適法行為の期待可能性がないので、勾引状等の令状が執行されて拘束されている場合に限り刑事処罰しているのです。現行犯逮捕まで解釈を広げることは刑法の厳格主義から認められません。周囲の人に拘束等触れられていない状態では、逮捕はされていないことになりますので、駅事務室に来た警察官により、身体的拘束がなされれば準現行犯逮捕(刑訴212条、通常逮捕状は取得していないでしょう)がされたことになると考えられます。この状態で逃走することは不可能だとは思いますが、逃走しても構成要件上「裁判の執行により拘禁された」という要件に該当しませんので、逃走罪の適用もありません。 3.尚、貴方が何ら逃走せずに、謝罪の意思を示していかなる捜査、取り調べにも応じる状態で駅から警察に行き任意に取り調べを受けるのであれば、身体は拘束されておらず現行犯逮捕の状態ではありませんから、任意捜査として罪を素直に認めれば許可を得て帰宅を許されることになるでしょう。 4.また、暴行、逃走罪の議論とは別に、逮捕された被疑者が素直に罪を認めて反省し、被害者に謝罪の意を表している場合と、周囲の制止を振り切って逃走した末に逮捕された場合とでは、その後の送検、勾留請求、公訴提起の決定、求刑等の判断において犯情は大きく異なります。自分が罪を犯したという自覚があるのなら、逃走して法的に得をする、利益になるということは基本的にありません。冤罪でなければ素直に反省と謝罪の意を表することが被害者のためにも自分のためにも最良の方法と思います。 5.さて、逃げたほうが得、という議論はなぜ発生しているのでしょうか。当然、逃走した被疑者を探し出すことは困難、ということはあるでしょうし、冤罪であっても意外と目撃者が少ない満員電車では被害者側女性の主張が最終的に認められて有罪になってしまうという恐怖感はあると思います。これは他の同種犯罪(強姦等)にも言えることです。しかし、警察の捜査力は日々進歩していますし公然、駅員、目撃者のいる中での逃走の可能性は少ないでしょう。さらに逮捕後の種々の不利益、弁護人との協議、冤罪に対する対応策等を考えると妥当な選択肢ではありません。 6.そこで、その他の考えられる法的不利益をご説明します。 7.(逮捕状の執行)まず、現行犯逮捕に比べて、後に逮捕する通常逮捕は、逮捕状(刑訴199条)を取得しなければならないため、要件が厳しくなるというのも事実です。本条1項、2項の解釈上逮捕の実質的要件として、「逃走のおそれ、又は罪障隠滅のおそれ」が挙げられますが、実際に罪を認めず一度逃走している以上、逮捕状が出ないという保障もありません。最悪の場合、自宅や職場に警察が押しかけてきて手錠をかけられるという騒ぎになれば、その後の生活に影響が出てくる可能性も大きくなります。会社の信用が問題になる上場企業、公務員等であれば解雇の問題に発展すると思います。 8.(逮捕当日の釈放)司法警察官は逮捕後48時間以内に送検するか釈放するか決めなければいけませんが(刑訴204条)、逃走して逮捕された場合はその日は留置場に宿泊し翌日送検されることになると思います。逃走せず犯行を認め取り調べに応じて任意捜査の状態であれば当日帰宅を許されるのが通常です。仮に一旦現行犯逮捕されても釈放されることになるでしょう。現行犯逮捕の状態であれば、ニュース価値があると(公務員等社会的地位がある人)報道される可能性も大きいといわれています。勿論冤罪の場合は弁護人を呼び至急対策をたてなければいけません(事例bW17号参照してください)。 9.(送検後の勾留請求)逃走していますから送検されて検察官の取り調べにおいて黙秘、一部否認をすると10日間の勾留請求(刑訴205条)されることになります。但し、犯行を認め謝罪の意思を明らかにすれば当日帰宅できると思いますが、逃走、逮捕の時の言動により勾留請求の可能性も残されていますので、主張を擁護してくれる弁護人が必要でしょう。釈放を希望するのであれば弁護人に謝罪文、謝罪金を預託し釈放の手続きを依頼してください。黙秘権を行使するとさらに10日間の延長となります(刑訴207条2項)。 10.(裁判所での勾留質問)勾留請求されると裁判官の勾留質問(刑訴60条、刑訴207条で被疑者に準用されます)があります。逃走していると、刑訴60条1項3号で勾留が認められる可能性があります。ここでも遅くありませんので至急弁護人を依頼し、家族の身元引受人(事前に裁判所に出頭、面接が必要)、謝罪文を書いて、謝罪金を預託して勾留請求却下を求めてください。初犯で罪を認めれば十分可能性があります。認められない場合は準抗告(刑訴429条)となります。仮に検察官側が準抗告しても資料さえそろっていればあわてる必要はありません。勿論冤罪の場合は別の手続きになり当初から徹頭徹尾争うことになります。 11.(刑事処分)罪を犯し、犯罪を認めても刑事処分を受けるかどうかはまだ確定していません。刑訴248条起訴便宜主義があるからです。法はむやみに犯罪者のレッテルを被疑者に張ることを求めません。公正な法社会序を維持しようとする法の支配の理念に基づいて刑事手続きは運用、遂行されるのです。但し条件があります。真に反省し、事前に被害を弁償して償い、再犯がないという誓約を上申し公益の代表である検察官との協議により不起訴処分の決定を受けることです。勿論弁護人は不可欠です。 12.(冤罪で公判となった場合)「自分はやっていない」という人も、逃走することで「本当はやったのではないか」という事実上の疑いが増すだけです。後の裁判で、やっていないのに逃走するのは不自然だという印象を裁判所にもたれるだけです。それよりも、疑いを晴らすためには、すばやく刑事弁護に通じた弁護士に依頼し、警察の取調べの前、またはそれに平行して、供述などを録取し、目撃者などを探して無罪の証拠を探す方が正当な手続きだといえます(事例集NO817号参照)。 13.最近、「痴漢で疑いをかけられたら逃げたほうがいい」等という話があるようですが、痴漢に限らず犯罪の嫌疑がかけられているときに、逃走するということは法的に検討してみるととても有利な行為には思えません。依頼した弁護人とともに法に従い適切な対処をすることが大切でしょう。 ≪参考条文≫ 刑法 刑事訴訟法
No.819、2008/12/15 11:35 https://www.shinginza.com/chikan.htm
【刑事・犯罪行為と逃走・冤罪の場合の対策・逃走罪の成立・起訴便宜主義】
1.冤罪であってもなくても、逃走することで刑事手続が変わることは事実だと思われますが、法的にみると必ずしも貴方にとって利益があるとは思えません。それどころか、むやみに逃走すると暴行等別の犯罪が成立することもありますし、追跡の上逮捕されれば身柄拘束等手続き、最終処分、判決における犯情の評価において法的不利益を受ける可能性が十分にあります。
1.まず、痴漢行為は、都道府県迷惑防止条例、場合によっては強制わいせつ罪に該当する立派な犯罪行為です。そして、犯罪行為である以上、警察機関は被疑者を逮捕、勾留し起訴することが可能です。ここで、電車内で痴漢が発生したとき、大抵は、相手女性や周囲の人などに呼び止められ、続いて駅員に引き渡され、駅事務室などで待機していると警察が来て警察署に連れて行かれる、という順序になっています。
(公務執行妨害及び職務強要)
第九十五条 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
(逃走)
第九十七条 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。
(加重逃走)
第九十八条 前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、三月以上五年以下の懲役に処する。
(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
○2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
○3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
第二百条 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
○2 第六十四条第二項及び第三項の規定は、逮捕状についてこれを準用する。
第二百一条 逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。
○2 第七十三条第三項の規定は、逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。
第二百二条 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、検察事務官はこれを検察官に、司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければならない。
第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
○3 司法警察員は、第三十七条の二第一項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第二百四条 検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○2 検察官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
3 第一項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
4 前条第二項の規定は、第一項の場合にこれを準用する。
第二百五条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
○2 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
○3 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
○4 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○5 前条第二項の規定は、検察官が、第三十七条の二第一項に規定する事件以外の事件について逮捕され、第二百三条の規定により同項に規定する事件について送致された被疑者に対し、第一項の規定により弁解の機会を与える場合についてこれを準用する。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
第二百六条 検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。
○2 前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
○2 前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
○3 前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百八条の二 裁判官は、刑法第二編第二章 乃至第四章 又は第八章 の罪にあたる事件については、検察官の請求により、前条第二項の規定により延長された期間を更に延長することができる。この期間の延長は、通じて五日を超えることができない。
第二百九条 第七十四条、第七十五条及び第七十八条の規定は、逮捕状による逮捕についてこれを準用する。
第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2 第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。
第二百十一条 前条の規定により被疑者が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。
第二百十二条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
○2 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
第二百十四条 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
第二百十五条 司法巡査は、現行犯人を受け取つたときは、速やかにこれを司法警察員に引致しなければならない。
○2 司法巡査は、犯人を受け取つた場合には、逮捕者の氏名、住居及び逮捕の事由を聴き取らなければならない。必要があるときは、逮捕者に対しともに官公署に行くことを求めることができる。
第二百十六条 現行犯人が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。
第二百十七条 三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。
第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。この場合において身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
○2 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、前項の令状によることを要しない。
○3 第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。
○4 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。
○5 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。
第二百十九条 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押えるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
○2 第六十四条第二項の規定は、前条の令状についてこれを準用する。
(抗告)
第419条 抗告は、特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合の外、裁判所のした決定に対してこれをすることができる。但し、この法律に特別の定のある場合は、この限りでない。
(準抗告)
第429条 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
一 忌避の申立を却下する裁判
二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
三 鑑定のため留置を命ずる裁判
四 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
五 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
○2 第四百二十条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
○3 第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。
第461条 簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、100万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。