新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース 質問:近い将来、夫と離婚しようと思いますが、2人の子供の親権について意見がまとまらないような気がします。心配なので法律相談をお願したいのですが。 解説:(離婚に伴う親権者決定の基本的考え方) Q1 離婚をしたとき、親権はどのように決めるのですか? Q2 お互いに子供は自分が面倒を見る、と主張して決められないのですが、どうしても早く夫と離婚したいので、とりあえず離婚だけして、後で親権について決めることは出来ませんか? Q3 離婚するときには、相手に親権を渡しましたが、後からやはり納得いかないと思うようになりました。親権を取り返すにはどうしたらよいですか?元夫が死亡した場合はどうなるのですか。 Q4 親権とは別に、監護権というものがあると聞きました。親権はとれなくても、監護権をとることは出来ませんか? Q5 一般的には、母親と父親でどちらが有利ですか? Q6 離婚の原因は妻の浮気です。浮気した上に、親権まで取られるというのは悔しいのですが、なんとかなりませんか? Q7 妻が、勝手に離婚届の親権者の欄に自分の名前を書いて提出しました。犯罪ではありませんか?告訴することは出来ませんか?慰謝料は取れますか? Q8 審判で親権者を決める場合、どのような点を重視するのですか? Q9 親権を取るには子供が手元にいた方がよいというのは本当ですか?別居中ですが無理矢理にもつれてきた方がよいですか?審判、判決で親権者となったのに夫が引き渡さないような場合どうしたらいいでしょうか。親権者とならない場合子供に定期的に面接できるでしょうか。 なお、ご相談を伺っていて非常に多いのが、このまま子供まで連れて行かれるのは悔しい、というお話です。自分の子供ですから大抵の人はかわいいとおもうのは間違いありませんが、かわいいだけでは子供を育てることは出来ません。子供は年齢に応じ精神的、肉体的、経済的に監護、教育を受け自ら人間らしく生きる権利(憲法13条、26条)を有していますので両親の意思により本来自由になるものではありません。悔しいからせめて親権はとりたい、というお考えはあまり感心しません。離婚した後の長い人生、本当に子供を一人で育てていくだけの物理的、経済的能力、熱意があるのかをもう一度冷静に考えていただきたいとおもいます。とても悲しいことですが、親権がいらなくなったので相手に渡してしまいたい、離婚するにあたって親権の取得をお互いに拒否する、という争いも稀に見受けられます。後にこのようなことにならないためにも、離婚と同様、親権者についても、冷静かつ慎重な判断が必要です。お一人で考えることが難しければ、お近くの弁護士に相談することをお勧めいたします。 ≪参考条文≫ 憲法 民法
No.829、2009/1/5 18:01 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm
【親族・離婚と親権の決定・判断基準・子供の連れ去り・面接交渉】
↓
回答:当事務所の電話等法律相談において、相談件数の上位を占めるのが、離婚、親権に関する問題です。特に、これから離婚をする予定だが、親権について教えて欲しい、という相談はかなりの件数を占めます。そこで、そのような相談の中から、よくある質問と回答をまとめました。具体的なご相談をされる前に、一度読んでいただくことをお勧めいたします。
親権者の決定は未成熟な子の健全な精神的肉体的成長を確保し、個人の尊厳を保障する(憲法13条)という観点から決められます。親権は、教育監護、財産管理権より成り立っていますが、両親が有しています(民法818条)。その根拠は自由主義、個人主義(法の支配の原理)に求められます。本来人間は生まれながらに自由であり当然、子供を産む自由も有しますが、産まれた子供は自らの尊厳を守るため生まれながらに家族の一員として第一義的に両親に対して精神的、経済的に人間として生きていくための適正な教育を受ける権利を有し、その反射的効果として監護教育をする権利(財産管理権)を両親は有するのです(憲法13条、24条)。そして、これを側面から保障するのが私有財産制です。さらに法の支配の理念から子は、将来公正な社会国家秩序の維持発展を担う権利と義務を有する国家社会の財産、至宝であり、そのため、社会国家は、学校教育等人間として成長するための社会環境整備の義務を有する(憲法27条)だけでなく、離婚等家庭生活における子供の教育内容について問題が生じたときに後見的に介入し未成熟で発達段階にある子供の個人の尊厳を確保、保障しています。従って、家事審判、離婚訴訟における親権決定、変更等は子の個人の尊厳保障という見地から解釈されることになり、親権者である両親といえども、これをないがしろにすることはできないことになります。そういう意味から親権、監護権の決定、はく奪、変更等は存在規定され解釈されることになります。
A1 双方の話し合いで離婚することを、協議離婚といいます。協議離婚では、離婚届を管轄の役所に提出すれば、それで離婚が成立しますので、家庭裁判所で調停や審判を行う必要はありません。しかし、離婚届には、親権者を記載する欄があります。夫婦の間に子供が居る場合には、離婚届に親権者を記載しなければ離婚は受理されませんので、離婚について話し合いをする場合には、親権についても話し合って決めなければいけません。
A2 前述のように、離婚届には親権者を記載しないと受理されませんので、とりあえず離婚だけする、ということはできません。また、次の質問にも関係しますが、親権者は簡単に変更できないので、とりあえず夫に親権を渡して離婚を成立させ、あとで親権を取り返す、ということも(特別な事情変更の場合を除き)難しいとお考え下さい。離婚の成立とは、実際上は財産関係、子供の関係などの全てについて合意が出来ることだと考える方がいいと思います。離婚すること自体は合意できているのだ、という相談が良くありますが、これらが(親権者)決まっていないのであれば、離婚の合意が出来ているとはいえないと思います。
A3
1.一度親権者を決めると、それを変更することはかなり困難です。家庭裁判所において、親権者変更の審判を申し立てることはできますが(民法819条6項)、親権者が子を虐待しているなど、子の福祉、人権侵害等よほど重大な事由がないかぎり変更は認められません。その他、意思確認をなしうる15歳以上の子供が、自分の意思で住居を変更し、親権の変更も希望している場合なども例外として考えられると思います。判例も、子を現に養育している者を変更することは、子の心理的な不安をもたらす危険性があることから、子に対する虐待・遺棄放置など子の福祉上問題となるような特別の事情がない限り、現実に子を養育監護している者を優先させるべきであると判断しています(大阪家審昭和47年9月7日、東京高判昭和56年5月26日)。事例集511番参照。
2.未成年者の親権者が死亡すれば、遺言があればその指示に従い未成年者後見人を選任し(民法839条)、遺言がなければ利害関係人の請求により新たに後見人を家庭裁判所で選任することになります(民法840条)。子の人権、福祉の面から生存中の片一方の親権が当然復活するわけではありません。事例集580番参照。従って、貴方も手続きを踏めば後見人になることができます。後見人が選任後に新たに、真の親である貴女が親権変更の申し立てができるかという問題ですが、条文上は難しいように思えますが、名古屋高等裁判所金沢支部 昭52,3,23決定(親権者変更申立却下審判に対する即時抗告申立事件)。こちらは、民法第819条第6項の親権者変更の規定を準用して一旦他の親族に決まった未成年者後見人がいても、真実の母親に親権変更の申立権を認めました。「民法の基本的な態度は、親子の自然的社会的関係に基盤を置く、親による子の保護を原則とし、後見は親権者たる親がない場合あるいは親の親権行使が制限される場合に補充的にその機能を果すことを予定しているものとみることができる」と判断しています。子供の成長にとって妥当な判断でしょう。
A4 親権とは、子の法定代理人として、財産を初めとする権利を代理行使する権限と、子を現実に養育監護する権利(義務でもあります)をあわせたものと考えることが出来ます。これらは、理論的には分けることができ、法定代理人としての権利と、現実に子供を手元において養育する権利を別々の親が持つことも不可能ではありません。協議離婚においてこのような約束をしている方もいらっしゃるようです。しかし、一般には、「親権」といえば、現実に子供を手元において養育する権利(すなわち監護権)を想像するでしょう。親権について争いがある、ということは、子供を手元におきたい、という争いに他なりません。だとすれば、協議において、監護権だけを取る、ということは不可能です。また、審判においても、両者を分けなければならないよほどの事情がない限り、双方を含めて「親権」として判断されますので、あまり「別々にできる」という理屈に意味は無いと思われます。ただ、戸籍の筆頭者が父親の場合、離婚すると子供は父親の戸籍に入り母親だけが別の戸籍に入ります。そこで、母親が子供の親権者となり引き取る場合、子どもと戸籍が違う状態が生じます。そこで、このような場合、母親は親権者として子供の氏の変更の許可を家庭裁判所に求め、子供を母親の戸籍に移すのが通常です。これは、当然のことですが、父親とすると子供を育てるのは母親だが、子供の戸籍は自分のところに残しておきたい、と考える人もいます。あまり合理的ではありませんが感情論としては理解できます。そこで氏の変更はしないという約束をしてもらうことも一つの方法でしょうが、法的な強制力はないといえるでしょう。そこで、親権者を父親、監護権者を母親としておくことにより、氏の変更ができないようにする、ということも考えられます。望ましいことではありませんが、親権者の問題で離婚問題がこじれること考えると親権者と監護権者を分けて考えることも全く理由がないとは言えないでしょう。
A5 子供が小さい(乳幼児)うちは、特別な事情がない限り(育児放棄、虐待など)母親の監護を優先させるべきだと考えられています(札幌高決昭和40年11月27日など)。これは、生物学的(児童心理学的)に見て、乳幼児の養育には母親のほうが適している、という考え方です。お父様は、やはりどうしても一歩リードされている、と考えざるを得ないところであり、父親の方が養育に適しているということを積極的に主張する必要があるでしょう。
A6 親権は、「子の福祉」を重視して判断されることになります。すなわち、今後子供が成長していくに当たって適している環境がどちらに整っているか?に関わります。とすれば、不貞行為をした者に、子育てをする資格なし、ということは、道徳的な面はともかく、客観的には必ずしも断定できるものではないでしょう。裁判例でも、有責配偶者であることを理由に親権をあたえないとしたもの(横浜地裁、昭和46年6月7日)と、別居後に父親以外の男性と交際した母を親権者とするもの(東京高判昭和54年3月27日)があります。同様に、離婚の理由としてよく耳にする、性格の不一致や、借金などについても、適格を判断する一材料になることはあっても、それだけで親権者が定まるとは考えない方がよいでしょう。
A7 離婚届は、提出するときにその内容の合意がなければ、理論上は無効です。すなわち、離婚するということ、親権者の定め、その両方について提出者双方の合意があることが必要です。とすれば、親権者の欄を勝手に記載した離婚届は無効です。しかし、役所では、受理に適しているかどうか形式面の審査はしますが、届けの内容が真実かどうか実質的に審査する権限まではありませんので、届の体裁が整っていれば受理されてしまい、覆すには訴訟が必要です。これを防止するためには不受理申請などの措置が有効です。紛争が予想される場合には、不受理申請はしておいたほうがよいでしょう。また、犯罪にならないかという点については、一応文書偽造罪が成立し得ますが、悪質性が低いということで、警察・検察では立件しない可能性が高いと考えられます。(不受理届について事例集bU72号参照)
A8 これまでに紹介してきた事情のほかに、父母の監護に対する意欲、能力、健康状態、経済的、精神的家庭環境、居住や教育環境、従前の監護状況、子に対する愛情の程度、実家の状況、親族・友人の援助、子の事情として、年齢、性別、兄弟姉妹の関係、心身の発育状況、環境への適応状況、子の希望、などが挙げられます。子が一定の年齢に達している場合は、子の希望を聞くこともあります(15歳以上については、人事訴訟法32条4項、家審規70、72,54条)。ただ、子の意見は大人に影響されやすいので、慎重に判断すべきといわれています。
A9
1.先程説明したように、現実に一方の親が子を養育看護している場合、むやみな変更は子の心理状態に悪影響であるから、これを重視するという考え方があります。とすれば、手元にいた方が有利ということは事実でしょう。しかし、子の事実状態を作り出すために、無理矢理連れてくるということは控えるべきです(当事務所のホームページ事例集662番をご参照ください)。人身保護請求もまた迂遠な手続ではありますので、最初が肝心といえるでしょう。
2.日本は法治国家です。自力救済、実力行使は正当防衛等緊急事態でない限り基本的に認められません。親権者と法的に認められても実力を持って子供を連れさる行為は差し控えてください。最悪の場合お子様の意思能力が備わるまで待つこともあります。いかなる法的問題でも権利が存在することと具体的に権利を実現できるかはまた別問題なのです。御理解ください。事例集472番参照。
3.例えご両親が離婚したとしても子の成長発達にとり両親の存在、会話、交流、教育は不可欠です。直ちに家庭裁判所に面接交渉の申立(家事審判法では9条乙類4号の「監護に関する処分」 )を行ってください。しかし、子供の引き渡しと同様に相手方の抵抗にあうと確実な決め手がないのが現状です。慎重な協議、対応が求められます。事例集696番、637番を参照してください。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
○2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
○2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
(協議上の離婚)
第763条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
2 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3 前2項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
(親権者)
第八百十八条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
(未成年後見人の指定)
第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
(未成年後見人の選任)
第八百四十条 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
(父母による未成年後見人の選任の請求)
第八百四十一条 父又は母が親権若しくは管理権を辞し、又は親権を失ったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。