17歳の少女と肉体関係を持った場合の刑事責任
刑事|淫行条例違反|児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反|児童福祉法違反
目次
質問:
私は,現在25歳で独身なのですが,先日,17歳の少女と肉体関係を持ちました。このような行為は犯罪になるのでしょうか?
回答:
1.まず,あなたの行為は,国家の財産である青少年の健全な精神的,肉体的,性的成長を阻害するものであり社会全体の利益を侵害し法的,道徳的にとても認められる行為ではありません。深い反省が必要と思われます。
①いわゆる淫行条例違反(「みだらな性交又は性交類似行為」等),
②「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(「児童買春」),及び,
③児童福祉法違反(「児童に淫行をさせる行為」)として犯罪に当たる可能性がある行為です。
2.もっとも,
①あなたと少女が結婚を前提に交際していたなど「真摯な交際関係」が認められるのであれば,「みだらな性交又は性交類似行為」には当たりません。
②対価の授受等がないのであれば,「児童買春」には当たりません。
③あなたと少女との間に教師と生徒の関係があり,あなたがそのような関係を利用したなど「児童に対し,事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ,その結果児童をして淫行をするに至らせること」が認められない限り,「児童に淫行をさせる行為」には当たりません。
3. 淫行に関する関連事例集参照。
解説:
冒頭説明しましたように青少年,児童は将来国家を形成してゆく人的財産,宝であり,三つ子の魂百までというように多感で肉体精神的に未発達,成熟な段階で受けた性的影響は将来本人が自由に生きてゆく児童,個人の尊厳,基本的人権保障だけでなく公正な社会秩序維持という社会,国家的見地からも大きくとても見過ごすことはできません(法の支配)。そこで法は,児童(18歳未満)の健全な性的成長発達を保護するため,児童の人権が侵害されやすい種々の面から刑罰をもって対処しています。婚姻制度が16歳から結婚の自由を認めていますので(民法731条),16歳以上の児童も基本的に性的自由権を有するのですが(憲法13条),児童は未だ教育監護を受け(民法818条,820条),全人格的教育を受ける義務を有する立場であり(憲法26条),性的自由権の濫用は許されませんし,他人がその濫用を助長幇助するような行為も刑罰の対象として禁止しています。
従って,たとえ児童の同意に基づいたものであっても犯罪行為として処罰しているのです。唯,児童はあたかも自損行為ですし,判断能力が未成熟,未発達であり健全な成長を助け本人を保護する見地から社会国家の財産である児童を(例外的場合を除き,いわゆる「出会い系サイト規正法)処罰の対象にしてはしていません。児童の性的濫用を助長,幇助しやすい行為の順に重罰を科しています。淫行条例違反「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」,利を持って児童の判断を迷わせる児童買春は「3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金」,無抵抗な児童の対し職業的な地位を利用して犯行を行う児童福祉法は「10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金」と規定し,もっとも重罰を科しています。唯,児童の意思を暴行脅迫により抑圧する強姦罪,強制わいせつ罪と異なり,児童の性的自由権の濫用を助長,幇助する行為ですので刑法の厳格主義,謙抑主義から「わいせつ行為」「年齢に認識」その他の要件については解釈が必要とされています。
1.淫行条例違反
まず,あなたの行為は,いわゆる淫行条例違反として犯罪に当たる可能性があります。淫行条例とは,各都道府県が定める青少年保護育成条例中,青少年との「淫行」,「みだらな性行為」,「わいせつな行為」,「みだらな性交」,及び,これらの「行為を教え・見せる行為」などを規制する条文の通称です。ここでは,東京都青少年の健全な育成に関する条例(以下「条例」といいます。)を例にして説明します。
(1)まず,条例にいう「青少年」とは,18歳未満の者をいいます(条例2条1号)。本件の場合,相手の少女は17歳ということですから,「青少年」に当たります。もっとも,本罪はあくまで故意犯ですから,あなたに少女が「18歳未満の者」であることの認識がなかったのであれば,罪に問われません(事例集参照)。
(2)次に,処罰される行為は,「みだらな性交又は性交類似行為」です(条例18条の6)。もっとも,以下の判例が示すように,「真摯な交際関係」が認められるならば,「みだらな性交又は性交類似行為」には当たりません。
最高裁昭和60年10月23日大法廷判決
福岡県青少年保護育成条例10条1項(当時)「の規定にいう『淫行』とは,広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく,青少年を誘惑し,威迫し,欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか,青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。けだし,右の『淫行』を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは,『淫らな』性行為を指す『淫行』の用語自体の意義に添わないばかりでなく,例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等,社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて,その解釈は広きに失することが明らかであり,また,前記『淫行』を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは,犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて,前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で,前叙のように限定して解するのを相当とする。」以上より,本件の場合,肉体関係を持ったことは,あなたと少女が結婚を前提に交際していたなど「真摯な交際関係」が認められるのであれば,「みだらな性交又は性交類似行為」には当たりません。
2.児童買春・児童ポルノ法違反
次に,あなたの行為は,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「児童買春・児童ポルノ法」といいます。)違反として犯罪に当たる可能性があります。
(1)まず,少女の年齢に関しては,前記1(1)で述べたことと同様です(児童買春・児童ポルノ法2条1項)。
(2)次に,処罰される行為は,「児童買春」です(児童買春・児童ポルノ法4条)。そして,「児童買春」とは,児童,児童に対する性交等の周旋をした者,又は,児童の保護者に対し,対償を供与し,又はその供与の約束をして,当該児童に対し,性交等をすることをいいます(児童買春・児童ポルノ法2条2項)。
よって,本件の場合,肉体関係を持ったことは,これについて対価の授受等がないのであれば,「児童買春」には当たりません。「対償」とはいかなるものをいうかは本罪の制度趣旨から児童の性的自由権の濫用を誘発助長するものであると認められるものをいいますが,単に食事を御馳走したような場合は当たらないと思われます。
3.児童福祉法違反
さらに,あなたの行為は,児童福祉法違反として犯罪に当たる可能性があります。
(1)まず,少女の年齢に関しては,前記1(1)で述べたことと同様です(児童福祉法4条1項)。
(2)次に,処罰される行為は,「児童に淫行をさせる行為」です(児童福祉法34条1項6号)。そして,以下の裁判例が示すように,行為者自身が淫行の相手方となる場合は,「児童に対し,事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ,その結果児童をして淫行をするに至らせること」が認められなければ,「児童に淫行をさせる行為」には当たりません。
東京高裁平成8年10月30日判決
「児童福祉法34条1項6号にいう淫行を「させる行為」とは,児童に淫行を強制する行為のみならず,児童に対し,直接であると間接であると物的であると精神的であるとを問わず,事実上の影響力を及ぼして児童が淫行することに原因を与えあるいはこれを助長する行為をも包含するものと解される(・・・)。そして,・・・同号には,行為者が児童をして行為者自身と淫行をさせる行為を含むと解すべきところ,同号が,いわゆる青少年保護育成条例等にみられる淫行処罰規定(条例により,何人も青少年に対し淫行をしてはならない旨を規定し,その違反に地方自治法14条5項の範囲内で刑事罰を科するもの)とは異なり,児童に淫行を「させる」という形態の行為を処罰の対象とし,法定刑も最高で懲役10年と重く定められていること等にかんがみれば,行為者自身が淫行の相手方となる場合について同号違反の罪が成立するためには,淫行をする行為に包摂される程度を超え,児童に対し,事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ,その結果児童をして淫行をするに至らせることが必要であるものと解される。」
以上より,本件の場合,肉体関係を持ったことは,あなたと少女との間に教師と生徒の関係,会社の経営者,上司と部下の関係があり,あなたがそのような上下関係を利用したなど「児童に対し,事実上の影響力を及ぼして淫行をするように働きかけ,その結果児童をして淫行をするに至らせること」が認められない限り,「児童に淫行をさせる行為」には当たりません。
以上