新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.828、2009/1/5 15:51 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・会社の同僚との不倫による慰謝料請求・再発防止の対応】

質問:最近、妻の行動がおかしいと思い、問いつめたところ、結婚当初から妻が長年勤めてきた会社の、同期入社、同僚の男性と、不貞関係に至っていたことがわかりました。関係が始まったのはつい最近で、まだ職場でも誰も知らない状況のようでしたので、よく話し合いました。妻は、具体的な事実関係を認め、軽率だったと謝罪し、私との些細な喧嘩の後で、酔った勢いもあった、数回の関係で、すぐに別れた、やり直したい、と言いました。私もいろいろ考えたのですが、できれば、妻とは離婚まではしたくないと思いますし、妻の行動も元に戻りましたので、相手の男性への行動はまだ見合わせています。しかし、本来はやはり許せないという思いもありますし、同じ職場で勤務し続けていることが耐え難い気持ちになります。妻も仕事を頑張ってきましたし、辞めることは納得しないと思います。このような事実が発覚しても、解雇されたりはしないのでしょうか。相手に退職を促すことも難しいでしょうか。

回答:
1.奥様と相手の男性の不貞関係が、職場でのトラブル等の業務上の支障にならない限りは、適法な解雇事由とはならず、それ以外の処分としても、注意程度にとどまってしまうと思います。どうしても気持ちが収まらないようであれば、会社に対して職場の配置転換を求める程度が限度になると思われます。
2.任意の退職についても、まず、事実関係を認めさせることが前提になりますので、もう関係が終了した可能性が高いとなると、奥様に書面やメール等で認めた文面をもらうことも必要です。慰謝料の支払には応じる可能性がありますが、退職までは応じないことが多いでしょう。ただ、不倫関係は違法行為であることは間違いありませんので最低限、相手方に高額な違約金をつけて交際の停止、禁止を求めることは必要です。書式について分からなければ当事務所、インターネット書式集を参考にしてください。
3.相手が応じないようであれば、法的な拘束力を期待せず、お互いの気持ちとして、今後交際しないとの約束を求める程度になってしまうと思いますが内容証明で貴方の断固たる意思表示をしておくべきです。職場が同じ会社内の不倫は再発の危険性もないわけではありませんので、将来の布石にどうしても必要でしょう。お近くの法律事務所に依頼しても費用はそれほどではないと思います。
4.職場内での不倫は関係者の利害が錯綜しますので、自分でできなければ法的専門家を介し、協議して公にすることなく再発防止を主眼として相当の慰謝料を早急に決めて終結に導くことが肝要です。
5.尚、職場の不倫はセクシャルハラスメント問題と関係する場合もあります。事務所事例集662番、563番、419番も参考にしてください。

解説:
1.ご心痛はお察し致します。しかし、法的には、会社側、使用者側としては、就業規則に定められる等した、客観的に合理的な、社会通念上相当であると認められる理由でないと、解雇できません(労働契約法16条、17条)。職場の同期入社同士であっても、不倫は、従業員の私生活上の行為ですので、職場外でなされた行為であれば、企業の円滑な運営に支障を来す等、企業秩序に関係を有する場合でなければ(東京地判平成14年3月25日等)、解雇等の懲戒処分の対象にはできません。多くの企業で定められている、就業規則との関係では、「社内の秩序、風紀を乱し、または乱すおそれがあったとき」、あるいは、「素行不良」等に該当する、相当な解雇といえるか、という問題となりますが、通常は、夫婦間のトラブルが職場内に持ち込まれて、再三の大騒ぎになる等の具体的な支障がない限り、社内不倫だけで、上記規則違反に該当する相当な解雇だ、ということは難しいと思います。労働者の「地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らして」、社内不倫自体が、「職場の風紀、秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたとはいえない、とした判例もあります(名古屋地判昭和56年7月10日。同様に、旭川地判平成元年12月27日)。ご相談いただいたケースも、会社への損害が明確でないまま、終了した可能性が高く、特に地位の上下がなければ、セクハラ等の問題の可能性も低いことから、仮に、会社が不倫の事実を知っても、解雇まではできない、ということになるでしょう。また、何らかの注意がなされたとしても、双方になされるでしょうから、当然、奥様も社内での立場が微妙になってしまうでしょう。そのことで、ご夫婦関係に支障が生じても致し方ない、というよほどの決意がない限りは、いきなり職場に事実を告げるのは、見合わせた方がいいでしょう。

2.どうしても納得が出来ない場合、会社に対して、(解雇までは求められないとしても)、職場の管理体制に問題があったということで環境改善を求め、可能な限り二人が顔を合わせないように配置転換するなど、要請・請求していくことは可能でしょう。法的な損害賠償請求(民法415条、709条)を行うことは、請求が認められる可能性も高くはありませんので、一般的にはお勧めできません。それよりも、前記の環境改善を求めることの方が良いと思います。但し、事前に奥様の了解を得ておかないと事実上会社での勤務に支障が出て逆に気持ちが離れる危険性がありますので、慎重に手続きをする必要があります。このような事件の場合女性側の気持ちの動揺は思わぬ方向に転換する可能性があり本来の目的を失いかねません。

3.次に、相手が任意に退職するように促すことはどうか、ということになりますが、相手に応じてもらうことが必要になります。奥様が認めたとしても、相手の男性は、奥様や自分への不利益をいろいろ考え、いったん否定するかもしれません。いったん否定したままになってしまうと、打ち明けるのも心理的に難しくなるでしょうから、せめて、早い段階で、証拠もありますよ、と言えるくらいの用意は事前に必要でしょう。しかし、終了した可能性が高いのであれば、今から調査会社に依頼しても、行動の写真がとれる可能性は低いですから、以前の事実を、奥様に明確な形で認めてもらうことが必要です。相手の男性に、迷惑をかけられない、という気持ちから、奥様が発言を変えることがないよう、できれば、事実関係を、少なくとも、相手の男性が特定できる形で認めた、手紙やメールを入手されることが望ましいと思いますが、利用目的を告げなくても、今となっては、奥様が警戒し、あるいは不快に感じて、応じないかもしれません。このようなやりとり自体も、また、証拠を取得して、相手の男性に行動することも、やはり、ご夫婦関係を不安定にするおそれがありますから、慎重な判断が必要です。

4.その上で、相手に退職を求められるかですが、交渉として考えても、生計、一生を左右することですので、応じさせるにはよほどの圧力が必要となります。応じなければ勤務先に事実を告げるという伝え方は、状況によっては脅迫、強要罪(刑法222条、223条)になるおそれもあります。正当な権利の行使として、慰謝料請求(民法709条、710条)を行い、慰謝料の支払いに加えて、今後についての約束を求め、合意にいたらなければ、裁判も検討する、という言い方であれば、適法となることが多いと思いますが、それでも、慰謝料は払うが、退職は応じられない、と言われることが多いのではないでしょうか。現実に、仕事がなくなってしまえば、合意を得ても、現実に慰謝料が払えなくなり、支払を受けられないというおそれも残ります。あまり強く退職を求めるのも、得策とは言えないでしょう。

5.もちろん、同じ職場にいたことが原因だというお気持ちや、また同じことにならないかというご心配は大きいと思います。そこで、現実には、慰謝料の支払いに加え、今後一切交際をしないで欲しい、と求めることが考えられます。法的に申し上げるならば、その違反を理由に、直接、裁判所が交際の解消自体を強制したり、何らかの罰を科したりすることは難しいでしょうが、心理的な抑制を相手に促したり、こちらもそのような約束がないよりは心理的に安心できたり、という効果はあるかもしれません。万が一、不貞行為が再開された場合、慰謝料の増額の理由になる可能性はあります。また、全く接触をしない、ということまでは、職場が同じだと難しいと思いますが、不倫は違法行為ですから今後一切交際をしないという誓約を明確にした合意書を違約金付で作成する必要があります。相手方が応じないようでも、内容証明付き通知書で断固たる意思表示を行うべきです。

6.本件のような会社内不倫関係は、利害が錯綜しますので、離婚しないのであれば主な目的は奥さまに家庭に確実に戻ってきてもらうことですから、第三者である法的専門家等を入れて再発防止の合意書を確実に作成し、公にすることなく相当な慰謝料等の合意をとりつけ一刻も早く終結に導くことが必要でしょう。

7.相手の男性に対して、具体的にどう行動するか、奥様との関係をどうしていくかは、細心の注意を要する問題です。手順の選択を誤ると、望んだ結果が得られなかったり、予想外の不利益を被ったりもします。また、なかなか周囲に思い切ってご相談ができない問題ですので、お悩みもますます深くなってしまうと思います。不安であれば、結論を出す前に、一度お近くの法律事務所にご相談下さい。

<労働契約法>
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

<刑法>
(脅迫)
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
(強要)
第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

<民法>
(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

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