衣服を着ている女性を撮影した場合処罰されるか

刑事|盗撮|迷惑防止条例|最判平成20年11月10日

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問:

携帯電話のカメラで服を着ている女性の下半身を撮影した場合でも、盗撮容疑で犯罪になるのですか。逮捕されちゃうことがあるのですか?

回答:

いわゆる盗撮は、洋服の隙間から身体や下着を撮影した場合が典型的な犯罪です。

しかし、身体や下着が映っていない場合も卑猥な撮影と認められる場合は、行為態様により盗撮として処罰されることがあります。

盗撮に関する関連事例集参照。

解説:

1 判例紹介

この点については、最近の重要な最高裁判決がありますので、まずご紹介いたします。

1.事件名   公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反被告事件

裁判年月日   平成20年11月10日

法 廷 名   最高裁判所第三小法廷

裁判種別    決定

結   果   上告棄却

原審裁判所名  札幌高等裁判所

原審裁判年月日 平成19年09月25日

裁判要旨

ショッピングセンターにおいて女性客の後ろを付けねらい,デジタルカメラ機能付きの携帯電話でズボンを着用した同女の臀部を撮影した行為が,被害者を著しくしゅう恥させ,被害者に不安を覚えさせるような卑わいな言動に当たるとされた事例

決定理由を引用します。

「被告人は、正当な理由がないのに、平成○年○月○日午後7時ころ、旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて、女性客(当時27才)に対し、その後を少なくとも約5分間、40m余りにわたって付けねらい、背後の約1ないし3mの距離から、右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己事故の腰部付近まで下げて、細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい、約11回これを撮影した。以上のような事実関係によれば、被告人の本件撮影行為は、被害者がこれに気付いておらず、また、被害者の着用したズボンの上からされたものであったとしても、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり、これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ、被害者に不安をおぼえさせるものといえるから、上記条例10条1項、2条の2第1項4号にあたるというべきである。」

2 迷惑防止条例

北海道の迷惑防止条例を引用します。(同じような条文が基本的に全国の都道府県の条例に含まれています。)

第2条の2(卑わいな行為の禁止、平成15年追加)

 何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。

(1) 衣服等の上から、又は直接身体に触れること。

(2) 衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。

(3) 写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により、衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。

(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。

2 何人も、公衆浴場、公衆便所、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の人の姿態を、正当な理由がないのに、撮影してはならない。

ここで問題となっているのは4号の「卑猥な言動をすること」に当たるか否かという点です。この条例は罰金等の刑罰を科すものですから刑法の一種です。そして、刑法の場合はどのような行為が処罰の対象になるのか、あらかじめ明らかにされている必要があります。これを罪刑法定主義といって、国民の行動の自由を保障するための大原則です。

国民は法律であらかじめ禁止されている行為をしない以上処罰されることはないのです。法の支配の大原則からいえば、法律で定められていない以上国家から処罰されることはない、というのは当然のことといえます。

3 盗撮は「卑わいな言動」にあたるか

そこで条例を読んでみると、1号は衣服や身体に触れる行為を処罰していますから盗撮とは関係ありません。2号3号は盗撮に関する行為を禁止する条文ですが、いずれも身体や下着を撮影する行為を禁止しています。

従って、洋服の上から撮影する行為は、2、3号には当たらないことになります。そこで、4号の卑猥な言動にあたるか問題となるのです。しかし、卑猥な言動というのは2、3号に規定している行為からすると抽象的にすぎます。

このような抽象的な規定では国民はどのような行為が処罰されるのか不明確なので、自由が制限されてしまう危険性があります。他方では、現実として処罰されるべき撮影が行われていることも事実ですし、犯罪として取り締まる必要性も否定できません。

そこで、卑猥な言動とはどのような行為なのか、この様な条文の定め方で国民の自由が侵害されないか問題となるのです。

4 「卑わいな言動」の解釈

卑猥な言動とは何か、それが明確に規定されており、警察によって処罰の可能性が広がらないのかという点について判決は次のように論じています。

すなわち、「卑わいな言動」という規定も、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうと解され、同条1項柱書きの「公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、著しくしゅう恥させ、又は不安をおぼえさせるような」と相まって、日常言語としてこれを合理的に解釈することが可能であり」明確性の原則にも反せず、かつ、前記の行為態様は「卑わいな言動」にあたると解釈しています。

5 まとめ

しかし、本件判決には「卑わいな言動」とまでは言えない、という反対意見も付記されていますから、卑猥な言動とはどのような行為なのか必ずしも明確ではないと言う疑問もあります。

つまり、身体や下着を撮影しない場合は撮影したからと言って盗撮にあたるとはいえず、その撮影対象が下半身や胸に集中してなど、性的に羞恥させるような撮影に限定されることになりますが、どの程度の撮影なのかは具体的に判断されるしかないでしょう。

本件事案のように、服の上からだったとしても、継続的に追い回して女性の体の一部を複数枚撮影したような場合は、警察・検察当局でも、検挙して起訴するかどうか検討することになるでしょう。決してこの様な行為は行わないでください。法律は生き物です。常に変化していますから、変化に対する感受性を持つ必要があります。「服の上から撮影しただけだから大丈夫」と勝手に判断して強硬な態度に出ていると、逮捕されてしまうかもしれません。

被害者の気分を害したのなら真摯に受け止め、被害弁償をして示談成立させることも必要です。類似の事案に巻き込まれた場合は早急に弁護士に相談し、必要な処置を取ってもらうようにしましょう。

以上

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